見出し画像

覚えたい事が山のようにある。 2024.08.07 湘南ベルマーレvsアビスパ福岡 マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの嚙み合わせ



 首都圏を豪雨と雷が襲い、調布や浦和美園では試合中断や開催中止に追い込まれる夏の中断明け一発目のマッチデイ。暑さはあるものの天候には恵まれ、予定通り開催された平塚でキックオフ。
 湘南は中断前ガンバ戦で負傷した畑が離脱、代わって左WBに名を連ねたのは吉田。J1リーグで初スタメンを飾る。その後ろは累積警告で出場停止の鈴木淳之介に代わって大野。左IHの茨田と共にベテラン2人が新人を支える左サイドユニットとなった。古巣対決のルキアンはベンチスタートで、鈴木章と福田が2トップを組む。新加入のGK上福元は早速ベンチ入り。
 対する中断前に保持を取り組む様子を見せていた福岡。最前線にはこちらも古巣対決のウェリントンが入り、シャドーには佐藤と紺野。右CBに井上が入る以外、中盤からDFライン、GKは前節から変更なし。岩崎はこの試合も左WBを務め、亀川はベンチスタートとなった。

■一進一退の攻防 その1

 試合立ち上がり、積極的な入りを見せた湘南が主導権を握る。お馴染みとなった右サイドユニット3人を中心に福岡陣内へ侵入。こぼれ球を田中が回収して二次攻撃に繋げていた。
 福岡のプレスは前線3枚で行うため湘南の3バックと噛み合う形であるが、中央のウェリントンはアンカー田中を消すことが主な役割。ミンテがボールを持っても強く寄せるのは状況次第、といったところ。
 シャドーの2枚は対面する両CBにアプローチするのがプレスのスイッチで、福岡のDH2枚=前と松岡は湘南のIHをケアする意識が高め。対面する湘南のWBをマークするWBと共に抑えようとしていた。

福岡のプレス。
ウェリントンは田中を消すことを優先し、ミンテは空けがち。
シャドー2枚は対面するCBにパスが出たら猛然とアプローチして
プレスのスイッチを入れる役割を務める。

 湘南はある程度福岡の守り方を想定済みだったのか、IHは出来るだけ高い位置を取って福岡DHとWBの位置を下げさせていた。また2トップのうちの片方、多くの場合は福田が中盤に降り気味で福岡DHの間にポジションを取る。中を閉めればIHが空き、IHに寄ると福田が空くような状況を作り出す。
 その典型が7分のシーン。フリーでパスを受けた大野から茨田への縦パスが通ると、今度は茨田から中央の福田へ。慌てて松岡が追いかけるが、先手を取った福田が振り切ってゴール前にパスを通した。前半は通じて2トップの一方が明確に降りたポジションを取っていて、3-5-1-1のような形になっていた。

前半で見られた湘南の配置。
福田が中盤に顔を出してボールを引き出したり、
相手を引き付けて味方をフリーにしていた。

 8分も似たような形から決定機を迎える。田中からDHの間に立った福田へ通してポストプレー。相手陣内に押し込むことに成功したら右サイドから中央へ侵入。今度は中を閉めたDHの外を使って左サイドへ展開し、茨田を経由して大外で待っていた吉田が鋭いクロス。ファーサイドで角度のない位置から福田がボレーシュートを放った。しかしGK村上がなんとか身体に当ててボールを弾き返してゴールを破らせない。

 対する福岡は11分、降りてきた紺野がチャンスを作る。中盤から前線の佐藤へパスを通すと、ウェリントンがボックス外からミドルシュート。こちらもGKソンボムグンがシュートを掻き出してゴールを守る。
 続く15分、村上のロングフィードを収めたウェリントンから紺野へ。するとボムグンの位置を見たのか距離のある位置からのミドルシュート。しかしまたもボムグンが立ちはだかる。中断前のゲームでは遠い位置からのシュートはあまり見られなかったので、この試合では積極的なシュートからのセットプレー獲得が、福岡の攻撃における一つの狙いだったのかもしれない。
 23分は前半一番の決定機を迎えた福岡。湘南バックラインのパス回しにプレッシャーをかけ、吉田から小田がボール奪取。すぐさまゴール前にボールを送り、頭で合わせたのは佐藤。あわやゴールかと思われたが、ギリギリで枠を逸れ得点ならず。湘南は幸運にも危機を逃れた。

