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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第5話 ─信じられる仲間を集めよう!─Chapter3-4


前回までの「ひみつく」は

▼第1話を最初から読む人はこちらから(Chapter01-02)

▼"鍵"の予期せぬ使い方と急展開の事件が描かれる「第2話」はこちらから

▼自分たちの会社の"起業"の仕方もわかる!「第3話」はこちらから

▼兄弟の因縁とその決別が描かれる「第4話」はこちらから

【前回までのあらすじ】
ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・28歳)。彼はその大きな力に翻弄ほんろうされる中、気になる存在になりつつあった後輩を失うことになってしまう。最初の事件で縁ができた若き敏腕びんわん弁護士の伊達隼斗(だてはやと)に支えられながら、2人は「力」の有効な使い道について、決意を固め、会社を起業。まるで秘密結社のような会社"ナッシングゼロ"へ3年ぶりに会う、実の兄・山田雄大が訪れる。マサカズの秘密を知ってしまった彼はそれを暴露しようとして最悪の結果を迎えることに。これからは真っ当な道を進もうとした伊達とマサカズであったが…。

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第5話 ─信じられる仲間を集めよう!─Chapter3

 七月の創業以来、マサカズは作業現場で解体業や運搬業の実務を担当し、それ以外の時間は代々木の事務所で、役所や取引先に提出する公的な書類の署名捺印なついんに追われていた。そしてなおも余裕があると判断した場合、マサカズはビジネスパーソンとして不足していると思われる様々な知識を、ネットを駆使して精力的に学んでいた。税金にまつわる根本的な考え方や、商取引において関係してくる法律についてなど、調べるほどにマサカズは己の無知を思い知らされていたが、確実に知識を得られている、といった実感もあり、勉強は苦労より充実感から生まれる喜びの方が大きかった。
 一方の伊達は主に営業を担当し、全国の企業や官庁に足を運び、マサカズの鍵の力を秘匿ひとくにしながらもその絶大な遂行能力をアピールしていた。従って伊達が代々木の事務所に滞在している時間は限られていたのだが、その出勤スケジュールとは反比例したボリュームの事務仕事を彼は背負っていた。雑務については四人の老年スタッフに任せることができたのだが、企画書や提案書の作成や、業務に対しての許可や補助の申請にはどうしても鍵の秘密に抵触ていしょくする部分があり、伊達とマサカズしか担当することができない。しかしマサカズはまだ経験が足りておらず、おのずとその負担は伊達ひとりが背負うことになっていた。明らかなるオーバーワークは連日に及ぶ定時外労働を生じ、伊達はここ数日ほど日付をまたいでの退社となっていた。
 事務スタッフの増強は株式会社ナッシングゼロの急務となっており、まずは自社のWebサイトで求人をつのることにした。
 
 急募! 事務スタッフ 新宿近辺の職場 服装は自由 PCに文字を入力するだけ
 世の中の役に立てる事業を展開中の発足間もない会社です。人を助けたい。世の中のために貢献したい。そんな夢を共有できる方を求めています! 夢の実現に向けて、共に歩んでいける仲間を求めています!
 業務内容はカンタン! PCに文字を入力するだけ! 誰でもカンタンに収入を得られるチャンス!
 ただし、会社の秘密は必ず守っていただきます。
 月給20万円以上 経験者優遇
 勤務時間9:00〜17:00 休憩1時間 土日祝休み

 以上の内容をサイトに追加したところ、待てど暮らせど応募の連絡はまったくなかった。ネットワーク担当の草津によると、会社のWebサイトへのアクセスは一日あたり一けた台であり、そもそも求職者へリーチする母数自体がわずかなものでしかなかった。マサカズの判断で求人ページ自体はそのまま残すことにはなったのだが、次の手を打つ必要があった。マサカズと伊達は四人の老人たちにも相談を持ちかけ、その結果、できるだけ審査のハードルが低く、即時掲載ができるいくつかの求人サイトや、フリーペーパーといった媒体ばいたいへの露出を試みることになった。

「応募、来ると思います?」
 定時を過ぎ、ひぐらしの音がれ伝わる事務所で、マサカズは隣のデスクの伊達にたずねてみた。しかし煙草たばこをくわえた彼は返事をせず、仏頂面ぶっちょうづらを横に振った。
「いい条件だと思いますけどね。あ、でもアレか、今度入る人には鍵の秘密を教えるんですよね」
「そうだ。でないと新しく集める意味がない」
「となるとせまき門ですよね。よっぽど人間ができてないとつとまらない」
「だからあせってるんだよ。狭き門を叩いてくるのが行列を作ってるのなら問題ない。よりどりみどりだ」
「さびれたラーメン屋みたいなのだと、ちょっとヤバいですよね。客選んでる場合じゃないって感じで」
「致命的な問題もあるんだよな」
 伊達は三本目になる煙草に火をつけた。
「普通、求人の場合一番手っ取り早いのは青田買いだ。まだ学生の連中を勧誘する」
「やりましょうよ、それ」
「ムリだ」
「どーしてです?」
「青田買いってのはな、事業内容に関連した大学や高校、専門学校とパイプを作ったうえで行うものだ」
「作りましょうよ、そのパイプってのを」
“事業内容に関連した”
 伊達は強い口調で改めていい放った。その意図をマサカズは考えてみたが、すぐには答えは出なかったため、伊達に向けて困った笑みを向けるしかなかった。
「例えばだ、自動車修理工場だったら工業高校だ。レストランなら調理師専門学校。ゲーム会社なら……なんかよくわからないけどその手の専門学校だ。じゃあ、ウチは?」
「解体業だから……工業高校?」
「ギリ正解だけどさ、そもそもモグリ業からは距離を置きたいわけだ。そうなると、ウチはなに業に該当がいとうする?」
「人助け業……世のため人のため業……」
 言ってみて、マサカズの笑みは引きったものに移り変わった。
「あるかよ、そんなの専科にしてる学校なんて」
「たしかに……」

