正解なんか千変万化。 2024.03.09 アビスパ福岡vs湘南ベルマーレ マッチレビュー
開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。
■試合の振り返り
晴天の福岡でキックオフ。前節から福岡はWBを交代。左の前嶋はそのままに、右には競り合いに強い小田が入る。その他のメンバーは過去2試合と変わりなく、前線の3枚は紺野とウェリントン、岩崎と湘南在籍経験ある2名が並ぶ。
一方の湘南はシステムを2試合続けてきた4-4-2から昨シーズンの5-3-2に変更。川崎・京都と4-3-3採用の相手から福岡の3-4-2-1(5-2-3)と、相手によって初期配置を変えようという意図が見える。試合後のコメントによれば実行しようとしているコンセプトは変えず、それを表現するための手段としてのシステムを変更しているように思われる。
メンバーは茨田に代えて大野が入り、その他は変更なし。福岡は長身の選手が多いため、エアバトルの面も考慮した人選かもしれない。
試合序盤から互いに蹴り合う展開。1分には右サイドのスローインをウェリントンが受け、上がってきた重見が平岡の裏を取ってボールを引き取ってゴールに迫る。最終的に重見からのパスを受けた前がこの試合のファーストシュートを放った。
湘南のファーストシュートは3分、センターサークル付近で池田がキープすると大外からハーフレーンにフリーで入ってきたのは鈴木雄斗。岡本や畑とは異なるポジショニングでボールを受けると、DFラインと駆け引きする鈴木章斗へパス。やや窮屈そうな体勢ではあるが、ボックス付近から左足でシュートまで持ち込んだ。
4分、小田と対面する平岡の距離が遠く、右足でクロスを上げられる。先制点の芽はこの辺りから出ていたのかもしれない。6分、レフティーの紺野が切り返して左足でクロス、ファーに走り込んだウェリントンが大岩のマークを物ともせずゴールに押し込んで福岡が先制。京都戦と同じく中途半端なクリアを拾われて二次攻撃を受けての失点。左サイドから繰り返しクロスを上げられていたことから、ボール際への寄せが足りなかった点も原因だろうか。戦術的に崩されたというよりも、それ以前のところが足らなかったように思われるので残念な失点だった。
10分にはサイドチェンジからのズレを使われ、岩崎がペナルティエリア内でフリーでボールを受けてニアサイドへシュート。開幕戦から3試合連続でゴールを守る富居がセーブして事なきを得る。大野がタッチライン方向へ逃げる紺野に釣られすぎて空いたスペースを岩崎に使われた形。杉岡の立ち位置も含め、左サイド3人(大野・杉岡・平岡)の連携がイマイチだったか。
13分、湘南が反撃を見せる。福岡がプレスの網に引っ掛けようと全体を縦にずらしてプレッシング。それをうまく逆手に取ったのが平岡。自身に右CB井上がズレてマークしてきたのを把握していたのか、杉岡がやや苦し紛れに蹴ったタッチラインに沿うように走る縦パスをスルー。その奥に走り込んだ章斗がCB奈良を引っ張り出し、1on1に勝利してボックス内に侵入してクロスをあげる。ニアでルキアンが潰れてセンターには雄斗が引き付けたところ、ファーにこぼれたボールを池田が蹴り込んだ。ゴールに繋がったのはもちろんのこと、クロスを上げる際に人数が十分かつ役割がそれぞれに分担されていたのはよいポイントだった(池田が足を止めずにマイナスの位置からファーに移動していたのも良い動きだった)。湘南は流れの中からでは今季初ゴール、池田は早くもシーズン2点目をゲットした。
先制点のシーンで平岡に釣られすぎたのが脳裏に残ったのか、井上は小田が出た時のスライドが及び腰に。27分湘南のゴールキック、富居は杉岡目掛けてフィード。杉岡から章斗とワンタッチで繋ぐが、小田は杉岡に寄せすぎ、井上は章斗に詰め切れずWB-CB間のスペースが誕生。そこを起点に平岡と章斗がボールを受け、繰り返し湘南が福岡陣内に押し込んでいく。ボールを奪われても前線に選択肢が少ない福岡に対して即時奪回を仕掛け、二次攻撃・三次攻撃に繋げていた。
ところが43分、平岡のバックパスがずれてDFライン裏へ。抜け出した紺野が富居と1on1を迎えるが、左足を残していた富居がチームを救うショットストップを見せた。スコアは両チーム1点ずつ取り合って1-1で前半終了。
ハーフタイムに福岡は湘南の起点を消す修正を実行。小田・井上のスライドを控えめにして紺野がサイドをあらかじめ監視。WB-CB間のスペースを消して送り込まれるフィードを跳ね返すように。ボールが収められなくなって起点が作れない湘南は福岡陣内に入り込めなくなってしまった。一方の福岡も前線3枚の個人技術を発揮した場合かセットプレーでのみ湘南ゴールに近づけるくらいで、試合としては膠着状態に。蹴り合う形が多くなり、ボールが空中にある時間が長く続いた。
70分ごろに湘南が決定機を迎える。良い形のボール奪取から右サイドへ展開、一度下げてからピッチを横断するように左サイドへボールを動かし、ポケットに聡が顔を出してワンタッチパス。抜け出した平岡のクロスを池田が合わせて決定機を迎えるが、福岡GKの永石がセーブした。
その後も簡単に蹴り合う時間が続き、互いの交代選手の力も発揮できずに試合終了。勝ち点1を分け合う結果となった。
■今度はどうして5-3-2?
