見出し画像

遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第9話 ─裏切り者を粛清しよう!─Chapter9-10


前回までの「ひみつく」は

▼第1話〜順次無料公開中!!

▼衝撃の展開が描かれる「第7話」はこちらから

▼新たに加わる5人の若者とホッパー対抗策が描かれる「第8話」はこちらから

▼ホッパーとの戦いが描かれる「第9話」はこちらから

【前回までのあらすじ】ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・29歳)。彼はその大きな力に翻弄ほんろうされる中、気になる存在になりつつあった後輩を失うことになってしまう。最初の事件で縁ができた若き敏腕びんわん弁護士の伊達隼斗(だてはやと)に支えられながら、2人は「力」の有効な使い道について、決意を固め、会社を起業する。そんな時に、マサカズと伊達の前に非常に高い能力を持つホッパー剛という青年が現れる。ホッパーはいきなり大活躍を見せる中、ある知らせをきっかけに伊達はマサカズに事業を辞めることを申し出る。弱りきっていたマサカズはホッパー剛に鍵の秘密と力をたくしてしまい、ゆがんだ暴走の矛先ほこさきは伊達に向けられる。そしてマサカズが駆けつけた時にはもう…。その後、マサカズの元には新たな5人の若者たちが集まっていたが、そこにポッパーが現れ、戦いを挑む。ホッパーの追撃をかわしたマサカズは猫矢とコンタクトを取り、覚悟を決め、雷轟流らいごうりゅう道場で短期間の修行をし、いよいよ2人は廃工場跡地で決闘をすることになった。

※本記事はこちらから見ることができます(※下の「2024年間購読版」はかなりお得でオススメです)

◆「2024年間購読版」にはサブスク版にはない特典の付録も用意していますのでぜひどうぞ!

※初めての方は遠藤正二朗氏の「シルキーリップ」秘話も読める「無料お試し10記事パック」を一緒にご覧ください!

第9話 ─裏切り者を粛清しよう!─Chapter9

 スマートフォンにセットしておいたアラームの音色で、マサカズは朝六時に目を覚ました。洗顔し、歯をみがき、髪を整えた彼は、量販店で購入した新品の下着に着替え、身支度みじたくをした。
 暗殺の危険性が消滅していないのにも関わらず、スーパー銭湯ではなく、ついにはホテルの個室を選んでしまった。巻鳥まきどりとの接触の際に感じたような、精神的に感じる不快感とそれにともなう負担を、少しでも減らしたかったからだった。監視されているのはわかったのだが、ならばせめて壁に囲まれた空間で休息を取りたかった。マサカズの中で、天秤てんびんの傾きは微妙びみょうに変化をむかえようとしていた。

 チェックアウトしたマサカズは、今日も市ヶ谷の道場をおとずれようかと考えていた。別れ際に真山まことやまは、新年元日以外は道場も開いているので、好きなときにいつでも来てもかまわない、と言っていた。今日は大晦日おおみそかなので、条件はクリアされているはずだ。きのう覚えた打撃と、何よりも戦いにおける心構えと、立ち回りでのけ引きをもっと突き詰め、みがきたい。非力な自分でも“勝てる目処めど”を見つけられるかもしれない。特に立ち回りについては、真山なりに直接手ほどきを受けたい欲求もある。この早朝において朝食をれそうな店舗を探しながら、マサカズは真山の教えを頭の中で反芻はんすうしていた。

 マサカズは後楽園駅近くのファミリーレストランに入ると、ボックス席に案内され、朝のさけ定食を注文した。
 脱いだコートと着替えを詰めたリュックをかたわらに置き、マサカズは運ばれてきた定食に手をけた。米に焼き鮭、味噌汁みそしる納豆なっとう、そして小鉢こばちといった内訳うちわけで、マサカズは黙々もくもくとそれらを口に運ぶと、窓の外の景色にときどき目を移した。すぐ目の前は片側三車線の国道で、乗用車やタクシー、バスが次々と走り去っていった。
 とうとう今年も終わりだ。それもそうだ、今日は大晦日おおみそかなのだから。大根おろしを付けた鮭を米に乗せ、それらを一緒にはしまんだマサカズは、自分が当たり前のことしか考えられないことに苦笑いを浮かべた。何もかもが保留となっている現状で、事態に対しての深掘りはしたくなかった。普通なら、今年の総括そうかつでもするのだろう。来年の展望に思いをせるのだろう。しかし、今の自分は朝定食を味わうことだけだ。ひどくわびしいとも思えるが、久しぶりに食べる納豆が想定外の美味おいしさだったので、その幸せで寂寥感せきりょうかん幾分いくぶんだがやわらいだ。

 レジで会計をませようとしたところ、マサカズは店員にポインカードかアプリの提示を求められた。確か以前、そのポイントカードは作ったはずだ。財布さいふを取り出したマサカズはカードを探したが見つからず、それならばとコートの下に着ていたテイラードのジャケットのポケットをあさってみたところ、指先が金属のざらついた感触に刺激された。

