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夜広げて描こう、絵空事。 2024.07.06 浦和レッズvs湘南ベルマーレ マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの嚙み合わせ

■試合の振り返り

 関係者と観客の安全を考慮して開場時間が後ろ倒しになるほどの雷雨が通過した、浦和駒場スタジアムでキックオフ。雨の影響で開始時間が遅れる試合、湘南は今期2回目である。なおこの試合では今期初めて飲水タイムが実施された。

 湘南は前節の京都戦から数名のメンバー変更を実施。右CBには髙橋が入り、鈴木雄が右WBにスライド。中盤の並びはいつもの逆三角形で、左IHには山田、右IHに池田、アンカーは田中。左WBは畑が入り、ルキアンの相棒は鈴木章が務める。
 前節磐田戦を最後に複数の選手が退団した浦和。CBショルツ、WGソルバッケン、MF岩尾がとくに大きなインパクトがあった離脱だろうか。ショルツの後釜は前節に続いて佐藤、ソルバッケンの代役はパンヤが務める。右SBの石原は移籍した酒井の負傷離脱したタイミングでレギュラーの座を掴んでおり、浦和移籍後初の古巣対戦。


 試合序盤、やりたいことができているのは湘南の方。2トップと左IHのプレッシング、WBとCBの縦スライドが整理されていて浦和の前進を阻み、高めの位置でボールを奪えている。ただしボックス内に入るところまでは至らない。
 15分、章斗のマークずれから浦和がクリーンにプレスを抜け出す。左のポケットに走り込んだ伊藤の折り返しをマイナスで待っていた武田のシュート。ボムグンが防いで危機を脱した。
 その後も浦和、17分にもビルドアップで抜け出しに成功。19分も左右に揺さぶってから中央の渡邊に縦パスを通し、湘南のプレスを徐々にほぐして脱出口を見つけ出す。武田や渡邊が降りたり、伊藤が湘南を揺さぶるようなランニングを見せていた。


 30分までは大きな見どころはなかったが、32分に湘南が先制。山田のパスが伊藤の足に当たって田中の前にこぼれ、ボックス左から落ち着いて左足を振り抜いた。互いにピッチ手前サイド、湘南の左・浦和の右サイド中心の攻防が多い。駒場のピッチ状態が起因したのか、石原と山田の古巣への思いがそうさせたのかはわからない。
 その後は浦和がまた前進できない時間が増える。リードを奪って湘南の動きが良くなったからかもしれない。
 前半の終わり際にはやや湘南に有利な判定が続き、浦和が判定へのフラストレーションが溜まっている様子。0-1の湘南リードで試合を折り返す。


 ハーフタイムに浦和は1名の選手交代。パンヤに代えて前田が投入される。後半からシステムを4-3-3に変更した模様。安居をアンカーとして伊藤と武田がIH、渡邊は左WGに移動して前田は右WGへ。左サイドはSB大畑が幅を取り、渡邊はリンセンの近くでプレーするような形。50分にはアンカーがCB間に降りてCBの位置を開かせ、武田に固定されてIHが出てこられない湘南の右サイド=浦和の左サイド、タッチライン際で待つ大畑を活用して前進する。
 53分、セカンドボールを拾ってカウンターに行きかけた湘南のパスをカットして浦和のカウンター。前線3枚でゴール前まで突き進み、前田のクロスを渡邊が頭で合わせた。しかしシュートはボムグンがストップ。

 54分に湘南の選手交代。その前のプレーで痛めていた章斗に代わって福田が入る。59分に浦和も選手交代。武田に代わってグスタフソン、リンセンに代わってサンタナ。アンカーがグスタフソン、安居がIHへ移動。
 61分、浦和が同点ゴール。湘南が奪ったボールを再び奪われ、右サイドの石原から中央のグスタフソンへパス。ワンタッチで安居に通すと、渡邊を経由してフリーになったサンタナ、左足でボムグンの股間を抜く技ありシュート。交代選手が即座に結果を出した。
 64分、湘南のパスミスから浦和が攻め込む。渡邊から裏へ抜け出した大畑がクロス、ボムグンがはじいたところをサンタナが詰めた。しかしシュートはミンテがブロック。浦和のペースが続く。

