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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第4話 ─鉄の掟を作ろう!─Chapter1-2


鬼才・遠藤正二朗氏による完全新作連載小説、佳境の第4話が開始!

魔法の少女シルキーリップ」「Aランクサンダー」「マリカ 真実の世界」「ひみつ戦隊メタモルV」など、独特の世界観で手にした人の心に深い想いをきざんできた鬼才・遠藤正二朗氏。

【遠藤正二朗 (えんどう しょうじろう) 】1970年3月3日生。父親は安部譲二氏。学生時代からその才能を発揮し、中学生にしてコミケデビュー。金子一馬氏と同じアニメ制作会社に在籍し、人気アニメの原画マンも担当。その後、出版社を経て、日本テレネットに入社。「魔法の少女シルキーリップ」「Aランクサンダー」などをメガCDで出し、セガサターンで「メタルファイターMIKU」「マリカ 真実の世界」「ひみつ戦隊メタモルV」などを手がけ、現在も現役として活躍中。今回『Beep21』に完全新作小説を毎週連載で執筆!

▼遠藤正二朗氏の近況も含めたロングインタビューはこちらから

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主人公の山田正一やまだ まさかず
は、ある時『鍵』という形で具現化された強大な力を手に入れる。その力を有効活用するため、主人公のマサカズと弁護士(伊達隼斗)は数奇な運命を歩むことに。底辺にいる2人が人生の大逆転を目指す物語をぜひご覧ください!

前回までの「ひみつく」は

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(Chapter01-02)【※各回一章分を無料公開中!】

鍵の力で圧倒的なパワーを見せつける主人公のマサカズと、的確な判断で彼に進むべき道を提示する弁護士の伊達。2人は底辺の状況から脱し、信頼するべきパートナーとなっていく。 イラスト : RARE ENGINE

【第1話あらすじ】
ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・28歳)。彼はその力の使い方に戸惑いながらも、同じ現場で危機を乗り越えた若き弁護士の伊達隼斗(だてはやと)の助言を得て、つけ込まれていた半グレ集団との縁を断つことに成功する。敵との死闘の中、鍵は一部が壊れてしまったが、その使い道について2人は本格的に考え始める。

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【第2話あらすじ】
敵との死闘の際、鍵は一部が壊れてしまったが、その鍵の修復を試みる中で、思わぬ使い方が判明する。伊達はその使い道について、事業計画書を書き始める一方、マサカズはアルバイト先の後輩、七浦葵(ななうらあおい)との距離が近づいていく。だがある日、日常を一変させる事件が突如起きてしまう…。

主人公マサカズと七浦葵は次第に距離が近づきつつあったが…。 イラスト : RARE ENGINE
ある事件の先に思いもしない展開がマサカズに襲いかかることに….。 イラスト : RARE ENGINE

▼自分たちの会社の"起業"の仕方もわかる!「第3話」はこちらから【※各回冒頭の一章分を無料公開中!】

【第3話あらすじ】
大きな痛みをともなう事件をて、マサカズと伊達は新たな道を進む決意をする。伊達は温めてきた事業計画書を元に新会社を起業し、奔走ほんそうする中で初仕事を見事にこなした。社長はマサカズ、副社長は弁護士事務所を辞めた伊達。すべてがうまく回り始めた時に、ある男が事務所を訪ねてきた…。

「まるで秘密結社だ…」と言っていたマサカズだったが、「力」を使い初仕事を見事にこなした矢先….。  イラスト : RARE ENGINE
マサカズの前に現れた男は聞き慣れた声の主であった…。 イラスト : RARE ENGINE

