見出し画像

大切なのはいつも"??" 2023.06.28 浦和レッズvs湘南ベルマーレ マッチレビュー

開始時の立ち位置と噛み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの噛み合わせ

■積極性が仇になる

 遠くで雷が光る浦和美園でキックオフ。3日前に大量失点で敗れた湘南が戦う相手として、ACL王者はあまりにも強大だった。序盤こそ湘南のプレスを警戒して長いボールを使っていたが、時間が進むにつれて十分にかい潜れるものと判断。相手に向かう気持ちはあるが連携が伴わない湘南のプレッシャーは浦和にとって脅威にならず、むしろ陣形の穴を提供するシーンがしばしば見られた。
 浦和が2点目にあげたゴールはその典型である。ルーズボールを拾った酒井に向かって山田が猛然とプレス。しかし距離が遠いため間に合わず、かえって伊藤をフリーにする形に。ライン間でフリーの選手が出来た浦和は、難なく湘南の守備を攻略して関根が得点。せめて杉岡が伊藤まで縦スライドする数秒間待てれば結果も違ったかもしれないが、単騎突撃はただのギャンブルにしかならない。山田は積極的な姿勢がプレーに表れるところが魅力の選手であるが、このシーンではそれが裏目に出てしまった。"今"だけでなくそのプレーの"次"も大切にして欲しい。

 鳥栖、浦和の2試合で合計10失点と守備の拙さは明らかであるが、失点の原因は鳥栖戦で見たものと同様である上、専門誌や有識者が各所で解説しているためこれ以上は触れない。本稿ではこの試合で湘南が何をしようとしていて、どんなことが出来たのか、今後どんなスタイルを取るべきかを中心に話をしていきたい。


■髙橋と山本、左右CB起用の理由

 試合開始直後に立ち位置を確認した際、多くの人の目についたのは大野と山本の位置だろう。これまでの試合であれば大野が左、山本が中央に入っていたがこの試合では逆。この配置にはどんな意図や利点があったのだろうか。それはDFライン3人の特長と浦和の配置を背景にすると理由が浮かび上がってくる。
 髙橋と山本が現在の湘南DF陣で最もボールを運べる二人であることに異論はないはず。大野はハーフレーンでの積極的なランニングが特長で、どちらかといえば使うよりも使われる側の役割が向いている。
 そして浦和の守備隊形は4-4ブロックと2枚の規制役。湘南のバックラインは3枚なので規制役2枚の外側からボールを運び、相手のSHを引っ張り出せれば4-4ブロックに綻びを作ることが出来る、という格好になる。本来であれば杉岡がこの役割を担うところであるが、左WBの対面は酒井。サイズの面でも畑には荷が重く、杉岡が左WBでの起用となった。この点を踏まえると山本を左CBに起用した理由も理解できる。中央に大野が入ったのは山本ではなく大岩との競争の結果だろう(本当は山本が2人いるのが理想なのだが)

 髙橋と山本が前向きで自由にボールを持てれば、3-5-2システムでは斜めのパスコースが複数あるため、相手に絞られづらい状況から攻撃することが可能である。それがよく見られたのが前半40分から前半終了までの時間帯。浦和の前2枚(安居と興梠)のスタミナ切れもあってか規制が弱まり、右サイドの髙橋を起点にフリーの山本が持ち運んでチャンスの一歩手前まで迫った。いずれも石原、山田のミスで決定機には至らなかったが、浦和の守備に後手を踏ませることに成功していた。

浦和が作る壁の向こう側で待つ山本。
ここに注目すると興梠の守備の巧さがよくわかる。

 しかしながらこれが見られたのは前半の限定的な時間だけ。後半には体力回復した興梠、ホセ・カンテにコースを遮断され、行き詰まった攻撃に終始することになった。その時間帯でも浦和が形成する壁の向こう側にボールを届けようと試行錯誤する様子は見えなかったため、山本のプレーは偶発的だった可能性もある。
 中央にいる大野と永木の立ち位置がサポートになっていないので、ボールホルダーは大外にいる同サイドのWBか裏に蹴るしかない状態。相手のファーストプレスを安定して回避した先は監督の考える選手の自由な発想に任せるサッカーで構わないので、せめてDFラインとアンカーの4人(後ろにはGKもいる!)で行うビルドアップ、相手のプレスをいなす方法くらいはルールと手本を見せて仕込めないものかと考える次第である。

