遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第4話 ─鉄の掟を作ろう!─Chapter9-10
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第4話 ─鉄の掟を作ろう!─ Chapter9
「僕はこれから、こいつが僕たちのことを諦めてくれるまで嫌がらせをします」
土曜日の早朝、赤坂のホテルでマサカズはそう言った。ベッドにはガウンをかけられ、気を失った吉田が、そしてその胸の上にはマサカズがあぐらをかいていた。
「できるのか? そんなこと」
問うてみたものの、伊達は静かで落ち着いた様子のマサカズをすでに信頼していたので、これは単なる確認に過ぎなかった。
「鍵の力、使ってみます。あ、伊達さん、こういったタイプって、何が嫌なんですかね?」
「そうだな……格下の前で恥かかされたり……交際相手に危険が迫ったり……」
「あとでメールしてもらえます?」
「わかった」
吉田の処遇はマサカズに任せることにした。そして彼からの頼みで、井沢の配下である猫矢による吉田への尾行は継続されることになった。朝、ホテルを出た伊達は、それから今日の火曜日までの間、会社を有休日とし、自身はあらかじめ決めていた、こなすべき業務に取り組んでいた。吉田の嫌がりそうなことについては、これまでの経験に基づいていくつかのアドバイスを土曜日の昼までに送信しておいた。マサカズからは昼過ぎと深夜にメールが届いているが、その内容はあまりにも短く要領を得るのが難しかった。ただ、昨日の深夜に届いた文面には、「終わりました。吉田の件。明日の朝、出社します」と記されていたので、ともかく会って話を聞くべきだと考えた伊達は、定時十分前に事務所入りした。
「おはようございます。伊達さん」
すでに出社していたマサカズが、笑顔で挨拶をした。顔には疲労の色が滲んでいたが、精神的には穏やかさも感じられる。伊達はデスクから椅子を持ち上げると、マサカズが座っていた対面にそれを置き、腰を下ろした。
「おじいちゃんたちは?」
「俺が連絡するまで有休にしておいた」
「なら、明日から出社してもらわないといけませんね」
そう言うと、マサカズは手にしていたペットボトルのお茶を口に含んだ。
「つまり、吉田の脅威は取り除けたってことか?」
「たぶん」
「なにをしたんだ?」
伊達は懐からスマートフォンを取り出すと、メールの着信画面をマサカズに見せた。
「土曜の昼は“吉田気絶したまま。まだですね”。日曜の夜は“吉田、おもらししました。かなりキてます”。昨日の昼は“ストツー再現したんですけど、もうひと息ってところです”。そして、夜は“終わりました。吉田の件。明日の朝、出社します”だ。最後のはまぁわからなくもない。その確信の根拠は気になるところだけど……土曜から昨日まで、一体なにをどうしたんだ?」
「じゃあ、説明しますね。あ、その前に猫矢って人ですけど……」
「昨日の夜、連絡があった。山田さんから言われたんで、尾行を終了しますって」
「ああよかった。聞こえてたんだ。“吉田の尾行、終わってください!”って叫んだんですよ、山の中で。猫矢って人、凄いなぁ。あんなとこまでついてきてたんだ」
マサカズの言葉に頷くと、伊達は煙草とライターを取り出した。
「では、あらためて説明です。まず、土曜日については伊達さんがホテルを出たあと、一時間ぐらい吉田の上で座っていました。ベランダから出て、アパートに戻ってメシ食って寝ました。で、日曜日の昼、アイツが泊まっている大塚のホテルに行ったんですよ。あ、ここから吉田の居場所については、全部猫矢さんからの情報に基づいています。で、ホテルに乗り込んでアイツの頭を掴んで壁に押しつけました。で、ルームサービスでサンドウィッチを頼みまして、赤坂のと比べるとえらく安っぽいホテルだったんですけど、二時間ぐらい押しつけてたかな?」
「吉田の様子は?」
「すっごく驚いてました。なんでここがわかったんだ、とか、あと……もう二度と関わらないって泣きながら言うんですけど、僕は嘘だなって思いまして、その夜なんですけど、あいつがやってるガールズバーに行ったんですよ。そして、事務室からラウンジに引っ張り出して、四つん這いにしてその上に座って、コーラを注文しました」
伊達は吉田がどのような責めを受けているのか、その姿を想像しながら煙草に火をつけた。
「店は営業中?」
