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花時を彩るカケラよ、片隅でさあ舞い踊れ。 2024.05.11 湘南ベルマーレvs町田ゼルビア マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの嚙み合わせ

■試合の振り返り

 強く海風が吹く平塚でキックオフ。大型連休の連戦を抜けた両チーム、湘南は勝利した鳥栖戦からスターティングメンバーを1名変更。アンカーは茨田に代わって田中が入り、その他10人は変更なし。負傷離脱していた鈴木章斗が久しぶりにベンチ入りした。対する町田も京都戦のメンバーから左SHが変更。藤本に代わって平河が入る。ともにU-23日本代表選手がスタメンに帰ってきた。


 キックオフ直後から町田はオセフンの高さを使った攻撃を慣行。初手はオフサイド判定だが、いつも通りの戦い方で臨む姿勢を見せる。
 湘南は町田の常套句に対してオセフンを自由に飛ばせず、セカンドボールを回収する方法で対抗。3分にはカットしたボールを繋いで町田ゴール前に押し込み、最後は畑の突破からマイナスのクロス、池田がニアサイドに向かってシュートを放つがGK谷が好セーブ。4分には湘南がチャカチャカと細かいパスを繋いで町田守備陣を翻弄、最後は平岡がシュート。しかしボールは枠の右へ。
 8分は町田のコーナーキックを奪ってロングカウンター。阿部、福田と繋いでまたも平岡がシュート。再び谷がセーブ。この日の平岡はシュートの意識が高かったが、得点の可能性が高い味方へのパスを選択できたらより良かったかもしれない。

 湘南が立て続けにシュートチャンスを迎えるが谷の活躍によってモノにできず。湘南は大岩のイエローカードをきっかけにオセフンへ強く出られなくなったこと、またファールがかさむようになってクリーンにボールを奪うシーンが減少。それでも押し気味に試合を進め、0-0で前半を終了。


 ハーフタイムで町田に選手交代、ナサンホに代えて藤本が投入。平河が右SHに移動し、藤本が左SHに入る。55分、右に移動した平河の突破から町田がゴールネットを揺らす。荒木のフリックから平河が抜け出し、クロスにオセフンが合わせた。しかしVARの介入により、荒木が戻りオフサイドという判定変更が下されてゴールは取り消し。ボールに食いついてしまった畑からすれば、ほっと胸をなでおろす結果となった。
 61分は右サイドのスローインからサイドを変え、左に移動していた平河が奥深くまでドリブル突破。上がったクロスに途中出場の藤尾が頭で合わせるが、ボールはクロスバーを叩いた。



 70分に池田と阿部に代えてルキアンと鈴木章斗が投入。章斗は負傷からの復帰試合で、FWではなく一列後ろのIHに入った。湘南は75分に平岡に代えて山田、町田は83分にオセフンに代えてデューク、85分に平河に代えてエリキ、柴戸に代えて安井を投入し、両チーム最終盤への準備を整えた。


 しかし得点が生まれることなく試合終了。湘南は今シーズン初の無失点試合、なんとリーグ戦では1年半ぶり(51試合)のスコアレスドローで勝ち点1を手にした。互いに勝てた試合だったという悔しさを胸に、中3日で湘南はアウェイ柏、町田はホーム野津田へ向かう。


■両者が出し合った策とは?

 試合の流れとしては、普段着の町田が入念な準備と勢いも持って試合に臨んできた湘南に気圧された前半。そして巻き返しと湘南の勢いを削ぐ策を返し、最後は持ち前のFW陣で押しつぶそうとした町田と、次の策を見せて隙を突こうとした湘南による攻防が見られた後半、といった内容だった。


 町田は試合開始直後からオセフンの高さ、DFラインの裏といった直接ゴールに迫る形を狙ったフィード中心の攻撃を見せる。試合開始直後における町田の様子を見る限り、とりあえずオセフンに蹴っとけという形に見えた。競り合いに勝てそうな状況か、その後のセカンドボールが繋げられそうな距離に味方がいるかどうか、あたりの基準はあるのかもしれないが、それにしても簡単に蹴ってしまう印象を受けた。DHを経由しようという意識もなかったので、湘南が中盤のスペースを空けてしまっても大きな穴にはならなかっただろう。