 66分に湘南の選手交代。IH2枚の山田と池田に代わって石井と奥野が投入。72分、湘南の決定機。髙橋がバックラインから色んな選択肢を見せつつ持ち運び、裏抜けしたルキアンに落とすパス。西川との1vs1でかわしにかかるが弾かれたところ、自分で拾ってパス、引き受けた奥野が左足でシュート。しかしゴールカバーに戻っていた石原に頭でクリアされた。その後ルキアンの飛び出しがオフサイドの判定。
 73分、グスタフソンに食いついた田中がかわされ、パスを受けた渡邊がドリブルで中央のスペースを前進する。石井のカバーは間に合わず、渡邊に引き付けられたミンテの監視を掻い潜って裏抜けに成功したのはサンタナ。強烈なシュートでこの日2点目、浦和に逆転ゴールをもたらした。


 逆転された湘南、75分に再び決定機。浦和のプレスを個人で剥がした畑がドリブルで進行、中央で待っていたルキアンに通してワンタッチで背後を取った福田へスルーパス。ボックス内でGKと1vs1を迎えるが、シュートはバーの上。
 逆転後、浦和はシステム変更。グスタフソンが一列前に出て伊藤と安居の2ボランチになり、前半と同じく4-2-3-1へ。負傷を明けたグスタフソンの強度のところか、あるいはアンカー脇を使われていたところが気になったのかもしれない。

 84分、淳之介に代わって根本が投入。栃木への期限付き移籍とその期間に負った負傷から復帰、久しぶりの湘南での出場。4-4-2に変更し、中盤はダイヤモンドで福田がトップ下、ルキアンと根本の2トップのような形に。
 90分、湘南のチャンス。西川のロングキックを畑が競り勝って収め、福田のポストプレーから石井が前向きで受けて浦和の制止を振り切る。そのままゴール前まで進んでボックス手前から右足を振り抜き、ボールは西川の手をかすめてサイドネットに吸い込まれた。石井のリーグ戦初ゴールで湘南が同点に追いつく。根本はホイブラーテンを引き付けていただけでなく、その前の西川に対して利き足側からプレッシャーをかけていたのも得点のきっかけを作った。
 アディショナルタイムに入った92分、右サイドのスローインからワンタッチでパスを繋いで浦和陣内深くに侵入。福田から中央の田中へパス、ややアクシデント気味にゴール前のルキアンへボールが転がり、右足を一振りしてネットを揺らす。冷静なストライカーが湘南を勝利へ導く逆転弾を決めた。

 最終盤、浦和が猛攻を見せたが湘南が何とか逃げ切り、2-3で湘南が勝利。15節新潟戦以来の勝ち点3を手にした。


■刺さった湘南の準備

 ここ数試合における浦和の様子を見ていたところ、多少手数をかけたとしてもCBをオープンな状況にすることを攻撃の第一歩にする、といった印象を持った。先手を取りつつも前進を急がず、相手陣内に押し込む時間を長く取りボールロストしてもすぐに回収できる形を作っていく。

 おそらくこの試合においても同じ狙いだったと思われるが、そこに対して準備した湘南の策がうまく刺さっていた。ホイブラーテンと佐藤のパス交換、SBやDHのリターンパスに目を光らせ、中央レーンとハーフレーンでは決して自由にボールを持たせないことがこの試合におけるプレス隊の最重要任務になっていた。後半の1シーン、50分にホイブラーテンが持ち運んだ場面を除き、プレス隊は任務を遂行したはずである。
 なおその場面では本来章斗がホイブラーテンまで出ていく場面であり、その章斗は55分に福田と交代した。前半から積み重なったスライドのエラーとこの場面のエラーが交代のきっかけになったのかもしれないし、それ以外の理由でもともと予定されたものなのかもしれない。因果関係はわからないが、時系列としてそのような順序になっている。

