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クレームの入った本を処分した?「図書館の自由に関する宣言」はどこへ

話題になっているツイートがある。あったのだが。さっきまでリンクしていたのだが…。

(ツイートは閲覧不可になった)

まあ要するに寄贈された本を借りた利用者が「不愉快」と騒いだので廃棄することになったという話だ。探せば見れるだろう。
ネットと図書館本の違うところは簡単には燃やせないということである…。

この件について思うところが大いにあったので記録しておこうと思う。
ちなみに筆者は図書館司書資格を持っているので、実態はともかくとして用語は理解しているはずだ。

ツイート主は司書だが、公務員ではない。これは普通にあることだ。
雇用形態は謎だが、そこまで権力があるわけでも無いのだろう。
処分を決めたのは上司で公務員だ。役所の人間である。これもあることだ。
図書館で働いている人は全員司書資格を持っているかというと、それは違う。個人個人に知識の差があると考えるのが妥当だ。
そして図書館によっても管理の厳しさや甘さに差があると考えるべきだろう。

どのような状況で本が処分されてしまったのか、かなり気になるところだが、まず大前提としてこの問題は「図書館がたった一つのクレームで本を処分した」ということにある。
その本はその県内には蔵書が無かったらしく、司書として寄贈を受け入れたそうだ。
どのような本だったのか。エッセイの類であると思うがクレーム内容から察するに風俗などについて記されていたようだ。
(クレーム屋はなぜ借りた)

クレームはまぁ日常的に起こるものだろう。いろんな人がいるし図書館に関する知識が全くなくても不思議ではない。しかしその苦情一つで本を処分するにあたったことは問題しかないのだ。
もし本当にこのようなことが起こっていたら、それこそ「図書館の自由に関する宣言」に反した出来事だ。そして、焚書問題にもつながる。
この宣言自体は全国の図書館に飾られている。ネットでも見れる。
(こちら全文になります→ http://www.jla.or.jp/library/gudeline/tabid/232/Default.aspx )
題材にしたものが「図書館戦争」という作品である。これを読めば興味が湧くだろう。


戦時中、多くの図書館が多くの本を廃棄した。皇室批判の本などもこの国から消え去った。検閲もあった。思想が偏る本が増えた。当時はだれがどの本を借りたのかも筒抜けだった(よく刑事が図書館員に犯人がなにを借りていたかを聞いて教えるシーンがあるが、現代ではありえない)思想の調査もされただろう。
戦後、この様子がすぐに是正されたかというと、今度は敗戦国として本を廃棄した。
本と権利を守ろうと動いた図書館もあったし、個人もいた。警察から守り抜いた本もある。
そのような中で、アメリカ中心に「赤狩り」(共産党員の支持者を追放する運動)が起こり、日本にもその流れが来て、日本人の読書調査をすることになった。
このようなことへの反発から1954年に打ち出されたのが「図書館の自由に関する宣言」だ。お飾りでもなんでもない。この国の歴史の一つでもある。

現代では1979年に改訂されたものが使われているが、そこには強く強調されている文面がある。

【図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。】


この宣言でなにもかもが変わったわけではない。昭和平成と、宣言に反した焚書事件は繰り返されてきた。映画の図書館戦争みたいに銃でドンパチとはならないが、原作を読むと中にはもう少しリアルな事件が描かれており、それは実在の事件をモデルにしているものと推測できる。図書館は脅かされる自由に知る権利を守るために戦ってきた経緯があるのだ。

この詳しい話は調べればいくらでも出てくることだが、司書資格をとるにあたって基本として学ぶところだ。なので「本を処分すること」の重大な問題については司書たるもの認識していて当然だ。

問題は役所の人間だろう。司書資格を持たないものが、その判断を下してしまったことだ。
これは行政が図書館の憲法を基にした宣言を犯したといっても良い。
本人にそのようなつもりが無かった、で済ませていいものではない。
はっきりとした認識を全国の公務員に持ってもらわねばならない。
この宣言の歴史を知らないものは、図書館で働いてはならないだろう。

実際としてこのようなことがあったのか、どこの図書館で起こったのかは不明だが、そのうち問題として挙がってくるような気もする。
説明をつくしたら、もう少しマイルドな話になるのかもしれないし(火に油の可能性もあるが)
行政も図書館側もスルーしておくのはあまりにも悪手ではないだろうか…。

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