見出し画像

響け、キミのコールよ。 2024.08.31 サガン鳥栖vs湘南ベルマーレ マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの嚙み合わせ

■試合の振り返り

 台風の影響で全国各地の試合が中止・延期となる中、やや天候も落ち着いた様子の鳥栖でキックオフ。心配されていたピッチコンディションは問題なさそうで、水たまりもなくボールもしっかり転がる様子。
 湘南は通常よりも前倒して現地入り、出場停止のキムミンテ以外に鈴木雄斗もメンバーから外れた。3バックの中央には大野が入り、右WBは岡本。左WBは吉田に代わって小野瀬が務める。その他8人は前節名古屋戦と同じメンバー。ベンチには負傷から復帰した畑、さらに松村、ルイス・フェリッピと新しい顔ぶれが並ぶ。
 対する鳥栖は前節神戸戦と同じ3-5-2を採用。3バックの中央は木村、右CBは原田が入り、2トップは富樫とスリヴカが組む形。

 序盤から積極的なプレスを見せる鳥栖。2トップ+IHの4枚で3バック+アンカーをマークし、DFラインも2トップとボールサイドのIHをスライドしてケア。ボールを繋ごうとする湘南のパスを引っ掛けてカウンターに出る場面が見られる。
 鳥栖が低い位置でボールを持った際の前進方法では、シンプルなフィードが目立つ。回収した湘南は左サイドのスペースにFWを走らせて起点を作り始める。

 12分の鳥栖、CBがボールを持っている場面。IHがサイドに流れてFWが降りてくる湘南と同じ仕組みを見せ、パスを受けたスリヴカがチャンスを作った。
 15分までの時間でお互いに決定機はなし。鳥栖は降りてきたFW、湘南はサイドに流れたFWを起点としている。

 29分の湘南、相手を自陣に引き付けて空いた茨田から繋いで小野瀬のドリブル。ファーサイドのクロスを池田が折り返し、章斗が押し込んだ。しかしVARのチェックでオフサイドの判定。
 続けて31分、またも湘南。池田が顔を上げるタイミングで裏に抜け出した岡本、ニアで章斗がDF2枚を引きつけて最後に合わせたのは茨田。一度はGKパクイルギュに防がれるが、こぼれ球を押し込んだのはまたも章斗。再び長めのVARチェックが行われるが、今度は得点が認められて湘南が先制する。

 38分の湘南。左サイドタッチライン際に張った小野瀬から、裏に抜けた章斗へスルーパス。ワンタッチのクロスに頭で合わせたのはルキアン。しかしシュートは枠の上へ。追加点を奪う決定機を逃す。
 鳥栖は低い位置でボールを持った際、スリヴカが明確に降りるように。アンカーの横あたりまで降りてIH2枚の位置を上げ、湘南の1stプレスラインの背後を取る狙いを見せる。それに対してFWのプレスバックや田中の奮闘で鳥栖の攻撃を食い止めていた。


 ハーフタイムに両チームに選手交代。湘南は得点した章斗に代えて福田。鳥栖は堺屋に代えて久保。楢原が左WB、久保が右WBへ入る。

 52分の鳥栖。ボックス手前からのフリーキック。ファーサイドで合わせたのはキムテヒョン。シュートは僅かに枠を逸れたが、鳥栖にとってはこの試合一番の決定機。
 後半に入って15分、ギアを入れなおした鳥栖が積極的な寄せから湘南のゴール前に迫る場面が増える。合えば決定機、というシーンはあるが湘南の戻りもあって最後のところはやらせていない。前半にFWの位置から降りて起点になっていたスリヴカには、ボールサイドのCBがついて行って対応していた。

 62分、湘南は茨田に代えて奥野。そのまま左IHへ入る。75分、湘南の決定機。池田のキープから福田がフリーで抜け出し。マイナスの折り返しに合わせたのは奥野。しかしシュートはゴールポストの右へ。シュート後に受けたタックルについてもノーファールの判定。

 79分に湘南が2枚替え。岡本に代えて畑、淳之介に代えて松村。そのままのポジションに入り、サイドのメンバーを入れ替える。
 84分、鳥栖のゴール。右コーナーキックにヘディングで合わせたのは木村。湘南はまたもセットプレーからの失点で鳥栖が同点に追いつく。


 87分、飯田主審のアドバンテージ判定から、こぼれ球を拾った田中のパスを受けた福田。対面の木村を冷静にかわしてコースを作り、右足を振り抜いた。湘南が再びリードを奪う。
 88分、湘南が最後の交代。池田に代わってフェリッピが加入後初出場。福田が右IHに移動し、ルキアンとフェリッピが2トップを組む。

 最終盤はファールを上手くもらいながら相手陣深くでプレーする時間を増やし、危険なシーンを作らせない。1点リードを守ったまま1-2で試合終了、難しい状況を乗り越え、アウェイで勝ち点3をもぎ取った。


