見せたい未来は繊細で。 2024.09.22 湘南ベルマーレ vs セレッソ大阪 マッチレビュー
開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。
■ハイライト
秋分の日、長すぎる夏がようやく終わる兆しが見える気候になったころの平塚でキックオフ。アイドリッシュセブン・Re:valeのコラボイベントが開催され、初めてスタジアムに来られる方も多い中でのゲームとなった。
湘南は出場停止や負傷離脱によるメンバーの入れ替えがあり。負傷の池田に代わって右IHに小野瀬が入る。前節途中出場だった平岡が左IHのスターターで、3試合出場停止のルキアンに代わって前節得点を挙げた阿部がFWに入った。
対するセレッソも前節神戸戦から3人のメンバー変更。トップ下に北野、DHに喜田、右SBに奥田が入った。DFラインの並びもそれに伴って一つずつ左にスライドしている。
試合の立ち上がり、湘南はサイド深くまでえぐってクロスを入れるシーンが続く。3分には阿部が蹴ったコーナーキックの流れから章斗が決定機を迎えるが、キムジンヒョンがセーブ。
主導権を握っていた湘南が12分に先制。右サイドで得たフリーキック、阿部の巻いたキックに頭で合わせたのは章斗。綺麗にファーサイドへ飛ばして得点を奪った。
流れをつかめていなかったセレッソだったが、21分にワンチャンスをものにして同点に追いつく。湘南が低い位置で回したパスをルーカスフェルナンデスがインターセプト。独走状態で右サイドを取ると、グラウンダーのクロスに合わせたのはレオセアラ。10分でタイスコアに引き戻す。
続く24分、裏を取ったレオセアラに田中駿汰から浮き球のパス。一発でチャンスを作って追い縋る髙橋を入れ替わりGKとの1vs1。冷静に上福元をかわしつつシュートを流し込み、あっという間に逆転に成功。セレッソが6月以来のリードを奪う。
リードを奪われた湘南は畑と平岡を中心に左サイドからの攻撃を繰り返す。セレッソもフェルナンデスが戻るようになったり、田中駿汰がヘルプに寄って人数をかけて封鎖していた。
前半はそのまま1-2のセレッソがリードして終了。両チームともに交代なしで後半へ。
49分、右サイドのスローインから章斗が起点となり、田中がボックス内に走り込んだ平岡へ丁寧なパス。ブロックに遭った後も阿部が押し込もうとするが、こちらもセレッソの守備に阻まれる。
59分、髙橋のパスを北野が高い位置でインターセプト。そのままゴール前に侵攻してシュートを放つが枠の上。湘南としては首の皮一枚でつながったようなシーン。
61分、淳之介の縦パスと平岡の落としを起点にチャンスメイク。最後は雄斗のクロスから章斗のヘディングシュート、しかしボールは左ポストに嫌われる。
65分、セレッソは北野に代えて進藤を投入し5バックに変更。5-4-1とし、ゴール前の人数を増やして守備を固める。
後ろが厚くなった分、前のプレスとカウンターが薄くなったセレッソ。湘南がボールを握って相手陣内でプレーする時間が増える。
湘南は茨田の投入でシステムを変更。ミンテと途中出場の松村が2CBを組み、茨田と聡が2DHの4-4-2とする。
しかし湘南は得点を奪えず1-2のまま試合終了。セレッソが9試合ぶりの勝ち点3を奪った。
■試合の振り返り
・湘南が狙った左サイド
この試合における湘南の狙いは主に左サイド、セレッソの右サイドに向けた攻撃にあった。試合の立ち上がりからWB畑とIH平岡のコンビネーションで繰り返しチャンスメイク。システムの違いから生まれるマークのズレを利用して、大外の畑が対面の右SB奥田を引き付け平岡がその背後を取る形が多かった。
18:35~のシーンはボール保持者が相手を引き付ける(固定する)の連続でチャンスを作ったといえる。畑のドリブルで奥田が固定され、平岡が自由になって裏抜けに成功。続いて平岡によって釣りだされた西尾が固定され、阿部がフリーになっている。平岡はワンタッチでのクロスを選択したが、持ち運んで冷静にコースを狙えれば阿部のシュートに繋がったはずである。
28:55~の平岡の抜け出しと章斗の突破からクロスまでも同じ文脈で読み取ることができる。平岡は相手DFの矢印を読み取って逆を取ることが上手なのだろう。課題はその後のプレー選択というか、判断の質だろうか。
湘南はどちらのシーンもシュートまで行けなかったが、セレッソの奪った1点目も同じような仕組みであった。インターセプトしたフェルナンデスのドリブルでミンテが固定され、レオセアラがフリー。戻ってきた髙橋は北野に引っ張られているため、レオセアラへのカバーには間に合わない。冷静にプレー選択をしたフェルナンデスが上手かったシーンである。
湘南が左サイドからの攻撃に重きを置いたのは、そのフェルナンデスの存在が背景にあったと思われる。個人での突破力がある彼を守備に戻らせて低い位置に留まらせたいというのもあるだろうが、わりと守備に対して気まぐれで、戻りが不十分な場面が目立つのが主な理由だろう。実際、試合序盤はそこを突いて畑・平岡と奥田の2vs1で左サイドを攻略できていた。それに加えて右WB雄斗のキックを生かして逆サイドへのサイドチェンジを行い、セレッソに横スライドを強要。スライドが遅れて間に合わないところから突破を図っていた。