湘南の浦和対策。
攻撃の第一歩となるCBを監視下に置き、それ以降の時間を奪った。
IHやWB、CBの縦スライドも効いていた。


 なかなか狙った形でCBを解放できない浦和は、湘南が張ったプレスの網を掻い潜った後は急いでゴールへ向かっていた様子。狭いスペースを使って侵攻していくところはさすがの個のクオリティを発揮していた印象だが、単発の攻撃に終わっていたために湘南としては助かっていた部分も大きかった。
とりわけソルバッケンがいたころによく見られたサイドで時間を作りつつ、ボールと相手を動かしながらSBやIHがポケットに入っていく場面はほとんどなかった。後ろでも前でも時間をコントロールできるシーンが少なかったことが、終盤戦の息切れに繋がったのかもしれない。とはいえ湘南の見せた守備の穴(不用意なボールロスト、食いつきすぎのチャレンジと間に合っていないカバーリング)を見逃さずに逆転までもっていったところは地力があるチーム、といったところだろう。
 後半からシステムを変えてWGを置いたことや、CBから対角のロングボールが増えたことを考慮すると、テンポ速く攻めてコンパクトに守る湘南の守備陣形を間延びさせるのが巻き返しを図るヘグモ監督の狙いだったのかもしれない。逆転まで持ち込んだのでその狙いは一定以上の成果を上げているが、その展開は浦和の面々にとって負担が大きく、また湘南にとって得意な土俵を用意してもらったようにも思えた。


■”ボールは疲れない”?

 湘南のボール保持、浦和のプレッシングに関してはシステムの嚙み合わせが大きく影響していたように思われる。湘南の3CBとWBに対して自分たちの4-4-2をどう当てはめていくかという点において、浦和はこれといった回答を持っていなかった様子。もちろん湘南の左右CBが中盤も担える人材であること、この日の田中は中央で我慢して待って相手の2トップを引き付けていたこともプラスに働いていた要素ではある。だがそれを踏まえたとしても、浦和SHが湘南のCBに対してどのように振舞うかは曖昧なままで、両WBは試合を通じてストレスを感じることなくボールを受けることができていた。プレスのファーストラインからセカンドラインまでは余裕をもって越えられるシーンが多く、その結果として世話しなくゴール前を行ったり来たりしなくて済んでいた。

湘南がボールを持てていた図。
浦和SHの守備が曖昧でWBは比較的自由を得ていた。
後半からシステムを変えても、この点においてはそこまで変化は見られなかった。


 だからといってチャンスを量産できていたわけではなく、得点シーン以外ではルキアンの抜け出しから奥野のシュート(石原のゴールカバー&オフサイドの判定)とルキアンのパスから福田が抜け出したシーンくらいだろう。どちらかというとチャンスシーンの数というよりは、”ゴール前を行ったり来たりしなくて済んだ”ことのメリットが大きかったように思う。
 浦和が急いでボールを運んでいたこと(そして失っていたこと)、めくれ上がる芝と蒸し暑い気候を考慮すると、終盤にかけて相手のスタミナが落ちるのは確実であり、オープンな展開になれば一日の長があるのは湘南の方(という印象を筆者は持っている)。自分たちのペースでボールを保持した時間の分だけ力の貯金ができたわけで、それがラスト10分の反撃に繋がったのではないだろうか。


 システム上の噛み合わせと浦和のサイド守備を上手く利用して有利に試合を運びつつ、相手の根幹となるCBを自由にさせない策が刺さった湘南。いくつかのエラーを咎められて窮地に追い込まれたものの、温存していた力を使って何とか期限までに回答を間に合わせた試合だったといえる。おそらく前節の京都戦も同じような試合をしたかったのだろうが、京都が全く繋がずプレスのスイッチが入れられなかったために主導権を握れなかったのかもしれない(ただし自分たちがやたらと前に蹴っ飛ばしていたのは別の問題であるが)。
 ともあれひとまずは久しぶりの勝利を喜びたい。劇的な敗戦はいくつもあれど(!)、劇的な勝利はいつぶりだろうか。



 次は天皇杯を挟み、前回ショッキングな逆転負けを喫した磐田戦。自滅だったとはいえ、借りはきっちりと返さなければならない。



試合結果
J1リーグ第22節
浦和レッズ 2-3 湘南ベルマーレ

浦和:サンタナ(62',74')
湘南:田中(32')、石井(90')、ルキアン(90'+2')

主審 上田 益也




タイトル引用:結束バンド/星座になれたら

にじさんじの同期ユニット、織姫星がカバーした楽曲より引用。リーグ戦初ゴールを挙げた石井の誕生日である七夕にかけた。偉大なる先駆者のチャントを引き継いだ彼がどんな成長を見せるのか、夢を見たっていい。

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