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第4話 ─鉄の掟を作ろう!─ Chapter1

 大柄おおがら体躯たいくには赤いアロハシャツ、下半身はあちこちが破れたダメージジーンズ、そして素足にはサンダルを。これが三年ぶりに相対した兄、山田雄大やまだゆうだいの身なりだった。マサカズもコミックのキャラクターがプリントされたTシャツにデニムとスニーカーをき、四人の老人たちもネクタイをしていなかったので、兄の服装自体は場違いと異端視いたんしするほどではなかった。だが、見かけではない。その中身はここにいる自分たちとは違う。背中を軽く丸め両手にポケットに手を突っ込み、ほおを引きらせ人を食ったような不敵な笑みを浮かべ、鼻をふんふんと鳴らしながら物色するような目で事務所じゅうを見回している。そう、自分たち五人と彼は違う。品性に欠け、粗野そやで、抜け目がない。同じおりに混ぜてはいけない存在だ。マサカズは警戒心を強め、分析を進めた。
 相変わらずだ。二十年以上、この兄とは関わってきた。ここ十年では断続的な情報しか知り得てはいないのだが、彼自身を取り巻く状況は好転していないはずだ。前科こそないが法律に触れる悪事に手をめ、逮捕されたものの不起訴になったこともあったはずだ。マサカズは兄の動向に警戒しながらも責任者として求められる対応に当たることにした。スチールの扉を背にした兄にマサカズは注意をするため声をかけようとした。
「いやぁ! ミッシングゼロ? マサカズ-! お袋から話は聞いたし、ホームページ見たぞー! よもやお前が社長になるなんてな。せまいながらもたいしたもんだよ! 兄として、この山田雄大、深い敬意を現したく存じ上げます」
 兄はポケットから手を出し、左手を腹の前でL字に曲げ、執事の真似をするようにうやうやしく頭を下げた。パートの四人は唐突に現れた兄に対して理解が追いついていないようであるが、その答えを自分に求めてくる者はいない。そう、つまり兄はここにいても良いという許可証を勝手に発行し、それをひかえめにちらつかせているのだ。マサカズは記憶を総動員して、現れた予想外の個性に対して身構みがまえた。
 機先きせんを制された。いつもこうだ。自分や両親が何か注意をしようとすると兄は気配を察し、こうやっておちゃらけた様子でユーモアを交え、会話のペースを握ってしまう。当事者に対してくだらないとあきれさせ、面倒だと思われ、そのすきにそれ以外の興味をき、つける。マサカズは兄との過去のやりとりを、具体的な出来事ではなく感覚として思い出し、れた。
「ほんとはさ、花輪とかなんだけよね。そりゃあボクだって兄として祝福したかったよ。だけど金欠でさぁ。だってボク、お人好しでしょ? ねぇマサカズ」
 これ以上ペースを握られては危険だ。マサカズはそう判断すると、デスクから出て兄の前まで進んだ。
「ここへは何の用です? 呼び鈴も鳴らさずに突然入ってくるなんて、非常識で……」
 言い終えぬうちに、兄はマサカズの背後に回り込み、太い腕を彼の首に回した。
「ごめんごめん、あやまるって。だってよ、お前が社長なんてうれしくってさ、呼び鈴とかってあったっけって感じ!」
 うそだ。この間合いを成立させるための奇襲きしゅうでしかない。そのやり口をよく知っていたマサカズは、兄を突き放した。
「用件はなんです? 弊社へいしゃにお仕事のご依頼ですか?」
 硬い語調を崩さない弟に、兄はあごに手を当て首をかしげ、口先をとがらせた。
「マサカズ。ボクをやとってよ」
 想像していた要求のひとつであったが、もっとも忌諱きいするべき内容だったため、マサカズは身を引き、「冗談!」き捨てた。
「マジよマジ。親族は信用できるだろ? ベンチャーにおいて信用できる仲間が一番の武器だ。あ、もちろんいきなり正社員なんてムシのいいことは言わない。最初はバイトでいいし……」
 くちびるに人差し指を当てた兄は目を泳がせると、情けなく微笑ほほえんだ。
「申し訳ない! そうなったらマサカズ殿どのはボクのボスってことになりますです! ラッシングゼロ参加のあかつきには、敬語で接するしだいであります!」
 最後に不格好ぶかっこうな敬礼をして、兄はそうめくくった。不安になったマサカズが背後の様子を探ると、四人のうち木村を除いた三名から、ほがらかな様子がうかがい知れてしまった。三人共、ゆるんだみを浮かべ、目の前のユーモアを楽しんでいるようでもある。兄がり広げている茶番を彼らは好意的に受け入れてしまっているということだ。この空気をふくらませるわけにはいかない。マサカズはさられた。
兄貴あにき、ここは会議室も応接もない。話があるからちょっとついてきてくれ」
 その提案に、兄は「従うであります!」とはずんだ声で返すと、四人の老人に小さく手を振りウインクをした。

