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緻密な計画、数えきれないミステイク。 2024.06.01 湘南ベルマーレvsガンバ大阪 マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの嚙み合わせ

■試合の振り返り

 快晴のレモンガススタジアム平塚でキックオフ。湘南は逆転負けを喫した前節からスタメンを3人変更。負傷のミンテ、磐田戦で出場した大岩に代わって3バックの中央を務めるのは鈴木淳之介。これまで中盤を主戦場にしてきた選手がDFラインの中央に抜擢された。3バックの右は鈴木雄斗、左は大野のベテランコンビで脇を固める。
 雄斗がスライドした右WBにはリーグ戦では広島戦以来の出場となる岡本が入り、畑が負傷離脱した左WBは杉岡。アンカーとIHの3人はいつも通りで、2トップはルキアンに代わって鈴木章斗、そして福田が入った。対するガンバは前節のFC東京戦からスターティングメンバーの変更なし。


 試合は静かな立ち上がりから。ガンバは様子を見るようなロングパスでDFラインの背後を狙ってくるが、湘南が落ち着いて対応。守備からリズムを掴もうとするガンバと、ボールを保持して主導権を握る湘南の構図となった。
 最初のチャンスは湘南。5分、スローインを受けに来た宇佐美からボールを奪い、細かく繋いで逆サイドへ。フリーであげた岡本のクロスは高すぎて合わなかったが、2トップの動きでCBの背後を取れていた。

 ガンバの保持に対して湘南の対応は目新しいものはなし。FWの片方がボールホルダーにチェック、もう一方が低い方の中盤センターを捕まえる。IHは背後を気にしつつボールサイドのSBを監視していた。宇佐美や坂本は田中の脇、池田の背後を狙っている様子で、そこにはCBがついて行って蓋をする構え。

湘南のプレス。
相手の狙ってくる場所に人を配置して対応していた。


 7分、湘南の保持。宇佐美と坂本の縦ラインを割るような淳之介のポジショニング。方向付けを無効化してWGを押し下げることに成功した。ガンバのFW1枚は田中を監視、もう一方がボールにアプローチする形だが、3バックの湘南は脇のスペースから前進。ガンバとしてもCBがボールを持つことはある程度許容するつもりだっただろうが、もう少し2トップがボールが進む方向に制限をかけて中盤より後ろで奪いどころを定めたかったところだろう。WGがブロックを構成するべく下がらざるを得ず、山下とウェルトンを活かす場面を作れないのも悩みだったはずだ。
 この後も2トップの脇や間を使ってファーストプレスを越えることはできていた。問題はその後、4-4ブロックを引き出したり延ばしたりという作業がなく、構えている相手にボールを近づけてしまっているところにあるだろう。

湘南のビルドアップ。
ガンバはこれを阻害するのに試合を通して試行錯誤していた。

 12分、FWが降りて田中の脇にあるスペースを起点としようとするガンバ。降りるFWに対しては3バックの左右CBがマークして対応。ボールを受けさせない。連動してWGが背後を狙い、DFラインのギャップを突こうとしてくるが、WBがカバーして対応。

 20分、湘南の攻撃。2トップによるファーストプレスを大野から田中へのパスで容易に突破。ダワンを引き付けつつ進行する。平岡がサイドから山下を連れて内側に移動し、田中から浮いたポジションを取る杉岡へのパスラインを創出。杉岡は斜めのパスで平岡に渡し、ハーフレーンかつ2ラインの間で前向きにボールを持つことができた。福田も絡んで左サイドを3人の連携で突破すると、最後は中央で待つ池田がミドルシュート。ボールはDFにブロックされてしまったが、テンポよくボールをつないでゴールに迫った。


 28分、湘南が奪ったボールをGKまで下げ、バックラインから組み立てなおしを図った場面。ガンバのプレッシングがハマって湘南の選手の判断ミスを誘って先制点を奪った。ボムグンの技術的なミスというよりは、湘南の選手たちによるいくつもの判断ミスが重なった結果だろう。
 ボムグンはもっと早いタイミングで一度ボールをリリースしてポジションを取り直し、低い位置に移動して坂本や宇佐美から距離を取る判断もあったはず。田中も自身がボールを受けるための動き直しを行っていたが、ボムグンを助けるという観点が欠けていたように思う。またボール周りの状況的にはよい場面ではなかったので、周囲のコーチングでサイドへのロングキックを促すこともできたはず。

 29分、失点直後に湘南に決定機。淳之介が最後尾からボールを運び、2トップとWGの間をスイスイと進む。降りてきた章斗に通すと、ボールは左サイドを駆け上がった杉岡へ。ワンタッチで上げたクロスはファーサイドに走り込んだ岡本がコントロールしてシュートを狙おうとするが、全速力で戻ったウェルトンによって阻まれた。


