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『Beep21』お試し記事パック⑬ 内藤寬の「Deepな◯◯」 -第2回-「シャイダクと私」

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 皆さんこんにちは内藤寬です。
次のコラムのネタを考えていたところに、ビッグニュースが飛び込んできました!なんとメガドライブミニ2が発表され、そこに3DダンジョンRPGの金字塔(ウソ)シャイニング&ザ・ダクネス」が収録されることになりました!「ランドストーカー」に引き続き、30年以上前に自分がプログラムした作品が、また遊べることになるとは、なんとも感慨深いものがありますね。

© SEGA 「シャイニング&ザ・ダクネス」(セガ/1991年3月29日発売/8,700円/8M※当時)

というわけで、今回は「3D迷路」と「シャイニング&ザ・ダクネス(※以下「シャイダク」)」の思い出を語ろうかと思います。

▼「ランドストーカー」の「影」について内藤寬氏が書いた前回のコラムはこちらから!

内藤寬氏のインタビューもあわせてどうぞ!

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「シャイダク」が生まれるまで

© SEGA

Beep21』創刊2号の特別インタビューの中でも語っていますが、僕は3Dや3D迷路に対する憧れがありました。たぶん僕が中学に入学した頃だったと思うのですが、テレビで今でいう「一人称視点」、自身の目に映る視点でジェットコースターに乗っている映像が流れました。ワイヤーフレームで白黒の線画でしたが、確かに(自分がジェットコースターに)乗っている雰囲気が伝わってくる映像でした。僕にとってそれは、ひょっとしたら初めて見たCGと言われるモノだったかもしれません。とにかく実写でなくても、乗っている雰囲気が味わえる映像に衝撃を受けたのです。

 これ以降、僕はパソコン(当時はマイコン)の世界にのめりこみ始めます。もちろんゲームをやりたいためにパソコンをいじっているわけですが、当時のゲームはほとんどが2Dモノでした。

 そんな中、いくつかの立体的表現のソフトも存在するようになりました。「ミステリーハウス」というアドベンチャーゲームは、ワイヤーフレームでしたが、いちおうプレイヤー視点でいろいろなところを動き回ることができました。しかしプログラム的にはあらかじめ用意してあるシーンを描画しているだけなので、そのシーン数はさほど多くはありませんでした。

 その後に出たのが「フライトシミュレーター」です。今では実写と見間違うほどのクオリティの映像をリアルタイムに描画していますが、当時はもちろんワイヤーフレームです。しかしワイヤーフレームでも、リアルタイムに計算して描画することで自由に空を飛び回れる。それは、とても楽しかったのです。ただ僕の持っていたパソコンのPC6001では、フライトシミュレーターはおろか、ワイヤーフレームの3Dゲームはどこのソフトハウスも開発してくれませんでした。

 当時はパソコンショップがいくつもあり、お店によっては誰でも自由にパソコンを使わせてくれました。そこで高性能なパソコンにプログラムを打ち込み、自前のカセットテープやフロッピーディスクに保存して帰るのです。そして再来店しては、プログラムをロードして遊ぶ。そんなことが当たり前の時代だったので、僕も自宅にあるPC6001より性能の高いパソコン目的で、いろいろなショップによく通っていました。

 そんなある日、吉祥寺の末広通りを入ったところの2階にあったパソコンショップに、なんとなく入った僕は、あるソフトに目が留まります。「3D迷路」とだけカセットテープのパッケージに書いてあるだけでしたが、これはひょっとしたら3Dモノなのではないか?と期待しました。しかもPC6001用です。当時はゲームはまだカセットテープでの供給が主流でした。親切なメーカーは小さいカセットケースに画面写真などを印刷してくれていましたが、ほとんどがタイトルだけという、ユーザーにとっては地獄のような光景です。購入するかしないか...自身との戦いが全国のパソコンショップで多くのユーザーによって繰り広げられていたことかと思います。

 しかし僕は勇気を出して購入を決意しました(大袈裟)。値段は2,000円くらいだったと思います。早速家に帰り、カセットからプログラムデータを読み込ませ、実行ボタンを押しました。画面に映し出された映像は、まぎれもなくワイヤーフレームの3D迷路です! 敵が出たり、トラップが作動するといったギミックは一切なく、ただ出口を目指して迷路を彷徨(さまよ)うだけという内容でしたが、それでも自宅で3D迷路が遊べるだけで、本当に嬉しかったのです。

