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インタビュー:Dávid Turczi その2〜複雑なゲームのデザインについて(Interview: David Turczi on Complex Game Design)

本記事は、2020年7月24日、Diagonal Move上に掲載されたDávid Turczi氏のインタビュー記事である。前回に引き続きということになる。彼の初期のキャリアについて知りたいのであれば、末尾のリンクをご覧いただきたい。

本記事では、彼の近年の作品に関するデザインやデベロップについて語られている。話の性質上、やや抽象的だったり、一般論的だったりする箇所もあるが、複雑なゲーム、重いゲームに関心がある人や、そのようなゲームをデザインしたい(している)人にとっては参考になることもあるだろう。そのほか、さまざまなことがうかがい知ることができると思われる。

個人的には、私が抱いていた彼の作品に対する疑問はある程度解決することができた。

なお、元記事は以下のリンク先にあるが、元記事とほぼ同内容の記事がBGGに掲載されている。Diagonal Moveのインタビュー記事は、この頃から、BGGに掲載されるようになったようである。そうすると、文章のソース(底本?)が2つあることになり、やや文章に違いがみられる。一応と、双方の文章を見た上で、異なる部分は、時期的に新しいBGGの文章を参照しているが、併記しても差し支えがない部分は併記している。また、画像については、基本的にBGGのページの方を参照し、実質的に異なる場合には併記している。

Dávid Turcziとのインタビューその2では、彼の最近発売されたゲームである「Perseverance: Castaway Chronicles – Episodes 1 & 2」、「The Defence of Procyon III」、「Excavation Earth」、「テケン:太陽のオベリスク」、「タワンティン・スウユ」を含む複雑なゲームのデザインやデベロップについて語ってもらっています。

(※BGGの記事では、「Dávid Turcziは、Diagonal MoveのNeil Bunkerと一緒に、複雑なゲームのデザインとデベロップを詳細に語っています。」となっている)

クレジット: Dávid Turczi
「Perseverance: Castaway Chronicles – Episodes 1 & 2」の宣材用写真
クレジット: Diagonal Move

DM: やぁ、Dávid。またようこそお越しくださいました。あなたは、濃密なテーマが伴うメカニズム的に複雑なゲームをデザインすることで知られています。この2つの要素のどちらから着手するのが普通なのですか。

DT: 私としては、あらゆることがシステムに合致していなければならないと思う。そのことにより、2、3時間のユーロゲームが見事に機能することになる。私は、第一にユーロゲームデザイナーだ。だから、本当は"テーマ性のある"ゲームを手掛けることはないが、私の全てのゲームは"テーマ的に(※テーマから)着想を得た"ものだ。

もちろん、このことは、長年かけて一層良くなってきている。よく質問するのは、

  • あなたは誰か(※プレイヤーはどのような属性になって遊ぶことになるのか。)。

  • 自分の手番で何をするのか。

  • それはどのような意味を生み出すのか。

  • プレイヤー間での対立(conflict, ※インタラクションとほぼ同義と思われる。)はどのように生まれるのか。

  • どうやって、それとメカニズムを噛み合わせるのか(model)。

時として、逆の道を歩むことになる(the other way around)。他のゲームがどのようにそのメカニズムに到達するかを理解しているし、ある人は"こう"しろと言って、他の人は"ああ"しろと言っているけれども、予期しなかった第三の選択肢を選ぶ人がいないことに気付く。私は、モデルを変化させる対立点を見ることがあるようだ。

しかしながら、テーマ性に焦点を強く当てて、ゲームに驚くほど素晴らしい世界を構築するMindclash Gamesといった出版社と作業すると、どうにかしてテーマに合わせてメカニズムを構築しようとするようになる。それは、物語として意味をなさなければならないが、彼ら(※Mindclash Games)はメカニズムをうまく取り入れて、それに関連した(around)素晴らしい世界観を構築してくれるんだ。

そして、私は、彼らが作り上げた世界観を念頭におきらメカニズムをデザインし直して洗練させていく。そういった場合に、それがコンセプト、設定、物語、そしてメカニズムとなる。このプロセスの全ての部分が、一周して返ってくることになる。

クレジット: @meeplesprinkles

今度発売される「
Perseverance: Castaway Chronicles – Episodes 1 & 2」は、デザイナーのチームが参加している巨大なプロジェクトだ。このゲームは、島での生存と探索をテーマとしており、最終的には街のリーダーとなって恐竜の攻撃をしのぐ(fending off)ことになる。けど、このゲームは、当初、アイスランドの民主主義をテーマにしたゲームとして始まったんだ。

