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種は撒かれている。芽を出させよう。 2023.07.08 柏レイソルvs湘南ベルマーレ マッチレビュー

開始時の立ち位置と噛み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの噛み合わせ

■2ボランチ採用の意図、柏の作戦

 最下位と17位の裏天王山は、柏のホームでキックオフ。お互いに相手を意識し合った立ち位置でゲームに臨む。柏は細谷とフロートが縦関係で並ぶ4-2-3-1(あるいは4-4-1-1)、トピックスは今シーズン初出場のジエゴ。攻撃的なサイドバックが左サイドで待ち構える。普段の4-4-2では3バックに対して効果的なプレッシングがかけられない上に中盤が数的不利(柏2枚vs湘南3枚)になるため、細谷が2ボランチと協力して中盤守備に参加。高嶺の出場停止によって入った戸嶋、椎橋、細谷の3名で湘南の中盤3枚を捕まえ、フロート、サヴィオ、小屋松が湘南バックライン3枚、SBがWBを監視して圧力をかける。

 一方の湘南は中盤を2ボランチにした正三角形でスタート。中央を厚めに固める配置は柏の前進方法に対する対策と思われる。保持の際、柏はこれまで右肩上がり気味に配置を変更し、右SBを起点にボールを前に進めていた。右SHが中央に移動、ハーフレーンを活用してゴールに迫る動きを見せていたことから、湘南は2ボランチにして中央に侵入する右SHを捕まえて前進を阻もうとする試みだ。

湘南が2ボランチを採用した意図

 しかしこの目論見は柏の作戦によって外れることになる。柏の右サイドは空中戦に秀でた片山ではなく土屋。左サイドに攻撃的なジエゴを配置し、足元の技術が優れたマテウスサヴィオと共に石原を出場停止で欠く湘南の右サイドを中心に攻め込んできた。それが身を結んだのは27分。湘南のプレスが弱くDFラインが足を止めてしまった瞬間、ジエゴが大外の裏を取ってクロス。マイナス気味のボールに細谷が落ち着いて合わせて柏が先制する。小野瀬と奥野のポジショニングやラインコントロールなど気になる点もあるが、石原に代わる控えが用意できない層の薄さを突いた柏の作戦勝ちとも言えるだろう。

柏がこれまでと異なる前進方法を見せる

■変わらぬ保持の課題

 失点を喫したとはいえ、非保持において2ボランチシステムは一定の効果を見せた。ジエゴを使った前進回数が少なかったのもあるが、柏はフロートへのロングボールを多用。セカンドボールを簡単に渡さず中盤・DFラインで回収できていた。どちらかといえばうまくいかなかったのは保持の方で、ボールを上手く前進させられない分、収支マイナスの状態であった。

 特に停滞を感じさせたのはWBに入った後の展開。ボールよりも前で受けられる状態の選手がおらず、後ろに下げるか、なんとか中央経由で逆に展開するしか無かった。さてこの試合、2トップとトップ下はペナルティエリアの幅から出ないように指示があったと推測する。現にタリクのプレーエリアは中央に集結しており、大橋もハーフレーン程度で収まっている。山田は中盤付近は大外まで顔を出しているものの、アタッキングサードでは中央レーンでのプレーに終始。町野が抜けた分クオリティが担保できない以上、ゴール前に人数をかけられるように前線3枚は大外のサイドレーンまでは出ていかないように制限をかけていたのでは無いだろうか。



 だとすれば2ボランチが残る候補であるが、ボールを受ける練度が足りていなかった。分かり易かったのは17分のシーン。ボールを受けた小野瀬がドリブルで運んで切り返し。中央にボールを入れようとしたところ、奥野の位置がサヴィオにコースを消されてしまってパスコースにならず。顔を出せれば前にはタリクと山田が間で受けられる位置で待っていた。茨田の位置を把握できておらずボールサイドに寄り切れなかったこと、普段のアンカー役であればボールに寄らない方が上手くいく場面が多いことから、奥野個人のミスというよりはシステムの練度が足らない、と表現する方が適切だろう。

17分、小野瀬が切り返した場面。
奥野がボールサイドによって顔を出せればチャンスになっていたかもしれない。

 FWをサイドに流れるのを許可すればある程度簡単にボールを前に進められるかもしれないが、中に入る枚数が確保できない。またDFを引き連れて体が外を向いた状態でボールを受けても、相手DFからすればゴールから離れる動きをするFWへの対処は難しくない。見た目よりも得られるメリットは少なくなりがちなのであれば、来るチャンスに備えて中央に留まるのは理に適っている。課題は相手中盤のラインを越えるためにボールを前へ進められなかった点であり、それは2ボランチでもアンカーでもシステムにかかわらず共通の課題だ。