 代々木駅の近く、とあるハンバーガーチェーン店の客席に兄弟は向き合っていた。周囲は学生たちでにぎわい、兄弟は店内の平均年齢を引き上げるのに貢献こうけんしていた。
「社長なのにファストフードのハンバーガー? ショボいねぇ。あ、前の大統領もハンバーガー死ぬほど好きだって言うから、いいのか。もしかしてマサカズ、パクってる?」
「まず……」
 マサカズが切り出そうとすると、兄はてのひらを突き出して言葉を制しようとした。しかし、弟は正面から強行突破するため、分厚いそれを手のこうはじいた。マサカズの行為に兄はあごを引き、彼をにらみつけた。
「ウチじゃ兄貴はやとえない。理由は余裕がないのと、今のところ人が足りているからだ」
「あんなジジイ共、戦力外だろ?」
「いや、みんな有能だ」
「でも通院とか多いんじゃねーの?」
 兄の指摘は正しかった。事務所を開いてから十日ほどがつが、四人のパートスタッフは老体をケアするため通院を理由に何度が直行、直帰をしていた。営業で外出しがちな伊達は別として、四人が丸一日定時の勤務を満了したのはたった一日だけだった。
「ホラ、そうだろ? それにあんなショボい事務所っつっても、お前ひとりじゃムリだろ。会社なんてできないだろ? つーか、よく起業できたな? なんか、そーゆーパッケージ的なサービスとか利用したのか?」
 早口でまくし立てた兄は、アイスコーヒーのストローを口にした。マサカズは左のほおり上げ、フィッシュバーガーを片手に兄を指さした。
「残念。ホームページ見ただけじゃわかんないだろうけど、今の俺には強力なビジネスパートナーがいる」
 兄からリアクションがなかったため、マサカズは説明を続けた。
「取締役で副社長だ。しばらく営業に出てて事務所に戻るのは先だけど、一流の弁護士で、俺の顧問も引き受けてくれている」
 兄はアイスコーヒーをいきると、乱暴らんぼう所作しょさで紙コップをたたきつけるように置き、ドスのいた声で低くうなるように「聞いてねーぞ、それ」とだけ返した。
「ある事をきっかけに、俺たちは友だちになった。まぁ、伊達さんが兄貴を認めるって言うのなら、入社を認めてあげたっていいけど。まずムリだろうね。伊達さんは兄貴みたいな厄介やっかい者専用の刑事弁護人なんだ。兄貴なんて、すぐに“見抜かれる”よ」
 自信に満ち、高揚こうようした口調のマサカズだった。兄はテーブルで人差し指と中指をタップダンスのようにせわしなくステップさせた。しばらくすると手を止め、マサカズに強い眼差まなざしを向けた。
「マサカズ、テメー、オレを売るつもりか?」
脈絡みゃくらくがわかんないって。今の兄貴がどんな状況かはわからないけど」
 マサカズの即答に、兄はおくしたように大柄を縮み込ませると両手を合わせた。
「きっと親父たちだって喜んでくれると思うんだよ。な、マサカズ、兄貴を助けてくれよ」
「けど、伊達さんに相談しないと」
 視線を外したマサカズに、兄は身を乗り出して見下ろし、野卑やひみを浮かべた。
「さっきから聞いてりゃなんだよ、いちいち“ダテさん”“ダテさん”“ダテさん”って、お前、社長なんだろ? すこしはテメーで物事を決めてみろよ。あ、それとも“ダテさん”ってお前のアレか?」
 小指を立ててきた兄のおどけ顔に、テーブルのコーラをかけてやりたくなったマサカズだったが、それをさせることがこの態度の目的だと察した彼は、じっとえるしかなかった。
「とにかくよ、もう一度あの事務所に行こうや。オレにできることが見つけられるかも知れねぇ。そうすりゃ“伊達さん”にもオレを売り込めるだろ?」
 あまりにも一方的だったが、ここで無下むげな態度で兄を撃退すれば、このあと栃木の両親とも厄介やっかいなやりとりが生じてしまう可能性もある。マサカズは兄に押されるまま、彼を事務所まで連れて帰った。

