遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第5話 ─信じられる仲間を集めよう!─Chapter1-2
鬼才・遠藤正二朗氏による完全新作連載小説、佳境の第5話が開始!
「魔法の少女シルキーリップ」「Aランクサンダー」「マリカ 真実の世界」「ひみつ戦隊メタモルV」など、独特の世界観で手にした人の心に深い想いを刻んできた鬼才・遠藤正二朗氏。
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主人公の山田正一は、ある時『鍵』という形で具現化された強大な力を手に入れる。その力を有効活用するため、主人公のマサカズと弁護士(伊達隼斗)は数奇な運命を歩むことに。底辺にいた2人が人生の大逆転を目指す物語をぜひご覧ください!
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第5話 ─信じられる仲間を集めよう!─Chapter1
赤い帽子にオーバーオールのイタリアンと思しきそれが、真っ暗な画面で横向きに跳ねる。挙げられた拳は上層の床を震わせ、歩いていた亀が転倒した。すると白い帽子を被った、やはりオーバーオールが亀に接触し、それははじけ飛んでいった。
九月に入り、最初の日曜日になった。今日、株式会社ナッシングゼロは定休日だったが、二人の青年役員は仕事のため高田馬場のゲームセンター“エンペラー”を訪れていた。空調と幾重もの電子音がどよめきのように耳をくすぐる中、テーブル筐体に並んで座っていたマサカズと伊達は、二人の兄弟が亀や蟹と戦う古いビデオゲームに興じていた。
「マリオって、こんなこともしてたんですね」
マサカズの驚きに、伊達はうっすらと微笑んだ。
「ああ、これは最初に兄弟を冠にしたタイトルだ。だから兄弟で戦っていた。けどな」
伊達が赤い帽子のキャラクターを操作すると、マサカズの白い帽子は床から跳ね飛ばされ、歩いていた亀に触れると急に正面を向き、両手をバタつかせながら画面の底部へと落ちていった。それが敗北を示唆していることは明白だったため、マサカズは顎を付き出し、加害者である伊達を横目で見た。
「こうやって、足の引っ張り合いだってできちまうんだ」
「まるで、俺たち兄弟みたいですね」
マサカズの言葉を受け、伊達はゲームの選択を誤っていたと初めて気づいた。まだ一週間程度しか経っていないというのに、よりによって兄弟で殺し合いが成立してしまうゲームに誘うとは無神経にも程がある。伊達はジョイスティックレバーから手を離し、マサカズから顔を背けた。
「古っ! それって前世紀のゲームですよねっ!」
聞き覚えがあった。後ろから浴びせられた威勢のいい声に、マサカズは素早く振り返った。
声をかけてきた若い男は、Tシャツにデニムといった、マサカズと似たような出で立ちだった。腰にはスタジアムジャンパーを巻き、イエローのシックスインチブーツを履いており、痩せ型で足が長く、やや猫背である。チェックのハンチング帽を目深に被り、髪はあちこちが跳ね上がり、目は細く自然な笑顔が清涼感すら漂わせていた。マサカズは声の主が想像とあまりずれていない容姿だったので、彼が猫矢春平であると疑わなかった。
“エンペラー”を出たマサカズたち三人は、高田馬場の駅ガードを越え、神田川を見渡せる小さな公園までやってきた。時刻は正午過ぎであり、残暑の太陽は三人を容赦なく照りつけていた。確か、今日で何日か連続の真夏日だ。その記録がスタートする前日はやはり何日か続いた猛暑日だった。マサカズはその“何日か”をさっぱり記憶しておらず、そもそも興味自体がなかった。ただ、うんざりするほど“暑い”日が続いている。猫矢はリュックから茶封筒を取り出すと、それを伊達に手渡した。
「えーと、おやっさんってどーしてるんですか? その中に必要なことは全部記されちゃってますけど」
やや鼻にかかった声で、猫矢は伊達たちに尋ねた。
「“おやっさん”って、井沢さんのことか?」
「そーです、そーです」
「あの人だったら……そうだな、こういったケースの場合だと、書面の内容をざっくりと報告してくれることが多いかな?」
「でしたら……」
猫矢が話す内容を取りまとめようとしたところ、マサカズが割って入るように彼の前に乗り出した。
「キミが猫矢さんなんだよね?」
