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積み上げたものぶっ壊して。 2023.06.24 湘南ベルマーレvsサガン鳥栖 マッチレビュー

開始時の立ち位置と噛み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの噛み合わせ

■6失点の分類分け

 6失点とショッキングな結果に終わったリーグ後半の初戦。それぞれの失点における原因は異なっているため、まずは分類分けをしてから話を進めたい。失点のすべてがDF陣とGKの責任ではないし、むしろアタッカー陣がボール保持の局面で課題を解決できていないがために失点を生んでいる側面もある。監督・コーチ陣が何を"やらせていく"のかは浦和戦以降のピッチに注目するとして、攻守両面の力不足がこの結果を引き起こしている点は押さえておく必要がある。
 1失点目は保持の課題とボールホルダー複数人の判断ミス、2失点目と3失点目は保持の課題と守備者の判断ミス、4失点目はシステムの練度不足、5失点目と6失点目は守備者(プレス隊)の判断ミスと考える。なお4失点目はC大阪戦でペースを取り戻された原因、4-4-2の練度不足によって2トップと中盤のライン間を使われていたのと同じ内容なので割愛する。


■選択肢はいくつある?

 湘南がボールを保持した際、鳥栖は縦スライドでマンツーマン気味にプレス。ボールホルダーからすればパスの出しどころがなくなる状況をつくられた。

鳥栖のプレッシング。
人数を合わせてマンツーマンに近い形。

 1失点目は富居の足元にボールが渡った段階で前方向に空いている選手はいない状態。その後杉岡から山本へパス、中途半端なロブパスを奪われて開始早々に失点した。富居と山本であれば、試合開始直後という時間を考慮して割り切ったクリアを選択できただろうという意味で判断ミスと考えている。だがそれと同時に、ボールホルダーに対して選択肢をいくつ提供できていたのか、という点も課題として浮かび上がる。近くで捕まっているならば遠くのスペースを活用できていたのか、相手が前に出てきたことで生まれた空間を認識して呼び込めていたのだろうか?

 同じ原因から2失点目が生まれる。髙橋から奥野へのパスをカットされてショートカウンターを受け、小野に見事なボレーを決められた。髙橋がボールを受けた際の選択肢は奥野へのパスのみ。縦は相手に切られており、小野瀬と石原は直前の攻撃からポジションを取り直しておらず、山本との距離は遠い。強いて言えば後ろに運んでGKまで下げるくらいだろうか。前からハメに来ている鳥栖からすれば罠にかかったも同然なシチュエーションで、当然のようにパスカットからカウンターへ繋げている。
 3失点目も同様で、杉岡は平岡へのパスのみ、平岡はサイドに叩く以外の選択肢を持っていない。緩くなったパスをカットした長沼の突破を抑えきれずにPKを献上。小野にこの日3得点目を許している。

 ビルドアップの目的は出口となるアタッカーに時間と空間、選択肢をプレゼントするところにある。それを阻害するために前線からのプレッシングが存在し、相手チームから時間と空間、選択肢を取り上げようとする。だが現在の湘南はボールを選手間で押し付けあっている状態に近く、ボールホルダーは時間と空間、選択肢も限られた状態でプレーを強いられている。ボールを渡した先が楽になるどころかどんどん厳しい状況に追い込まれながらプレーしているのは、数人の鳥栖DFをかわしてからようやくパスを出す平岡の姿を見ればわかるだろう。

 この試合をバックスタンド側で観戦していたが、右サイドにボールがある状況で杉岡が奥野の位置まで列を上げ、畑がバランスを取って下がるなどの工夫が一瞬見られた。しかしながらボールを受けることなく辞めてしまったため効果はわからなかったが、立ち位置の変化で鳥栖を困らせることが出来そうな試みだった。
 監督がビルドアップを整備するべきだという意見も理解できるが、選手が自主的にピッチ上で対応・変化することを求めているのでここでは触れない。現に町野は個人の判断で列を降りてビルドアップを助けており、大橋やタリクでも解決できたはずの課題である。とはいえ縦に早い攻撃を志向した結果、全体が間延びして互いのサポートが出来ないようにも見える。チームコンセプトと選手間の意識のバランスを再調整すべき状態であろう。


■"ボールに強く行く"意識が邪魔をする

 2,3失点目における守備者の判断ミスは、周囲と協力して守備が出来なかった点にある。より根深いのは、この試合ではピッチに立つ複数の選手が同じミスを起こしている。5,6失点目も同様にプレス隊に判断ミスがあった。
 2失点目のケースでは奥野はボールホルダーに寄るのではなく、スプリントして堀米へのパスコースを消すべきであったし、3失点目の場面では平岡は長沼にアタックではなく縦のコースを消して遅らせ、杉岡と畑が戻る時間を稼ぐ方が失点を防ぐ確率を上げられたはずだ。
 これらのシーンで奥野、平岡は"自らのミスでボールを奪われた"という意識で共通している。おそらく練習から"ミスは自分で取り返す"という意識で取り組んでいるのだろうが、自陣ゴール前に運ばれた状況では相手の得点機を防ぐ方が優先されるし、結果としてミスを取り返すことにつながる。普段の練習における意識づけが悪い方向に作用している可能性があり、なんとも言えない気持ちになる。

