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内なる町から来た話

彼らはなぜここにいるんだろう?何を考えているんだろうか?もしや人間界への侵略?だが、やがて気づかされる。唐突に自然界に現れたのは人間のほうじゃないのか。後からやって来てこの星の景色を塗りかえ、王のように君臨している人間たちは、彼らの目にどう映っているんだろう。そう、彼ら物言わぬ動物たちは、まさに人間の姿を映す鏡なのだ。(訳者あとがきより)

ショーン・タンの「内なる町から来た話」を読んだ。絵本の部類に入るのだろうが、これは大人の中の大人が読む絵本だと思う。いい年ををしていても大人になりきれてない人には無用だ。私は大人の中の大人か?ひょっとしたら違うかもしれない。でも、この本を読んでから私が彼らを見る目は確かに変わった。

人間と動物たちを描いた25の物語がある。人間と動物は違う生き物ではあるけれど、心を通わせ、助け合い、慰め合い、愛し合うことができる。しかし、その反対に憎しみ合うこともできてしまうのだ。果たして動物たちの目に人間はどう映っているのか?この絵本の中にはちゃんとその答えがある。人間の傲慢さ、浅はかさ、ちっぽけさ、そんなことを動物たちが教えてくれる。話のひとつひとつにどこか冷めた目で人間を見つめるアイロニーが潜んでいる。絵本といっても決してハッピーな話ばかりではない。いや、デストピアと言ってもいいだろう。どこか哀しく、どこか寂しく、どこか暗い。そして切ない。



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ストーリーの奥深さに絵が加わると、また一段とズシリと心にくる感覚がある。絵本の中でもこんなに絵が素晴らしいのは見たことがない。表紙の絵が目について購入する人も多いというのにも頷ける。それと同じくらい岸本佐知子さんの翻訳文章が素晴らしい。絵本というより小説を読んでるかのようにストーリーに引き込まれていくし、悲しくて泣き、嬉しくて微笑み、また絵を見て不思議な気持ちになる。とても美しい魔法がかけられたような大人の為の絵本。

この本を読みながら、ふと以前読んだジョージ・オーウェルの「動物農場」を思い出していた。虐げられてきた農場の動物たちが団結して農場主を追い出すという内容だったと思うが、動物と人間の関係というのはどんな時代や場面でもいつも複雑で難解だ。読み終わってから、うちのネコを見た。見返す目は、どこか人間を超越している。そう思うのはこの本を読んだせいだろう。…たぶん。

余談だが、「ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ」が開催されている。2020年9月5日〜10月18日 そごう美術館(神奈川)



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