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明日を睨んで立ち上がる。 2024.05.25 ジュビロ磐田vs湘南ベルマーレ マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの嚙み合わせ

■試合の振り返り

 招待を受けた磐田市内の小学生が応援に駆け付けた、快晴のヤマハスタジアムでキックオフ。湘南は3名のメンバー変更。CBのキムミンテがベンチからも外れ、3バックの中央は大岩が務める。DFラインは右が髙橋、左は大野がベンチで杉岡が久しぶりのスターター。中盤とサイドはおなじみの顔ぶれで、FWでは阿部に代わってルキアンと福田が2トップを組んだ。一方の磐田は前節から変更なしで臨む。


 前半のキックオフは湘南。わずか20秒足らずで先制に成功する。センターサークルから戻されたボールは大岩から髙橋へ。チェックに来た平川をかわすと広大なスペースをドリブルで運ぶ。SB松原は鈴木雄斗に釣られているため、CBグラッサは池田と福田の2枚を見ることを強いられていた。髙橋のパスをペナ角付近で受けた池田はフリーでクロス。逆サイドのSBとCBの間から飛び込んでクロスに頭であわせたのはルキアン。古巣相手に恩返しとなる1点を叩きつけた。

 良い形の保持から先制点を奪った湘南は、非保持ではハイプレスを敢行。2トップの一枚と平岡がCB、磐田の右SB植村には畑が飛び出してプレスをかける。杉岡も一列上がり、大岩と高橋、雄斗が横にスライドするなど連動もスムーズで、磐田にボールを繋がせなかった。右では池田がSB松原にアプローチして雄斗がスライド。序盤の磐田は長いボールを蹴る以外の選択肢を持てていなかったといえる。
 20分を過ぎると磐田がボールを持てるように。ペイショットが中盤に降りて味方の近くでプレーするようになったからか、湘南が90分トータルを考えてハイプレスを控えたからなのかはわからない。スコア的に前に出ないといけない磐田をおびき寄せて、カウンターを狙っていたという面もあるだろう。


 24分はペイショットへのフィードを湘南が跳ね返し、福田がセカンドボールを拾って左サイドへ。平岡と畑、そして福田で左サイドを攻略すると、ボックス内でグラッサに倒されてPKの判定。ここでも平岡に食いついた鈴木海の背後を福田が取った形で、狙い通りの攻撃を見せて試合を優位に進める。
PKを蹴るのは倒された福田。一度はGK川島にセーブされるが、キックの前に両足がラインから離れていたため蹴り直し。二度目となったキックは落ち着いて右下に蹴り込み、湘南がリードを広げた。


 2点のリードを許した磐田は、ペイショットを起点に反撃に出る。34分は左サイドのスローインの流れからペイショットが繋いで展開。最終的に松原のクロスをファーサイドで合わせ、最後はゴール正面で待っていた平川のボレー。シュートは髙橋がヘディングでクリアした。
 42~43分ごろの湘南。磐田がボールを持ってハーフライン付近で回している場面では、高いラインを保ったまま人が入れ替わりつつプレスをかけ、ボールを前に進ませない。最終的には受け手のいないロングパスを蹴らせて回収…できればよかったのだが、大岩とボムグンの連係ミスによってコーナーキックを与えてしまった。


 試合を押し気味に進めていた湘南だったが、前半の終わりごろはペイショットや松本へのフィードを起点に押し込まれるように。するとアディショナルタイム5分、ルキアンのファール後のクイックリスタートから上原にフリーで運ばれると、パス交換から左サイド奥まで侵入される。守備陣全員が後手を踏んだ対応を見せたところを山田が見逃さず、強烈なシュートをゴールへ突き刺して1点を返した。前半は1-2の湘南リードで折り返す。


 ハーフタイムでは両チーム交代なし。後半の立ち上がりは湘南が左サイドを中心に攻めあがる。杉岡も積極的に顔を出し、平岡、畑と絡みながらボックス横のスペースを取りに行っていた。
 対する磐田は前半と同じくペイショットを起点に湘南を押し込んでいく。1点を返したきっかけになったからなのか、前半の空中戦勝率によるものなのかはわからないが、湘南の左サイド寄りにペイショットが立つ場面が増える。ライン統率を担当していたであろう大岩がペイショットを迎撃する場合は問題なく跳ね返せていたが(58分のシーンは収められてしまっていたけども)、あまりにも彼への負担が大きいように見える。ミンテが中央に入る試合ではあまり見られない場面なので、左右のCBはカバーを担当しているとは言え、役割分担的にそれでよいのかな?という印象を持った。


