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努力、未来、a beautiful star。 2024.07.20 ガンバ大阪vs湘南ベルマーレ マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの嚙み合わせ




■ガンバのプレッシング、湘南の打開

 パリオリンピック等を踏まえた夏の中断前最後のゲームは大阪でキックオフ。湘南は勝利した前節:磐田戦からスターティングメンバーの変更なし。ガンバは鳥栖戦から3名の変更があり、オリンピック代表に選出された半田に代わって右SBに松田、右WGはウェルトン、左WGに倉田。トップ下は坂本に代わってファンアラーノが務める。試合後のポヤトス監督によれば、湘南対策のプレッシングを表現するための人選だったようだ。


 試合開始序盤、湘南が自陣ゴールキックから繋ぐ姿勢を見せる。するとガンバは通常の4-4-2ではなく、準備してきた並びでプレッシング。両WGが宇佐美とともに最前線に並び、湘南の3バックと同数で圧をかける。その後ろも人基準で守る様子で、アンカーの田中を鈴木徳、IH茨田をダワン、WBを松田・黒川のSBがマーク。保持では宇佐美の近くでプレーするアラーノは、左WG倉田の背後をカバーするように下がって池田をケアしていた。並び的には4-3-3のようになっていて、奪ったボールを高い位置に残った宇佐美とウェルトン、倉田に渡すための設計のように思われる。

 各選手が捕まっている状態ではあったがボールを絡め取る網目としては荒かったため、守備者との距離が遠く時間を得やすいWBは中央へのカットインが可能。ガンバが行う横スライドの逆を取る動きでズレを作り、中盤や同サイドのCBに通してプレス回避に成功していた。SBが前に出てきて生まれた背後のスペースに走り込むFWへ向けて、シンプルへフィードを送るシーンも複数回見られた。

ガンバが準備してきたプレスの形。
DFラインと中盤の人数を合わせて人を捕まえるプレッシングだった。


 10分を過ぎたあたりからガンバのプレスに変化が。両WGが中盤と同じ列を維持し、4-5-1のように構えてくる。ある程度意思疎通が取れた様子での隊形変化のため、時間限定、あるいはプレスのハマり具合でプランニングされていたのかもしれない。
 その結果として左右のCB、とくに右CBの髙橋が自由を得られるシーンが増加。雄斗と池田が巧みなポジショニングで黒川と倉田、アラーノを引き付けていたのもあり、右サイドのハーフレーンから相手陣内の深いところまで侵入に成功していた。だが湘南がボールを握る時間が続くものの、GK一森を焦らせるようなシーンを作るまでには至らず。シュートが打てたとしてもボックス外のミドルシュート、あるいはDFに寄せられた窮屈な状態ばかりだった。

ガンバのプレスその2。
撤退してスペースを埋めるをことを優先していた。
その結果DFラインは時間を得られており、湘南がボールを握る時間が長くなった。


 飲水タイム明け直後のプレー、25分。左から右へ一森経由でボールを回すと、中谷から内側に入っていた松田へ。うまくマークを外していた松田から、裏抜けを狙ったウェルトンへロングパス。畑との走り合いに勝利したウェルトンがグラウンダーでクロス、走り込んでいたのはアラーノだったが、髙橋の戻りもあってギリギリ合わず。良い流れで戦いながら一発でひっくり返されてしまった前回対戦が思い起こされるような肝が冷えるシーンだった。

 30分、バックラインでボールを回して淳之介がドリブルで運ぶ。このとき茨田がタイミングよく裏抜けしてダワンを引き付けてスペースを作っており、淳之介に対して運ぶ選択肢を提示していた。
 もちろんこの茨田の働きや淳之介の判断も良かったのだが、気になったのはウェルトンの切る方向。WBに対してSBが出てくる約束になっているのであれば、内側を切って外へのパスを促せばよいはず。だがウェルトンは外を切るようなアプローチを見せたため、淳之介は直進してマークを引きはがすことに成功した。
 淳之介が人の間を突いて運ぶドリブルを見せたのはこのシーンだけでなく7分や20分と幾度もあり、それは相手の守備設計と個々のプレーの接続においてに齟齬があったからかもしれない。ウェルトンが外切りするのであればダワンは茨田についていかず中央を封鎖すべきであるし、WBを奪いどころにするのであればウェルトンは中央へのドリブルを絶対に許してはいけなかったはずだ。

