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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第5話 ─信じられる仲間を集めよう!─Chapter1-2


鬼才・遠藤正二朗氏による完全新作連載小説、佳境の第5話が開始!

魔法の少女シルキーリップ」「Aランクサンダー」「マリカ 真実の世界」「ひみつ戦隊メタモルV」など、独特の世界観で手にした人の心に深い想いをきざんできた鬼才・遠藤正二朗氏。

【遠藤正二朗 (えんどう しょうじろう) 】1970年3月3日生。父親は安部譲二氏。学生時代からその才能を発揮し、中学生にしてコミケデビュー。金子一馬氏と同じアニメ制作会社に在籍し、人気アニメの原画マンも担当。その後、出版社を経て、日本テレネットに入社。「魔法の少女シルキーリップ」「Aランクサンダー」などをメガCDで出し、セガサターンで「メタルファイターMIKU」「マリカ 真実の世界」「ひみつ戦隊メタモルV」などを手がけ、現在も現役として活躍中。今回『Beep21』に完全新作小説を毎週連載で執筆!

▼遠藤正二朗氏の近況も含めたロングインタビューはこちらから

『Beep21』では遠藤正二朗氏の完全新作小説を毎週月曜に配信中!
主人公の山田正一やまだ まさかず
は、ある時『鍵』という形で具現化された強大な力を手に入れる。その力を有効活用するため、主人公のマサカズと弁護士(伊達隼斗だてはやと)は数奇な運命を歩むことに。底辺にいた2人が人生の大逆転を目指す物語をぜひご覧ください!

前回までの「ひみつく」は

▼第1話を最初から読む人はこちらから(Chapter01-02)

鍵の力で圧倒的なパワーを見せつける主人公のマサカズ(左)と、的確な判断で彼に進むべき道を提示する弁護士の伊達(右)。2人は底辺の状況から脱し、信頼するべきパートナーとなっていく。 イラスト : RARE ENGINE

【第1話あらすじ】
ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・28歳)。彼はその力の使い方に戸惑とまどいながらも、同じ現場で危機を乗り越えた若き弁護士の伊達隼斗(だてはやと)の助言を得て、つけ込まれていた半グレ集団との縁を断つことに成功する。敵との死闘の中、鍵は一部が壊れてしまったが、その使い道について2人は本格的に考え始める。

▼"鍵"の予期せぬ使い方と急展開の事件が描かれる「第2話」はこちらから

【第2話あらすじ】
敵との死闘の際、鍵は一部が壊れてしまったが、その鍵の修復を試みる中で、思わぬ使い方が判明する。伊達はその使い道について、事業計画書を書き始める一方、マサカズはアルバイト先の後輩、七浦葵(ななうらあおい)との距離が近づいていく。だがある日、日常を一変させる事件が突如とつじょ起きてしまう…。

主人公マサカズと七浦葵は次第に距離が近づきつつあったが…。 イラスト : RARE ENGINE
ある事件の先に思いもしない展開がマサカズに襲いかかることに….。 イラスト : RARE ENGINE

▼自分たちの会社の"起業"の仕方もわかる!「第3話」はこちらから

【第3話あらすじ】
大きな痛みをともなう事件をて、マサカズと伊達は新たな道を進む決意をする。伊達は温めてきた事業計画書を元に新会社を起業し、奔走ほんそうする中で初仕事を見事にこなした。社長はマサカズ、副社長は弁護士事務所を辞めた伊達。すべてがうまく回り始めた時に、ある男が事務所を訪ねてきた…。

「まるで秘密結社だ…」と言っていたマサカズだったが、「力」を使い初仕事を見事にこなした矢先….。  イラスト : RARE ENGINE
マサカズの前に現れた男は聞き慣れた声の主であった…。 イラスト : RARE ENGINE

▼兄弟の因縁とその決着が描かれる「第4話」はこちらから

【第4話あらすじ】
マサカズの元にやってきたのは3年ぶりに会う、実の兄・山田雄大であった。雄大はマサカズたちの会社に入り込もうとする中で、マサカズの秘密の力を知り、自分の動画サイトでそれを暴露しようするが、それは最悪の結果を迎むかえることになってしまう。その中でマサカズは自分に足りない"掟"とも言えるルールを自身に課すことを決意する。

