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本当によく戦えていたのか? 2023.05.27 サンフレッチェ広島vs湘南ベルマーレ マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置。
舘が退場する13分ごろまでの噛み合わせ。
アンカーが空く構図になる。

■あまりにも独創的な

 初夏の暑さを感じさせる広島でキックオフ。広島は前節名古屋戦から両WBと右CBを変更。全5得点を途中出場で挙げているドウグラス ヴィエイラは、この試合もジョーカーとしてベンチで控える。湘南も前節からメンバーを多く入れ替えた中、一番のトピックは若月のリーグ初スタメンか。阿部や鈴木とは異なるスピードやドリブルといった長所を活かせるかに注目。
 広島の特長は湘南に似たところがあり、保持ではFWに当てて相手を中央に集めつつ、セカンドを奪って開いた左サイドに展開。マークがずれたライン間にスペースを作り、クロスからの得点が狙い。前からのプレッシングからショートカウンターに繋げたり、短い時間でゴールに迫ってくる。
 反対にビルドアップはさほど洗練されていない。人数をかけて足元で回すため、相手守備陣に撤退やプレーエリア収縮の時間を与えてしまう。全体の呼吸を合わせてロングボールを蹴る際は中盤の競り合いに勝てるが、急いで前に送ると全体が間延びした状態になるため、ボールを失った後にピンチを招くケースがあり得る。

 試合は序盤から広島が積極的に攻め立てる。DFラインからベンカリファに向かってロングボールを蹴ったり、サイドに流れて起点になったところからシャドーとボランチがワンツーでボックス内に侵入。シュートはブロックされるものの、早々に決定機を作り出す。後ろから繋いで崩すパターンは少なく、湘南のボールを中盤付近で奪ってからカウンター気味に駆け上がっていく。
 対する湘南もロングボールから陣地を回復する。この試合では若月のランニングを期待してDFラインの裏にボールを送る。その若月が見せるスピードとボールへの圧力にはかなりの勢いがあり、対応する広島DFを焦らせるようなシーンが何度も見られた。パスが通らなくてもそのままカウンタープレスに転じ、高い位置でのボール奪取を目論んでいた。
 町野が受ける際のポジションにも修正があり、最前線ではなくピッチ中央付近で競り合うため、こぼれ球を中盤で回収することに成功。広島の2ボランチに対して湘南のアンカー+2IHという構図で、フリーになった茨田がボールを捌く場面もあった。
 また中盤の数的有利や広島が見せるプレッシングの矢印をうまく使って、石原と小野瀬のワンツーでプレスを突破。相手から逃げずに繋ぐ意思を見せ、ボールを握ったまま陣地回復に成功したこの場面はトレーニングの成果が表れたシーンだろう。

 両チームともに見どころの多い序盤戦、最も印象的だったのは松尾一主審であった。13分、ベンカリファに対する舘のスライディングタックルにレッドカードを提示。清水勇人VAR担当を除く誰もが予想しない独創的で素晴らしい判定により、試合は序盤戦と異なる方向へ歩みだしていく。この退場は湘南の意思を統一させ、広島に苦手な問題を突き付けることになる。

■統一された意思

 DFラインに退場者を出した湘南は選手交代なし、最終ラインが一枚欠けた4-3-2で戦う。両IH2枚はプレッシングへの参加ではなく、守備ブロック維持を優先する形でバランスを取った。相手が1トップ2シャドーと2ボランチであるため、2CBと3枚の中盤で人数は揃えられるといった計算だろうか。その分相手のWBが空いてしまうが、クロスには人数を揃えて中央を固めて対応すれば問題なしという割り切りが見られた。しっかりと中央を固めて一発のカウンターを狙う、これ以上なくピッチ上の意識を揃えたのが仲間の退場とは皮肉なものである。
 ともすれば防戦一方となりそうな展開だが、若月の走力が試合の均衡を保つ。ラフなロングフィードでもあわや、というシーンになり広島陣内へ押し上げる時間を稼げていた。また守備では人数が足りないサイドへとヘルプに走り、前半の終わり際には自陣ボックス内で相手WBをマークしていた。
 対する広島はこれ幸いと得意の左サイドを中心にピッチを広く使った攻撃を行う。左CBの佐々木からWB柏、裏に走り込むシャドーの森島からのクロスといったコンビネーションを繰り返し見せ始める。しかし中央で湘南の陣形を集結させたり、縦パスでCBを引き付けたりといった作業を行わないため、ボックス内でマークの大きなズレは生じない。ファーサイドを守る畑のクロス対応がまずい場面ではそのまま決定機になっていたが、数的優位を活かした攻撃を見せないまま前半終了。