 40分を過ぎたところ、再びガンバのプレスに変化が見られた。アラーノが宇佐美と2人で最前線を担当してアンカーを管理、両WGは中盤に位置する4-4-2となって彼らの通常形態に回帰。用意してきたものが思ったほどの効果を得られなかったため、やり慣れた形にして選手たちの柔軟性と個性に任せる方策を取ったのかもしれない。
 前半アディショナルタイムに良い形からロングカウンターを見せた湘南だが、最後はDFのブロックに遭い得点とはならず。ボールを握って試合の大部分を支配しているものの、ガンバにうまくしのがれてしまった感触を覚えながら0-0でハーフタイムへ。


 後半の立ち上がり、巻き返したいガンバはボールサイドへの寄せの強度や速さが高まっており、その意識がプレーにも表れていた印象。プレスの方法もハーフタイムを挟んでさらに修正されており、それぞれの監視対象の整理と役割の変更が行われていた。トップ下となったアラーノが田中を監視しつつ、3バックと同数でプレッシャーをかける様子。WBにも気を配っていたが、ボールサイドでないIHを消し切れていなかった故にそこが湘南の脱出口となっていた。
 50分、ガンバの変更によって自由を得た池田がフリーで抜け出し、ミンテからのフィードを収める。右サイドからファーサイドに走り込んだルキアンへクロス、ドンピシャの当たりでヘディングシュートを見せたが、一森が左手にうまく当ててはじき出す。ゴール前に至るまでの両チームの駆け引きから素晴らしいセービングまで、見どころの詰まった良いシーンだった。

ガンバのプレスその3。
彼らの普段着である4-4-2に変更し、アラーノが田中を監視。
WBや近いIHもマークしていたがボールサイドでないIHが空きがちで、
降りるFWの対処も難しそうだった。

 54分、左に移動したウェルトンが裏に抜け出し独力でサイド深くまで突破。ボックス内で待っていた宇佐美へパスを通すと、宇佐美はゴールエリア付近までさらに突破し、右足アウトサイドでクロス。そのボールはなんとか掻き出すが、流れた右サイドから再びクロスが上がり、頭で合わせたのはダワン。シュートは枠内に飛んだが、今度はボムグンがビッグセーブ。両GKの活躍で拮抗した試合は続く。
 ウェルトンと倉田がサイドを入れ替えた理由は対面するCBを考慮したものかもしれないが、湘南としてはイエローカードをもらっていた淳之介とウェルトンが対峙しなくて済んだのは助かったといえる。


 65分、ガンバはアラーノと倉田に代えて坂本と山下を投入。交代選手の働きで流れを掴みにかかる。
 68分、ガンバのクリアボールをセンターサークル付近で髙橋が拾った瞬間に奪われて大ピンチ。ウェルトンが単騎でドリブル突破してボックス内まで侵入、GKとの1vs1を迎えるところ、戻ってきた淳之介が完璧なタイミングでスライディング。見事ノーファールでボールを弾き出し、間一髪でチームを救う守備を見せた。


 82分、雄斗がウェルトンの外側から運んで前進。ハーフウェーラインを越え、外に張った池田を経由して中央を上がってきた田中へ。数度運びながらボックス内で中谷を背負ったルキアンへパス。落としを福田が受けると、守備網の外で待っていた畑へラストパス。落ち着いてワンタッチでファーサイドへ巻くようなシュートは、幾度となく湘南のシュートを阻んできた一森の壁を破ってネットに吸い込まれた。後半にやや押し込まれる時間もあった湘南が先制する。

 その後の85分、田中のパスがやや流れた結果ルキアンへのスルーパスに。スピードで抜け出してGKとの1vs1を迎えるが、またも勝利したのは一森。冷静にシュートコースを塞いで試合を終わらせない。