 15分ごろ~飲水タイムを明けるころには福岡の守り方に修正が入る。IHに釣られて門を開けがちだった福岡DHは中央封鎖を優先。湘南のIHには3バックの左右、またはWBがマークに着く形に整理された。この修正により湘南はそれまで使えていたDHの背後が使えなくなってしまった。
 また湘南が武器とする右サイドを警戒して多めに人員を配置し、飛び込まずスペースを作らない守り方にシフト。ボールを左サイドに誘導し、対人能力に優れる小田でボールを奪う狙いを見せてきた。

福岡の修正。
DHは中央封鎖を優先し、IHはCBまたはWBが迎撃する形に整理した。


■一進一退の攻防 その2

 ならばと28分、前線へ直接当てるボールで起点を作ったり、ミンテが田中と同じ列まで上がってパス回しに参加したり、髙橋がレシーバーに寄りながら攻撃をスピードアップさせてチャンスを作ったりと工夫を見せる。最終的にはファーで吉田がシュートを打って攻撃を完結させた一連の流れは、相手を見て試行錯誤する様子が見てとれた。

 また左サイドの茨田は、自身の立ち位置で新たなボール前進ルートを提示。紺野の背後、大野と吉田の間に入り込む。するとボールホルダーの大野からすれば近い位置にパスコースがひとつ増えるうえ、茨田に気を取られる紺野とウェリントンの距離が開くため田中へのコースも開通。茨田の動きに連動して福田も顔を出しており、再びボール保持から前進が可能になる。大野も淳之介のような運び出しは見られなかったものの、作られた盤面から選択肢を適切に選ぶことはできていたように思う。

茨田の立ち位置で盤面が動く。
連動して動く福田や、スペースをつくる吉田の位置もよかった。

 この茨田の移動に対して福岡も対応を見せる。WB小田を押し出して茨田をマーク、右CB井上が吉田へスライドし、順々に横スライドして解決した。

福岡の修正②
茨田によって起きた混乱をスライドで収める。

 前半の終わりごろは湘南のFWによる規制が弱くなり、福岡がボールを握る時間が増える。シンプルにクロスやシュートを狙い、コーナーキックを獲得していたがゴールにはつながらず、スコアレスでハーフタイムを迎えた。


■そして膠着状態へ

 後半に入ると再び湘南が主導権を握る。茨田のポジション移動に対応されていたのを逆に利用し、低い位置までWB小田とCB井上を誘き出す。2トップとCB2枚で同数になったところを狙って大野がフィードを送り、競り勝って繋がれば決定機、競り勝てずとも相手陣内へ押し込める状況を作った。

後半立ち上がりの湘南。
移動する茨田への対策を利用して、リターンが大きい選択を取った。

 お互いに目立ったチャンスが作れない時間が続く中、迎えた61分。ミンテが右サイドへミドルパスで展開し、中央の田中が受けて1stプレスラインを突破。再びミンテがセンターサークル内でボールを受けると、ノープレッシャーの中でスルスルとドリブルで侵攻。思い切りよく右足を振り抜いてゴールを狙った。シュートは村上に防がれたものの、いち早く反応したのは福田。落ち着いて周囲を確認しフリーの茨田へ落とし、二度目の強襲。またも村上が立ちはだかるが、こぼれ球を章斗が蹴り込んで得点。押し込んでいた湘南が先制する。


 追いかける福岡は交代策で流れを掴みにかかる。佐藤に代えて重見、前に代えてザハディと続けて選手交代。68分にはコーナーキックを大外で競り勝ち、ゴール前正面で田代がヘディングシュート。しかしライン際で池田がゴールカバーし、得点とはならず。