 ファミリーレストランを出たマサカズは、出所の分からない興奮を覚えつつ、ポケットから一本の鍵を取りだした。それはマサカズが手に入れた“最初”の鍵だった。持ち手の部分が折れてしまったため、合鍵製作の専門店に修理を依頼したところ、修理には期間がかかり、合鍵を作った方が早いということだったので、折れた鍵はそのままにし、ジャケットのポケットに放り込んだままにしていた。
 合鍵はこのオリジナルのキーと比べ、あらゆる面において発揮はっきできる能力が劣化れっかしていたことは確認していた。それでも充分過ぎる力があり、運用になんの支障もないと思われため、合鍵の方を使い続けてきた。何やら胸の奥がざわつく。マサカズはこれまで、すっかり存在を忘れ去っていたその鍵を、じっと見つめた。

 木枯こがらしの吹きつける中、水道橋の駅を目指して歩いていたマサカズは、頭から湯気を出すほどの猛烈もうれつな勢いで思考をめぐらせ、ざわつきの正体を突き止めようとしていた。歌舞伎町でホッパーに組み伏せられた際、無我夢中むがむちゅう力任ちからまかせで、それを振りほどいた。ホッパーは筋力と体格においてすぐれ、膂力りょりょくは自分などと比較にもならない。鍵の力は使用した個人の基礎能が影響することは、七浦葵ななうら あおいの転落死によって証明されている。それにも関わらず、自分がホッパーに力では負けなかったのは、鍵の“世代”が影響しているのではないだろうか。あのときこちらは二代目で、ホッパーの鍵はおそらく三代目だ。奪われた伊達の鍵は二代目に該当するのだが、保管したと言っていたうえ、鍵の世代についてホッパーは無知であり、二十名を超える殺害という使用実績もある、三代目を使っていると考えるのが自然だ。
「二代目対三代目……初代対三代目」
 そうつぶやいたマサカズは、足を止めた。折れた鍵、機能をめたGPS。伊達が残したオートバイ。それらがつながっていく。ぼんやりと、っすらとはしていたが、ようやく見えてきた“勝てる目処めど”に向かってつながっていく。

 総武線で代々木までやってきたマサカズは、金物店でラジオペンチを購入した。それから事務所に行き、伊達が使っていたデスクの前までやってきた。かたわらの床に転がっていたジェットタイプのヘルメットを、マサカズは拾い上げた。これから始めるのは、一種の博打ばくちだ。しかもさいは何度か振る必要があり、そのことごとくに成功しなければ、逆転の勝利はない。失敗した場合、警察に捕まることや、最悪の場合は死が待っている。

 ヘルメットを手に、マサカズは事務所を出た。次の目的地は決まっていた。それは、市ヶ谷の道場ではなかった。

 マサカズはオートバイで、群馬県みなかみ町までやってきた。ここは人里離れた鬱蒼うっそうとした山中で、十日ほど前久留間くるまたちと廃工場の解体を行った現場だった。バイクから降りたマサカズは、ヘルメットを脱いだ。
 あの時は深夜だったので、日中だとより寒々さむざむとした印象をマサカズはいだいた。更地さらちに近い吹きさらしに工業機器が設置されたままになっていて、まだ専門業者による撤去は始まっていないようだった。マサカズはどこかわびしくむなしい風景だと感じた。
 バイクのタンクを軽く叩いたマサカズは、ここに到着したことで、最初の懸念けねん払拭ふっしょくされたのことに安堵あんどしていた。
  オートバイの運転は教習所の講習で基本を学び、道路交通法についてはネットを利用し独学で最低限度の把握はできていた。そのおかげか、無免許ではあったがおよそ百三十キロメートルもの道のりを四時間以上もかけ走っている間、一度も警察から呼び止められることはなかった。慎重しんちょうに慎重を重ねて、優等生を心がけていたのが奏功そうこうしたようだ。
 その昔、高校の同級生が無免許のオートバイ運転で現行犯逮捕されたことがあったのだが、彼は法定速度を倍近く超過し、県道を猛進もうしんしたらしいので、その無謀むぼうな挑戦はマサカズにとって、今ではいい反面教師となっていた。

 次に振るさいは、初代と二代目の鍵の能力差の検証である。防御については確かめようもないが、破壊力と跳躍ちょうやく力については比較ができる。廃工場から山中に分け入ったマサカズは、交互に鍵を差し替え、飛びね、正拳突きとりを岩肌に叩きつけた。