■閉塞の右サイド、光明の左サイド

 後半開始から普段のアンカーシステムに変更、茨田に代わって杉岡を投入して配置変更を実施した。小野瀬・畑・舘の右サイドユニットと山田・杉岡・山本の左サイドユニット、右の閉塞感に対し、左はこのチームの光明となった。

後半開始時の立ち位置。
奥野をアンカーに置いた逆三角形とした。
攻撃が手詰まりになった右サイド

 右サイドが閉塞した主な原因は畑の立ち位置であると考える。分かり易かったのは50分のシーン。舘が相手陣内で勇気を持って持ち運ぶと、サヴィオがプレッシャーをかける。確かにサヴィオは畑へのパスコースを消しながら舘へ寄せたものの、畑はサヴィオを同じ方向に動いてボールを受けようとしてしまう。当然ながら舘は外への選択肢を持てず、成功の見込みが薄い縦を選ばざるを得なかった。舘が良いプレーを見せてチャンスを種を撒いただけに、芽を出すところまで持っていけなかったのは残念である。
 この場面では畑はむしろ動かずにその場で止まっていれば勝手にフリーになれた可能性があり(浦和戦のレビューで見た山田と伊藤・酒井の関係と同じ)、それでなくともジエゴの意識を自身に寄せられれば、舘と小野瀬の助けになる。
 ドリブルやクロスの技術は一朝一夕で伸びるものでは無いだろうが、自身が取る立ち位置に関してはその限りでは無いはずだ。ボールを受けた後にポテンシャルを発揮しきれないのは、その前段階に課題がある可能性が高い。長くぶつかっている壁を乗り越えて芽を出すため、もう一段階レベルアップをしてほしい。

 右サイドが詰まる一方、左サイドでの前進によって後半は湘南がペースを握る展開となった。左WBに入った杉岡が大外で待つことで小屋松を引っ張って山本に時間を与え、またフリーになった自身でもボールを受けて前線にボールを供給。斜めのボールをFWが受けてゴールに迫るシーンを作り出す。
 特に良かったのは62分のシーン。山田が降りて山本からボールを引き取り、小屋松を引き付けて山本へ落とす。山本は大外で待つ杉岡に渡すと左サイドユニット3名と小屋松1人の3vs1が形成。このシーン以外でも杉岡と山本は斜めの関係で互いにパスコースを提供し合っており、また二人ともチャンスがあれば縦にボールを付けられる技術があるため攻撃の起点になっていた。途中出場の阿部も左サイドのユニットに加わってボール回しに参加、山田とは異なり杉岡を裏に走らせて好機を演出していた。杉岡のクロス精度を活かす意味でも有用であろう。

 山本から山田へ縦パスを送ると、中央で待っていた奥野にワンタッチパス。2ボランチの時はボールサイドに寄らなかったことが裏目に出たが、この場面では功を奏する。細谷が山本に寄せた瞬間でも中央にポジションを取り続けたため、結果的にボールを循環させることに成功。畑のクロスはDFに弾きかえされるが、クリーンにボールを前進させて相手ゴール前まで迫ることが出来た。
 おそらく奥野が評価されているのは、こうした適切なポジションに留まるところが出来る点であろう。確かに走力と守備時の判断には課題が見られるものの、目立たないながらもチームに貢献している選手である。

62分、ビルドアップによってチャンスが生まれたシーン。

 攻めながらも点が奪えない時間が続く中、79分に柏DF立田がレッドカードで退場。数的優位な状況を迎える。そして迎えた90分+3分、小野瀬のチップキックを阿部が折り返し、大野が頭で押し込んで1-1の同点に追いつく。その後も猛攻を見せるが同点で試合終了、裏天王山は勝ち点1を分け合う結果となった。

 勝利が至上命題であった試合である以上、引き分けで不満を持つのは当然だろうし、十何試合も勝てていなければ文句の一つも言いたくなる。とはいえ試合結果だけを見てそこに至る過程の様子を無視するべきでは無いし、良いプレーを見せたら素直に称賛する方が楽しい。(筆者は図解した舘のドリブルに拍手してしまったし、石井が見せた反転しながらのファーストタッチにはチャントを無視して声を上げて拍手してしまった)

 ちゃんと種は撒かれている。問題はその芽が出るかどうか、そしてそれが期限までに間に合うかどうかだ。私たちの歓声と歌声は、彼らの成長を後押しする肥料として足りうるだろうか。


試合結果
J1リーグ第20節
柏レイソル 1-1 湘南ベルマーレ

柏 :細谷(27')
湘南:大野(90'+3')


主審 今村 義朗

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