 70分に湘南も選手交代。茨田に代えて奥野、池田に代えてルキアンを投入。ルキアンを頂点とした前線3枚、田中と奥野が横並びになる3-4-2-1に変更し、FW陣が収めて時間を稼ぎサイドに起点を作る狙いを見せる。(だが章斗は福田に比べて下がり目の位置、田中と奥野が縦関係になる場面も多かったので、章斗が右IHに入る3-5-2のままだったのかもしれない)

 83分に両チームで選手交代。湘南は福田に代えて根本、吉田に代えて小野瀬。ポジションはそのまま人だけが入れ替わる。福岡は岩崎に代えて北島、小田に代えて亀川、紺野に代えて金森が投入。


 後半のアディショナルタイムは7分と表示されるとスタジアムがどよめく。そして94分、右サイドのコーナーキックを大外でドンピシャで合わせたのは途中出場のザハディ。終了間際で福岡が同点に追いついた。
 試合はそのまま1-1で終了。またも後半アディショナルタイムでの失点で勝ち点を取りこぼしてしまったが、5戦負けなしであることも事実。下を向く必要はないはずだ。


■左サイド、どうだった?

 リアルタイム観戦後の感想としては「ちょっとイマイチだったな…」と思ったが、DAZNで見返してみるとそこまで悪い印象は持たなかった。確かに茨田が中心となってボールを動かしていたのは事実だが、ユニットとして協力しながらプレーできていたように思う。福岡が湘南の左サイドでの保持を狙っていたのは明らかだったため、その狙いをかわし失点の直接的な原因を作らなかったという点で一定の評価はできるだろう。
 もし大野が批判されるとしたら、DFラインを担うベテランの一人として最後の失点を防ぐためにできることは他になかったのか、という点であるはずだ。淳之介や髙橋のようなプレーができる選手はJ1でも珍しい存在であり、彼らのプレーで我々サポーターの脳が焼かれてしまっているのかもしれない。
 吉田は高い位置で受けた際にクロス以外の選択を持っているかが気になるところ。抜き切らずに上げるクロスは何度か見せていたが、左脚を切られたときに何ができるのかは見てみたい。大卒2年目の彼に残されている時間はあまり多くはないかもしれないけども。
 大野と吉田の2人は淳之介と畑のように局面を独力で変えることはできなかったとしても、作られた盤面から的確な選択肢を選べていたように思う。もちろんそれは茨田を中心とした配置のコーディネートがあったからなのだが。

 というのもあって、筆者はどちらかというとCBやWBの質不足よりも茨田と池田の代わりを務められる選手が不足していたことの方が結果に影響したように感じた。池田の働きは奥野で補えていたが、茨田のところが足りなかった。
 アウェイ柏戦での阿部のように、ボールを持つ持たずにかかわらず相手・味方に影響を与えられる選手の価値がチーム内で高まってきている印象。この試合で山口監督はルキアンと根本を投入し、身体を張ってボールを収めるFWで不在となったコンダクターの役割を補完しようとする意図があったと思われる。だが空中戦に秀でた福岡守備陣相手ではやや厳しいミッションだった。
 後ろで時間を作れないならその先でやるしかない。だが相手ゴールに近づけば近づくだけ難易度は上がる。茨田や池田、奥野と同じ仕事ができそうな阿部と小野瀬が完全復帰するまでは、そのバランスと役割の調整を続ける必要がありそうである。

 とはいえ以前よりも辛くないしむしろ楽しみな気持ちが強い。順位的には気を抜けないものの、期待を持って試合を迎えられる。



試合結果
J1リーグ第25節
湘南ベルマーレ 1 - 1 アビスパ福岡

湘南:鈴木章(61')
福岡:ザハディ(90+4')

主審 川俣 秀


タイトル引用:Creepy Nuts/のびしろ

Creepy Nutsの楽曲から引用。印象的なリフレインが試合後に持った率直な感想と重なったため。

この記事が参加している募集

いただいたサポートは現地観戦のために使わせていただきます!