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デザイナー・ダイアリー:「白鷺城/ホワイト・キャッスル」(Designer Diary: The White Castle)

本記事は、Shei Santos氏が2023年9月5日に投稿した「Designer Diary: The White Castle」の翻訳である。

Shei Santos氏は、Israel Cendrero氏と共に、スペインのマドリードに所在するLlama Dice Gamesという小規模出版社を運営しているゲームデザイナー。Shei氏とIsrael氏は共作でボードゲームを制作していることが多いようだ。めぼしいところで言うと、「モンドリアン」や「Shinkansen: Zero Kei」があり、最も有名な作品は「赤の大聖堂」であろう。本文中にもあるとおり、親日家のようである。

本記事は、彼らの新作である「白鷺城/ホワイト・キャッスル」のデザイナー・ダイアリーとなる。本作品は、10月6日の本日にCMON Japanから日本語版が出ることとなっている。

結構な話題作かと思われるが、どのようなゲームなのかについてあまり語られていない。せっかくなので、デザイン経緯を含めて本作品を知ることは意義があるように思われる。

蛇足であるが、Shei Santosに翻訳を掲載していいかコンタクトをとったところ、わざわざ出版社(Devirと思われる)にも確認をとってくれた上で、翻訳の許諾をしていただいた。デザイナーとして成功しているだけでなく、めちゃめちゃ良い人だった上、その人柄もお伝えさせていただきたいと思う。

元記事は以下のリンク先を参照されたい。ヘッダー画像はBGGから引用している(クレジット: W. Eric Martin)

2020年に変則的な形で開催されたSPIEL(※いわゆるエッセン・シュピールであり、現シュピール・エッセン 。2020年のSPIELは、感染症拡大の影響でオンラインにより開催された。その詳細は、コモノックスさんの記事を参照されたい。)の数日前に、「赤の大聖堂」における編集者であったDavid Esbríが、次の招待メッセージを添えてWhatsAppのグループを作成した。"じゃ、次のゲームに向けていつ作業を開始するかな?" もちろん、私たちは、"今すぐだよな!!!"って言ったさ。他に言うことなんてあるのかな? こんな機会はそうそう来ないもの!

当然の話だけど、私たちは、このことが精神衛生上どういう意味をもつのかをわかってなかったし、いまだに私たちに多くの喜びをもたらしてくれる小箱ゲームである「赤の大聖堂」のおかげで、"ベストセラー症候群"という言葉を身をもって知ることになるとは思わなかった。

私たちは、いつか三部作をデザインするというアイディアをいつも軽率に話していた。だから、それを検討しない手はない。今回は、完璧な機会のように思えたし、Devirもそいつはいいアイディアだと思っていた。そういうことで、私たちは取り組み始めた。既に「赤の大聖堂」があった。だから、次は、大聖堂ではないし、代表的な色が赤ではない建物にしなければならないと思っていた。私たちは間違いなく日本が大好きで、日本を最も象徴する建物の1つが姫路城(別名は白鷺城)だということで、これにしようと考えた。この城をホワイト・キャッスルと名付けた。

クレジット: Shei Santos
※左がShei Santos氏で右がIsrael Cendrero氏

じゃ、テーマは決まった。そしたら、前作と共通する部分を探す時間となる。ダイスのメカニズムはみんなが最も気に入ってくれた要素なので、ダイスと面白い選択メカニズムを取り入れなければならないことは明らかだった。

「赤の大聖堂」と同じく、当初のダイスメカニズムがゲームの全体のデベロップを支え続けた。それに、(理由があって、"ホワイト・キャッスル"と呼ばれる)この城がこのゲームの中心的存在でなければならないと確信していた。城は存在していなければならなかった。何よりも、「赤の大聖堂」の単純な進化ではあってはならなかった。完全に新しいゲームでなければならなかった。

クレジット: Shei Santos
クレジット: Shei Santos

日本について考える際に、日本の城、寺院、橋、鯉のいる池があることが多い美しい庭園を思い出すのは不可避だった。こういった要素やコンセプトを用いて、このゲームのバージョン0をデザインした。バージョン0には、最終的なゲームと似た形の橋や、部屋のある城が既に取り入れられていた。だけど、そんな安易に物事は進まなかった。

バージョン0は目も当てられないものだった。リソースはいたるところで不足し、手番処理は悪夢みたいだった。それに、ゲームメカニズムの大部分が噛み合ってなかった。けど、それでも、私たちは全て修正可能と思っていた……「赤の大聖堂」についての最初のレビュー、ゲームプレイ、コメントが届くまでは。私たちは、多分、(※「赤の大聖堂」と)同じくらい良いゲームを作れないんじゃないかと思い始めていた。

クレジット: Shei Santos

みんなロンデルをとても気に入っていた。このゲームにおける良いところはロンデルだと強調していた。私たちも大好きなところだ!