 前半にビルドアップをほぼ完璧に抑え込んだのが影響したのか、繋ぎにこだわらず割り切って蹴ってくる磐田。この試合のDFラインの顔ぶれでは、その方法が一番やりづらかったかもしれない。湘南守備陣はペイショットを抑え込み切れずポストプレーを許したり、ファールで止める場面が目立っていた。
 64分、磐田が自陣内フリーキックから右サイドへ展開。裏を取った松本のクロスに合わせたのは途中出場の古川。至近距離で放たれたシュートはボムグンが身体に当てて防いだが、あわや一点の場面。


 68分、75分に湘南の選手交代。まず池田に代えて奥野。その後に福田に代えてディサロ、平岡に代えて阿部。75分の交代とともにシステムも変更。先に投入されていた奥野は田中と共に2DH、ルキアンを頂点に阿部とディサロが一列後ろに入る3-4-2-1にシフトした。

 81分、ボムグンのゴールキックをグラッサが跳ね返し、セカンドボールをブルーノジョゼがDFラインの裏に蹴る。ボールの処理は杉岡が担当するが結果的に金子にパスした形になり、その後自身は転倒。髙橋がボールに寄せて大岩がカバーに入るが距離が遠く、抜け出したペイショットにシュートを許した。ボールはサイドネットに吸い込まれ、磐田が2点差を追いつく。
 続く85分、勢いづく磐田がセカンドボールを拾った田中に襲い掛かってボールを奪い、湘南を押し込むと右サイドからクロス。そして跳ね返しを拾ったレオゴメスがフリーでミドルシュート。ディサロがブロックしようと頭に当てたボールはコースを変えてネットを揺らした。磐田が連続ゴールで2点差をひっくり返す。



 最終盤は湘南が同点に追いつくべく磐田陣内に入り込むが、決定的なチャンスを作ることができない。アディショナルタイムにはクロスをあげようとした畑が接触プレーで負傷。軽傷を祈りたい。
 試合はそのまま3-2で終了。子どもたちの声援を味方にした磐田が逆転勝利を手にした。


■ボールを繋ぐための前提条件は?

 試合後のインタビューで山口監督が話していた通り、この試合ではボールを握って相手守備陣の間や背後を突いていく狙いを持った人選で臨んでいた。途中の選手交代においてもコンセプトは同じで、セカンドボールの回収やボール保持の面で試合を落ち着かせて欲しいという意図があったようである。

後半途中でシステムを3-4-2-1に変更した意図は?

ボールを落ち着かせてほしくて中盤を厚くして、攻撃のところではルキアンの近くに絡んで行ってほしいという狙いがありました。
その狙いの中で、選択をしましたけれども良くなかったと思います。
守備のところでの甘さが出てしまったのと、攻撃のところでは、言い方は悪いですけれど適当感が出てしまったのかなと思います。
関係性のところで言うと、少し繋がりが薄かったなと思います。

ディフェンス陣が入れ替わったが、彼らの評価は?

ジュビロさんを相手にボールを動かすところ、ボールを差し込むところをたくさん作りたいという狙いで今日のメンバーにしました。
課題ももちろんありますけれど、攻撃面では形として表現してくれたところもあります。ただ、守備のところでは前半の終わりや3失点目で緩さが出てしまった。それは両方求めていかなければいけないと思いました。

2024明治安田J1リーグ第16節 vs ジュビロ磐田
山口監督 質疑応答
https://www.bellmare.co.jp/2024_j1_16_iwata


 前々節の柏戦ではボール保持を担える選手がベンチに下がってから流れを手放してしまっていたが、今節では逆に途中投入する形。だが思ったようにボールを持てなかったのはどんなところに原因があったのだろうか。

 この試合の磐田はDFラインからのフィード以外に前進方法を持っておらず、近い位置にいる味方に渡すか、跳ね返しの甘いセカンドボールを回収することに頼っていた。それは湘南が前半に見せた激しいプレッシングに苦しめられていたこと、元々ビルドアップが洗練されているタイプのチームではなかったためだろう。湘南が体力的な問題などで圧力の高いプレッシングからハーフライン付近で構える守備に切り替えてからは、ある程度自由を得た磐田のCBから前線へのフィードで湘南守備陣の穴を探すようになっていた。