「あらためまして皆様方! ちょいとお邪魔じゃまさせてもらいますよ」
 作り笑いで手をみながら、兄は事務所の中を進み、伊達のテーブルにつこうとした。
「ああ、ダメです。そこは副社長の席です」
 兄を止めたのは寺西だった。やや小太りで目の細い彼に対して、マサカズは極めて温厚かつ常識的な人物だと感じていたため、この制止も彼としては当然の行動だと思った。
「あ、“伊達さん”のなんだ。どーりでなんか、理知的な香りがしてくるでありますなぁ。さすがは敏腕びんわん弁護士!」
「おお、伊達副社長をご存じで?」
 浜口に問いに、兄は大きくうなずき「うい」と返した。
「伊達さんのことは僕がさっき教えたばかりです。兄は伊達さんと知り合いとかじゃありませんから」
 伊達の性別すら知らぬのに、まるで以前からの知人であるかのような態度である。苛立いらだちを覚えたマサカズがそう説明すると、兄とマサカズの間に木村が割って入った。
「で、この人、どうするんですか社長」
 木村は低音で暖かみのある声をした整った顔立ちの老人であり、四人の中では最も合理的な考え方の持ち主だったが、その反面、融通ゆうずうかない一面もあった。マサカズにとっては、高校のころの数学教師を思い出させる人物でもある。兄は木村と寺西を見くらべると笑みを消し、下唇したくちびるをにゅっと突き出した。これは、彼が慎重しんちょうさを発揮はっきする際のくせでもあり、マサカズにとっては警戒するべき所作しょさだった。
「あ、つまりですね、これって、この状況ってのは兄が、僕の親族が起業を祝って訪ねてきてくれたって、それだけです」
「しかし、さっきはやとってと……?」
「雇いませんよ。親族がお祝いで訪ねてきた。それだけのことです。ねぇ兄貴。歓迎するよ」
 マサカズにそう振られた兄は、わざとらしく肩を落として残念そうに表情を曇らせた。
「あーあ、弟と一緒に働きたかったなぁ。仕方ない。皆々様、どうかウチの弟をしっかりと盛り立ててくださいであります! また遊びにきますであります。次回はお土産みやげ持参であります!」
 ともかく、横暴で無礼で態度の大きい兄の撃退には成功した。事務所を出て行くその後ろ姿を見ながら、マサカズは拳を強く握りしめた。ただひとつ疑問だったのが、ハンバーガー店で言っていた「オレにもできることがあるかも知れねえ」と言っていたことだ。一度は事務所まで連れて帰ったが、彼は何もせず挨拶あいさつだけをして引き下がっていった。あの下唇のくせにヒントが隠されているのだろうか。マサカズは、兄のすみやかなる撤退がひどく不気味に思えてしまった。

第4話 ─鉄の掟を作ろう!─ Chapter2

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