見出し画像

絡まって解けない糸みたいになろう。 2024.03.30 セレッソ大阪vs湘南ベルマーレ マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの噛み合わせ


■試合の振り返り

 最高気温が20度前後と一気に春めいた大阪でキックオフ。得点をよく取れているチーム同士の対戦。セレッソは開幕4試合で2勝2分と上々のスタート。対する湘南は前節4失点した守備陣の修正ができているか。
 その湘南は前節からスタメンを1名変更、大野に代わって茨田。システムも5-3-2から4-4-2に変更、小野瀬は今シーズン初のベンチ入りを果たした。セレッソは前節からメンバーを複数名入れ替え。負傷から復帰した右WGのルーカス・フェルナンデスがクルークスに代わってスターターに。反対に香川が負傷による離脱で、ヴィトール・ブエノがIHを担当。左WGは為田に代わってカピシャーバが入る。日本代表・U-23日本代表から戻ってきた毎熊、西尾、田中聡は皆揃ってスタメンで出場となった。


 10分までに相手ゴールに迫るシーンが多かったのは湘南。セレッソの配置移動を捕まえて長いボールを蹴らせたり、押し込んだ後も即時奪回で二次攻撃を見せていた。しかしこの試合初の決定機は15分のセレッソ。右サイドからフェルナンデスがあげたクロスを茨田がコースを変えたところ、奧埜がシュート。大岩がブロックに入らなければゴールを割っていたか。
 続く16分には湘南が決定機。ルキアンのポストプレーから鈴木章斗が右サイドをドリブルで運んでカウンター。平岡のフリックを挟んで左サイドへ展開すると、駆け上がった杉岡がクロスをあげ、ゴール前で合わせたのは長い距離を走ってきたルキアン。しかしジンヒョンがスーパーセーブ。
 22分には杉岡とミンテの息があわずバックパスがこぼれ、ボックス内で拾ったのはレオセアラ。右から中央へのラストパスにブエノとカピシャーバが反応するが、大岩のスライディングでなんとか食い止めた。

 30分ごろは湘南がセレッソのゴール前まで迫るシーンが増える。セットプレーやショートカウンターから決定機を複数回作るが、ジンヒョンにことごとく防がれてしまう。互いにチャンスを作りながら決め切れないままスコアレスで前半を折り返す。


 後半最初の決定機は湘南。52分、サイドに降りた田中からミンテのパスでプレス回避すると、平岡・裏に抜け出したルキアンと繋いで左サイドから杉岡のクロスに鈴木雄斗。WB同士の連携からのシュートはジンヒョンがまたもセーブ。
 最大のピンチを凌いだセレッソは60分、ブエノのコーナーキックから船木がヘディングで合わせて先制点をもぎ取る。湘南はセットプレーのゾーンディフェンス設計にミスがあったか。

 1点を追う湘南は64分に選手交代。池田・平岡・茨田に代えて畑・小野瀬・奥野が投入。小野瀬は今シーズン初出場。試合の流れを掴めない湘南は73分に鈴木章斗に代えて阿部、79分には大岩に代えて福田を投入。鈴木雄斗が4バックの右CB、畑が右SB、福田が右SHに入ったか。
 しかし80分、ジンヒョンのロングフィードをすらされ、後ろから走り込んだのはブエノに代わって途中出場の北野。右足でゴール左隅へ流し込んで追加点を挙げた。湘南は急造CBのカバーが間に合わず、穴を突かれてしまった。
 試合はそのままセレッソが2-0で勝利。開幕5試合負けなし、3連勝を飾った。


 湘南は試合のプランとして、先行逃げ切りを考えていたように思われる(第2節:京都戦のような展開。山口監督のいつも通りではあるが)。筆者の所感として、セレッソは今シーズン優勝やACL出場権を争うような上位の力を持つチームであるため、その選択は妥当のように思う。
 プランのお手本としていたのはセレッソが前節戦った鳥栖だろうか。4-4-2で構えて中盤で引っ掛けてカウンター、あるいは長いボールを蹴らせて回収。湘南も前半30分ごろは狙いが完全にハマって決定機も作れていた。
 だが鳥栖と同じく、前半狙った形で試合を進めながらキムジンヒョンの活躍によって0-0で乗り切られてしまう。この時間帯にゴールまで奪えていたら…というのは試合を見た方であれば誰でも抱く感想だろう。また単純な決定機逸という意味だけでなく、準備してきた狙い通りの形で得点を奪えれば選手たちの自信も深まったのかなと思う。

 対するセレッソもその時間帯に「ハメられているな」という認識を即座に共有し、登里や毎熊が立ち位置やプレーを調整していたのが印象的。それによって前半40分以降は解決されてしまった。この辺りがサッカーが上手というか、優勝経験があったり日本代表に入る選手なのだろう。


■交代選手とチームの機能性

 この試合で気になったのは選手交代でチーム力が落ちていったように見えたところである。それは交代選手の能力が劣っているからなのか?それとも控え選手のシステム理解・フィットが進んでいないからなのだろうか?