 湘南はシンプルで力強い町田の攻撃に対し、主に大岩がオセフンとの競り合い役、鈴木雄斗とミンテがそのサポート役を務め、田中聡を中心にセカンドボール争いを制することで町田に思い通りの攻撃をさせない回答を示した。

前半はオセフンへのフィードを中心とするゴールへ直接向かう形が多かった町田。


 また早く攻める町田への対策として、自分たちがボールを持つ時間をより長くしようとする狙いも見せる。それを実行するための阿部や平岡、福田の働きをベースとして、試合を追うごとに推進力を増す畑の力強い突破が攻撃の鍵。右SB鈴木準が畑に食い付いてくれるので、空いた背後のスペースを平岡が使うといった、4バック相手の基本的な攻略法が効いていたのもあり、左サイドを起点にゴールに迫るシーンを何度も作った。
 阿部は町田の選手たちがボールウオッチャーになりがちなのを早い段階で見抜いていたのか、DHの背後や横のスペースを使ってボールを受けるシーンが多かった。また列を降りてボールを受けても、平岡と池田がポジションを上げる連動が見られていたため、チーム内が循環して機能していた点は札幌戦からの改善点と言えるだろう。

 セットした状況下では町田の圧力高めなファーストプレスには向き合わず、ボムグンから福田に向かってのフィードが中心。競り勝てずともセカンドボールを拾って町田を押し込めば、プレスをかわしたのと同じ状況を作れる、といった考えと思われる。福田は相手よりも先に場所を抑えるのが上手く、自身よりも身体の大きなCBに対してもボールを収めていたのが印象的だった。
 バックラインから繋ぐ場合はトランジション後など流れの中であることが多かった。町田のSHが積極的にボールへ食いつくのを利用して、WBにSBを引き寄せて福田が背後のスペースを突いたり、SB-SH間に立ったWBへ直接届けてプレスを回避していた。
 しかし谷の活躍もあって得点を奪えなかったのは残念。町田は畑への手当として柴戸のヘルプとナサンホの戻りの割合が高まり、湘南の左サイド攻撃を防いでいた。


 後半に入ると、町田は左SHを務めていた平河を右サイドに移動させ左サイドに藤本を配置。DFラインと中央で対峙するオセフンへのフィードから、サイド深くのスペースを取る攻撃に移行し、平河や藤本を活かしてサイドから攻めるようになった。その目的として以下の4点が考えられる。

町田が後半に取った策の目的
1:平河で畑を押し下げ、湘南の攻撃機会を減らすこと
2:対策されている中央へのフィードではなく、サイド攻撃から湘南を押し込むこと
3:奪われてもタッチを割りやすいサイドであれば、ロングスローを使って再びゴール前に迫ること
4:上記2と3からオセフンの高さをよりゴールに近い位置で活用すること

後半はサイド深いスペースを狙い、湘南を押し込もうとしていた。

 狙い通り55分、町田は右サイドを突破した平河のクロスからゴールネットを揺らすがオフサイド判定。このシーンは畑の個人的なミスを、簡単に下がらないラインコントロールを行った湘南守備陣がカバーしたシーンといえるだろう。
 町田的にはオフサイドにはなったものの、修正の手ごたえを感じるシーンだったはず。ピッチ上の噛み合わせ的に一番プレッシャーを受けず時間をもらえるのは町田のSB。後半は右SBの鈴木準を起点にしてサイド攻撃を狙っていた。だが黒田監督の誤算としては、畑がこのシーン以外ほとんど地上戦に負けることがなかったことだろう。エリキやデューク、藤尾の突破に対して難なく身体を入れたシーンには筆者も驚いてしまった。