だが湘南の目論見が外れたのはフェルナンデスの変化。逆転のタイミングで指示が入ったか、はたまた気持ちを入れ替えたのか、フェルナンデスは畑の位置までは戻るようになっている。その結果2vs2、もしくはDH田中駿汰を含めた2vs3にされてしまったため左サイドを崩せなくなってしまった。
すると40分付近、阿部が左サイドの低い位置に顔を出して田中駿汰やフェルナンデスの気を引き、畑を空ける働きを見せる。それによって再び奥田に対して畑・平岡で2vs1の状況を作り出し、左サイドを崩すことに成功。しかしその後の判断やクロスの質が足りず、得点を奪うところまでは至らなかったのは残念である。
・セレッソ影のMVP
セレッソのSHがWBの位置まで下がっているのであれば、湘南の3バックに対してセレッソの2トップで湘南の方が人数有利になるはず。バックラインでボールを持って1stプレスラインを越えられれば状況は好転するのだが、それを許さなかったのが左SH為田。湘南のバックラインがボールを持っている場合は人数を合わせるためにレオセアラ・北野とともにプレスに参加し、ボールが動いたら懸命に走って小野瀬の位置まで戻る。中途半端な戻りではなく、船木の背後を取る小野瀬のランニングにもしっかりとついていくため、喜田や西尾が簡単に引っ張り出されない。それにより中央の守備にズレが生じず、湘南の中央突破および右サイドアタックを封殺することに成功していた。為田は髙橋へのチェックと小野瀬のマーク+SBのカバーという一人で二人分以上の働きをしており、この試合におけるセレッソの影のMVPといっていいはずだ。
・繋がりを壊す作業
準備してきて手ごたえを感じていた左サイド攻略に時間を割いていた湘南。だが振り返ってみると、右サイドを塞ぐ為田を振り回して動きの質を落とさせる時間が必要だったのかもしれない。小野瀬は相手のCB-SB間のハーフスペースに何度もランニングを見せていたが、むしろ降りて細かいパスを繋いで為田を走らせ続けたり、髙橋のオーバーラップを促して長い距離を戻らせたりといったような、守備のキーマンに対してボディーブロー的なプレーを積み重ねる展開も見てみたかった。
為田の初期位置を下げさせられれば3バックvs2トップの数的優位な状況を呼び込むことが出来るため、髙橋または淳之介に時間が与えられて保持時の展開もまた変わったはずである。あるいは為田が3バックへのアプローチに重きを置くのであれば、喜田の脇に空くスペースを取っかかりとして右サイドや中央突破の芽も作れた。
いずれにしても、左だけでなく右SHの位置取りにも影響を与えるプレーがあれば、その後の試合展開は違うものがありえたのではないかと想像する。セレッソのFW-SH、またはSB-SHの繋がりを壊し一枚ずつ引きずり出していくことができれば、ゴール前でより多くのチャンスが作れたのではないか。
人数を合わせたプレスを見せてくる相手であれば、GKを混ぜて+1にするという手法もあるだろうが湘南ではあまり採用されない。だとすれば3バックの中央とアンカーポジションの選手が相手のプレスを誘ったり、その背後を狙ったりという陣頭指揮を取って欲しいところだが、この試合でもそうしたプレーは見られなかった。
とくにアンカーの田中は前節に続いて立ち位置が悪くDFラインからのパスを引き出せないため、DFラインから直接WBへ出すことが多かった。対面するセレッソの選手は狙いが定めやすかったはずで、雄斗はマーカーの船木のアプローチを受けて中々前を向けなかったし、畑に至ってはフェルナンデスにインターセプトされて得点を奪われている。
また裏を取る動きはそこかしこで見られたものの、それに連動して空いたスペースを利用して相手のDFを引っ張り出す場面がほとんどなかったため、最終的にはゴール前に人数をかけて固められ崩すのが難しかった。セレッソからすれば根性で戻ってゴール前を固めていればそこに突っ込んできてくれる形だったはず。湘南の攻撃回数は多かったが、逆転されてからは怖い攻撃をされた印象は薄かったのではないか。また固められたブロックを崩すために湘南がバランスを崩してくるため、人数は揃っていてもカウンターが決まりそうな感覚もあったはずだ。
やや自分たちの姿を見失いつつある湘南。残る7試合で何とか取り戻し、J1残留を掴み取れるだろうか。
試合結果
J1リーグ第31節
湘南ベルマーレ 1-2 セレッソ大阪
湘南 :鈴木章(12')
C大阪:レオセアラ(21',24')
主審 川俣 秀
タイトル引用:Vaundy/怪獣の花唄
セレッソ大阪のコラボライバー、倉持めるとが歌った楽曲より引用。チームが目指しているサッカーはまだまだ崩れやすいもののようで、すぐにその姿が見えにくくなってしまっている。
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