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永遠に到達しない不老不死

2022.3.31(木曜日) grow old

宅配便が来ない。

午前中指定でお願いしていたが、午前中に来なかった。
外は雨で、「あぁ〜雨で配達に戸惑っているのかな」とか「月末で道路が混んでいるのかな」などとなるべく相手を擁護する気持ちに持っていこうとするが、私もありふれた生身の人間である「なんで約束の時間に来ないの?私の午前中の時間を返せよ〜」というのが本音である。

本を読みながら待っていた。時折外を眺めては雨の様子を伺う。
春の雨というのは、どこかモヤがかかっているような感じがする。乳白色を薄くしたようなモヤで、秋のブルーがかった雨や、真冬のクリアな雨とは違うんだなと思いながら見ていた。
乳白色という色のせいか、雨でも明るくて傘を持たずともいいのではないかとさえ思えてしまう。
乳白色の関連で思い出したが、今読んでる本というのが男性の老いを描いた外国作品(日暮れまでに/マイケル・カニンガム)で、私は女であるからやはり男性のそこのところはわからない(心情的に理解できない)部分が多々ある。女性の老いを描いた作品は国内外に問わずたくさんあるが、どれも気持ちがとてもよくわかる。
男女の区別なく、お互いに気持ちを共有しましょうという風潮になってきたが、男にしかわからない男の心情や女にしかわからない女の心情はどんなにグローバル化されても確かに存在していて、それを「老いる悲哀」として一括りにはできないなと思いながら読んでいる。
色で表現するならば、女性の老いは乳白色のような気がする。まさしく今日の雨のように乳白色のモヤがかかっている。そして男性の老いは、この本の内容からしか想像できないが、モスグレー(苔っぽい緑色を含んだ灰色)のような感じだ。どこか根に深く蔓延ったイメージがある。
老いを感じやすいのは今までは女性の方だと思っていたが、この本を読んでみると男性も同じように若者に嫉妬しその違いにショックを受けているのだということを知った。
「人間は病気になるより老いることを恐れている」と、生物学の本で読んだことがあるが、それが事実なら人間って欲張りなのだなと思う。
まだ読み終えてはいないが、とても興味深い物語だ。
冒頭の言葉が、


美は恐るべきものの始めにほかならぬ。
     ライナー・マリア・リルケ

「日暮れまでに」本文より

怖い名言である。

宅配便は「遅くなり申し訳ありません」の言葉と共に午後1時42分に来た。
「おかげでたくさん読書ができました」と言うと、意味がわからずポカンとした顔をしていた。
ちょっとした皮肉のつもりだったんだけど伝わらなかった。
彼はとても若かった。
雨はまだ降り続いている。


読んでいただきありがとうございます。 書くこと、読むこと、考えること... これからも精進します。