人生で一番長かった5分間

 しかし最大の衝撃はこの数ヵ月後に訪れます。学校帰りに渋谷をプラプラしていた僕は、パンテオンや渋谷東急といった映画館が入る東急文化会館にあった三省堂書店で、なにげなく平積みで売っていたパソコンソフトが目に入りました。アスキーが発売したAXシリーズの第五弾「オリオン/クエスト」です。「オリオン」と「クエスト」という2つのゲームが入って2,800円! 価格も安いですが、それまでのAXシリーズもPC6001用ソフトとしては非常に上質で、パッケージもしっかりとした作りでした。僕もそれまでのAXシリーズはいくつか持っていたのですが、この「オリオン/クエスト」のパッケージの裏側を見て椅子から転げ落ちそうになりました(実際は立ってるけど)。「クエスト」は3D迷路モノですが、そこに写ってる画面写真は、向きを変えた時の中割りの瞬間を捉えた画像だったのです。それまでの3D迷路は左右に向きを変えると、一瞬で90度向きが変わってしまい、どちらに向いたか非常に分かりづらかったのです。(パッケージに載っていた)画面写真はたった一枚でしたが、これだけでもう制作者側が何を言いたいか、すべて理解しました。もちろん購入です。急いで電車で帰宅して、カセットからプログラムを読み込ませました。今ではソフトの起動は一瞬ですが、とにかくカセットなので、読み込むのに何分もかかります。この時ほどカセットのノロさにやきもきし、5分以上の待ち時間が人生において最も長い5分に感じました(大袈裟)。そして実行。「おおー! 向きを変えると中割りアニメーションが5枚も表示され、どっちに向いたかが分かりやすい!」「これだけで臨場感が全然違う!」「しかも単なる迷路攻略ではなくて、敵もいるし、アイテムも拾える!」想像以上の出来栄えに、時間を忘れて遊び続けました。

「僕もこういうゲームを作りたい!」という願望が湧きました。が、当時の僕のスキルでは到底無理で、どのような仕組みで3Dを描画するのか、まったくわかりませんでした。

 17歳の時にバイトしていたソフトハウスで「なんかゲームを作ってよ」ということで、僕は3D迷路ゲームの制作を希望しました。ハードはMSXなのでワイヤーフレームではありませんが、性能的に壁や床に色を付けて表示することができました。「ミッドナイトブラザーズ」──偶然(!)にも僕の大好きな映画に非常によく似たキャラクターが登場しますが、ようやく念願の3D迷路モノを作り上げることができました。

 もぉいい加減前置きが長いので、「シャイダク」の話、しますね。

今からやるなら「シャイダク」のココをチェック!

 これよりもっとグレードアップした表現をしたかった僕は、独立後最初のゲームで3D迷路モノを作ることにしました。と同時に、それまでやりたかったことを、いろいろなところに散りばめての作品に仕上げました。

 まず「シャイダク」にはタイトルロゴがありません。なにも「ドラゴンクエストIII」をリスペクトしたわけでもありませんし、まして真似したわけでもありません。この演出は、映画からヒントを得ました。なんの映画かは忘れましたが、本編が始まってからスタッフのクレジットが何人か出たあとに、スタッフと同じフォントサイズでさりげなくタイトルが出る──。なんとなくその映画の導入がオシャレだったので、「シャイダク」も真似そんな感じで、タイトルを最初のクレジットと同じサイズで出してみたのですが、いつタイトルが出たのか、わかりづらかったかもしれないです。気になる人は見返してみてください。

【動画】オープニング/MD版「シャイニング&ザ・ダクネス」

 タイトルといえば、「シャイダク」は当初「シャイニング・アンド・ダクネス」だったのですが、文法的にダクネスの前にザが必要だとセガの偉い人が言うので「シャイニング&ザ・ダクネス」になりました(これ、そうなんすかね?)。

 しかし、タイトルロゴがない代わりに、エンディングのスタッフクレジットには、一人ひとりに一枚絵を用意するという暴挙、なんとも贅沢な演出になっています。

© SEGA 高橋宏之氏から始まり、内藤寬氏まで9枚の絵がエンディングで描かれていますので、ぜひメガドラミニ2で見てください。

「シャイダク」では迷路だけでなく、他にも出来るだけ3Dっぽい表現を入れています。奥行き感のある酒場などもそうですし、城や街の選択画面では角度を変えた画像をデータで持ち、それをプログラムでリアルタイムに拡大して表示しています。角度を変えた画像はデザイナーがポチポチとドットを打って作っているのですが、参考になる計算で求めた元絵がないので、実機に組み込んでアニメーションさせてみると、角度が変だったりしてスムーズさがないことも多々ありました。僕は何度もダメ出しをしてデザイナーを泣かせていました。
【動画】酒場の奥行きと城などの3D表現/MD版「シャイニング&ザ・ダクネス」

