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詩5「引っ越し」

2月生まれ占いは絶好調
予定が全てうまくいく
君に会うことをかっことじで
全部保留にしている
顔を上げると赤信号で
占いは到底当たると思えない
目の奥がたまに痛んで
僕を小さくする

住んでいた
古いアパートが解体されるので
毎週写真を撮りに通った
5週間で更地になったそこには
居場所を無くした幽霊が2、3人
物憂げに佇んでいる
新しい建物が建つのは早かった
僕はよそへと越した

越した家は角部屋で
大きな通りに面しており
ベランダが船の帆先のようで
大変に気に入った
息子がゲームをしてうるさいんですと
隣の人に言われたが
聞こえるのはお父さんの声だけだった
上からは5歳児の足音がする

新しい部屋で夢は見ない
君を一度も呼んでいない
いつか教えたい
近くの桜咲くところ
近くの銭湯
おすすめのパン屋
LINEが既読にならなくなった
君の存在を疑い始めた

コンビニの店員に顔を覚えられたので
もう死にたくなる
冬は窓の外が全部雪
車も出せないアパート
助けてと君に打つも
返事も既読もない
ねえ君は本当にいたの
このままいなくなるの

春の嵐が吹いてるけど
取り戻せないものが飛んでいく
ひどく目が痛い
ここから出して
会った時の記憶すら消えて
笑った時の口元しか思い出せない
流行り病のせいにして
君を遠ざけたのは僕だった

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