おばさんと電車と死体【リレー小説/②】(闇夜のカラス様の続きです)
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同じ鳥類として尊敬する闇夜のカラス様がスタートされたので、飛べない鳥が、勝手にバトンを拾って、隣の駅へバトンを置いてみます。
どゆこと? ぼくもまた目をパチパチさせながらおばさんの目を見つめた。何かの間違いだろうか。でもこの施設は他の安いAIドリームダイブとは格が違う。星4.88の高評価に口コミは称賛の嵐だ。エラーが起きるような施設ならもっと星1がついていたっておかしくない。
そうか。これまでになく華やかでクリア、かつディープなドリームダイブが体験できる、というのがこれか。登場人物がお客さんみたいに振舞うっていう設定なのだ。
「電車デート、楽しみにしてたのにな」
おばさんはため息をつき、窓の外へ目をやった。真っ青な空と白い雲、青い海。あまりの美しさにずっと見ていたくなる。死体さえなければ。
「僕だって、楽しみにしてたんですよ。電車デート」
驚いたようにおばさんがこちらを振り返る。くりっとした目が僕を映す。
「え、じゃあオーダー通りってこと?」
「えっと、まあだいたい。ちょっと想像とは違うところもありますけど」
貴方が予想外です、とは言えない。あと、死体。
ふうん、と言いながらおばさんはあごを指でなでると、ポンと手を叩く。
「じゃあしようよ。電車デート」
「誰と?」
「私と」
「誰が?」
「君が」
「この人は?」
「ジャマね。ちょっとそっちへ移動しましょう」
おばさんは男性の足元へ立ち、ぼくにあごを振って頭の方へ移動するよううながす。うつ伏せのままで持ち上げるのは難しそうなため、男性の身体を仰向けに反転させ、ぼくはそのまま情けない悲鳴を上げながら腰を抜かした。男性は驚いたような怒ったような顔で目と口を開いて絶命していた。腹部にはナイフか包丁のような柄がくっついており、薄い水色のシャツは赤黒く染まっている。
「せーので行きましょう」
おばさんは男性の足を抱えるように姿勢を下げる。ぼくはまだ悲鳴以外が口から出ない。平然と持ち上げようとするおばさんは、ぼくと目が合うと早く、と急かす。
今、気がついた。おばさんの薄いグレーのロングワンピースはまだら模様が入っているのではない。返り血だ。
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