数年前、SPIEL(※いわゆるエッセンシュピール)で4つのバイキングのゲームが発売された時、私は、Mindclash Gamesに先ほどのゲーム(※アイスランドの民主主義をテーマにしたゲーム)を売り込みに行った。そしたら、彼らは、"バイキングは取り除かないといけない(have to go)"と言っていた。じゃあ、この民主主義をテーマにしたワーカープレイスメントモデルに、どのような他のシステムが適合するのだろうか。私たちは、閉鎖されたコミュニティで、投票するのに十分な数の人々がいないといけないということは合意した。そして、無人島で街を建設するというアイディアを思いついた。

その後、(共同デザイナーである)Richard Amannは、"その島に恐竜がいたら、イカしてないか?"と言ってきた。これによって、半協力的な得点手段である"物資を舟に積み込む"というバイキングテーマがなければ理由がつかない要素を取り去り、1年間まるまるかけて島を探索して恐竜を乗りこなすというテーマを基にしたシステムにデザインし直す必要があった。

「Perseverance: Castaway Chronicles – Episodes 1 & 2」は、ダイスによる投票でエリアコントロールを行うというメカニズムから始まったが、一旦、その世界観が形成されると、そのテーマから様々な他のメカニズムを引き出すことになった。

うまくいくのであれば、"テーマが先か、メカニズムが先か"という話は消失する。双方が、それぞれを高め合うわけだ。

クレジット: W. Eric Martin

DM: 「The Defence of Procyon III」は、4つの非対称の固有能力(factions, ※派閥)とソロ、協力、対戦モードが備わったチームベースのゲームとなっていて、デザインの観点からみて意欲的なゲームです。あなたが体験したデザインとデベロップの過程について詳しく教えていただけませんか。

DT: 「The Defence of Procyon III」は私の夢のプロジェクトだ。誰かにやってくれと頼まれるとか、お金のためだとか、需要があるとかといった理由では携わらなかった。単純にこのゲームが世に出てほしい(exist)と思ったという理由から携わったんだ。ある出版社とクトゥルフのIPもののゲームに関して話し合っていた。私には、プレイヤーが戦車を使って崇拝者と戦うというアイディアがあった。その出版社は、クトゥルフのIPでミニチュアゲームを発売したばかりで、話し合いは止まってしまった。ただ、私は、そのコンセプトに惚れ込んでしまい、"別のテーマにした「スターシップ・トゥルーパーズ」なんかはどうだろうか"と考えた。

PSC Gamesと仕事をするようになったのも大体その頃だった。私は、あるプレイヤーが陸軍をコントロールし、別のプレイヤーは宇宙船をコントロールするミニチュアたっぷりの宇宙戦闘もののアイディアを売り込んだ。そして……その場で(straight away)契約するに至った。まだ、デザインすらしてないってのに!

その後の2年間、「The Defence of Procyon III」はひどい悪夢のようだった。ゲームを作って、最初のテストプレイの1手番目でボツにした。そして、数え切れないほどの回数、それを繰り返すことになった。4つの固有能力のうち3つが非常に良いところまで作ることができたが、4つ目の固有能力は複雑すぎて意欲が失せるものだった。そこで、追加の行動や新しい攻撃方法ができるようにした。そしたら……これではバランスが崩れてしまうし、それではバランスが取れなくなった。ゲーム全体をボツにして(burn)、もう一度やり直した。

最終的には、繰り返す過程の中で、毎回、デザインの作り直しは段々と少なくなっていった。しかし、2019年8月になっても、六角形のマップだけがあった。私は、地上の移動よりも5倍の時間がかかるようにしないと、方向性の飛行(directional flying, ※direct flyingの言い間違い?)を機能させることができなかった。だから……宇宙マップのバージョンを破棄したよ!

「The Defence of Procyon III」は、何から何までデザインの作り直しがされた。多くの小さな修正(iterations)に加えて、おそらく4回は最初から徹底的にデザインが作り直された。このゲームのセットアップは固定で、毎回のゲームで全てのカードが引かれることになっている。つまり、多様な戦略が伴わなければならず、そうしないとリプレイする価値が全くないことになる。やるべき作業がたった1つしかないとすると、一旦、その作業の仕方を学んでしまえば、もう一度遊ぶ意味がなくなってしまうだろう。

ラウンド数は20ラウンドから16ラウンドに縮小し、現在は10ラウンド構成となった。突然死(sudden death)の条件のおかげで、大概、7ラウンドにゲームの終了が訪れる。テストプレイで8ラウンドまで続いたのが、もう3か月前だったかな。

