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2024オフシーズン記事① ”5-3-2システムのビルドアップ成功例” ~インテルの場合~


・はじめに


 年も明けて1月も半月が過ぎ、J1リーグの開幕戦まであと一ヶ月ちょっとというところではありますが、 皆さんいかがお過ごしでしょうか。今回はオフシーズンの自由研究として「5-3-2システムのビルドアップってどうやれば上手く行くの?」という個人的な疑問を探っていこうと思います。
 方法としては同じシステムを採用している欧州クラブの試合をモデルケースとして、2023シーズンの湘南と比較しつつより進化を求めたいポイントを見つけていこうと思います。複数回にわたる企画なのか今回限りなのかは未定ですが、よければお付き合いください。

 本題に入る前に一点ご報告を。2023シーズンの記事でいただいたサポートは、2024シーズンの新体制発表会など湘南ベルマーレに関するものに使わせていただきました。ご支援くださり誠にありがとうございます。


・行先は事前に手配

 今回モデルとするのはセリエA首位インテルから、1/6に行われたヴェローナとのゲーム。監督はシモーネ・インザーギ、採用するシステムは湘南と同じ5-3-2だ。
 対するヴェローナは4-2-3-1システム、インテルのバックラインとアンカーを前線の4人でマンマークする形を選択。マークが浮きがちなインテルWBはヴェローナSHの背中でパスコースを消し、ボールホルダーから選択肢を奪うのが主な狙いだった。

開始時の立ち位置
ヴェローナのプレス
前線4枚でマンマーク気味に追う

 消されたままというわけにもいかないのでポジションを降りてパスコースを生み出すインテルWB。ここまでは湘南でも良く見る光景で、杉岡や石原、岡本や畑が左右のCBからパスを受けるシーンが記憶にある方も多いはず。
 インテルが湘南と異なっていたのは、WBにボールが渡った時点ですでに複数の選択肢を用意している点。WBの前、大外の位置にはIHが流れ、IHがいたスペースにFWが降り、アンカーもボールサイドに顔を出す(図青丸)。彼ら3人のいずれかがボールを受けた後の選択肢も呼応しており(図緑丸)、ボールホルダーから離れた選手たちも連動して数秒先の未来に向かって動き出している。つまりWBが降りてボールを引き取ることをトリガーとして、ボールよりも前にいる選手たちがポジションを取り直すのである。ボールを受けたWBも時間をかけずに選択肢を選び取り、パスを届けた先の選手たちも相手に捕まらずボールを前進させていた。

 湘南の試合においては、WBがボールを受けたがパスの出しどころを見つけられずに後ろへ下げるか相手に奪われる、といったシーンが思い出される。WBが列を降りること自体は特に避けるべき事象ではなく、配置のバランスが崩れたのに呼応しない、あるいは連動が遅れていたり早すぎたりする周囲の選手たちに課題があるのだろう。

降りたWBに適切なタイミングで選択肢を用意し、
その後のパスコースも連動して作る
アンカーが受けてアタッカー陣が
ゴールに向かって加速

 なおインテルと同じ位置に立てばボールが回るようになる、といった配置ルールの話ではなく、ボールホルダーのための選択肢を先回りしながら連続的に用意し続ける、といった意識づけや原則の話である。2024新体制発表会では吉野SDより”リアクションよりもアクションを目指す”といったコメントもあったが、ボールホルダーと直近の選手だけでなく、遠く離れた位置にいる選手がどれだけアクションを起こしているかがビルドアップにおいて重要な要素になりそうだ。
 またパスが繋がらなかった場合、用意されたコースにボールを通せなかった技術的なミスによるものか、そもそもコースが用意されておらず無理矢理パスを通そうとした結果なのかによってプレーに対する解釈や評価も変わってくる。バックラインが持つ足元の技術もさることながら、ボールよりも前にいる選手たちの位置取りについても注目して見ていきたい。後ろからの運びで相手を動かし守備ブロックに綻びを作れないのであれば、ボールよりも前にいる選手たちが循環してバランスを保ちながら相手を崩していくしかないだろう。


・組織の設計と個人の奮闘

 昨シーズンよく見た光景の一つとして、ラフなボールを町野や大橋、阿部が引き取り、個人技で相手をかわして展開するシーンがある。人によってはこういったシーンを”◯◯頼みで形がない”と見るのかもしれない。だがインテルにおいても似た場面は数多く見られたし、何ならそちらの方が多いくらいだった。FWのラウタロ・マルティネスやテュラムが持ち前の技術やフィジカルを発揮してマーカーを翻弄、前向きの味方にボールを預けてゴールへ向かっていた。しかし2トップにボールが入った瞬間、放射状に動きが連動していくさまは湘南では中々見られないシーンで、前項で取り上げた選択肢を用意する意識が各選手に根付いているのが見て取れた。

低い位置で奪われそうな場合は
WBがワンタッチで逃げてFWに任せる

 もちろん先ほど見たように、インテルはチームでボールを前に運ぶ方法を備えた上で質の高いFWを活用しているのであり、彼らに任せるしかないチームではない。だがそれほどのチームにおいてもWBが選択肢を見つけられず、FWになんとかしてもらうシーンが珍しくないということは、5-3-2システムのビルドアップにおいて、起点となる機会の多いFWとWBが担う役割が大きいと理解しても良さそうだ。
 それは4-3-3システムのWGがドリブルでDFをかわすことを求められたり、4-4-2システムのSHが攻守においてハードワークが求められるのと同じなのだろう。どれだけ組織が最適化されたとしても、どこかしらの局面においてキーマンの奮闘とクオリティが必須なのは、どんな仕事においても共通しているのかもしれない。


・現場判断は臨機応変に

 インテルはビルドアップのスタート地点をサイドの深い位置に設定しているように見え、そこから前方3方向のパスコースを用意する約束になっていた。だが個人個人の役割が決められているのではなく、全体の配置が先にあり、それぞれがどの位置に立って役割を担うかは状況に応じて判断しているようだ。
 ある場面ではCHのポジションが空いていたため、3バックの中央の選手が列を上げてパスコースを作っていた。また先の項ではWBが降りてIHが外に流れていたが、降りるWBにつられて空いたスペースにIHが走り込んだり(平岡がよく見せるプレー)、IHが降りてWBが大外に張り出すシーンもあった。これによりヴェローナSBはマーク担当のインテルWBの上りについていくか、ボールを受けたIHにアプローチするかの判断を迫られる。その判断は迷いに繋がり、結果としてインテルに時間を与えてボールを前に運ぶことを許してしまっていた。

降りるWBに釣られて空けたスペースに
IHが走り込む
ボールホルダーにアプローチする原則と
担当をマークする約束が衝突しているRSB


 試合は前半の早い時間に先制したインテルと追いかけるヴェローナといった構図。後半も終わりかけたところでヴェローナが追いつくと、試合最終盤にはインテルの勝ち越しゴールやヴェローナにPKのチャンスなど、数多くの見どころが詰まっていた。白熱した試合で勝利を掴んだのはインテル。ホームで勝ち点3を掴み首位をキープした。


試合結果
セリエA第20節
インテル 2-1 ヴェローナ

インテル :ラウタロ・マルティネス(13')、ダビデ・フラッテシ(90'+3')
ヴェローナ:トーマス・アンリ(74')

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