舘の退場後、湘南は4-3-2に移行。
広島はWBが空くため、ここを起点に攻撃していた。
湘南の守備が集中して見えた理由。

 後半に入っても試合の様相は変わらず。中央に構えたブロックの外からクロスを上げつつづける広島と、跳ね返して一発を狙う湘南。湘南視点からすると広島の単調ともいえる攻撃にはさほど怖さを感じなかったが、中央にパスを着けるチャレンジよりもいずれ起こるであろう湘南のエラー(マークミスやハンドによるPKなど)の期待値が高いという判断だったのだろうか。あるいは、広島アタッカー陣あれば湘南DF陣を質で上回ることが出来るといった計算だったのかもしれない。いずれにしても、苦手の克服ではなく得意なポイントで攻め切ることを広島は選択していた。
 全体の重心を下げつつカウンターの機会を伺っていた湘南だが、60分に唯一の槍だった若月と茨田を下げて鈴木と奥野を投入。鈴木も相手DFとの競り合いで良さを見せようとしたが、何事もなく対応されて攻撃は町野頼みに。反撃の糸口を自ら手放した湘南は、次第と広島に押し込まれていく。
 交代とともに指示があったのかはわからないが、60分を過ぎるとタリクが中央を空けてプレッシャーをかける場面が2度続く。空けたスペースをシャドーやボランチが使おうとしており、どちらも広島のパスミスでピンチには至らなかったが、守備に綻びが見え始めていた。
 湘南の交代と同じタイミングで広島も選手交代。ドウグラス ヴィエイラと東が入る。チーム1のストライカーとキックが優れた左WBを投入し、引き続き左サイドからゴールを狙う意思を見せる。続く70分にはシャドーと右WBを交代し、より積極的にボックス内に侵入するよう指示が与えられた柴崎と中野が投入。左サイドからのクロスに中野が折り返し、柴崎のヘディングシュートといったように、統一した攻撃スタイルと選手交代で流れを引き寄せる。
 そして77分、またも左サイドを起点にカットイン。ボックス外から放たれたシュートが杉岡の脇近くにヒット、PKの判定に。それをドウグラス ヴィエイラが落ち着いて決めて1-0。試合終盤に広島が先制する。
 失点直後に阿部と永木と投入。永木がアンカー、鈴木と奥野がIH、阿部がFWに入る。中盤の並び変更の意図は不明であるが、奥野がアンカーとしてフィルターになり切れなかったところだろうか。交代選手の中では阿部の出来が光った。通常ポジションでは佐々木に何度か迎撃されていたため、動きながら2ボランチの間でボールを受けてチャンスメイク。可能性を感じる良いミドルシュートもあったが、GK大迫のセーブに遭いゴールには至らない。試合はそのまま1-0で終了。若月のプレーといったポジティブな要素もあったが、結果としてリーグ戦5連敗、5月を勝利なしで終えることになった。

■本当によく戦えていたのか?

 退場というシチュエーションによって半ば強制的に意思統一(=しっかり守って隙をついてカウンターを仕掛ける)がなされた結果、各選手がいつもよりも相手をかわす意識が見えたり、周りのカバーを行ったりと集中した様子が見られた。一人少ない分無理して出ていくのではなく、向かってくる相手を中央で構え、チャレンジとカバーを行う動きも取れていただろう。こぼれ球や浮き球に関しても全体の距離が近く(自陣寄りではあるが)、反応早くマイボールに繋げるシーンもよく見られたのは良い点である。
 しかしながら攻撃に関しては若月・阿部の個人能力による部分が大きく、彼らが不在の時間帯(60〜80分)は一方的に広島にペースを握られていた上、ゴールを奪われてしまっている。また守備に関しても広島が保持からの崩しを苦手にしている点も考慮に入れるべきで、中央や縦の出し入れがない分マークのズレが生まれにくく、日頃からトレーニングしている横スライドで十分対応出来てしまっていた。左サイドの崩し一辺倒で数的不利を感じにくい攻められ方であったことも守備が集中して見えた一因であろう。
 意思統一されたチームにはポジティブな印象を受けたが、11人の時点でそれをさせられないのはどこに原因があるだろうか?採用した戦略を選手に落とし込む手腕が問われている。


試合結果
J1リーグ第15節
サンフレッチェ広島 1-0 湘南ベルマーレ

広島:ドウグラス ヴィエイラ(79')
湘南:なし


主審 松尾 一

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