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今日を諦めなかった故の物語。 2023.10.28 湘南ベルマーレvsヴィッセル神戸 マッチレビュー

開始時の立ち位置と噛み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの噛み合わせ

■大黒柱の不在

 試合前、公園内ではティラノサウルスレースが開催された平塚でキックオフ。

 湘南は前節京都戦のスターターから、アンカーの茨田を田中への変更のみ。神戸はこれまでリーグ戦全試合フル出場の山口蛍が怪我により欠場。中盤は扇原・井出が2DHを組み、佐々木がトップ下、飯野が右WGに入る。また最終ラインは前節鹿島戦からトゥーレルが外れ、山川と本多の2CB、左SBには出場停止明けの初瀬がメンバー入りした。


 湘南は前半キックオフ直後から神戸の左サイドへと攻め込み、WB岡本にSB初瀬が食いついた裏のスペースを池田が使ってチャンスメイク。前半は執拗に初瀬の裏と扇原の横のスペースを狙い、同じような形でチャンスを繰り返し作り出した。大外で幅を取ってプレーする岡本と、内側で走りながらプレー出来る池田の長所が噛み合っている右サイドの連携は、ここ最近のストロングポイントと言える。

湘南が狙っていくエリア
初瀬が空けたスペースの使い方

 プレスにおいても京都戦のよい流れそのままに、ボールホルダーから選択肢を削って思ったような攻撃をさせない。右サイドでチャンスを作ってクロスを上げ、大迫・佐々木・武藤をフィニッシャーとして使いたい神戸に対し、その意図通り右サイドへ誘導。湘南のCB・WB・IHが互いにカバーし合える距離間を保ちながらプレスをかけ、パスコースを制限。ミンテと大迫のバトルも、ホルダーに制限がかかっている状況では競り勝って跳ね返すことに成功していた。

湘南のプレスが良い形でハマった形
湘南のプレス図解
(画像はプレビューから流用)

 対する神戸の守備は中央に網を張り、相手が甘えたパスを強度の高さで奪ってカウンターに繋げたいところ。だが湘南の2トップやIHに球際で負けているため奪いどころに出来ず、かえって前進を許す。大黒柱・山口の欠場がチーム設計に大きく響いており、井出と扇原の2DHはそれを強く感じさせる守備だった。

神戸のプレス図解。
中央で奪えず逆に突破されてしまっていた。
(図はプレビューから流用)


 保持では3トップ+佐々木で湘南を5バック化させて押し込み、酒井や井出、初瀬のクロスからゴールに迫る狙いがあったのだろうが、湘南のWBが積極的に前へ出てくるため狙った盤面が作れない。通常起点となる右サイドで優位性を取れない上に中央エリアでボール奪取も出来なかったため、用意してきた策が攻守両面で機能しない厳しい時間を過ごすことになった。結果的にDFラインから長いボールを蹴る形が増え、大迫がどうにか出来ればチャンスといった個人任せの攻撃に終始。その状況でも何とか出来てしまう大迫はやはり半端ないのだろう。

 湘南が前半良い出来だったのは神戸の策が空振りに終わった点も大きく関係しており、相手のウィークポイントを突きやすい噛み合わせであったこと、中盤センターの強度で保っているチーム設計が崩れていたことが影響している。マリノスや鹿島を倒した"首位"神戸の様子とは少し違っていたことは踏まえておく必要があるだろう。


 10分、2DHの守備強度不足を利用してルーズボールを拾った杉岡がドリブルで進行。扇原の制止を振り切ってボックス前まで運び、阿部へパス。巧みなステップで山川を揺さぶると、柔らかなラストパスを供給。ほとんどフリーだった大橋がゴールへ押し込んだ。開始直後から続いた流れそのままに湘南が先制する。
 15分には左サイドからのスローインを大橋が右に展開、またも岡本に初瀬が食い付いた裏を池田が使い、再度走った岡本にパス。クロスに平岡が頭で合わせるがギリギリでゴールの枠を逸れてしまう。スカウティング通りの攻撃から追加点を取れれば理想的だったのだが。28分には阿部のテクニカルなアウトサイドボレーシュート。31分にも大迫への浮き玉を跳ね返してカウンター、阿部が今度はゴール下隅を狙い澄ましたシュートを放つ。いずれもポストやGKに阻まれ、これらを決め切って試合を終わらせてしまいたかった。
 33分、神戸の決定機。湘南の右サイドからのスローインを奪って大迫がポストプレー、飯野から酒井へ繋いで駆け上がる武藤へパス。ファーサイドに上げたクロスを佐々木がヘディングで合わせるが富居がファインセーブを見せる。両チームのGKの活躍で試合は緊張感を保ったまま前半を終える。


■流れを断ち切った神戸の修正は?