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第5話 ─信じられる仲間を集めよう!─Chapter1

 赤い帽子にオーバーオールのイタリアンとおぼしきそれが、真っ暗な画面で横向きにねる。挙げられたこぶしは上層の床をふるわせ、歩いていた亀が転倒した。すると白い帽子をかぶった、やはりオーバーオールが亀に接触し、それははじけ飛んでいった。
 九月に入り、最初の日曜日になった。今日、株式会社ナッシングゼロは定休日だったが、二人の青年役員は仕事のため高田馬場のゲームセンター“エンペラー”をおとずれていた。空調と幾重いくえもの電子音がどよめきのように耳をくすぐる中、テーブル筐体きょうたいに並んで座っていたマサカズと伊達は、二人の兄弟がかめかにと戦う古いビデオゲームにきょうじていた。
「マリオって、こんなこともしてたんですね」
 マサカズの驚きに、伊達はうっすらと微笑ほほえんだ。
「ああ、これは最初に兄弟をかんむりにしたタイトルだ。だから兄弟で戦っていた。けどな」
 伊達が赤い帽子のキャラクターを操作すると、マサカズの白い帽子は床から跳ね飛ばされ、歩いていた亀にれると急に正面を向き、両手をバタつかせながら画面の底部へと落ちていった。それが敗北を示唆しさしていることは明白だったため、マサカズはあごを付き出し、加害者である伊達を横目で見た。
「こうやって、足の引っ張り合いだってできちまうんだ」
「まるで、俺たち兄弟みたいですね」
 マサカズの言葉を受け、伊達はゲームの選択をあやまっていたと初めて気づいた。まだ一週間程度しかっていないというのに、よりによって兄弟で殺し合いが成立してしまうゲームにさそうとは無神経にもほどがある。伊達はジョイスティックレバーから手を離し、マサカズから顔をそむけた。
「古っ! それって前世紀のゲームですよねっ!」
 聞き覚えがあった。後ろからびせられた威勢いせいのいい声に、マサカズは素早く振り返った。
 声をかけてきた若い男は、Tシャツにデニムといった、マサカズと似たようなで立ちだった。腰にはスタジアムジャンパーを巻き、イエローのシックスインチブーツをいており、せ型で足が長く、やや猫背ねこぜである。チェックのハンチング帽を目深まぶかかぶり、髪はあちこちが跳ね上がり、目は細く自然な笑顔が清涼感すらただよわせていた。マサカズは声の主が想像とあまりずれていない容姿だったので、彼が猫矢春平ねこやしゅんぺいであるとうたがわなかった。