 それから一週間がち、九月も半ばに差し掛かろうとしていた。フリーペーパーの掲載結果が出るのにはまだ時間が必要であり、求人サイトについては五件の問い合わせがあったものの、そちらに応募してくる者たちは、総じてコミュニケーションスキルがあまりにも低く、伊達の判断によって、書面選考にまで辿たどりつけない状況となっていた。

 今日、マサカズと伊達は新宿区四ッ谷にある『東京都事業支援センター』という公共機関の事務局を訪ねていた。時刻は午後三時になろうとしていた。
「この書面だと、ウチでは受理できませんね」
 応接室でマサカズたちと対座したスーツ姿の太った中年の男はそう言うと、テーブルの上の書類を二人に差し戻した。それはこの事務局が主催する合同企業説明会という、企業が学生に向け求職相談を受けるイベントの申込書類であり、伊達の指導のもとマサカズが記載したものだった。Tシャツ姿のマサカズはテーブルのふちつかみ、身を乗り出した。
「どーしてです? 全部ちゃんと書き込みましたよ」
「課内で話し合った結果です。おたくは条件にかなっていない」
「説明になってません。なにがどう悪いんです?」
「個別の案件について、当方では説明できません。とにかく、御社は我々が主催する今回の合同企業説明会には参加できかねます。次回、またご応募いただけましたら再度検討いたしますので、本日はお引き取り願えますか?」
「次回またって、次回も同じ書類にしかなりませんよ? まぁ、資本金は増えているかもしれませんけど」
「お引き取り、願えませんか?」
 わざとらしく大きく首をかしげて男はそうげた。伊達はマサカズの肩をつか身体からだを引き戻させると、眼鏡めがねを人差し指で直した。
「事業実績と事業内容があやしげで問題視されたんですね。最近じゃこういったカタギの場にも反社がまぎれ込んで求人勧誘をしているって話も聞いたことがあります。創業して間もないうえ社会貢献だのうたい、具体的な業務内容を提示しない弊社へいしゃを、そういった連中と同様だと判断した。そんなところですか?」
 よどみなく、若干じゃっかんの早口で伊達は指摘した。男はあごを引き、上目遣うわめづかいで伊達を見つめた。この無言は同意である。伊達はそう理解し一定の満足を得ると、書類を手にして腰を上げた。

 事務局のビルを出た二人は、自動販売機で冷たい飲み物を購入した。
「お茶も出さないなんて、よっぽどですよね」
 コーラをひと口飲んだマサカズは、そう毒づいた。伊達はコーヒーを飲むと、表情を曇らせた。
「それこそな、ワンチャンいけるって思ってた俺が甘かった」
「要するに、ウチがあやしげでヤバめって思われてるってことですよね。世間からも国からも」
「ああ、そうだ。こうなると人材確保はいったんあきらめるしかないな」
「そーゆーわけにもいかないでしょ。伊達さん、昨日も深夜コースだったんでしょ?」
「もちろんこれ以上のムリはしたくないしできない。だから人手を増やす以外に、事務負担を軽減させる手を考える必要がある」
「ごめんなさい、僕が使えないヤツなばっかりに……」
「それは最初から織り込み済みだし、吉田のことやこないだの真山まことやまの件だってそうだけど、お前は俺の想像以上に不測の事態に対処、対応をしてくれているよ。だから気にしないで長所を伸ばしてくれ」
「鍵のこと、アピールできれば違うんでしょうけど……なんか、ますます秘密結社って感じですね、僕たち」
「実際そうだからな」
「あ、やっぱりそうなります?」
「ナッシングゼロは、世のため人のための秘密結社だ。俺はそう認識している」
「でもそれ自体を人に説明できないのって」
つらいな。まったく」
 マサカズは、コーラを一気に飲みすと炭酸の刺激にのどを詰まらせてしまい、咳払せきばらいをした。
「さーて、今夜は頑張りましょう。えっと、どこの山でしたっけ」
「神奈川の西の方だ。出発は夜十時。事務所から向かうぞ」
 保司ほしからの依頼で、今夜は倉庫の解体業務が入っていた。免許もない、人には言えないいわゆるモグリの闇仕事である。マサカズにとって秘密結社とは、日本征服を目的としてテロ活動を行う浮世離うきよばなれした存在しか連想できなかったので、この身のたけに合っているにも関わらず非合法を生業なりわいとしている現状は、どうしても馴染なじみがたく、居心地の悪さを感じていた。

第5話 ─信じられる仲間を集めよう!─Chapter4

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