誰もが小林聡美になりたがる
SNSのフォローは海外のモデルや女優やとんでもないセレブだったりして、やれ流行のメイクがどうの、着ている服がどうの、などと騒いでいるが、そんな流行にほいほいと流されながらも、ある程度の人生を経験した女性たちは、ふと我に返ってみるとやはり小林聡美さんには敵わないと思い知る。
私も御多分に洩れずその中のひとりで、目標とか理想とかそういう言葉では言い表せられない眼差しを彼女にむけている。彼女のドラマや映画を数え切れないほど観てきた。最初の出会いは1988年に放送されていたドラマ「やっぱり猫が好き」だ。この時になんて不思議な感覚を持った女優さんだろうと思ったのを覚えている。その後どの作品を観てもその中にじんわり馴染んで、いい人の役でもちょっと悪意のあるな役でも最初に観た時の感覚を決して裏切らない何かがあった。その何かは役者としての技術でもあるだろうが、本当はもっと深い部分での彼女なりの何かをお持ちなんだろうと思う。その何かはそれこそ本人にしかわからないので安易な詮索はしないでおく。
WOWOWオリジナル連続ドラマ「ペンション・メッツァ」全6話を一気に観た。それぞれの内容はネタバレになるので書くことはできないが、民放ドラマの意味もないスピード感に嫌気がさしていたところで、このドラマのようにゆっくりとした時間の中のゆっくりとした台詞を聞いているととても心地良くなる。大まかな設定は長野の森の中でひとりでペンションを営む主人公とそこを訪れるさまざまな人々との交流を描いている。登場人物の設定ひとりひとりがとても個性的で面白くてハマってしまう。
小林聡美さんのように歳を重ねられた...世の中を生きていけたら...と思う。何かことあるごとにガサツにガサガサして、文句を言いたくなる私の人生の中で、彼女のように「まぁいいじゃない、なるようになるわよ」と笑って言える余裕みたいなものが私も欲しいなと思う。
『誰もが小林聡美になりたがる』少し誇張したタイトルではあるけど、いくら好きでも努力をしても自分以外の人になることは不可能だ。真似をして近づけることはできるだろう。でも真似をすることで生まれる本物と真似の隙間は思ったより深い。そんな深みで四苦八苦するより、ちょっと遠くからその人の世界を垣間見ることで自分なりの何かを得る方が面白いかもしれない。と、ふと思う。そういう意味で彼女は私たち世代の良い見本だ。
誰もが、台詞のひと言ひと言に「うんうん...」と頷くこと間違いない。
いいドラマ。
読んでいただきありがとうございます。 書くこと、読むこと、考えること... これからも精進します。