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中国のショート動画プラットフォームkwaiの価値が80%ダウン。何が起きているのか

日本でも流行っているtiktokはご存知と思いますが、中国でのショート動画で有名なプラットフォームは他にもあります。その筆頭だったのが「快手」(kwai)ですが、何やら異変が起きているようです。

↑見返したら3年ほど前に書いたnoteなのか。あのころとは色々変わりました

ここ1年で快手の時価総額は1兆7000億元から2717億元へと、なんと約80%下落しました。 中国のインターネット業界全体が調整局面にあるとはいえ、これほど下げるとは。

そして2022年の3月29日に2021年の決算を発表しました。収益は二桁成長を維持しているものの収益の成長率は4年連続で低下。純利益は188億5200万元の損失、前年が78億6400万元の損失だったので倍以上に膨らんでいます。

赤字は計画的だったはずで、快手のプラットフォームの拡大、ユーザー増加のために資金を調達しお金を燃やしてきました。まずは激しい競争を抜け出し圧倒的な地位を築いてからマネタイズにシフトするのは中国のプラットフォーマー争いでは定番な手法。ですが、これほど赤字な上に成長が鈍化しているのは苦戦と言えるでしょう。2年前の時点では抖音(tiktok)と争うほどの勢いがあったのに、どうしてこうなった?

■ユーザー数の伸び悩みはお金では解決できない

2019年まで快手はかなり伸びていました。ユーザーを獲得するためにマーケティング予算をかけていて、当時その割合はコスト全体の20%程度。ただ、ここからさらなる成長(ユーザー数の増加)を目指し、マーケティング費用を投下していきました。2021年にはその割合は54.48%に。

これは額にして441億7600万元で前年比65.98%増。売上の伸び率37.95%を大きく上回っていて、ほぼマーケティングによって作られた数字から売上が捻出されてるようにすら見えます。

そして残念なことにこれだけのコストをかけてもユーザー数が伸びない、特にDAU(Daily Active User)の伸び率が大きく低下しています。

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これは報道されていた資料で、DAUの伸び(赤い線)は大きく下がってきているのに対してマーケティングコスト(緑の線)が右肩になっていることが一目瞭然。

誰もが動画を投稿するモデルのショート動画プラットフォームでは、質の高いコンテンツを常にアウトプットするクリエイターがたくさんいることがそのままサービスの魅力に直結。質の高いクリエイターがコアアセットになりますね。マーケティング費用の大部分はクリエイターへの分配で、この費用を抑えてなお"クリエイターが稼げるプラットフォーム"を作り出すのは簡単ではないことがわかります。

■ビジネスモデルの変化

快手の収益構造の変化は明白で、従来の動画ストリーミングプラットフォームから広告と小売のEコマースビジネスへと変化してきています。

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快手の決算発表のレポートより、ライブストリーミングの収益(水色)の全体における割合は4年間下がり続けていて、2021年には前年の56.5%から38.2%に減少。 

そして今では広告事業が収益の一番の柱となっていて、2020年で37.2%、2021年には全体の半分以上となる52.62%で額にして約426億人民元。また、Eコマース事業(青色)を中心としたその他の事業が成長し、ここの売上高は2021年には74億元へと成長しこれは全体の9.2%。

動画プラットフォームがEコマース事業で莫大な利益をあげれることはアリババの例を見ても明らかでここを期待する声もあります。ですが、すでにいるジャイアントたちと競争することになり、どう差別化を図るのか、自分たちのプラットフォーム内で完結させられるかがポイントとなります。ご存知の抖音も2年前にサードパーティのECプラットフォームにジャンプするリンクを遮断して独自のECサービスを開始。

快手も同様で、アリババやJDなどへのジャンプを遮断して独自のECプラットフォームを立ち上げ、広告+ECの閉ざされた商業的ループを形成しています。とはいえ、消費者からしたら結局安いところでお得に買いたいって基本的な考え方は普遍なので、アリババ、JD、拼多多などがライバルとなる構図は変わらないので簡単ではないでしょう。

■ショート動画サービスの競争も激しい

最初に記載したユーザー数が伸び悩んでいる原因は、市場は飽和してきているのにライバルが競い合うという「内巻状態」。

抖音が人気で一番手としてシェアを伸ばしていることもそうですが、中国チャットアプリで圧倒的ユーザーシェアを誇る微信(Wechat)がショート動画にも注力してきたことが最大のライバル登場と言えるでしょう。

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2年前くらいからWeChatアプリのモーメントに「视频号」という項目が追加され、手軽にショート動画が見れるようになりました。明らかに注力してきています。

12.7億人のWeChatユーザーに支えられており、そこから生み出される動画の質と量は桁違い。しかもチャットプラットフォームの強みを活かし、友達へのシェアや自分のコミュニティで話題の動画のレコメンドなどに強みがあるうえに、wechat内での公式アカウント、ミニプログラム、検索、モバイル決済、ECなどの資源を活用できるので強いです。

このような状況で資本から厳しい目で見られているわけです。tiktokとNo.1争いをしていたKwaiがこれからどうなるか気になっています。ちなみに同じく動画とストリーミングがコア事業であるBilibili社も、ついにストリーミング事業部に大規模なリストラを行う噂が出てきました。人口ボーナスがだんだん弱くなる中国市場では、コンテンツの質を保つコストも、新規ユーザーを獲得するのコストも高騰しています。これからの各プラットフォームの変化と発展に注目です。

(参考資料)


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