だから、私たちは考えた。なぜ、それとは違う独創的なロンデルを作って、みんなが気に入ったものを与えないのか? 新しいロンデルを作ろう! ダブルロンデル! トリプルロンデル! 数方向に動くようにしよう! ダイスなんてもう要らない! ダイスは製造費が高い! 違うことを行うカラフルなミープルのあるロンデルだ! どういう方法でゲームデザインに取り組むかという当初の展望から外れたため、私たちは完成させるのが失敗するという負のスパライルに陥り、それが1年ほど続くことになった。

クレジット: Shei Santos
クレジット: Shei Santos

なんでも試したさ! 船、戦闘、農民、多くのリソースを取り入れた。このゲームに日本の封建社会と豪族(clans)を反映したものにしたいと常に思っていたし、バージョン間でそのことが変わらないようにした。あらゆる種類、形、色のロンデルを制作した(プロトタイプの中には非常に入り組んだものもあった!)。バージョンの中には、100種類近くのカードがあって、それに関連して際限のないメカニズムが散りばめられていたものもある。けど、成果は全くない。私たちが行ったことは、間違いなく何一つ十分ではなかった。

「赤の大聖堂」と同じくらいうまくいったものはなかったが、失敗したバージョンそれぞれにおいて、気に入った要素が常にあった。

クレジット: Shei Santos

私たちは、デザインに関する作業が停滞すると自分たちの気分が変わっていくほどイラつくようになっていた。単に作業が前に進まないという事実に心をかき乱されていた。そして、スケジュールの問題を予見し始めていた。Davidと話して、何が起こっているのかを伝えた。彼は、私たちにベストセラー症候群のことを話してくれた。それは、作家が非常に大きな成功を収めた後に次作を執筆する際に体験するものだった。

こういった感情的な津波の最中に、デザインすることを中断し、「赤の大聖堂」を拡張するというアイディアを思いついた。これは素晴らしい気分転換となった。1から100までを知っているものを拡張する作業は、合格レベルに達しなければならないものを0から作るのとは異なるものになる。

クレジット: Shei Santos

この休息のおかげでまだ良いものをデザインすることができると気づいた後に、"もし、失敗したロンデルとか私たちのゲームに関するコメントとかを全て忘れて……自分たちが楽しむことに集中して、橋に立ち帰るとしたらどうなるだろう? 橋はめっちゃイカしてたよね!"ということを考えた。

クレジット: Shei Santos

それが私たちがしたことだった。バージョン0を基本として、新しいバージョンをデザインした。そこでは、このゲームで実現したかったことに対して複雑すぎたため、取り入れることを放棄した興味深いメカニズムが用いられていた。要は、プレイヤーが高い目のダイスをとった場合には、(城にある正方形のマスは低い値しかないので)お金がもらえるが、(アクション選択をするにはお金がかかることにおそらくなるであろうから)そのダイスの目(※高いダイスの目)に関連するアクションは、低い目のダイスに関連するアクションよりも弱いものにする必要があった。。考えるべきことが多すぎたし、こうしてしまうとゲームが複雑になってしまった。そういうことで、私たちはこのメカニズムを放棄していた。

こうした多くのリソース/弱いアクションとその逆(※少ないリソース/強いアクション)の相反性(duality)を取り入れたが、その後、「ティルトゥム」で目の当たりにした。そして、私たちが目の当たりにした際にはゲーム(※の完成度)が70%の出来だったから、そこは感謝してるよ。

そうして、もっと単純なコンセプトに変えることにした。つまり、そのダイスの目は、支払わなければならないお金なのか、もらわなければならないお金なのかを知るための参考になるし、実行されるべきアクションは使用したダイスの色に左右される。作業をしている間に、ボード上に印刷されたアクションを用いるのではなく、異なるアクションカードを用意して、ボードがゲームごとに劇的に変化するようにした。この変更によって、全てのことに意味が付与された。とうとうこのゲームの歯車がカチッとはまったたんだ。