ゲーム中の1個1個の判断全てが根本的に重要な(fundamental)選択でなければならなかった。プレイヤーは、このゲームにおいて8つのアクションを利用する。歯ごたえのある(Crunchy)、重いユーロゲームは16個のアクションがあるさ。「The Defence of Procyon III」では、"2つの木を得る"というようなアクションが8つではなく、"私の7つのユニットを動かし、5ダメージ与えて、2つの特殊能力を使う"といったアクションだから、プレイヤーは常に熱中する。非対称性と結びつけて、勝利を導く8つのアクションを見つけることになる。それがプレイヤーを夢中にさせるのさ。

クレジット: gordon calleja

DM: 「Excavation Earth」は、愉快なSFゲームのように見えますが、かなりの奥深さがあります。このゲームのデザインについて、もっと詳しく教えていただけませんか。

DT: 「Excavation Earth」は、かなりの長旅のような変遷があったんだ。それは、私が思いがけず、デザインの欠陥(bug)を元妻のWai Yeeに伝えた4年前に始まった。私たちは、その時、何回も「Glory to Rome」を遊んでいた。だから、さまざまな目的で使用される(multi-use)カードなんかを取り入れたかったんだ。

彼女は、ユニコーンの訓練施設に投資をするよう貴族を説得するというアイディアを思いついた。それはプレイヤーにとってあんまりわくわくするものじゃなかった。そこで、彼女は、ユニコーンレースでの賭け(betting)を付け加えた。でも、私たちはレースゲームを作りたいわけじゃなくて、レースから得られる興奮するような感覚が欲しかっただけだ。そういうことで、「Excavation Earth」は、経済学者の言葉を使えば、"先物"(future's)取引ゲームになった。その目的は、馬券(betting slips)を買って、売るタイミングで馬/ユニコーンが勝利する確率に基づいて馬券を売ることだった。これに、さまざまな目的で使用されるカードのドラフトと特殊能力のためのエリアコントロールというメカニズムが組み合わさった。

かなり洗練された仕上がりだったが、かなり多くの人たちが遊べないことがわかった。なぜかって? 馬のレースというと、特定の馬を勝たせたいがために速く進めたり、イベントがすぐに終わったりすると思い浮かべる。このゲームにおいては、走行する位置に基づいて常に価値を変化させながら、馬がゆっくりとレーストラックを動く。プレイヤーは馬券を買って、馬をほんの少し前進させて、その馬券を売るだろう。これって自然な動きではないよね。

出版社であるMighty Boardsにこれを見せたら、"洗……練……されてるね、でも誰も理解しないよね。ユニコーンというテーマは面白いけど、君に歯ごたえのあるユーロゲームを期待している人たちからすると、ひどいミスマッチも起こすだろう"と言われた。

ほかに何が合うのだろうか。将来価値が流動的な商品を簡単に手に入れて売ることができるために何があるのだろうか。そこで……私たちは、アーティファクト(artefacts, ※遺物)を発掘するということを思いついた! アーティファクトがあることがわかっていて、誰もがそれを掘り返すことができる。しかし、最も価値のある時点に売るのは難しい。

このゲームのデザインに対する私の最大の貢献は、この場面で訪れた。私たちは、価値を表すためにゆっくりとしたユニコーンレースを使用していたが、それは物語的に何も意味をなさない。しかし、一旦、テーマをアーティファクトに変えたら、価値を決めるのは博物館に並ぶ人の数になった。並んでいる青いミープルの数が多ければ多いほど、青いアーティファクトの価値も増えていく。カチッと(Click!)、価値を決める(valuation)メカニズムがうまく機能した。

Mighty Boardsはもう一度それを見ると、"掘削、宣伝、売買"というメカ二ズムを足してくれないかと言ってきた。

いいよ、闇市場を導入して裏取引で利益が得られるようにしよう。

"このゲームをもっと"イカした"ものにできないか?"

そしたら、普通に惑星を飛び回る代わりに熱気球を使うことにしよう。

"熱気球は何をしてくれるのかい?"