 筆者の個人的な理解として、湘南が上手く試合を運べている展開=狙った形でボールを奪っている、というのがある。その副産物として相手の陣形が崩れ、組み立てからフィニッシュまで持ち込めるという認識だ。狙った形とは、相手の攻撃を途中で引っ掛けてショートカウンターにしたり、前向きにブロックを組んでから奪いロングカウンターを繰り出すといったものである。ボールの保有権を手にするのがゴールキックや自陣深い位置でのスローインであることが多い場合、相手ゴールに迫るシーンは数えるほどしか作れない試合になる印象を持っている。
 当然ながらボールを奪う位置が相手ゴールに近ければ近いほどチャンスになる。そのために高い位置から圧力をかけるわけだが、FWやSHが担当するプレス隊はボールを奪うことが主な役割ではない。奪うチャンスがあるならもちろんそれに越したことはないが、相手にかわされるリスクまで考慮すると第一優先にはならない。チームとして彼らに求める役割は、ボールの行先を制限し、中盤とDFラインに奪いどころを決めさせることである。


 48:45〜のシーン。セレッソがバックラインでボールを回しているところ、2トップがアンカーの田中駿を管理しつつプレスをかける。ここで注目したいのは池田の振る舞いで、首を振って周囲の状況を何度も確認し繋がりを意識しながら立ち位置を調整。おそらく意識していたのは①カピシャーバへのパスコース、②ブエノを茨田と挟める位置、③自身がアプローチを担当する船木の位置 で、2トップのプレスを加味してボールの行先を予測。ジンヒョンから船木へパスが出た後は、制限をかけつつ後ろが準備できるスピードでアプローチをかける。船木が蹴れるコースはいくつもないので、鈴木雄斗は余裕を持ってボールの回収に成功した。57分も同様のプレーが見られた。
 池田が上手だなと思うのは後ろが準備できるスピードでボールホルダーに寄せるところ。もし全力スプリントで相手に寄せればその分ボールを蹴られるタイミングも早くなる。つまり後ろはそのスピードに合わせて狙いを定めなければならないため、ボールを奪う難易度が上がってしまうのだ。遅すぎず早すぎず、ちょうどいい塩梅で寄せられるのは今の所チーム1かもしれない。

池田が周囲との繋がりを気にして立ち位置を決める様子
相手の選択肢を削り、味方に奪いどころを定めさせた


 このように前線は直接ボールを奪うだけがプレスの目的ではなく、後ろの選手が狙いを定められるよう相手のプレーに制限をかけることが目的である。前節浦和戦のレビューで触れた、プレスバックするルキアンと狙いを定める田中聡の関係と同じだ。
 池田に代わって右SHに入った畑は後ろに的を絞らせる意図は薄いように見えた。動くボールにポジションを左右されてしまい、後ろの鈴木雄斗は奪いどころを定められない。もちろん畑の立ち位置が決まらなかったのは2トップ、とくにルキアンのプレス強度低下も影響しているだろう(彼の働きぶりからしたらそれは責められない)。だがフラフラと周囲とは繋がりなく個人でボールの行先に向かう姿はいささか残念に感じた。
 これは畑ひとりの責任とも言えない。なぜなら彼はプロになってからWBの経験が長く、前線がかけてくれた制限を活かして奪いどころにアタックする役割を担ってきた。それが今年になって制限をかける側の役割を担当するとなると、まだ実践経験が足らないのかなと思う次第だ。IHで出場していた池田や平岡のフィットが早いのを考慮しても、畑がSHとして活躍するにはもう少し時間が必要だろう。

 左SHに入った小野瀬は毎熊をケアする指示が強調されたのか個人の好みなのか、立ち位置が大分タッチライン方向へ寄っていた。確かに毎熊に振り切られない効率的な位置ではあるのだが、CBが圧力を感じることなくフィードを送ることを許していては本末転倒に近い。平岡がCBに数歩寄っては懸命に毎熊まで戻って追いかけていた理由が却って見て取れた。
 小野瀬は攻撃で違いを出せる選手であるのは疑いようもないが、その場面を作るための労力を彼自身も惜しむべきではないし、途中出場であれば尚更だ。彼のプレーを見るのは好きなので、起用するリスクを孕んだ選手になってほしくないと願う。


 上述の通り交代選手たちが活躍できず失点後に盛り返せなかったのは、プレス強度低下により相手への制限が弱くなり、ボールを狙った形で奪えるシーンが作れなかったからと考える。交代選手たちは相手に制限がかかった状況から正しく文脈を読み取ることはできるが、制限をかけること自体は得意でない。つまり真っ先に必要だったのは疲労したルキアン・鈴木章斗に代わって前線に圧力を補充できる人員、福田だったのではないか。彼個人による得点を期待するというよりは、チームの機能性を保ち得点機会を多く作るための投入である。湘南が持ちうる武器である阿部や小野瀬、田中聡といった、チームが機能している中でのみ最大の力を発揮する選手のために汗をかく役割を担えるのは彼しかいなかったはずだ。ソシャゲやカードゲームで例えるなら、場に存在する限り味方へバフを付与する強力なカードである。

 とはいえルキアンが予想よりも早くバテてしまったなど想定外のことがあったりしたのだろうが、筆者としては選手交代の順番や人員が違っていたのかなと思う次第だ。バックラインをいじらなければCBのカバーポジションも間に合い2失点目もなかったかもしれない。せめて最終盤まで1-0で保ってドローの可能性を残しておきたかったのが正直なところ。

 この試合を落としたことがどうこうというのはないのだが、勝てる試合を落としてしまう要素がまだまだ残っているなという感想である。逆に言うとそういった要素をひとつずつ消していく過程が勝率を高めることに繋がっていくように感じるので、悲観することなく次の試合を待とうと思う。


試合結果
J1リーグ第5節
セレッソ大阪 2-0 湘南ベルマーレ

C大阪:船木(60')、北野(82')
湘南  :なし

主審 福島 孝一郎



タイトル引用:葉加瀬冬雪/ふれるよるに

個人的な好みで葉加瀬冬雪の楽曲より引用。プレスはよく網などに例えられることを踏まえ、周りの味方と固く結ばれているかのような守備隊形を見たいという思いから。

いいなと思ったら応援しよう!

ぺん
いただいたサポートは現地観戦のために使わせていただきます!

この記事が参加している募集