さて、この試合の湘南についてはシステム変更から見ていこう。システムが変わったといっても戦い方は継続。ハーフライン〜センターサークルあたりのミドルゾーンを基準にブロックを形成し、じわじわとサイドに追い込みながらボール奪取を画策。選手間の距離を一定に保ちつつ、網を張る形の守備から入るのは変わらなかった。しかし福岡はウェリントン目掛けてDFラインから長いボールを蹴ってくるケースが多く、湘南のプレスで引っ掛けるというよりはセカンドボールを回収する形でボールを奪っていた。また福岡の前線が3枚のため3CBでマーク担当、WB同士でサイドの対面をわかりやすくする狙いや、エアバトルを考慮して大野を起用したい意図もあったと思われる。
まとめてしまうならば、自分たちが有利に戦える状況に持ち込むための手段としてのシステム変更である。それは開幕節で見た4-4-2を採用した理由と同じだ。
攻撃においても福岡守備陣に出来る穴を突きやすいというメリットがあったと推測する。同点ゴールが生まれた左サイド=福岡の右サイドはWBとCBの間が開きがちで、平岡と章斗は前半に再三このスペースを利用してチャンスを作った。ご存知の通り平岡は斜めのランニングでこのスペースを使うのが得意であり、スタート位置はハーフレーンで重見に背後を意識させつつ、大外へ走ってボールを引き出していた。
だが4-4-2のSH起用でも平岡はそのスペースを使えるはず。なぜ5-3-2に戻したのか?それは、福岡のハイプレスを考慮して右WBを誘き出す狙いがあったのかもしれない。
ウェリントンが中央に構えて岩崎と紺野が左右で走り回り、その間を前と重見が埋めるようにしてボールホルダーに圧力をかけてくる福岡。サイドに張った杉岡にボールが出ると、対面する小田が縦を切りながら一気にボール奪取を試みてくる。湘南がハイプレスを仕掛ける時と同じような景色ではあるが、各選手の役割分担とタイミングがより整理されているように見え、ボールを持っている選手の視野はかなり狭められてしまうだろう。福岡の前線3枚とWBからするとプレッシャーをかける対象選手が明確であり、小田は迷いなく杉岡の位置まで向かっていける配置だったといえる。
ところでハイプレスを仕掛ける場合はDFラインも縦にズレる必要があり、小田が飛び出た分を右CB井上が埋め、井上が居た場所をCB奈良が埋める担当になる。湘南が狙ったのはここの井上と小田の間に生まれるスペースだ。つまり杉岡を”エサ”として小田が前のめりに食いつくのを利用するイメージである。
8分には平岡が降りて大野からのパスを受ける。杉岡へのパスはズレてタッチラインを割ったが、福岡の右WB小田は杉岡の位置まで出てきていたため湘南が使いたいスペースが空く形が見え始める。
おそらく平岡はどこに自分が立つと福岡守備陣がズレてスペースが生まれるのかを確認していたのだろう。かなり低い位置まで降りたり、あえて内側に留まったりと前半立ち上がりからポジションを細かく動かしていた。
そして同点ゴールが生まれたシーン。小田の背後に生まれたスペースに平岡が入ると、井上がズレてマーク。井上の対応自体は間違っていないが、その後ろで構える奈良の対応が一瞬遅れた。平岡がスルーしたボールは章斗が先手を取って仕掛けて突破に成功。直接ボールにからんでいないが、平岡が同点ゴールの布石を打っていたと言えるだろう。
4-4-2を初期位置にすると小田は平岡と杉岡の二人が視野に入ってしまうため、ボールに食い付いてくれない可能性が高い。対面を杉岡一人にすることで相手を誘き出すことに成功した。
・福岡のハイプレス事情
前半はハイプレスを繰り返す福岡の矢印を利用して相手陣内に押し込んでいた湘南。福岡としても、簡単にハイプレスを辞めるわけにもいかない事情があったことについても触れておこう。