特には……。

その後、主任デベロップ担当者であった共同デザイナーとなるGordon Callejaは、"僕らがエイリアンだったらどうなる?"と言ってきた。

そうだね、母艦を導入しよう! 特殊能力付きで……。

オリジナルのゲームにあった2つの問題点は、やるべきことがアーティファクトを売り買いするというたった1つしかなかったこと、そして、それがテーマ的に意味をなさないことだ。そのテーマが改善していって意味合いを持つようになるにつれて、やるべきことがたくさん見つかった。ユニコーンの飼育から、スローモーションのレースと熱気球を経由してエイリアンの母艦へと変遷した、この長旅の終わりには、面白そうに見えてふわふわした(fluffy, ※硬派ではないくらいの意味合いかと思われる。)SFゲームだが、実は歯ごたえのある重いユーロの市場操作を行うゲームであると、プレイヤーが言ってくれるような出来上がりとなっていた。

製造パートナーと話していて、このゲームが他のどのゲームとも比較できないことがわかった。競りゲームではないし、商品を交易するゲームでもない。価格操作とさまざまな用途に使われるカードがあるが、そのどちらも、このゲームがどのようなものであるかを説明していない。このゲームでは、"十分な数のアクションが絶対にない"感覚に陥るし、ゲームプレイの重さは「ブラス」のようなゲームと同じ部類に属すると思う。でも、"「ブラス」みたい"なんて言うと、このゲームがどういうゲームかを説明していないことにもなる。

このプロジェクトの中盤に、ほとんどこのゲームのことが嫌いになっていたよ……。けれども、終わるまでには、重労働と協調を通じて、私がいつもゲームの中に探し求めていたユニークで予想できないものが見つかったと思う。

クレジット: Neil Bunker

DM: 「テケン:太陽のオベリスク」は、Daniele Tasciniとの共作ですね(※Tasciniの例の騒動があり、現在は、Dávid Turczi単独クレジットとなっているはずである。)。彼と一緒に仕事をし始めたのはどのような経緯からですか。

DT: 「テケン:太陽のオベリスク」は、「The Defence of Procyon III」や「Excavation Earth」とは全く異なる経緯(background)がある。デベロップが始まったのは、SPIELで初めてDaniele Tasciniに会った後、彼にメールを送った時だった。会話は、こんな風に進んでいったよ。

クレジット: W. Eric Martin

ー"なぁ、一緒に仕事してみないか。"
ー"いいよ、どんなことやりたいんだ。"
ー"円環上を回りながら進むものだね。"
ー"例えば……?"
ー"オベリスクの周りにワーカーを配置する。「Photosynthesis」みたいに影が動いていくんだ!"

2週間後、Danieleからメールを受け取ると、そこには"ワーカープレイスメントじゃなくてダイスドラフトにして、オベリスクの影は、色付きのダイスの価値を変えるようにする。エジプトの神々を示す6箇所のセクションがある。それぞれのセクションには異なるアクションがあり、それぞれのアクションは次のアクションに絡んでくる。"と書いてあったよ。

私の返事は、"来週、そちらに行きましょうかね。"だった。

これは、クリスマス休暇の最中だった。1月4日、飛行機でイタリアに行き、1月7日にゲームを仕上げた。

2月には、そのゲームを出版社(Board&Dice)に見せたら、25%くらいゲームを短くできないかと尋ねられたよ。

私たちは"無理だ。"と言ったら、彼らは"できるさ。"って言ってきた。

Danieleと私は、24個のダイスの代わりに16個のダイスを使って遊んでみた。そしたら、出版社の言うことが正しいことがわかった。私たちは、カードの提示と手番順のバランスも少し調整した。デザインは完成した!

ルールブックの校正作業を含めて、全体として「テケン:太陽のオベリスク」の作業に10日間費やしたかな!

クレジット: @a_traveler

ゲームプレイの観点からいうと、「テケン:太陽のオベリスク」は、「Trismegistus: The Ultimate Formula」と「テオティワカン:シティ・オブ・ゴッズ」の中間に位置している。「Trismegistus: The Ultimate Formula」は、ダイスドラフトのメカニズムという理由で比較対象となるのは明らかだが、「Trismegistus: The Ultimate Formula」はエンジンビルドである一方で、「テケン:太陽のオベリスク」は"ほぼ決まったアクション数で、ポイントの締め付け"という「テオティワカン:シティ・オブ・ゴッズ」で採用したアプローチを取り入れている。

「テケン:太陽のオベリスク」では、プレイヤーは固定の16アクションがあり、できる限りそのアクションを効率的に使う必要がある。ダイスドラフトのメカニズムを備えた、"ほとんどないのにできる限り多くのことを行う"という感じだ。

このゲームは、想像をかきたてられる、行きつ戻りつを繰り返した共同作業だった。彼(※Daniele Tascini) 
発明家(an inventor)で、私はシステムエンジニアだ。Danieleは、2つのメカニズムを示してくれて、私はその2つがどのように繋がるかがわかる。私が彼に問題を提起すると、彼は見事な解決策を生み出す。彼は私が提起した問題を解決していくので、私たちは作業をどんどん早めることができた。将来的に、もう一度、あの創作におけるひらめき(fire)を思い出すことができたらいいなと思うよ。

