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we have 志っていう話! 2024.04.20 湘南ベルマーレvsヴィッセル神戸 マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。
レビュー本旨は目次2個目にジャンプしてください。

開始時の立ち位置
各ポジションの嚙み合わせ


■試合の振り返り

 4月にしてはやや暑めな平塚でキックオフ。湘南は前節マリノス戦からメンバーを3名変更。CBは出場停止の大岩に代わって大野。DHには奥野に代わって髙橋、FWは鈴木章斗に代わって阿部が入った。一方の神戸は水曜日にルヴァンカップを戦ったが、そのスタメンは11人全員変更しており、この試合は前節町田戦と同じフィールドプレーヤー10人、GKが出場停止明けの前川に。ベンチには負傷から復帰した大迫が入っている。

 前半の神戸は左SB初瀬から右SH武藤へ対角のパスで湘南を揺さぶって起点づくり。序盤は右サイドの武藤や酒井の抜け出しが目立っていた。池田と阿部、ルキアンが初瀬への規制をかけきれなかったことが原因か。
 対する湘南は前からのプレスは控えめで、ボールを繋いでいく様子。スターティングメンバーからもうかがえる通り、立ち位置や技術でボールを動かす姿勢でリーグ王者に立ち向かう志だ。



 05:37、馬渡/ミンテ/大野/髙橋の4人でビルドアップ、CBが幅を取って中央に髙橋が入りSBの位置を上げる。左SH山内の裏をとった鈴木雄斗から攻撃のスピードをアップ。
 続いて11:01~も湘南、馬渡のスローから雄斗の運び。池田に渡して雄斗は走り抜け、空いたスペースに髙橋が顔を出す。そのタイミングがバッチリ。その後、髙橋が右に降りて時間を作って雄斗を押し上げ、ミンテから池田へパスを通した。どちらもスムーズなボールの流れと人の動きだった。


 神戸も初瀬のキックからチャンスを生み出す。12:40、初瀬と山内のパス交換に池田が振り回され、最終的に初瀬がフリーに。雄斗が縦にスライドして池田を押し上げるべきだったか。初瀬から武藤への対角フィードが通り、宮代のシュートはミンテがブロック。
 21:20も神戸。12分と同じような構図から初瀬→武藤へ対角フィード、畑が競り負けてボールの先には酒井。クロスは大野が抑えて畑が繋ぐ意識で出しどころを探す。そこを酒井に潰されて再びシュート、馬渡が好セーブ。

 23:20、湘南がクロスを跳ね返してカウンター。大外を石井が走って山口を引き付け、茨田からルキアンへのパスコースを提供。右サイドに流れていた阿部へ渡して仕掛けのフェーズにはいる。髙橋を経由し、ハーフレーンに移動した阿部からファーサイドで待つ石井へ。ややクセのある回転のかかったボールで落下地点が読みづらかったのか、ルキアンへのパスは乱れてシュートは枠の外。スルーして池田が打てればより可能性も高かったか。

 38:18から、両チームでカウンターの応酬。左サイドのスローインからプレスを潜り抜け、髙橋から池田へ通して局面を打開、神戸DFラインに襲いかかる。大外に出してハーフレーンから中央に戻したところで神戸に捕まり、今度はカウンターを受ける。大野が飛び出してカットすると、今度は湘南がカウンター。神戸は間延びして前線が戻ってこれていない。右サイドに人を寄せて展開し、左サイドで畑と酒井の1vs1。内側に切れこむが中央を塞いでいた山口にカットされて再び神戸のカウンター。2vs3の状況から落ち着いて2CBが対応し、味方の戻りを引き出した。さすがに2度目のカウンターには出られず、ボールは流れてタッチを割った。
 41:35の湘南、髙橋が奪ったボールを味方につけようとするが出しどころを埋められ山内に捕まって奪われる。ボールを繋いでゴールに迫ろうとする意識が悪い方向に表れてしまった、決勝点に似たシーン。前半は両者得点なく、0-0で折り返す。