クレジット: Shei Santos

ここからは、特にTabletop Simulator上のデベロップが迅速に進んだ。紙とボード紙バージョンの手作りのものでもプレイしたけれどね。

私たちはテストプレイヤーの小さなコミュニティを作った。彼らのおかげで、今、みんなが「白鷺城/ホワイト・キャッスル」を楽しむことができる。Tabletop Simulatorのセッションの中ではたったの4人しかプレイしていなかったけれども、話をしたり、今度はどこを変更させたのかを見たりするために8人がいたというのがわかって感動した……。それに、彼らはこのゲームに少し病みつきになっていたんだ。デベロップがひと段落ついた後にテストプレイヤーから受け取ることができる最高のメッセージは、何もテストするところはないけれど、まだプレイすることができるかを尋ねられることだね。

クレジット: Shei Santos

個人ボードは、単なるミープルを補助するためのものにすぎず、ボード上が空いていくことによって進展していっているという感覚が反映されると考えていた。だけど、なんか物足りない感じがした。考えたことは、城と同じようにカードのアクションを起動できたらどうだろうかというものだった。そこで、城からカードを取得して自分のボードに置くというメカニズムを考えついた。

提灯アクションの話は、やや恥ずかしいものだ。私たちは、最終的に、自分のボード上にカードの山があって終わるのが好きではなかったため、これを思いついた。カードで何ができるんだろうかって? そう、馬鹿げたアイディアの閃きがあったんだ。私たちは、隠しはしないさ。ボード上のアクションを変更して、個別アクションだけでなく、提灯アクションも強化した。そして、それで十分だった。私たちは、ボード上で進化するのを見るのが大好きだったんだ。

クレジット: Shei Santos

けど、マジョリティはどうだろうか? 「赤の大聖堂」には、ゲーム中の多くの事柄に意味を与えてくれる楽しいマジョリティメカニズムがあった。そしたら、このゲームにも加えるべきじゃないか?

結局、ほぼ常に引き分けでは終わらないようにするマジョリティのメカニズムを取り入れるのに十分な要素がなかった。そこで、各種のキャラクターに得点方法を与えることにして、それで終わりだ。マジョリティだって、だからどうした? 多分、拡張があるやもね……。

クレジット: Shei Santos

そして、橋はどうかって? 橋は、更に目立たせるべきだったね。

奇妙なことに、デベロップの過程を終えた時に、私たちは3Dプリンターを購入していた。もちろん、私たちが最初にしたことの1つは、どんな風に見えるかを確認するために3Dの橋を印刷したことだった……そして、いまだにどんな風に見えるかはわかってないけど、編集者を説得して3Dの橋を含めるようにした。

クレジット: Shei Santos
クレジット: Shei Santos

ゲームの制作が終了したら、Davidにゲームを手渡したんだ。彼は、信じられないほど素晴らしいアーティストであるJoan Guardietと緊密に作業をして、私たちが制作した醜いボードとカードに命を与えてくれた。ゲームのアートに関して私たち全員がどれほど同じ好みであるかを確認することは素晴らしいことだった。SPIEL 22において、Joanはイラストとコンセプトを見せてくれた。そして、それ単体で鳥肌ものだった。すぐに作業に進んだよ。

Meeple Foundry(※翻訳、デザイン及びグラフィックの適合性に関して専門的な解決を行う会社。アドバイザー的な立場なのだろうか。)が、私たちの制作した疑義のあるアイコン、特に脳のように見える日本庭園のアイコンがちゃんと理解されて、全ての要素が適切に配置されるようにするために、このプロジェクトに参画してくれた。こういった材料が全て揃ったので、Davidは、自分しか知らない方法で作業をすることができた。つまり、彼は、このゲームのコンポーネントとアートに魔法をかけて、あらゆるコレクションに対応できるめちゃくちゃ魅力的な商品の形にしてくれたんだ。

庭園アクション
クレジット: Shei Santos
クレジット: Shei Santos

六、七個のゲームをフルでデザインしては、十分良いものとはいえないとして断念してきたこのプロジェクトにほぼ専従して2年半が経ち、やっと、一息つくことができた。この教訓を学んでね。当初のアイディアから決して外れてはいけない、そのアイディアこそが全てうまくいく。

SheiIsra
2023年8月

クレジット: Shei Santos

以上

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