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悔しさ、エールになれ。 2023.09.16 北海道コンサドーレ札幌vs湘南ベルマーレ マッチレビュー

開始時の立ち位置を噛み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの噛み合わせ

■前から抑えろ

 気温を見る限りでは関東よりも秋めいている札幌でキックオフ。湘南は先週ゲームがなかったため2週間ぶりの公式戦。チーム内に体調不良者が出ている影響か、GKは富居に代わって馬渡が今季リーグ戦初出場。田中聡・岡本もベンチから外れ、大野・舘がスタメンに。畑はU-22日本代表遠征による疲労もあってか、石原が久しぶりにスタートからの出場となった。
 一方の札幌はルヴァンカップ準々決勝を戦っているため1週間間隔でのゲーム。累積警告による出場停止の駒井に代わって浅野、福森に代わって中村がスタメンに。前回対戦で町野に自由を与えなかった岡村ではなく、宮澤がガンバ戦に続いて3バックの中央を務める。

 札幌の形はいつも通り。ボールを持って自らの得意な形を押し付けて主導権を握ろうとする相手に幾度も苦杯を舐めてきた湘南は、この試合をどのように戦うか。

札幌の保持

 ホームでの対戦では札幌のビルドアップにたいして有効な策を打てないまま敗れた。この試合ではその反省を生かしたのか、より積極的に前からコースを限定するようにして試合に臨む。
 湘南の狙いはこうだ。まずはFWがファーストプレスで相手に寄せ、サイドを限定。もう一方のFWがDHをマークして中央へのコースを消し、IHとWBがサイドに張った相手へプレス。アンカーもプレス隊に加わって人数をかけながら相手に圧力をかけ、自由にボールを持たせない策を取った。前に人数をかける分後ろは数的同数というリスクを負っているが、札幌のアタッカー陣は高さに欠けるためラフなボールであれば跳ね返せるといった計算だろう。ボールが通るルートは外回り(ピッチ中央部を経由させない)を強制し、クロスやロングボールを跳ね返してカウンターに繋げるのが目的。中断以降のゲームではSBの位置に立つ相手選手へのアプローチが明確かつ速くなっており、IH・WB・CBのスライドが成長した故の方策と言える。

湘南のプレス⑴
WBとCBのスライドが肝。
湘南のプレス⑵
縦突破されてもクロスを跳ね返す。

 保持においては、バックラインからの繋ぎを放棄。これまでの試合で多く見られたCBからWBへのパスはほとんどなかった。GKからも繋ぐことはなくFWへのロングボールで一貫しており、大橋が競った・収めた後のサポートに中盤とWBは注力していたと思われる。これは札幌が前線からのマンマーク&ハイプレスを基調にしている点も踏まえ、相手の得意な点と自らの不得意な点のミスマッチを避けた結果だろう。

■気持ちも重要な要素

 しっかりと準備をして試合に臨んだ湘南だったが、立ち上がりは最悪の出来だった。キックオフ直後から浅野にボックス内へ侵入され、あわや失点の大ピンチ。前半2分にはサイドに開いた中村へ高木からロングパスを通され、中央を破られかけるが馬渡・ミンテがなんとか食い止める。本来であればWBの石原が中村の位置までスライドすべきところ、舘へ菅のマーク受け渡しが出来ずに中央へのパスを許してしまった。開始15分まで札幌が完全に主導権を握るものの、古巣対戦、今季初出場とこの試合に懸ける思いが強い二人を中心に守備陣が奮闘してギリギリのところで無失点に抑え、この試合の勝ち筋を残した。

札幌に理想的な攻撃を許したシーン。

 15分を過ぎると落ち着きを取り戻したのか、用意してきた策で主導権を握り返す。18〜19分では札幌のボール保持を規制し、狙い通りの形でカウンターに繋げる。舘からのボールをワンタッチで鈴木へ通した奥野のパスは、ボールを失った瞬間に大きく空いている札幌守備陣の穴を即座に突く見事なプレー。この日はプレス隊の一員としていつもよりボールへ寄る場面が多かった中、前と後ろを繋ぐ位置取りと盤面把握能力が光っていた。

IH・WB・CBのスライドでサイドを封鎖。
舘がラフなボールをカットし、奥野から鈴木へのパスで決定機を作った。

 30分ごろまでスライド対応からのボール奪取でチャンスを作った湘南だったが、この時間帯で得点を奪うことは出来ない。すると札幌はスパチョークがハーフウェーライン付近まで降りて中村からのパスを引き取る動きを見せ始め、ビルドアップの脱出口を担当。サイドチェンジで湘南に陣形の再構築を強いる上、ボールの前進に成功する。26分にはスパチョークから荒野、ルーカスと繋いでシュートまで持ち込む。

