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アボカド マカロン パンケーキ

その人は有名デパートのロゴが入った紙袋の中から丁寧に包装された四角い箱を取り出しながら「お昼一緒に食べようと思いまして買ってきました」
と、少しもったいぶったような口調でその包装紙を剥がし始めた。
私は「えっ、ありがとうございます。気を使わせてしまってすいません」
と、そのお昼ごはんの中身に期待を寄せて心から礼を言った。
「これね、作りたてなのを入れてもらったのでおいしいですよ〜、これ嫌いな女性はいませんからねぇ」
ますます期待が湧く。
包装紙が全部剥ぎ取られて、透明のパッケージに綺麗に並んでいたのは
アボカドのサンドイッチとアボカドのフレッシュサラダだった。

「飲み物は何がいい?」と、私は動揺を隠しながら尋ねる。
「簡単なのでいいです」
「私はコーヒーにするけどそれいい?」
「はい、お願いします」

コーヒーをふたり分カップに注ぎながら、どうしようと気が病む。
ほとんどの女性が「好き!」というアボカドが私は嫌いなのだ。
子供が言う「ピーマン嫌い」「にんじん嫌い」という種類ではない。子供の一時的な食べず嫌いではなく食べて客観的に判断して嫌いになったのだ。
カップをトレイに乗せてテーブルに運ぶ数秒の間に正直に言うか我慢して食べるかを決めなきゃいけない。
相手の前にコーヒーを置くと、早く食べたいと言わんばかりに目をキラキラさせている。
結論が出ない。
その次の瞬間「いただきます」とサンドイッチに手が伸びていた。
相手も「いただきます」と手を出した。
一口食べたが、やっぱり好きではない。
でも自分の分は完食した。
「新鮮なのはやっぱりおいしいわね」という褒め言葉まで付け足した。
相手は満足気である。
ほんとうは「反吐が出るほど嫌いなんだよ」と叫びたかった。

マカロンもよくお持たせでいただく。
これにも必ずと言っていいほど「これ女性は大好きですよね」という言葉が付け足される。
「あぁまただ」と思う。
男性雑誌の何かのコーナーに『女性へのお土産はマカロンを選んでおけば間違いない』とでも書いてあるのだろうかと疑うほど男性からもらうのはマカロンだ。
それと同じようにパンケーキもそうだ。
外で何か食べようとなる時「パンケーキの美味しい店がありますよ」と言われることがある。
それも男性雑誌に書いてある?

マカロンより金鍔の方が好きだし、
パンケーキよりざる蕎麦の方が好きだ。
ついでに言えば、甘いカクテルよりウヰスキーが好きだ。

『女性はみんな…』
という感覚はいい加減捨ててほしい。
でも笑顔で受け取ることは忘れない。
少数派だということはわかっている。
それに大人だから、そのくらいの試練は覚悟して生きている。

もうすぐ金木犀の季節。
金木犀の香りも嫌いだ。
でもそれはまた別の話…



読んでいただきありがとうございます。 書くこと、読むこと、考えること... これからも精進します。