「にゃーん。その通りです」
「ほんと、こないだは助かったよ。吉田の居場所もばっちりだったし、ワンちゃんの件とか、重要情報も追加してもらえて」
「まー、仕事ですから」
内容こそ素っ気ないが笑顔のままだったので、マサカズの猫矢に対する印象は上ぶれしたままだった。
「尾行なんて、すごいよね。よくできるって思うよ。猫矢さん、井沢って人から教わったの?」
興味津々にそう尋ねるマサカズに対して、猫矢はベンチに腰を下ろし視線を向けた。
「実はですね、山田さんの尾行もしたことあるんですよ。俺」
質問に対しての返答ではなかったが、あまりにも刺激的な内容だったため、マサカズは興味を増し、猫矢の隣に座った。
「ヤバ、じゃあ僕の力のことも……」
「ローキック、こっそり見せてもらいましたよ」
マサカズと猫矢のやりとりがあまり有益ではないと感じた伊達は、二人の前に立つと仏頂面で腕を組んだ。
「猫矢、なんでキミなんだ? 井沢さんは?」
「おやっさん、このまま山田さんたちと関わったら判断が鈍って下手すりゃ地獄行きだって、だから俺が今後は窓口になれって……え!? じゃー俺はどーなってもいーのかよって」
そう言うと、猫矢はゲラゲラと笑い出し、足を上下させた。
「まー、おやっさんにゃ逆らえないから、いーんですけどね」
猫矢は手にしていたペットボトルのスポーツドリンクをごくごくと飲むと、口を拭ってマサカズとの間を空けた。
「じゃ、おやっさんみたく、概要について報告しますね。まず、吉田はフィリピンに逃げました。犬とハムスター連れで。理由は山田さんが怖いからです。それと、吉田の一連の動きについちゃ、池袋ドラゴンは噛んでません。吉田が二人の子分使って個人的にってやつです。まぁ、組織も吉田の逃亡の原因が山田さんだって把握してるっぽいですけど、いまあの界隈で山田さんに手を出そうってチャレンジャーは出てこないでしょうね。これは、俺じゃなくておやっさんの見立です」
吉田は土下座して、自分を拒絶した。しかしなおも国外へ高飛びをするということは、これ以上こちらから手出しをしないという信用がまったくないからだ。彼は稼業柄猜疑心が強いため、それも当然の判断だろう。マサカズは猫矢の報告を自分なりに分析していた。
「終戦……ってことか」
そう呟いた伊達は煙草の箱を取り出したが、マサカズの刺さるような視線を感じたため、それを再びジャケットのポケットに戻した。
「そう考えていいと思いますよ。ですんで、俺もお二人と会うのはこれで最後かもしれませんね」
猫矢はベンチから腰を上げると、左手首を軽やかに振りながら公園から路地に出て行った。伊達は入れ替わるようにマサカズの隣に座った。
「若いですよね。彼。下手すりゃハタチにもなってないかも」
「井沢さんはああいった手合いを何人か飼ってる。中でも猫矢はかなりいいスジをしてるって、井沢さんは言ってたよ」
「まぁけど確かに吉田絡みが全部終わったんなら、もう井沢さんとかのお世話になる機会も減るでしょうね」
「ああ、真っ当なビジネスを進めよう。でな、マサカズ、これは提案なんだが、そろそろスタッフを増やさないか? 正直なところ、事務職が足りていない」
「アレ? それこそ井沢さんに頼めばいいんじゃないですか? 猫矢さんみたいな人材、紹介してくれるかもですよ」
「“事務”って言っただろ? それにもう今後は非合法から距離を置くべきだ。俺たちは色々とその、やりすぎている」
「まぁ、吉田にやったこととか、普通に考えればどーかしてますよね。もちろん、どーかしてるのはあいつらが先ですけど」
「お前の力はもっとまともな使い道があるはずなんだ。モグリの解体業で終わるつもりはない。だから、それを実現するためにも、とにかく真っ当にいく必要がある」
「モグリの解体業、儲かりますけどね。保司さんもいい人だし」
「それに甘えてちゃいけないんだ。ズルズルと引きずり込まれて、取り返しが付かない沼の底まで一直線だ」
マサカズは膝の上で指を組み、背中を丸めた。沼の底には、おそらくあの大柄な兄が待っているのだろう。あの小さな後輩が足掻いているのだろう。膝まで頭を垂らしたマサカズは、「そうですね」と呻くように返した。
第5話 ─信じられる仲間を集めよう!─Chapter2
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