 最終盤は宇佐美に代わって途中出場となったジェバリが果敢にゴールを狙うが得点とはならず。交代で入った石井や吉田が球際の競り合いで身体を痛めつつも1点のリードを守り切った湘南が勝ち点3を手にし、(もはやいつぶりか見当もつかない)リーグ戦3連勝を飾った。



■苦手を克服しつつある二選手

 ボール保持における田中のポジショニングが浦和戦から良くなっている印象を持っている。これまではDFラインやWBから直接引き取る動きに終始していたが、ボールに寄りすぎず中央に留まって1stプレス隊を引き付けて味方を助ける場面が見られるように。さらにサイドへボールが出た後にも動き直して中央でフリーになっており、相手のプレスを外してラインを下げさせることにも成功。少し先の未来まで見越してプレーできるようのは大きな成長ではないだろうか。

田中がボールに寄りすぎず、中央で待てたシーン。
ガンバのプレスバックが少なかったのもあり、
サイドやFWのリターンを前向きに受ける場面が多かった。


 加えてこの試合で効果的だったのは、田中がボールサイドの局面に顔を出して中央に誰もいなくなった場合でも、逆サイドのCBが中央に移動してアンカー役を代理で務められたところ。対人能力においては本職CBたちに劣る部分があるだろうが、保持で味方を助けられる力を発揮して自身の価値を見せつけてくれた。

ガンバの選手全員を相手陣内に押し込んだ場面。
髙橋が本来田中がいる場所を補完して受け手となり、二次攻撃に繋げた。
フリーキックの流れで田中がボールの近くにいた場面。
周辺のコースが消されて危ないシーンだったが、
淳之介のサポートでプレスを脱出した。


 非保持でも各選手の役割が良く整理されていた印象で、ガンバに思ったようにボールを持たせない時間を長く作ることができていた。浦和戦では緩慢なプレッシングでベンチから𠮟責の声も聞こえた章斗も、ルキアンとともにアンカーポジションに入る鈴木徳を集中して監視。右サイドから内側に入ってくる松田や降りてくるアラーノにも柔軟に対応していた。
 とくに後半の立ち上がり、マーク担当である鈴木徳を捨てて前線から降りてきたアラーノに対して寄せた46分の場面。ボール周辺の様子を見て判断した動きが見え、自身がプレッシングで担う役割を全うしようとする意識が感じられた。地味ながらチームを確かに助ける働きをしており、表のMVPがボムグンや淳之介、畑であるならば、影のMVPは章斗とルキアンを選びたいところだ。
 ここ最近のリーグ戦では得点を挙げられていない章斗だが、前線がボールの行先を限定して相手から奪う回数を増やせれば、当然ながら攻撃の試行回数も増やせる。すなわち章斗自身の得点機会増加に繋がるわけで、折れずに続けてほしいと思う。

ガンバからボールを効率よく奪えた序盤のシーン。
中央への選択肢を潰して無理やり長いボールを蹴らせて回収に成功。
章斗が判断を変えてガンバの前進を阻んだ46分のシーン。
ルキアンも連動して福岡から鈴木徳へのコースを消していた。


 ハイライトに載らない良いプレーが随所に詰まったうえに結果にも繋がった今季一番の試合だった。5-0の派手な試合もよいが、筆者は努力の積み重ねで勝利を呼び込むような試合が大好きである。中断期間にこの試合を見返す方も多いと思うので、リアルタイムでは気付かなかった選手たちの頑張りも見てもらえたら嬉しく思う。この記事で取り上げた以外にも良いプレーはたくさんあるはずだ。



試合結果
J1リーグ第24節
ガンバ大阪 0-1 湘南ベルマーレ

G大阪:なし
湘南   :畑(83')

主審 西村 雄一




タイトル引用:米津玄師/KICK BACK

ガンバ大阪のコラボライバー、宇佐美リトが歌ったカバー楽曲から引用。これまでの努力がようやく結実しつつあるチームになぞらえた。エンブレム上の星を増やすことはまだまだ難しいかもしれないが、少なくともこのサッカーには未来がありそうである。

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