 とはいえ前半に湘南が作ったチャンスは畑の突破が中心であったことから、町田の右サイド(=湘南の左サイド)から崩しを図ることで、畑のプレーエリアを押し下げることは一定程度成功していた。後半も引き続き湘南は左サイドからの攻撃を図るが、畑の立ち位置が下げられていること、そしてDH柴戸のヘルプによって蓋をされてしまうシーンが増える。

 それであれば、と右サイドでは鈴木雄斗のポジショニングと技術でプレスを回避し、池田との関係でゴールに迫っていた。70分と75分の選手交代でルキアン、章斗、山田が投入。右サイドからの突破を強調する交代策だろう。役割としては雄斗、山田、田中が組み立てを担い、クロスに対して福田、ルキアン、章斗がゴール前に飛び込むような設計だろうか。章斗がIHで起用されたのは、サイドからのクロスにファーサイドやマイナスへ飛び込むためのストライカー的な役割も担っていたはず。83分はまさにその狙いが実りかけたシーンだったが、カバーに入った鈴木準のタックルを褒めるべきだろう。

 だがそのシーン以外では縦へ急ぎがち。ゴール前で最も力を発揮するタイプの選手が増えたことにより、攻撃の形がロングフィードか、誰かがドリブル突破するかの二択になってしまった。山田は味方との距離が近いパスが多く、相手を動かしゴールへ迫る試行回数を増やす役割を果たせていたかは微妙なところである。


 最終盤はお互いが前線に並べたFW陣に向かってボールを蹴り合う時間が続いてタイムアップ。レフェリングによってやや荒れた場面もあったが、サッカー的には内容の詰まった好ゲームだったのではないだろうか。


■彩りをつけたサイドの二人

 試合の中心になったのは湘南の左、町田にとって右のサイド。畑をめぐる攻防だった。彼が試合序盤から輝きを見せたことから、町田は畑をどう抑えるか?から考える必要があったはずである。メンタル的に状態が良いのか迷いなくプレーできている様子で、首位チームを自陣内に押し込むきっかけを何度も作り出していた。
 ハーフタイムには攻守両面に効く打開策を打つあたり、町田も伊達に首位争いをしていない。平河を動かして畑を押し下げるのは、シンプルながら効果が出やすい策だったと思われる。
 だが大野の頑張りや畑の活躍がその策を結果にまでは繋がせなかった。あるいはサイド裏へのランニングは鹿島戦の後半、チャヴリッチにしてやられた形であるため、トレーニングの成果が出たのかもしれない。いずれにしても、相手の修正に対してピッチ上の選手たちの頑張りで耐えきったのは喜ばしい話だ。
 また簡単に下がらないラインコントロールと、集中したセカンドボール争いで優位に立ち続けた。個人個人の頑張りだけではなく、集団による働きがこの試合において湘南が勝ち点を手にするためのカギだったのだろう。

 反対に町田のカギは右SBの鈴木準弥だったように思う。前半はセットプレー以外であまりボールに触れることがなかったが、後半は一変。前線への配球役を担ってチャンスを演出していた。おそらく監督の指示によってサイドのスペースを突くボールを送っていたが、良くも悪くも素直だった印象。彼が慣れてきた湘南守備陣の予想を裏切って、突然ファーサイドで待つオセフンへのアーリークロスをあげるなどしていたら、湘南としては狙いが絞れずに後手を踏むシーンも生まれたかもしれない。
 セットプレーを担当するあたり、チーム内でもキックの質が上位だと思われる。単騎で突破するタイプではないため、持ち前のキックとロングスローをどのように使って強力なFW陣を活かすか、彼がピッチ上でその判断を高いレベルで下せるようになると、町田はより手が付けられなくなるだろうなと思った次第である。


 次節の柏は町田と共通するところもあり、ある意味予習が済んでいる相手。この試合の勝ち点1に価値をつけられるかどうかは、次の試合にかかっている。



試合結果
J1リーグ第13節
湘南ベルマーレ 0-0 町田ゼルビア

湘南:なし
町田:なし

主審 上村 篤史


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