福岡の前線3枚のキャラクターは、長身FW1枚とスピード系のアタッカー1枚とテクニカルなドリブラー1枚。ウェリントンはヘディングは強いが収めて捌けるタイプではなく、もちろん長い距離を走れるタイプでもない。紺野もフィジカルに優れているタイプではなく、時間を稼ぐというよりは作ってもらった時間を有効活用してゴールに結びつけるタイプの選手である。残る岩崎のみが長い距離を走ってもプレー精度が落ちず味方に繋げられる選手であるが、逆に言うと彼さえ抑えてしまえば福岡には押し込まれた後の陣地回復手段がないと言える。ウェリントン目掛けてフィードを送り、その後のヘディングが味方に繋がることを祈るだけになる状況を避けるべく、自陣に押し込まれる前に出来るだけ高い位置でボールを奪いたいと考えていた。
湘南からすれば福岡がハイプレスに出てくるのは(前2試合を踏まえても)想定しやすく、一度押し込んでしまえば彼らの脱出手段は限られるため対策も取りやすかったはず。実際同点ゴール以降は相手陣内に押し込むシーンを作れた上、ボールを奪われた後も田中がすぐに回収して二次攻撃に繋げられていた。
失点も含めて立ち上がり10分間の戦いは課題が残るものだったが、同点ゴール以降は福岡が提示する戦い方に対してピッチ上で回答を出せていた。相手によって戦い方を変化させ、最も有利に戦える手段としてシステム変更を行っている点も含め、筆者としては昨シーズンよりもチームの成熟を感じた。
■対話を続けたかった試合
後半に入ると福岡はプレスの形を変更。小田は低い位置に留まり、紺野が杉岡を監視するように。それによってWB-CB間のスペースが消えてしまい、湘南は起点を作れなくなってしまった。
しかし紺野がサイドを監視するということはウェリントンとの距離が開くのを意味しており、彼らの間を埋めるDHの仕事量増加につながる。すなわち今度は前線とDHの間にスペースが生まれる可能性が高まるわけで、アンカーにいる田中が起点になるべき状況だった。だが田中がボールを引き取って散らすようなシーンはそこまで多く見られず、互いにボールを蹴り合う展開になってしまう。福岡が長いボールを蹴るのはわかるとしても、湘南がそれに付き合う必要はなかったはずだ。
先ほど触れた通り、福岡はハイプレスを辞めたことでボール奪取位置が下がりゴールに迫る方法が限られた。したがって湘南がボールを一方的に握って殴り続ける未来もあったかもしれない。
田中としても試合後コメントで触れているとおりチーム内でも認識が共有されているように見えるので、今後のプレーに期待したい。
先ほどの福岡の提示と湘南の回答でいえば、以下のようになるだろうか。対話としての回答を提示できれば勝利を手に出来る可能性は高くなったように思うが、結果として福岡の提示に同調してドローに終わった。ベンチワークとしても阿部を投入するあたり、ロングフィードの蹴り合いではなく福岡守備陣に穴を空ける形を狙っていたように思うが、ピッチ上では表現できず残念であった。
だがこうした戦術的な応酬は昨シーズン考えられるようなものではなかったため、少しずつではあるがチーム力は上がっているように思う。それが今シーズンどこまで高められるのかは誰にもわからないが、進んでいる方向としては間違っていないのではないだろうか。
試合結果
J1リーグ第3節
アビスパ福岡 1-1 湘南ベルマーレ
福岡:ウェリントン(6')
湘南:池田(13')
主審 今村 義朗
タイトル引用:Rain Drops/ソワレ
Rain Dropsの楽曲より引用。戦術的な応酬が見られた試合展開で、時間ごとに正解となりそうな戦い方が変化していく様子から。
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