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いぶし銀たちの活躍。 2022.09.03 湘南ベルマーレvs川崎フロンターレ マッチレビュー

■試合経過

スタメンと噛み合わせはこちら。
湘南は前節から3名変更(舘→杉岡、米本→平岡、畑→中野)、川崎は変更なし。出場停止の米本に代わって茨田、タリクは右IH、平岡が左IHを担当。左サイドの連携面で平岡の方が優れていたため変更があったと推測。記憶の限り、この3人で並んだ中盤は初。振り返りはTwitterを参照。(ツリー投稿)

開始時の立ち位置
嚙み合わせ

■プレス要員の関係性、アンカーとしての茨田

プレッシングの関係性

 予想通り、川崎がボールを保持して湘南が陣形を整えて守る構図が続く。しかし自陣に押し込まれ続けるという形ではなく、ハイラインを保ってセンターサークル付近でスライド、川崎のボール回しを監視しながらチャンスがあれば奪ってカウンターを狙う展開に持ち込むことができていた。この2週間でプレス要員の関係性を見直したようで、味方の立ち位置をかなり意識しながら徐々に寄せる守備を見せる。その分ホルダーである2CBには時間的余裕を与えてしまうが、立ち上がりの川崎はDFラインの裏にランニングする選手も、そこに蹴り込むこともなかったため大きな問題にはならなかった。この守り方は陣形に大きな穴が開きづらいため、ピッチ中央に位置する茨田のスタミナ温存にもつながっていた。

裏に走られたシーン

 先制を許した時間以降は川崎がポジションを動かして人と人の間に入り込む。前半33分には2トップと中盤のライン間に入ったシミッチがジェジエウからボールを引き取り、DFラインの裏にマルシーニョを走らせる。結果としてオフサイドとなりこの後似たようなシーンはほとんど見られなかったものの、ハイラインの割にホルダーへの寄せが甘い弊害が表れていた。川崎で唯一裏への意識があったマルシーニョだが見るからにボールが足についておらず、彼が前半のうちに下がったのも戦局に大きな影響を与えた。
 逆サイドのウイング(のはず)である家長は鳥栖戦に続いてピッチのいたるところに顔を出す。チームが上手くいっていないのを助ける意識だったのだろうが、湘南としては彼が右に張っていた方が脅威だった。左サイドの選手たちは家長を抑えられておらず、繰り返し縦突破からのクロスを上げられていたら1点くらいは入っていたのではないかと思う。

湘南として避けたかったシーン

 前半の終わり際にはプレビューで触れた「避けなければならないシーン」も起こり始める。前半41分、プレス陣形の外側から前進され、限定できないまま逆サイドへ展開される。スプリントでの背走が必要なほど不利な状況ではないものの、川崎のボール回しをほとんど規制できていない。しかしながらこの局面に呼応して裏に抜けたり、ライン間でボールを受けようとする川崎の選手もいなかったため湘南にとって致命傷にはならなかった。この点は連戦が続いたコンディション低下によるものと思われ、後半頭からの2枚替えにつながったのだろう。
 宮城と大島を投入した川崎だが、ピッチ上の状況に大きな変化は見られない。湘南の両WBと中央3枚を引っ張り出す選手がいないため、大島が突くべき穴が開かなかった。もちろん、湘南のDFラインとプレス部隊のスライドも集中して行えていたことも要因の一つといえる。また川崎の両SBが内側に入ってプレーするため、中盤3枚は中央に位置どったまま対応可能。茨田が一人晒されるシーンは皆無だったため、不安視されていたスタミナ面の持続にもつながった。
 その後PKを経て川崎はCBが山村に交代、シミッチを下げて小林を投入してシステムを4-4-2に変更。両サイドハーフ(特に家長)があまり戻ってこないので、ほとんど4-2-4になっていた。湘南は1枚目に山田、川崎の交代を見て池田・阿部・舘をまとめて入れて勝負に出る。
 交代選手でチームが活性化したのは湘南。山田・池田・舘が強度を補完してプレスの無理が効くようになり、決勝ゴールを挙げた阿部はチームが求めていたラスト15mでのクオリティを提供、自身の価値を示した。また得点直後のアディショナルタイム残り数分において、茨田の足が攣っていたことからポジション変更を実施。川崎時代にも感じたが、ギリギリの状況でも恐ろしく冷静な男である。

■各選手について
 この試合で活躍した選手たちの評価は少し難しい。というのもコンディションに難のある川崎に対して、チームの特長である強度の面で上回るのは当たり前だからだ。多少無理をしながらプレー強度でごまかしたのか、仕組みと実力で機能したのかは次の試合以降でないと判断できない。その意味でアンカー茨田の評価は保留、あるいは時間限定のオプションとするのが妥当だろう。この試合における彼の出来は素晴らしかったが、幅を使ったサイド攻撃に強みを持つ横浜FMや清水を相手に同じ働きが出来るとは限らない。むしろ鹿島戦同様にIHとして米本が飛び出たスペースを埋める役割の方が、お互いの能力を補完し合えてチームを助けるかもしれない。
 山田に関しては引き続き後半途中からのジョーカーとして期待したい。数か月の離脱から復帰したコンディション面に加えて、プレス要員の連携・関係性の面でまだまだ調整が必要に感じる。ボールを持った時のクオリティは疑いようもないので、守備面のクオリティを上げてスタメンに名を連ねてほしい。

■中野、活躍の要因

 最後に、試合を通じて活躍した中野について触れたい。札幌戦まではビルドアップにWBが下がって参加していたところ、鹿島戦から大野と左CBが開き、左WBを押し上げる形に変更された。これにより左WBはより高い位置でボールを受け、左IH・左CBのトライアングルで前進することが可能になった。(DAZNなどのプレーマップを参照してもらえると明らかだが、この試合の中野と石原ではボールを受けるエリアが全く違う。これはどちらが優れているという話ではなく、チームとして左右の役割が異なるため。)

左サイドの循環

 中野の特長はステップの細かいドリブルと、縦でも切り返しでもプレーを完結させられる両足のキックにある。石原のような走力と対人守備能力があるわけではないので、一人でサイドを任せたらズタボロにやられる可能性が高いが、スペースがない状況でも突破する能力は他の選手にはないものを持っている。杉岡は対人能力とボール扱いが優れているものの、相手選手を置き去りにするような力は欠ける。チームとして彼らの能力を活かして短所を補う仕組みを作り、それを支えに選手が活躍するといった好循環が左サイドに生まれている。
 中野のライバルとしては高橋になるだろうが、現在のチームには中野の方がより適しているように見える。畑はスペースがあってこそ活きるタイプなのでライバルはどちらかといえば石原。守備面での成長を期待したい。


試合結果
J1リーグ第28節
湘南ベルマーレ 2-1 川崎フロンターレ

得点者
湘南: 53' 町野(PK), 90+3' 阿部
川崎: 20' 知念

主審
飯田 淳平

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