■相手の出方を逆手に取って その1

 開始直後から鳥栖は積極果敢なプレスで湘南に襲い掛かる。前から人基準に捕まえていく形で、とくに3バック+アンカーへのケアは徹底されていた。湘南のIHには左右のCBが縦にスライドして対応し、基本的には原田が茨田をマークする約束になっていた様子。

鳥栖のプレス。
前から順に捕まえていき、中盤~前線に出たパスを狙う。

 鳥栖の推進力に気圧されてしまった湘南は、試合序盤は思ったようにボールを持てない時間が続く。だが原田が前に出てくるのはスカウティングで想定済みだった様子で、その背後をシンプルに狙っていた。監督も試合後コメントで話していたが問題はそのタイミングと状況で、相手を引き付けるよりも先にボールを届けてしまうため、期待するよりも相手の陣形が崩れていないシーンが続く。
 その改善がピッチで表現されたのは飲水タイム後、26分の得点取り消しシーン。変わらず圧の強い鳥栖のプレスが湘南陣内深くまで至ったところ、上福元からルキアンへのフィードが飛ぶ。人を捕まえて前がかりになっていた鳥栖プレス隊の頭を越すボールで、薄くなった奥を利用できた。また数的同数を嫌がって下がった木村と原田の移動により、ピッチ中央で茨田が一時的にフリーの状態に。良い形で小野瀬にボールを渡し、決定的なチャンスの演出を任せることができていた。やろうとしていることは前節名古屋戦で叶わなかったことと同じであり(今回も得点にはならなかったが)、一歩ずつ成功に近づいていると言えるだろう。

相手のプレスを利用したチャンスメイク法。
クオリティを出せる小野瀬を上手に活かした。

■相手の出方を逆手に取って その2

 鳥栖のやり方を逆手に取っていたのはプレスだけでなく、保持の面でも共通していたように思える。鳥栖3バックの左右、とくに右の原田はボール保持時にタッチライン際に移動してサイドバックのように振舞っていた。湘南のプレス隊にズレを作り、パスコースを生み出して前進していく狙いがあったのだろう。

鳥栖の保持①
右CBがスライドしてズレを作る。
鳥栖の保持②
左右CBを起点に中に通すか、裏に落とすかで先手を取っていく狙い。

 実際富樫に裏へ走られて起点を作られたり、降りてきたスリヴカが反転してドリブルを仕掛けられたりなど困らされた場面が何度も見られた。田中が守備面で奮闘して何とか防いでいたが、ボール周辺の雲行きとDFラインの高さ設定の関係は少し課題があったように思う。
 とはいえ左サイドで前向きに奪えた場合の狙いは明確で、バランスを崩しているDFラインの裏、原田の背後を使うことを第一優先としていた様子。開始直後の章斗や6分のルキアン、38分には章斗のクロスからルキアンのヘッドなど、この形から得点が生まれてもおかしくない場面も生み出せていた。
 また原田はマーク相手の茨田の位置を気にするうえにボールウオッチャーとなる傾向が高く、湘南が狙い目とするのも頷けた。彼をカバーするためにCB木村・キムテヒョンが外に釣り出されるため中の枚数が薄くなり、それを埋めるために逆サイドや中盤の戻りが必須に。結果としてカウンターへ出づらくなる悪循環が生まれていたように思う。

湘南の狙い①
前に出た原田の裏をシンプルに使っていく。
湘南の狙い②
大外でボールを持った際、IHの位置で右CBの位置を操作する。

 後半に入ると原田の前、右WBが久保に交代。独力で前進できる選手が前にいることで必要以上に高い位置を取る必要がなくなり、湘南が背後を使いづらくなっていた。後半頭から鳥栖がペースを握ったのもロッカールームでギアを入れなおしただけが理由でなく、湘南が攻略の糸口を塞がれたことも起因していそうである。


 試合内容はともかくとして残留を争うライバル相手に勝ち点を与えず、色々な難しい状況を乗り越えて勝利したことは何よりも価値がある。続く新潟戦の勝利と馬入の早期復旧を祈りつつ、一時休息に入ろう。


試合結果
J1リーグ第29節
サガン鳥栖 1-2 湘南ベルマーレ

鳥栖:木村(84')
湘南:鈴木章斗(31')、福田翔生(87')

主審 飯田 淳平


タイトル引用:Chinozo feat. v flower / Flyer!

湘南ベルマーレの担当ライバー、叢雲カゲツ(サムネイル左)がヤン・ナリ(同中央)と闇ノシュウ(同右)と歌った楽曲より引用。イレギュラーな状況で様々な判断を下して現地へ飛び立ったチーム・クラブスタッフ・関係者各位、サポーターへの尊敬の念と、FW福田翔生のヒーローインタビューを受けて。

この記事が参加している募集

いただいたサポートは現地観戦のために使わせていただきます!