「ええ、店の女の子とかお客さんとか何事かって様子でしたけど、僕はいいから、いいからって感じでなだめすかしました。上手くいったかはわかりませんけど。で、しばらくすると吉田の部下とかも来たんですけど、いいから、いいからって感じで対応して、そしたら吉田、おもらししちゃったんですよ。そしたらみんな大爆笑で、アレは意外でした。なぜ笑うって感じで。あと、吉田はずーっと謝ってました。まぁ、嘘っぽいなって思いましたけど」
「マサカズ、お前、そういうことできるタイプだったんだ?」
「できませんよ。でも鍵の力があると思えばなんでもできちゃうんですよね。それと、あの兄貴の動画を思い出せば、まぁどこまでもひどいことができてしまえますね」
マサカズはそう言うと、右の足で床を軽く蹴った。
「そして昨日なんですけど、地下の駐車場で、吉田の目の前で、アイツのベンツをボコりました。あの、伊達さんが教えてくれたストツーのボーナス面の要領で。でもゲームと違って上手くいきませんね。アッパーとかじゃあんな綺麗な壊しっぷりってわけにはいきません。予め予告の電話入れといたんで、風呂に入ってた吉田がすっ飛んできたときには、もう完全に廃車って感じにはしちゃいましたけど。それで、猫矢さんからネタももらってたんで、次はお前のポルシェも同じようにするから、って脅しときました。吉田は、ずっと謝ってましたけど、嘘ですね」
煙草をふかしながら、伊達はマサカズの話に興奮を覚えていた。吉田が嫌がることのアドバイスはメールしたものの、彼の実行内容はそれを超えて効果的だと思われる。こうなると、昨晩のとどめがなんであるのか興味は高まるばかりだった。
「そして、きのうの夜です。まずはアイツの実家に行きました。大泉学園って、初めて行きましたよ。そこでちょいと拾いものをしてから、鶯谷のホテルにいた吉田を連れさらって、抱えて跳びました。吉田、ギャーギャー叫びましたよ。で、どこか適当な山奥の国道まで跳んで、なんかよくわからない橋みたいな、手すりぐらいの太さのとこに降りました。吉田と並んで座ったんです。細くてめっちゃぐらぐらとしてましたけど。で、大泉学園で拾ってきたヤツを見せたんです。小さくて可愛い老犬です。あれはパピヨンって種類だったかな? 吉田、ビックリして。僕はその犬を抱え上げて、下ではダンプとかがビュンビュン飛ばしてて、吉田は泣き出して、メリちゃんだったかな? 犬の名前を叫んで。吉田が高校生のころから一緒だった犬なんですよ。それを僕は撫でたり、高い高いしたり。そしたら吉田、あんな細いところで土下座して“もう嫌だ”って言ったんですよ」
「その言葉を以てして、お前は勝利を確信したってことか?」
「はい。嫌がられたんなら、まぁたぶん本当なんだろうなと思いました。僕はアイツに謝って欲しくなくって、嫌がって欲しかったんです。そのときわかったことなんですけど。で、メリちゃんと交通費を吉田に手渡して、猫矢さんに尾行の打ち切りを叫んで、アパートに戻りました」
マサカズの報告を受け、伊達は分析を進めてみた。しかし明確な結論は出ず、彼は険しい顔で煙草をふかし続けた。
「難しいな。お前の脅しは相当えげつないと言うか、不気味な領域に足を踏み入れてはいるけど、吉田の心にどれほどのダメージを与えたのかは……うーん、最後の老犬は確かになぁ」
「猫矢さんから電話で聞いたんですけど、吉田はお盆と正月は必ず実家に帰っているそうなんです。つまりはまぁ、メリちゃんにも愛着あるんでしょうね。親孝行ってタイプじゃありませんし」
「しかし、今後の逆襲がないとは言い切れないぞ」
「そのときは、また対応するだけです」
「わかった。しばらくは監視を続けよう。井沢さんに連絡しておく」
「煙草、一本もらえます?」
マサカズの意外とも言える申し出に、伊達は困惑した。
「吸わないんじゃなかったっけ?」
「なんとなく、どうなのかなって」
「そうか」
伊達は頷くと、マサカズに煙草を一本手渡した。
「親父や兄貴は吸うんですよね」
そう呟くとマサカズは煙草をくわえ、伊達はそれに火をつけた。マサカズは煙草を吸うと、肺に流入してきた煙の違和感に耐えられず、大きく咳き込んだ。
「ムリですね! 僕はやっぱり僕だ!!」
咳き込むマサカズの背中を、伊達はさすった。殺すことなく、怪我を負わせず、ひとまずだが敵を無力化した。このちりちり頭は、得た力を効果的に運用して目的を果たした。伊達は見込み以上の才覚に対して静かな昂ぶりを覚えていた。
第4話 ─鉄の掟を作ろう!─ Chapter10
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