 30分以降は湘南が長い時間ボールを握る。しかし決定的なシュートを打つまでは至らず、ガンバの陣地回復をことごとく阻んでいたのはよかったものの、CBである福岡や中谷を焦らせるような状況を作ることもできなかった。

 42分はガンバのチャンス。低い位置を取った半田に対して杉岡がアプローチすると、空いた背後のスペースを坂本がランニングしてボールを引き出す。右サイドでの細かいボール回しから、最後は坂本の落としを宇佐美がシュート。ボールは際どくポストのすぐ横を通って枠を外れた。

 アディショナルタイムに入った45分+2分のシーン。背後を狙った池田がポジションを取り直し、雄斗がボールを持ったところで再び背後へランニング。CBが2トップ、SBがWBを監視したため、池田がハーフレーンでフリーに。クロスは中に絞った半田によってクリアされるが、章斗とのタイミングが合えばというシーンだった。



 後半頭からガンバは攻守で1点ずつ変化を加えてきたように見えた。守備ではプレッシングの参加人数。2トップの脇からボールを進められていたため、WGがプレッシングに参加して脇を埋めるように。ボールへ早く厳しく寄せていたが、湘南はそれを受けつつ空いたスペースへボールを展開。後半開始直後の淳之介の縦パスや、49分の岡本から杉岡へのサイドチェンジなど、ガンバの修正を逆手にとってボールを進めることに成功していた。

 攻撃では背後を狙う割合の増加。WGが下がって湘南のWBを引き付けて空いたスペースをFWが狙ったり、逆にFWが降りてWGが裏を狙ったりと前半にも見られていた形を強調してきた。直接ゴールを狙うことと共に、副次効果として湘南のDFラインを下げさせる目的があったと思われる。
 こちらに関して湘南もある程度予想ができていた様子で、上下の動きに対してスムーズに対応していた。だがWGの裏抜けに関してカバーがなくWB単体で対応していた点(後半立ち上がりに見られた岡本vsウェルトンのように)に関してはやや不安を覚える印象であったし、結果的に2失点目に繋がった。

 修正を施してもプレスがハマらないガンバは、55分に坂本を下げて倉田を投入。中盤を3センターに代えてWGを前に押し出す形、4-3-3のように変更した。3バックに対して宇佐美と両WGをぶつけ、湘南のIHに使われていたハーフレーンを3センターで埋めてしまう狙いだろう。また4-4ブロックに吸収されて両WGが押し下げられてしまっていたところ、前残りさせてカウンターの脅威を増そうという意図もあったとおもわれる。攻撃面での修正はそのままに、守備面でさらに修正を行う意味を持った交代である。ある意味湘南の組み立てを止めることは放棄しているようで、中盤から後ろを固めカウンターを狙い勝ち点3を確実に持ち帰る意思を感じた。

ガンバの交代による修正。
湘南が中盤以降の崩しに課題があったため、スペースを埋めて蓋をしてしまう作戦か。



 湘南も前半と同じくガンバのゴール前に侵入することはできない展開。光明が見えたのはポジティブトランジションだった。奪ったボールを繋げようとポジションを動かしたガンバから再びボールを奪い返してカウンター。59分は細かいパスを繋いで雄斗がゆっくりとドリブルで運び、ボールの近くにいたダワンと倉田の足を止めた。雄斗は上がりかけていた黒川の背後を取っていたフリーの章斗へパスを通し、右サイドのポケットからクロス。ボールはガンバにクリアされたが、相手の足を止めさせて守備の機能性を落とし、フリーの選手を作って危険な場所へボールを送るという一連の攻撃は、この試合の中でもよい形の方ではあるだろう。

 62分、自陣深くから蹴られた中谷のロングフィードに抜け出したのは右WGの山下。持ち前のスピードを生かして杉岡にギリギリの対応を迫ると、こぼれ球を拾ったのは宇佐美。2vs2の状況から山下が再び抜け出すと、杉岡が後ろから倒したという判定でPK。宇佐美がゴールの右上隅に落ち着いて蹴り込んでこの日2点目。理想的とは言えない試合展開の中、我慢し続けたガンバがリードを広げる追加点を奪った。

 65分、2点を追う湘南は平岡と章斗を下げ、阿部とルキアンを投入。78分には湘南が阿部のコーナーキックから1点を返す。ニアサイドに飛んだボールをガンバDFがコースを変えたところ、その先にはルキアンが。頭で合わせてネットを揺らした。
 最終盤も湘南がゴールに迫るが決定的なシュートは打てずに試合終了。効率よくチャンスをものにしたガンバが6試合連続負けなしとする勝利を掴んだ。


■できたこと、できなかったことは?