 失点時以外にも周囲と協力した守備が出来なかったシーンがある。前半32分、鳥栖のシュートシーン。右サイドから左の岩崎へパスが渡り、髙橋が対応するところに石原がヘルプ。一瞬2vs1に出来たシーン、髙橋が縦を切って石原が中を切ればボール奪取、あるいは岩崎はボールを下げるしかなかったが、髙橋はそのまま中切りで縦への突破からクロスを許し、石原のヘルプは味方自身によって無効化されてしまう。手塚のシュートは富居の正面で助かったが、かなりの決定機を作られてしまった。ボックス内に人数は揃っているものの、連続した1vs1が続くだけで連動した守備とは言い難いシーンである。

前半32分、鳥栖のシュートシーン。
石原のヘルプを高橋が有効活用できていたら、という図。

 また前半40分、鳥栖のカウンター。ドリブルで上がる長沼に奥野がスライディング。カットしかけるが、岩崎が拾ってさらに前進。相手陣内〜ハーフライン付近で後ろも人数が揃っており、かわされるリスクを負ってスライディングを仕掛ける必要があったか疑問。並走して時間をかけさせるだけでも十分な状況だった。
 ドリブルで進行する岩崎は山本が対応して時間を稼ぎ、畑が戻って瞬間的に2vs1の状況が出来上がる。しかし石原と違って挟み込む守備の意識が欠ける畑は縦を切るのみ。2vs1ではなく山本vs岩崎から畑vs岩崎と連続した1vs1がスイッチしているだけの守備だった。

 この点はDFやアンカーだけでなく、FWやIHにも共通している。前半も1点差までは鳥栖のビルドアップを上手く阻害できていたものの、2失点目以降はプレス組織が瓦解。タリクはボールと人への意識が強すぎ、大橋は河原や手塚へのパスコースを消す意識が欠如していることからライン間で受けられてやられたい放題。平岡と小野瀬も間に合わないプレスで穴を開け、前半のうちに3点差になってもおかしくないシーンを作られる。
 後半に町野が入って数分間は持ち直したが、3失点目後にシステム変更で練度の低い4-4-2、4-1-3-2に移行。前線は単発的なプレスを繰り返し、そのツケはDFラインが払う形に。相手FWと数的同数を任せるにはあまりにも力不足な2CBで、5点、6点と失点を重ねた。

 広島戦や新潟戦とやや引いた陣形からの守備を見せたことから、プレッシングの形も柔軟に変えていくのかと思いきやこの展開。点差が開いてヤケクソフォーメーションになったのも大いに影響しているだろうが、原因は自分たちが大事にしてきたところにある以上、その出力バランスの調整が必要な状態にある。


■優先すべき課題

 保持と非保持の課題を一つずつ取り上げたが、どちらを先に改善を目指すべきだろうか?筆者は、保持の課題を優先した方が良いと考える。
 失点の主な要因は間延びした状態でボールを奪われ、連続した1vs1の守備を引き起こしているところにある。まずはボールホルダーに複数の選択肢がある=仮に奪われても守備に参加できる枚数が揃っている状況を増やしたい。味方のサポート、とくに360度からプレッシャーを受けるアンカーの周りにパスコースを作れれば、相手のプレスを回避しながらボールを運べる可能性が高い。

 またビルドアップだけでなくゴール前の得点機会においても選択肢が限られており、相手DF・GKからシュートコースが読みやすい状況になっている。この試合5本のシュートを打った大橋だが、前半27分の奥野からのパスを受けたシーンはファーへのコースはDFに消され、ニア上しか空いていない。後半10分の小野瀬からのクロスに合わせたシーンもフリーではあるが複数人の鳥栖DFにコースを塞がれており、GKもある程度コースを限定できていた。そして後半25分のシーンもファーはDFに消され、ニアしかコースがない状況。ファーストタッチもやや乱れていることから見た目ほど期待値は高くなく、中で待つ山田にパスした方が得点になる確率は高かったはずだ。

 これは大橋にボールが渡る前の局面から鳥栖DFに複数の選択肢を突きつけられていないため先手を取れておらず、むしろDFから制限を受けた状況でプレーしているためである。すぐに来るミッドウィーク開催の浦和戦では、攻守両面で改善効果が期待できるボール保持の面について注目して見たいと思う。


試合結果
J1リーグ第18節
湘南ベルマーレ 0-6 サガン鳥栖

湘南:なし
鳥栖:小野(2',30',49')、堀米(63')、藤原(86')、樺山(90'+3')


主審 カミス モハメド アルマッリ


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