 どこに出せばその先に誰がフリーになるのか、彼をフリーにしたいからどこを経由するのかなど、受け手がボールを持った後に行うプレーまで見えているか、設計されているか。プレスをかけてどこでボールを奪うのか。大切なのはいつも次なのではと思ってしまう。

 

■網を張った追い込み

 鳥栖戦でもそうだったが、1失点目までは焦らず全体の繋がりを保ったプレッシングが出来ていた。前半39分に浦和のパスをカットしたシーンはそれがよく表れている。
 浦和がGKとCBでボールを回しているところ、大橋がショルツから西川まで右サイドに追い込むようにプレス。岩尾は町野がケア、連動して小野瀬がホイブラーテンに寄せる素振りを見せたところ、西川は大畑へのロングパスを選択。このボールを石原がカットし、永木を経由して町野のシュートにまで繋がった。その後浦和のカウンターとなるが、整った守備配置からサイドに追い込み大きなピンチにはならなかった。

 このシーンで良かったのは前線が追い込む方向を確定し、連動してWBとIHが列を上げてパスコースを遮断、ボールホルダーから徐々に選択肢を奪っていったところにある。大橋の方向づけで石原も高い位置を取れてボール奪取に成功した。勢いよく詰め寄るプレッシャーは相手に与える圧力も強い分、味方が連動する時間も作れない。今のJ1では猪突猛進プレスではかわされた上に自分が空けたスペースを使われるのがオチである。守備は1vs1の連続ではなく、複数人で行うべきものなのは浦和の守備ブロックを見れば明らかだろう。

 もちろん前に人数を掛ける分、後ろは数的同数のリスクを負っている。だがセットできた状態であれば守備側の方が優位であるし(正確に収めなければならない攻撃側に対し、最低限跳ね返したり遅らせればOKな守備側の違い)、たとえWBが最終ラインにいてもプレス隊による単騎突撃の結果、引っ張り出されてDFラインが晒されるのであれば結果に大きな差はない。それであればリターンが見込めるプレッシング方法を選択する方が合理的だ。10年近く前の第一次湘南スタイルの姿はもう忘れた方が良いだろう。

■コンセプトとのズレ、現実的な割り切り

 保持と非保持で良さが見えたシーンを一つずつ取り上げたが、どちらも共通しているのはある程度時間をかけているプレーという点である。保持ではバックラインからの持ち運び、非保持では方向づけによる奪いどころの設定。とくに保持は縦に早く攻めるチームコンセプトとそぐわない形であり、大橋のゴールもセットプレーの流れからじっくり仕掛けた結果だ。
 縦に早く攻めようとする姿勢はむしろ全体の間延びと選手配置の分断を産んでおり、被攻撃機会の増加による失点増に繋がっていると思われる。劇的な向上は見込めない上にエース町野の移籍が重なったチーム状況では、中央を固めサイドに追い込んでからのカウンタースタイルに回帰するしかないのではないか。中途半端なスタイルで蹴散らされた今、割り切って臨む判断をしても批判は起きないはずだ。

 次節は首位の横浜F・マリノス。町野が旅立つ日にどんな姿で臨むのか、目を逸らさずに見届けたい。


試合結果
J1リーグ第12節
浦和レッズ 4-1 湘南ベルマーレ

浦和:興梠(20')、関根(61',65')、ホセ・カンテ(90'+2')
湘南:大橋(53')


主審 荒木 友輔

この記事が参加している募集

サッカーを語ろう

いただいたサポートは現地観戦のために使わせていただきます!