 ハーフタイムで湘南は茨田に代えて奥野、畑に代えて杉岡。神戸は山内に代えて井出を投入し、両チームとも早めに動いてくる。湘南は人の入れ替えのみで、神戸は立ち位置も入れ替え。佐々木が左SH、宮代がCF、井出がトップ下に入る模様。
 47:45は湘南の決定機。中盤でのセカンドボールを拾った阿部から池田へ繋ぎ、DFライン裏へ走るルキアンへ。ルキアンは山川との競り合いながら中央へ折り返し。左SBで投入された杉岡が滑り込んでシュート。しかし酒井がコースを変え山川のゴールカバーで防がれる。杉岡のシュートは見ためより難しかったように思われ、決めて欲しかった場面だがここは酒井の戻りを賞賛すべきだろう。ルキアンが抜け出した時点で奥野、ルキアン、杉岡はスプリントしてゴール前に入れている点は前半からの修正か。(=ルキアンに近い位置でプレーする選手を増やす)
 58:27の湘南。右サイドのスローイン、髙橋→奥野と繋いで山口の背後へ降りてきた阿部へ縦パス。反転して加速すると、左サイドを駆け上がる杉岡へ。石井とルキアンが奥に走って相手CBを引っ張るようにランニング。すると手前が空くのでタイミングよく髙橋が入ってくる。扇原の注意を引きつけてから渡した阿部はボックス手前でフリー。シュートは枠を越えたが、阿部であれば決めて欲しい場面だった。しかし組み立てから攻撃の展開、フィニッシュまでは非常に連携の取れたプレーだったといえる。


 61分に神戸が選手交代。佐々木に代えて大迫が投入、宮代が左SHへ移動して大迫はCFを務める。
 62:30、右サイドから神戸のスローイン。このシーンは細かく見ていきたい。湘南の跳ね返しを扇原が拾って初瀬に繋ぎ、左SHに移った宮代へ。その時大迫はミンテと大野の間に入り込み、井出もすぐそばに走る。大野の周りに2人がいる状態で、ミンテは大迫を確認しつつオフサイドポジションに置いた。
 62:36、雄斗と池田は後ろ向きにドリブルする初瀬へのチェックが若干甘く、初瀬は自由にどこへでも蹴れる状態に。井出と宮代の2人が雄斗とミンテの間を狙って走り込み、髙橋がそこをカバーする素振り。大迫は大野の背後に回っており、その気配を消している。杉岡は武藤をマークし、石井はその手前まで戻っている。

 62:42、走り込んだ井出がパスを受けミンテを引きつけてクロス、大野の背後を取った大迫が左足でゴールに蹴り込んだ。しかし井出が受けたところがオフサイドポジションだったためノーゴール。湘南としては助かったシーンだが、ボールへの寄せが甘く時間を稼げなかった池田と雄斗、時間が足りずCB-SB間を埋めきれなかった髙橋。またミンテがボールに寄って大野がカバーポジションを取っているのだから、スライドして大迫をマークするのは杉岡。ミンテが井出に対峙している時間で、歩いていた石井が武藤の位置まで戻るべきだった。
 "人はいるのに失点した"の典型的なシーンで、小さなミスをきっかけにそれをカバーできずいくつもミスを重ねていった結果であり、失点にならなかったのは幸運である。せめて大野と杉岡が連携をとって大迫を抑えるところまではやって欲しいところだった。この直後の武藤が裏に抜け出して大野が対応したシーンの杉岡と石井はしっかりと戻れているため、トレーニング等で意識づけはできているのだろう。やはり一瞬の油断を突かれる世界である。

 64:11、右サイドのスローインをルキアンが落とすが武藤に奪われる。先ほどと同じような位置で井出とミンテが対峙。杉岡は中央の位置まで戻っており修正ができている。どちらかというとその後、酒井がファーにあげたボールにフリーで武藤が合わせた場面。雄斗がマークを離してしまっているのが気になるところ。
 66分、湘南の選手交代。池田に代えて福田。そのまま右SHへ。神戸は左サイドからの攻撃が増加。宮代で時間を作り、井出と大迫とのコンビで崩していく。あるいは大迫に長いボールを蹴って収めてもらうか、セカンドボールを拾う形。だが髙橋が右CB-右SB間を埋める動きも同様に増えている。


 69:01、湘南が中盤でボール奪って攻撃。神戸の左サイドで行う位置交換の過程で降りてきた大迫に対して髙橋がチャージ。奥野がランニングして相手を引き付けて雄斗と福田で繋ぎ、石井を経由して杉岡が引き取る。左サイドで酒井との1vs1を突破。ゴール前に6人が入る大きなチャンスだったため、ファーサイドへのクロス以外の選択肢も味方が用意してあげたかった。