 筆者の個人的な予想に反し、試合の大半でボールを握っていた湘南。メンバー選考からもボール保持に重きを置いていたチームの狙いは明らかであるため、その点においては準備していたことが発揮できたと言えるだろう。ガンバのプレッシングが2トップであったため、システムを変えるまで人数的に有利な状態だったこともその理由の一つではある。
 もちろん3バックの中央を務めた淳之介の働きも大きい。自身で持ち運ぶだけでなく、2トップの間に顔を出してボールを引き出したのはミンテにも大岩にもない良い点であるはず。列を上げて田中と横並びのようになり、宇佐美と坂本を困らせていた場面もあった。不安なのはCBの主業務である守備対応で、次節の名古屋戦ではユンカーや永井といったスピード型FWを相手に任務を遂行できるかどうか。幸いルキアンや福田と似たタイプではあるので、代表ウィーク中のトレーニングで解決策を見つけてもらいたい。
 淳之介や雄斗の働きもあり、自陣からハーフウェーラインまでは滞りなくボールを運べていた。この点は相手を上回ることができていた、と言えるだろう。とはいえビルドアップ由来の失点が生じているため、手放しで称賛ができないのが悲しい。人の配置が原因というよりは判断ミスの積み重ねのように思うので、よりボムグンに負担がかからないようなサポートをバックラインとアンカーには求めたいところである。

 では何ができていなかったのか。細かいデータやスタッツを参照したわけではないが、湘南がボックス内から枠内に向かってクリーンにシュートを打てたのはゴールシーン以外にはなかったはず。相手守備陣をパニックにさせるような崩しができなかった、と筆者は考える。
 20分の左サイドを崩して池田がミドルシュートを放った場面。見栄え良く見えるシーンだったが、ライン間で平岡がボールを受けた時点でガンバ守備陣に対して優位を取れている状況。平岡はスピードアップではなくむしろゆっくりとプレーして半田の足を固定し、杉岡が高い位置まで移動する時間を作るといった判断もあったかもしれない。それができると半田から解放された杉岡はシンプルなクロス、深い位置までの縦突破、中央で待つ福田へマイナスのパスなど、複数の選択肢を見せつつガンバ守備陣にスライドを強要させられる。よりゴールに近い位置で優位に立つ状況を作れたはずだ。

 34:47の池田はボールを受ける場所は絶妙だったが、その後の判断が急ぎすぎてしまった印象。構えている相手にボールを見せつけるような形になってしまい、岡本へのパスは容易に読まれてしまった。あのタイミングでボールを回すならば、岡本は池田と平行に近い位置で待って黒川を引き付け、食い付いてくるならば背後のスペースに向かって池田がランニング。来ないならば空いた中央のスペースへ運ぶ…というように、相手守備陣に複数の選択肢を突き付けたかったところ。
 この試合の湘南はブロックの手前まではボールをスムーズに運べていたものの、そのブロックから人を引っ張り出して穴を作る手順を飛ばして、一気にゴールという結果を求めてしまっていた。相手守備陣を動かしたり引き延ばしたり、という作業が足りなかったといえる。


■もっと見たいプレーの形

 湘南のプレーの中でも、相手守備陣を壊すためのプレーが見られたシーンがあった。そのひとつは振り返りでも触れた、59分の雄斗から章斗へのパスである。

雄斗のプレーによって章斗がよりフリーになった。

 ガンバがカウンターに出ようとしたところを再び奪って湘南が攻撃を仕掛けたシーン。もともとガンバ守備陣のバランスが崩れていたところではあったが、雄斗の焦らないプレーによって倉田とダワンの意識を引き付けて足を止めさせた。平岡と章斗という2つのパスコースを保った状態でボールを持ち、黒川の戻りが間に合わないタイミングでパスを通した。章斗のクロスはやや素直すぎた感はあるが、福田とのイメージは共有されていた。
 このように相手の守備陣を引き付けてからフリーの味方を作る、というのはビルドアップでも同じ形であって特別なものではない。当然相手ゴールに近ければその分難易度も上がるわけで簡単にできるものではないが、だからといってそれをやらないと、構えた相手にボールを持って近づいていくのと変わらなくなってしまう。


 相手のブロックを崩せない=選手のクオリティが低いというよりは、スーパーなクオリティを発揮しないと相手を上回れない状況で何度もゴール前まで来ている点が誤っているのかもしれない。ビルドアップでできるようになったことと同じものを、今度は相手陣内でも求めていく必要があるのだろう。



 結果がすべて、と敗戦を一括りにするものある種のスタンスであるし、その中で何ができて何ができなかったのか、を掬い上げるのも一つのスタンスである。後者の方に何かしらの見方を提供できたなら幸いだ。中断期間にリフレッシュをして、また次節お会いしよう。



試合結果
J1リーグ第17節
湘南ベルマーレ 1-2 ガンバ大阪

湘南  :ルキアン(78')
G大阪:宇佐美(29',65')

主審 山本 雄大



タイトル引用:樋口楓/現代社会、ヒロインは!

ガンバ大阪との初代コラボライバー、樋口楓の楽曲より引用。入念な準備が伺える試合展開だったにもかかわらず、自らミスを重ねて相手に勝利を献上した試合展開から。

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ぺん
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