クレジット: Rainer Ahlfors

DM: ワーカープレイスメントは、あなたのデザインのポートフォリオから繰り返し出てくるメカニズムですね。近日発売のゲームである「タワンティン・スウユ」は、過去最高にワーカープレイスメントを中心に据えてるように思われます。もっと詳しく教えてくれませんか。

DT: 「タワンティン・スウユ」はインカ帝国をテーマにしたゲームで、2020年10月に発売される予定の、またもやBoard&Diceから出版されるんだ。基本的に、このゲームは、Danieleから学んだ感覚と「アナクロニー」から学んだことを一体にしたものだ。そうね、神殿トラックがある。うん、セットコレクション要素がある。けど、メカニズムや選択の分かれ道(branching)は「アナクロニー」に近い。

クレジット: Neil Bunker

「アナクロニー」は多くのシステムが搭載された重量級ゲームだ。このゲームからワーカープレイスメントシステムを取り出したらどうなるのだろうかと思った。そして、私は、「アナクロニー」と同じくらい大きくて深いゲームで、全体として数多くのシステムよりもむしろ1つのシステムだけを用いたゲームを作った。他のシステムとの兼ね合い(cater for)を考える必要がなかったので、今まで見たことがある中で最も"選択肢が豊富な"ワーカープレイスメントシステムを作ることができた。初期のレビュアーの1人が、ボード上に88箇所のワーカー配置場所があって、"その1つ1つが重要となっている"とのコメントをしてくれたよ。

このゲームは、あるものを別のものに変換することを目的としたアクションのごった煮というわけじゃない。コスト、場所、コンボ、特殊効果、制限の全てが、ワーカーを配置するたびに問題となってくる。私がうまく機能することを知っているシステムを利用して、それを深めることができた。高いレベルで見れば、トラック、セットコレクション等が備わったイタリアのユーロゲームのように感じられる。けど、実のところは、自分が好きなものを深めていったんだ。

自分の手番では、ワーカーを配置するか、4つの派生的アクションから2つを行うかのどちらかを行う。1つの選択が他の選択肢を生み出し、その選択肢がさらにその先の選択肢を生み出しというように続いていく。その選択肢を追うことができるような壁に、ゲームが描かれている必要があった。当初は、現在よりも4つも多くのリソースがあった。これらは独立してその存在を正当化できなくなった段階で取り除くことになった。"金が同じ役割を果たすはずなのに、なんで銀が必要となるのか。"

その複雑さにもかかわらず、デザインには1か月しかかからなかった。フルタイムデザイナーになった利点の1つは、プロジェクトに専念できることだ。でも、私は、行き詰まるたびにソーシャル・メディアをスクロールし始める傾向にあるので、たった1つのプロジェクトだけに関与することは滅多にない。複数のプロジェクトを持つことで、行き詰まる理由の背景には何があるかを考えながら、その焦点を変えることができる。

その答えは、普通、シャワーを浴びてる間とか眠りに落ちる時に思い付く。私は、すぐに記録できるようにいつも近くに携帯電話とノートを用意している。これは欠かせないよね。

DM: 新人デザイナーに対してアドバイスはありますか。

DT: 私がここまで来たのは、運、恥を知らないこと、完全な努力のおかげだ。

最初は、"素晴らしいアイディア"なんてものはなかった。相手に引かずにしっかりと自分の意見を主張するが、他者から学ぼうと謙虚でもあった。少しばかりの運と恥知らずが役に立った。私は知られる(visible)ようにしていたし、知られる努力をしていたので、自分の実力以上の仕事をしていた(punch above my weight)。あとは、社交性かな。

誰も"素晴らしいアイディア"を大事にしない。誰もがそれを考えつく可能性があるのに。最後までやり通して(follow through)、他者と一緒に作業して考えをより良くさせることが重要な能力だ。

今になっても、"自分の意見はこうだけど、間違っていたらどうしよう"という瞬間がある。ボードゲームはとても社交的だ。私たち全員が、ゲームをプレイする際に体験を求める。自分がその体験についてどう考えるかは重要ではない。構想(a vision, ※物の見方)があるかもしれないが、デベロッパーやテストプレイヤーが自分たちの意見を述べたら、聞かざるを得ない。

人と一緒に作業ができるということは、半分以上は議論するってことだ。

以上

※前回の記事は以下のとおり。

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