 77分、神戸の選手交代。宮代に代えてパトリッキ。そのまま左サイドに入る。82分は湘南の交代。阿部に代えて章斗。シャドー的な立ち位置から2トップになり、奥野の位置も前よりに。かなり攻撃に針を振った交代。
 86:00、雄斗と髙橋による2人だけのパス交換で神戸のプレスを突破、何度目かわからないくらいに扇原をかわして前を向く髙橋。この時間帯は彼1人で中盤をどうにかできてしまっていた。高い位置を取った奥野は髙橋からのパスを受け、左足でゴール左上隅を狙ったミドルシュート。決まればスーパーゴールだったが、やや落ち切らずゴール上に逸れる。
 90:33、再び奥野。章斗の落としのパスを受けてゴール正面から放ったシュート、今度は前川の正面。神戸守備陣がシュートコースを制限していたため、こちらも決めるのは難しそうな場面だった。

 そして92:12、神戸のコーナーキックを馬渡がパンチングを弾き、再びの折り返しは髙橋のもとへ。カウンターに出ようとするルキアンへパスを送るがカットされ、上がりかけた陣形に神戸が襲い掛かった。抜け出した大迫のクロス、トゥーレルのヘディングを経て、最後は大迫のラストパスに武藤が蹴り込んでゴールイン。このシーンも湘南は決して人数が足りていないわけではなく、ゴール前の危険な空間を開けてしまったことが失点の原因だろう。


 終了間際にリードを奪った神戸が0-1で勝利をもぎ取った。湘南は7試合連続で勝利なしが続く。


■途中出場の左SBがチーム最多シュート?

 この試合のトピックスとして興味を惹かれるのが、左SBの畑に代わって後半頭から途中出場した杉岡がチーム最多の4本のシュートを放ったこと。次点でルキアンと奥野が2本で並んでいる。 ちなみに前節マリノス戦ではフル出場した雄斗が4本、得点を挙げた平岡が3本のシュートを放ったが、杉岡は後半からの出場なので先週の雄斗よりも2倍のペースでシュートを放ったことになる。(出典:SPORTERIA)

 この話をFWが不甲斐ない!と捉えるのか、杉岡がよく頑張った!と捉えるのかで価値観の違いが浮かび上がりそうではあるが、ここではなぜ杉岡がシュートを打つ場面にいたのかについて考えてみたい。理由は神戸が用意する守備陣形にある。


 前半から湘南は右サイドからチャンスを作ろうという姿勢。髙橋が雄斗とのコンビネーションで巧みに位置を変え、池田とも絡んでボールをスムーズに運んでいく。この試合では進んだ先に左SB初瀬が構えている。彼は両足のキックは一級品であるものの、守備対応においてはやや難がある。それは神戸も織り込み済みで、初瀬の後ろにはCBトゥーレルが素早くカバーに入る約束になっていた。当然トゥーレルがズレるので相棒の山川もズレていき、右SB酒井はゴール中央よりにまでスライド。その結果逆サイドに捨てる形になりスペースが空く状態に。前半は右側のハーフレーンからルキアンが待つファーサイドに向かってクロスを上げるシーンが多く見られた。

 ハーフタイムで畑に代えて杉岡が投入されると、左SHの石井のプレーエリアが内側寄りに変わって阿部と2シャドーのような形に。前半はルキアンが孤立しているシーンが目立ったので、より近くでプレーする選手を配置する狙いだろう。右の池田は組み立てに関与するため大きな変更なし。
 そして杉岡は石井が内側に入るため、大外レーンを1人で担当。通常のSBというよりは、得意なWBを任せられたといったところだろうか。攻撃の形も右ハーフレーンからのクロスから、左サイドに向かっての斜め横断に変わっていった(ボールの動き方としては同じだが、より早いタイミングで送れるようになった)。

後半、保持時のポジション移動。
3-4-2-1のようにも見え、酒井が”湘南が後半から3バックに変えた"と話すのもわかる。
初瀬のカバーのために4バック全体が左にスライド。
大外には酒井が根性でスライドして対応する。