 お店で自分のアイテムを売る時は、画面外からアイテム一覧が挿入される演出で店主の位置が横にずれます。武器屋や万屋の店主が、その突然のズレに驚いてビックリ顔やひっくり返るという演出を入れているのですが、ほとんどのユーザーはこの意味がなんだか分からず「なんで店主がこんなことしてるんだ?」と思ったかもしれません。これまた僕の思いつきの遊び心で、デザイナーに驚きパターンを何枚もポチポチとドットを打ってもらったのですが...スミマセンでした。
【動画】店主が驚く場面/MD版「シャイニング&ザ・ダクネス」

 しかしデザイナーにばかり無理難題を言っている僕ではありません!「シャイダク」も当然向きを変える際の中割りアニメーションが入っているわけですが、この角度や位置は方眼紙のマスを1マス1マス鉛筆で塗りつぶしてワイヤーフレームを書き、何度も何度もパラパラ漫画の様に動かしてスムーズなアニメーションになるまで試行錯誤し、いい塩梅あんばいを割り出しています。ただ角度を出すだけでなく、出来るだけデータ量が少なくなるような構造も考えながらつくるので、これまた気が遠くなるような作業でもありました。さらに迷路を表示する部分が、画面全体に対してどの程度のサイズが妥当かとか、アイコンやステータスの位置やサイズなども考慮しなければなりません。ダンジョン内でどこまで視界が必要かも考えなければなりません。一見なんの変哲もないような3D迷路でも、実はいろいろと考慮して作っているのです。
【動画】3Dダンジョンの移動シーン/MD版「シャイニング&ザ・ダクネス」

 フォントはすべて僕が作ってます。昔からフォントフェチなところがあって、好きなんですよね、フォントを書くの。なので時間があるときに、何度も何度もいじくって作ってます。しかし文字って、最近のCMではないですけど見つめると、なんだかわからなくなるコトがあります。こんな平仮名ってあったっけ?とか。ちなみに僕が手がけたゲームは結構フォントを書いてます。

©️ SEGA 大きくて見やすい「シャイダク」のメッセージのフォントはすべて内藤寬さんが作ったものだ。

 十字ボタンのコマンド選択は意外と好評でした。あれって本当は「指一本で操作出来ないかな?」ってトコから来てるんです。ぶっちゃけ戦闘って、何度もやるとめんどくさくなるじゃないですか。その時に片手で連打すれば楽かな?っていう発想から来ています。なので開発当初は片手操作で、上下左右押した瞬間にそのコマンドを選択することができました。最終的にはキャンセルも出来たり、他の選択もあるので右手で決定ボタンを押す仕様になりましたけど、できるだけ楽にユーザーに遊んでもらうのが原点にありました。

【動画】戦闘時の十字コマンド/MD版「シャイニング&ザ・ダクネス」

3D迷路モノの最終形態は実はコレ!

 インタビューの中でも答えましたが、「シャイダク」はあまりROMの容量で苦労した記憶はないのですが、メガドラ本体の内蔵容量との戦いは常にありました。でも基本的にメガドラの性能って高かったと思います。「ミッドナイトブラザーズ」ではベタ絵だけだった壁や床が、「シャイダク」では模様や装飾物が付くことで、大幅に質感が向上したのもメガドラならではです。セガさんのサポートもあって、独立後初のゲームはわりとスムーズに開発でき(それでも徹夜は何度もしましたが)、満足のいく作品とすることができました。

 そしてわずか48×32ドットの画面構成なのに、向きを変えた時の中割りアリで、見事に3D迷路を表現してみせた(自画自賛)、ドリームキャスト用ビジュアルメモリのクライマックスランダース「つゆダクⅣ」で、僕の3D迷路人生は最終形態を迎えたのです!(超大袈裟)

© SEGA ドリームキャストのビジュアルメモリでここまで作り込まれたゲームは他にはないかも、という「クライマックスランダース」の「つゆダクIV」。
『ドリームキャストマガジン』1999年11月5日号の記事には、「つゆダクIV」が紹介されている。ビジュアルメモリのゲームなのに、自動生成マップでなんと地下99階まである。まさに内藤寬氏の3Dへの取り組みの最終形態と言えるデキ!

▼このVMのゲーム等についてはこちらのコラムで詳しく明かされています。あわせてぜひご覧ください!

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