 湘南がリードを保ったまま試合を優位に進めるのであれば、相手が持っていた唯一の糸口であるフィードを潰す戦い方、つまりDFラインでフィードを遠くへ跳ね返す役割を強化するのが先だったのではないか。監督としてはボールの出所=磐田のCBを抑える狙いだったのだろうが、ラインを下げさせられている以上、FWたちが前半のようなプレッシングを見せるのは難しい。どちらかと言えばフィードを一発で跳ね返し、自陣内に押し込まれない対応を優先すべきだったのでは、と筆者は考える。

 阿部やディサロを投入して自分たちでボールを保持する時間を長くするのであれば、そもそもまずボールを奪うところから始めなければならない。DFライン裏ではなく競り合うタイプのフィードに対して左サイドが明確な対応を示せたシーンは数少なく、磐田の侵入経路もそちらのサイドに偏っていた。だとすれば手当をするのは守備陣の左側からであるし、そのミッションに応えられる人員(大野、岡本)はベンチにも控えていた。身長を考慮して杉岡をWB、CBに大野を入れる策は取れたのではないかと思う次第だ。

 ボールを持つためにはまず奪うことを考えなければならない。奪うところまでは出来ているが、受けて前に進める人材がいない…というシチュエーションであれば別だが、この試合においてはボールを奪う方法(磐田の前進を阻む方法)から始めるべきだったのだろう。サッカーにおいて攻撃と守備は繋がっている、というのはこういうところなのかもしれない。


■狙い通りだった2ゴール

 最後に流れの良かった前半の2ゴールを振り返ろう。先制点は髙橋の持ち上がりから池田、ルキアンのヘディングでゴールを奪ったシーン。追加点に繋がる福田がPKを獲得した場面にも共通していることだが、おそらくルキアンはファーサイドのCBと対峙し、福田がIHと協力してボールサイドのCBを振り回す約束だったのだろう。磐田CBのタスクであるDFライン前にいる選手をケアする役割を利用し、彼らを食いつかせてその背後を突く攻撃の設計になっていたと思われる。
 磐田のCBである鈴木海とグラッサは危険な場面を一人で解決できてしまう高い能力を持った選手ではあるが、その分彼らの能力に頼ってしまっている部分がある。その強みであり弱みである部分を、コンビネーションで攻略するという狙いだったのだろう。

 3分にも見られたチャンスシーンも同じ構図。右サイドで雄斗のリターンパスを受けた高橋が、降りてきた福田へ縦パスを当てる。福田はワンタッチで裏を取った池田にパスを出した。CBグラッサは降りる福田と裏抜けする池田の二人に対応していたが、背後のスペースケアには遅れが。池田からルキアンへのクロスが通っていれば早々に追加点が入っていたかもしれない。

先制ゴールの場面。
磐田CBがDFライン前にいる選手を迎撃するタスクを利用してゴールを奪った。
1点目と仕組みは同じ。
平岡に付いたCBの背後を取った福田がPKを獲得。

 磐田は2失点目以降、CB周辺の守り方を修正。CB、DHの4人が協力して中央を空けさせないようになった。左サイドでは松原の背後にグラッサ、そのカバーにレオゴメスが入ってスペースを埋めて対応。スペースに入ってくる湘南のIHとFWの対応をCB任せにせず、DHがサポートに戻っていた。両SHもコースを限定する守備で抜かれないことを優先しながら勤勉に自陣へ戻り、SBが前に出なければならない状況を避けるようになっていた。高い位置で湘南のビルドアップを引っ掛ける意識があったのかもしれないが、うまくいかなかったので撤退から再構築を選択したのだろう。


 ボールを持って相手陣内で守備陣を揺さぶるところは、昨年と比べても良くなってきていると言っていいはず。問題は試合の進め方と人選の組み合わせで、誰か一人で解決できるような課題ではなさそうだ。
 それでもリーグ戦は続くし、前半戦も終わっていない。まだまだこれからである。



試合結果
J1リーグ第16節
ジュビロ磐田 3-2 湘南ベルマーレ

磐田:山田(45'+5')、ペイショット(82')、ゴメス(86')
湘南:ルキアン(1')、福田(29')

主審 高崎 航地

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