 80分のシーン、福田が奥野へ落としのパス。そして奥野から逆サイドを駆け上がった杉岡へパスを通し、追い縋る酒井をかわしてシュートを放った。ボールは前川の正面へ飛んでしまったが、右に相手を集めて薄くなった左で仕留める狙いが表れた良いシーンだった。これ以外にも47分にあったルキアンが右サイド裏のスペースへ走り込んでクロスに杉岡が合わせたシーンや、69分の杉岡vs酒井の1on1も同様の形から生まれている。


 前半の戦いを受けて修正を図った結果として杉岡が最多シュートを放ったわけで、かねてから言われている監督による試合中の修正が奏功したと言える。勝利も得点もできていない采配には価値がないと切り捨ててしまうのは簡単だが、采配の狙い自体は理解できるうえ前半よりもゴールに迫れていたこと、そして期待に応えようと懸命にプレーしていた選手のことを、せめてこの小さな記事でだけでも記録しておきたいと思う。


■GKは固定しないのか?

 前節マリノス戦ではソンボムグンの出場停止を受けて出場した馬渡。この試合ではどちらが先発するか読めなかったが、引き続き馬渡が名を連ねた。GKが試合ごと変わることがチームにどれほどの影響があるのか筆者にはわかりかねるが、この試合においては単純なセービング能力以外の要素を重視した結果、馬渡が選ばれたように思われる。それは神戸が見せる前からのプレス=前線4人と2DHの関係がかかわってくる話である。

 神戸のプレッシングは2トップと両SHで圧力高く仕掛けてくるのが特徴で、彼ら4人の背後を扇原と山口の2人で埋めようとしている。だが横幅68mを2人でカバーするのは土台無理な話で、DHの片方がボールに寄ったら前4人の誰かがDHの位置まで戻る約束になっているようだ。
 湘南はプレスをかわすために前4人の頭を越してDHを走らせる方法を選択。前の項で見た点も踏まえ、とくに右サイドの雄斗に向かっての配球が多かった。扇原が雄斗に向かって寄せるとFWが戻ってくるが、その分湘南のCBやDHが空くので、彼らがフリーでボールを持てるように。

圧力の高い神戸のプレスをかわし、その背後を使うためにGKのフィードを活用した。

 それが表れたのは先ほどと同じく80分、雄斗が馬渡に下げたシーンから。馬渡はダイレクトで雄斗に戻す浮き球のパス。大迫は馬渡まで向かい、パトリッキは近くのミンテに付く。フリーで雄斗がコントロールすると、抑えに来たのは扇原。井出が扇原のいた場所をカバーすると、今度は髙橋がフリーになった。ボールを受けた髙橋は周囲を確認しつつ雄斗とパス交換して神戸のプレスを回避に成功、攻撃を加速させた。
 つまり神戸のプレスをかわし、右サイドからボールを運んで左サイドで仕留めるという狙いを遂行する、試行回数や成功確率を上げるという文脈に沿った選手を選択したと思われる。GKやポジションを問わず、この試合においてチームの狙いを踏まえない選手起用の議論は、ただの印象論の域を出ないだろう。まずは監督が選択した狙いは適切だったか?という話から始めるべきか。


 もちろん馬渡のフィードがすべてうまくいっていたわけではないし、ボムグンが特別フィードが苦手というわけでもない。その点においては議論の余地は大いにある。だがマリノス戦で平岡のゴールを呼びこんだ章斗への縦パスや、擁護のしようもない一発退場といった直近数試合のプレー内容を踏まえると、馬渡が優先されるのは筋が通っているかなと思う。ビルドアップができるCB(髙橋)がいる場合はGKのフィード能力の優先度も下がるため、チームの狙いだけでなく周囲の選手との組み合わせもGKの選択に影響しそうだ。


 試合展開や順位を考慮すると楽観的なことは何も言えないが、昨年のリーグ王者に対して0-1の敗戦は妥当な結果である。それがチーム内で一、二を争う期待の若手への投資と考えるならむしろプラスだ(ただし試合終了時のストレスは考慮しないものとする)。


 続く試合は水曜日、秋田でのルヴァンカップを経てゴールデンウィークのリーグ連戦へ。休む間もなく次へ向かうが、志を果たすことはできるだろうか。


試合結果
J1リーグ第9節
湘南ベルマーレ 0-1 ヴィッセル神戸

湘南:なし
神戸:武藤(90'+3')

主審 清水 勇人

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