札幌の打開策。
湘南は降りる選手にもマークを離さず対応して反撃を封じた。

 やや札幌に流れが戻りかけるが、スパチョークの列降りにも石原がスライドして対応することで自由なプレーを許さない。人が変わってもボールを持つ位置は相違ないため、石原がプレス、舘がスライドして菅のマークを受け渡せば難なく対応可能に。これは選手間で判断してピッチ上で対策を取ったと思われ、守備構造の練度上昇と成長が窺えるシーンだった。

 試合が膠着状態になりそうな最中、迎えた43分。GKのロングキックをマイボールで繋いで右サイドに展開。狭いエリアの攻防で一度は奪われかけるが奪い返し、抜け出した大橋へ奥野のワンタッチパス。ボックス内に侵入した大橋はドリブルで札幌守備陣を数人引きつけると、マイナス気味に丁寧なラストパスを送る。スペースへ走り込んだ平岡がゴール左隅へと蹴り込み、湘南が前半終了間際、先制に成功する。

■馬脚を隠し通せ

 後半に入っても札幌の戦い方は大きく変わらず、湘南も前半と引き続きの守備対応。ただ一人ピッチ上で様子が違ったのはGK馬渡。53分ごろのゴールキックから飛距離が伸びなくなり、札幌がヘディングで弾き返して湘南陣内に侵攻し始める。プレッシングがかかっていない状況では後ろが3vs3の同数であり、非常に危険な状況を自ら生み出してしまっていた。
 58分にはミンテのパスミスから小柏が決定機を迎える。これは馬渡が何とか身体に当ててコーナーに逃げるも、このプレーで完全に足が攣ってしまう。札幌サポーターの目の前で治療した彼はこの後のプレーで激しいブーイングを受けており、時間稼ぎと思われていたのかもしれない。
 65分には小柏が再び決定機。ラフな蹴り合いをスパチョークが収めてカウンター。湘南がプレスをかけようとした瞬間、宮澤からプレス隊の頭を越えるパスで一気に数的同数の状況に持ち込む。小柏がドリブルで仕掛け、舘をかわして左脚で放ったシュートはポストに弾かれた。大橋のサポートに注力したことで後ろは同数となっていたが、50〜60分付近にあったゴールキック関連のプレーを踏まえると、WBが予め低い位置を取ってリスクを回避することを重視しておいてもよかったかもしれない。


 湘南は51分、63分とカウンターから決定機を迎えるが追加点は奪えない。60分を過ぎた頃には徐々に陣形が間延びしてきており、とくに平岡の守備位置が危険な状態に。68分にはサイドに出たボールにふらふらと寄っていくがボールホルダーには特に脅威を与えないプレッシャーを行い、反対に札幌にパスコースを提供。サイドチェンジを許した結果、途中出場の青木にチャンスを作られてしまう。
 71分に平岡に代わってタリクが投入され、全体の運動量と距離感が改善。タリクのプレスバックはこの時間帯のチームをかなり助けており、左IHを担当した両選手は異なる側面で大きな貢献を果たしていた。

 札幌はロングボール、またはWG&SBのサイドアタックが中心の攻撃に終始し、湘南が望む外回りのルートでボールを回す。ゴール前へのクロスではミンテを中心に集中した守備陣が弾き返し、ミドルシュートもシュートブロックで防ぎ続けた。中央部へのパスは小野瀬が気を利かせてスペースを埋めカット。87分には茨田・福田を投入して5-4-1にシフト、逃げ切り体制を取る。
 負傷者の治療時間を加味されたアディショナルタイムは結果的に10分近く取られ、時計は100分を示すところでタイムアップ。笛と同時に倒れ込む馬渡。決死の戦いで馬脚の姿を隠し通した湘南が0-1で1ヶ月ぶりの勝利をもぎ取った。


 前節鹿島戦とは変わって前から強い圧力でボールの出所に制限をかけ、球際で負けない戦いを見せた湘南。しかしあのとき落とした勝ち点2は回収しきれていない。次は国立競技場で開催の川崎戦。連勝を飾り、一つでも上の順位を目指そう。



試合結果
J1リーグ第27節
北海道コンサドーレ札幌 0-1 湘南ベルマーレ

札幌:なし
湘南:平岡(42’)

主審 今村 義朗

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