 廃工場に戻ってきたマサカズは、バイクのハンドルにけてあったリュックを手に取ると、そこからサンドウィッチとペットボトルのコーラを取り出し、その場に胡座あぐらをかいた。比較は想像以上の結果を導き出せた。結論から言えば、初代の力は二代目をはるかに上回るものだった。雑に見積みつもれば、倍以上の差がある。思えば解体や伐採ばっさいといった、鍵の力を大規模作業に使ったのは二代目がほとんどで、初代については半グレへのローキックと、防犯カメラをできるだけけるための跳躍ちょうやく主立おもだっていた。つまりはここにいたるまで、初代の破壊力に対してほとんど検証できていなかったということになる。反省するべきことだが、今のマサカズにとっては二つ目の懸念けねんもクリアできたので、晴れがましい気持ちでサンドウィッチを頬張ほおばった。
 あとは、夜まで休息をとるだけだ。昼食を終えたマサカズは、スマートフォンを腰のポーチから出した。ここからが今回の作戦で最も肝心かんじんだ。マサカズはダウンロードしたばかりのフローチャート作成アプリを起ち上げると、最初の処理項目に“さそい出し”と入力した。

 そろそろ日がしずむ。一段と寒さが増してきたので、マサカズはコートのボタンをめ、マフラーを巻き直した。これで最後のさいになる。彼はリュックからGPS発信器を取り出すと、分厚く巻かれたアルミホイルをがした。念のため電池も新品に交換し、器機を地面に置くと、マサカズは深呼吸をし、スマートフォンでホッパーに向けてメッセージを送った。山の中だが圏外けんがいではない。これについては前回の解体の際、すでに確認していたので懸念けねん材料には入っていなかった。

 もう逃げない。ここでケリを着けよう。

 文面は極めて短かったが、マサカズはこれで相手は暴走し、飼い主の元から見えないくさりを引きちぎるだろうと考えていた。

 辺りはすっかり闇に包まれていた。時刻は午後六時となり、マサカズは先日購入した携帯ゲーム機を手にしていた。画面には、一組の男女が向き合い、互いに技をり出し戦う姿が映し出されていた。これはきのう、ホテルのWi-Fiサービスを利用してダウンロードした格闘ゲームであり、手をけるのはこれが初めてだった。このゲームは以前、高田馬場のゲームセンターで伊達とプレイした古いアーケードゲームの移植版だった。伊達はわざと手加減し、ある程度の勝負ができるように気をつかってくれたが、マサカズには面白さがわからず、プレイしたのは一度きりだった。しかし、今は違う。コンピューターの対戦相手の出方や特性を分析し、自分の操作キャラクターが何をどうできるのか把握はあくし、対応を素早く選択する。真山まことやまから教わり、春山はるやまから助言された戦いへの心がけと、立ち回りの判断がプレイにことごとくかせる。り返し戦っても勝つことはできないのだが、対戦を重ねるごとに技術が向上し、敵への理解が深まっていく。マサカズはすっかりゲームに熱中し、それは初めてと言っていい体験だった。

 ゲーム機をにぎりしめ、スティックとボタンを操作し、空手家のキャラクターを使うマサカズが、コンピューターの操作する女性の中国拳法家をようやく倒したのは、十二回目となる戦いだった。彼は思わず「よっし!」と叫んだ。すると、山道から近づいてくるオートバイの排気音が鼓膜こまくをくすぐった。マサカズはゲーム機の電源を落とすと、軽く咳払せきばらいをした。
 最後に振ったさいの目は、望んだものだった。ここからは運に任せられない。真山から教わった通り、マサカズは現れた黒い影を観察することに集中した。赤いフルカウルのバイクから降りたそれは、クリスマスに襲撃しゅうげきされた際と何ら変わりのない、黒いレザーの上下にプロテクターとマントの装備だ。左腕には鉄のたま射出しゃしゅつする装置そうちが取り付けられ、おそらくではあるが肉体以外の武器はあれだけのはずだ。マサカズは背中を向けると、ラジオペンチを使って折れた鍵を南京錠なんきんじょうに差し込み「アンロック!」と小声で叫んだ。振り返ってみると、ホッパーはヘルメットとゴーグル、スカーフを次々と脱ぎ、それらを地面に放り捨てた。
「とうとうえきれなくなったか、山田」
 野太のぶとい声で、ホッパーはそう言った。マサカズは前後にステップを開けると、両手で拳を作り、それを胸の下でかまえた。その挙動きょどうにホッパーは片眉かたまゆり上げ、目付きをするどくさせた。
「空手か?」
「フルコンっていうのを学んだ」
「対策というわけか、面白い」
 初代と三代目の力に如何いかほどの差があるのか、そしてたった一日で教わった闘争のいろはが、目の前にいる怪物に通じるのか。マサカズは強く緊張きんちょうした。この勝負に二回目はない。たった一度の敗北で機会自体が永遠に失われるのだ。より確実な勝利を得るため、マサカズは二歩下がった。
「ちょっといいか? ホッパー」
「なんだ?」
 機先きせんを制するには、少しでも相手の気持ちをみだす必要がある。それができるだけの材料を、今のマサカズは持ち合わせていた。

第9話 ─裏切り者を粛清しよう!─Chapter10完結

ここから先は

6,047字 / 1画像

■サブスク版 毎週Beep21とは 伝説のゲーム誌が21世紀の2021年に奇跡の復活を遂げた『Bee…

サブスク版 毎週Beep21

¥500 / 月

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?