 “エンペラー”を出たマサカズたち三人は、高田馬場の駅ガードを越え、神田川かんだがわを見渡せる小さな公園までやってきた。時刻は正午過ぎであり、残暑の太陽は三人を容赦ようしゃなく照りつけていた。確か、今日で何日か連続の真夏日だ。その記録がスタートする前日はやはり何日か続いた猛暑日だった。マサカズはその“何日か”をさっぱり記憶しておらず、そもそも興味自体がなかった。ただ、うんざりするほど“暑い”日が続いている。猫矢はリュックから茶封筒を取り出すと、それを伊達に手渡した。
「えーと、おやっさんってどーしてるんですか? その中に必要なことは全部しるされちゃってますけど」
 やや鼻にかかった声で、猫矢は伊達たちにたずねた。
「“おやっさん”って、井沢いざわさんのことか?」
「そーです、そーです」
「あの人だったら……そうだな、こういったケースの場合だと、書面の内容をざっくりと報告してくれることが多いかな?」
「でしたら……」
 猫矢が話す内容を取りまとめようとしたところ、マサカズが割って入るように彼の前に乗り出した。
「キミが猫矢さんなんだよね?」
「にゃーん。その通りです」
「ほんと、こないだは助かったよ。吉田の居場所もばっちりだったし、ワンちゃんの件とか、重要情報も追加してもらえて」
「まー、仕事ですから」
 内容こそないが笑顔のままだったので、マサカズの猫矢に対する印象は上ぶれしたままだった。
尾行びこうなんて、すごいよね。よくできるって思うよ。猫矢さん、井沢って人から教わったの?」
 興味津々きょうみしんしんにそうたずねるマサカズに対して、猫矢はベンチに腰を下ろし視線を向けた。
「実はですね、山田さんの尾行もしたことあるんですよ。俺」
 質問に対しての返答ではなかったが、あまりにも刺激的な内容だったため、マサカズは興味を増し、猫矢のとなりに座った。
「ヤバ、じゃあ僕の力のことも……」
「ローキック、こっそり見せてもらいましたよ」
 マサカズと猫矢のやりとりがあまり有益ではないと感じた伊達は、二人の前に立つと仏頂面ぶっちょうづらで腕を組んだ。
「猫矢、なんでキミなんだ? 井沢さんは?」
「おやっさん、このまま山田さんたちと関わったら判断がにぶって下手へたすりゃ地獄行きだって、だから俺が今後は窓口になれって……え!? じゃー俺はどーなってもいーのかよって」
 そう言うと、猫矢はゲラゲラと笑い出し、足を上下させた。
「まー、おやっさんにゃさからえないから、いーんですけどね」
 猫矢は手にしていたペットボトルのスポーツドリンクをごくごくと飲むと、口をぬぐってマサカズとの間をけた。
「じゃ、おやっさんみたく、概要について報告しますね。まず、吉田はフィリピンに逃げました。犬とハムスター連れで。理由は山田さんがこわいからです。それと、吉田の一連の動きについちゃ、池袋ドラゴンはんでません。吉田が二人の子分使って個人的にってやつです。まぁ、組織も吉田の逃亡の原因が山田さんだって把握はあくしてるっぽいですけど、いまあの界隈かいわいで山田さんに手を出そうってチャレンジャーは出てこないでしょうね。これは、俺じゃなくておやっさんの見立みたてです」
 吉田は土下座どげざして、自分を拒絶きょぜつした。しかしなおも国外へ高飛びをするということは、これ以上こちらから手出しをしないという信用がまったくないからだ。彼は稼業柄猜疑心さいぎしんが強いため、それも当然の判断だろう。マサカズは猫矢の報告を自分なりに分析していた。
「終戦……ってことか」
 そうつぶいた伊達は煙草たばこの箱を取り出したが、マサカズのさるような視線を感じたため、それを再びジャケットのポケットに戻した。
「そう考えていいと思いますよ。ですんで、俺もお二人と会うのはこれで最後かもしれませんね」
 猫矢はベンチから腰を上げると、左手首を軽やかに振りながら公園から路地ろじに出て行った。伊達は入れ替わるようにマサカズのとなりすわった。
「若いですよね。彼。下手すりゃハタチにもなってないかも」
「井沢さんはああいった手合てあいを何人かってる。中でも猫矢はかなりいいスジをしてるって、井沢さんは言ってたよ」
「まぁけど確かに吉田がらみが全部終わったんなら、もう井沢さんとかのお世話になる機会も減るでしょうね」
「ああ、とうなビジネスを進めよう。でな、マサカズ、これは提案なんだが、そろそろスタッフを増やさないか? 正直なところ、事務職が足りていない」
「アレ? それこそ井沢さんにたのめばいいんじゃないですか? 猫矢さんみたいな人材、紹介してくれるかもですよ」
「“事務”って言っただろ? それにもう今後は非合法ひごうほうから距離を置くべきだ。俺たちは色々とその、やりすぎている」
「まぁ、吉田にやったこととか、普通に考えればどーかしてますよね。もちろん、どーかしてるのはあいつらが先ですけど」
「お前の力はもっとまともな使い道があるはずなんだ。モグリの解体業で終わるつもりはない。だから、それを実現するためにも、とにかく真っ当にいく必要がある」
「モグリの解体業、もうかりますけどね。保司ほしさんもいい人だし」
「それに甘えてちゃいけないんだ。ズルズルと引きずり込まれて、取り返しが付かない沼の底まで一直線だ」
 マサカズはひざの上で指を組み、背中を丸めた。沼の底には、おそらくあの大柄おおがらな兄が待っているのだろう。あの小さな後輩が足掻あがいているのだろう。ひざまで頭をらしたマサカズは、「そうですね」とうめくように返した。

第5話 ─信じられる仲間を集めよう!─Chapter2

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