 リードされた展開で前半を終えた神戸は湘南のWBを押し下げる狙いは変えずに、用意してきた策を機能させるための選手交代と配置変更を実施。大野に抑え込まれて目立った活躍のなかった右WGの飯野に代え、パトリッキを投入。武藤が右WGへ移動、パトリッキが左WGに入った。

神戸の変更(右サイド)
神戸の変更(左サイド)

 この選手交代・配置変更によって起きた現象は次の通りである。
①スピードとフィジカルに優れたアタッカーを神戸の両WGに配置。
②湘南CB各1名だけでは対応しきれないため、湘南両WBも下がって2vs1で対応。
③湘南WBの立ち位置が下がったことにより以下の2点が発生。
 A:神戸SBへのプレッシングが遅くなりフリーでボールを持てる時間が増える。
 B:湘南IHとの距離が開き中央に位置する神戸FWへのパスコースが開通。
④湘南のプレッシングが全て後手に回り、自陣に押し込まれる。

 試みは後半開始早々から奏功し神戸は両サイドから深い位置まで侵入、繰り返しクロスを上げてコーナーキックを奪う。その流れから岡本のハンドでPKを獲得、大迫がゴール右隅に突き刺してタイスコアに戻した。



 この試合で湘南がよかったところは、失点後でも必要以上に落ち込まなかったところか。リスタート後も引き続き初瀬の裏を狙って阿部が走り、ゴール前まで入った杉岡があわやというシーンを作ってコーナーキックを獲得。前半の内容に自信を持てていたのが理由かもしれないが、それがマイナスに働いていた場面もあった。
 57分のシーン、前川から初瀬へのパスがずれたところに大橋が食らいつくが、選手間の距離が遠く間延びした陣形になっている。阿部や平岡が大橋に続くが神戸に対して脅威にはならず。後ろが重たくなっている状況であれば、前線のラインを下げて中央を固めたい場面だった。結果的には平岡の外に井出がフリーで降り、裏に抜ける武藤へパス。自ら穴を晒す形になってしまった。
 連敗が続いていた時期の悪い形="WBが最終ラインに吸収されているのにも関わらず、プレス隊が突っ込んで間延びした陣形"に自分たちで向かってしまう湘南。バランスを崩してでも一点を取りに行こうとする前線と、セオリー通りの位置を取る守備陣で意志統一が取れていなかった時間である。うまくいっていた前半の幻影を追いかけたくなる気持ちもわからなくはないが、対戦相手の様子も変わっている状況では中央を封鎖した位置で耐えつつ、全員で好機を待てるのが強いチームなのだろう。

良くない陣形の図


■"第5GK"の活躍

 62分に佐々木の負傷交代で神戸が再び配置変更。山川とトゥーレルのCB、本多が左SB、初瀬が右SB、酒井がDH、井出がトップ下に移動。左足の方が得意な初瀬が右に入ったことで中央へ切り返し、一つ内側に移動した酒井がクロスを上げるシーンが数回見られた。
 68分に湘南も選手交代。池田に代えて鈴木章斗、平岡に代えて奥野。運動量の補充に加え、章斗をIHに入れて得点を取りに行く姿勢をメッセージとして送ったのだろうか。奥野は無闇に飛び込まず、田中と杉岡との距離を気にしつつ位置取り。初瀬や酒井が自由にプレーしていたところを監視し、左サイドのフィルター役として機能を果たしていた。
 IHが交代して運動量と強度が復活、パトリッキ対応に岡本が慣れてくると徐々に湘南が盛り返す。WBの位置もやや前目になってプレッシングが機能し、ボール奪取からカウンターで相手ゴール前に迫れるように。
 しかしながら偶発的に起こったパトリッキと富居の1vs1以外は、両チームとも目立ったチャンスを作れないまま時間だけが過ぎていく展開。ゴール前では守備陣の気迫の方が優っていたように思う。


 迎えた90分、扇原のコーナーキックに飛び出たGK富居が着地の際に複数の選手と交錯して腰を痛めてしまう。78分と86分の交代で枠を使い切っていた湘南は、富居の交代が出来ず。急遽慣れないグローブを嵌めてゴールマウスに立つのはキャプテン大岩。アディショナルタイム4分間を10人の4-4-1と急造GKで、得点ランキングトップのストライカーを擁する首位チームを相手に凌ぎきる緊急ミッションが発生した。
 闘将・キムミンテが檄を飛ばして集中し直した湘南は、人数をかけた守備で神戸のアタッカーにシュートを打たせない。鋭さと精度に欠けたクロスを大岩が飛び出してキャッチすると、観客はこの日一番の拍手と歓声で彼を讃えた。


 両チームとも勝ち点1で納得できる理由を抱えて試合終了のホイッスル。互いに仕留めきれなかった、逃げ切った感覚を持ちつつスタジアムを後にした。


前半のうちに点差をつけて試合を終わらせておければ…と思うところもあるが、最終盤に置かれた危機的状況を鑑みれば勝ち点1も妥当な結果か。
今シーズンも残り3試合、まだまだこれからである。


#16


試合結果
J1リーグ第31節
湘南ベルマーレ 1-1 ヴィッセル神戸

湘南:大橋(11')
神戸:大迫(53')

主審 山本 雄大

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