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【ジャズ】基本のジャズピアノアルバム10選

ジャズをやる人にとって「最初に聴いたアルバム」は、その後の好みを大きく左右するのだと思います。それに「もしかして自分は偏っているのか?」という相談するのも微妙な話でして・・・・・。
前回のジャズギターに続き、ここだけは押さえておきたいジャズピアニストを10人に選抜してみました。ギターよりも人数が多いぶん難儀しましたが、できるだけ網羅的にチョイスしたつもりです。プレイヤー視点で選んでいるので、そこんところ予めご了承ください。



Waltz for Debby / Bill Evans

おそらく最もポピュラーなジャズピアニスト、ビル・エヴァンス(P)の中でも一番有名なアルバム。
彼はMiles Davisのバンドにいたこともありモード奏法の人だと勘違いしている方がいるのですが、即興はかなりコードトーン的でビバップ寄りのフレーズを得意としています。ただリズム感が一般的なスウィングジャズのそれとは違うので、洗練されたお洒落な雰囲気に聴こえるのだと思います。
ちなみにタイトル曲であるWaltz for Debbyはジャズの中では難曲にあたります。ジャズファンにリクエストされても、アマチュアのジャズミュージシャンではすぐに演奏することはできないと思います。
「なにか1枚ジャズアルバムを紹介するとしたら?」と聞かれたなら、これを挙げるのが無難だと思います。内容も素晴らしいので。





We Get Requests / Oscar Peterson

オスカー・ピーターソン(P)はど真ん中ジャズのビバッパーですから、いわゆるジャズピアノを聴きたいときのファーストチョイスにピッタリです。特に2曲目の”Days of Wine and Roses"はあまりにも有名。
彼の録音はジャズスタンダードの宝庫で、FAKE BOOKなどに採譜されているものの多くはピーターソンの演奏をベースにしていたりします。プレイスタイルは現代にしてみれば珍しくない弾きまくり系ラン奏法型なんですが、当時はこんなにクリアにビバップできる人は他にいなかったんじゃないでしょうか。





The Amazing Bud Powell , Vol.5 / Bud Powell

バド・パウエル(P)のアルバムを1つ選ぶとしたら、”Cleopatra's Dream”で始まるVol.5が良いんじゃないでしょうか。彼こそピアノでビバップを弾き始めた第一人者で、チャーリー・パーカーのシステムを上手にピアノプレイに反映させた功績は偉大です。楽器のテクニックを魅せることがジャズの魅力であることを決定づけ、それ故にジャズというジャンルがマニアックになるきっかけになったのです。
いわゆるバップフレーズ、コードトーンをクロマチックで繋いだり挟んだりするシステムが分かりやすいので、ジャズを勉強したい人には彼はうってつけです。





Horace Silver Trio / Horace Silver

ホレス・シルバー(P)はファンキージャズと呼称されるサブジャンルの中で名を馳せた名手です。同時代にすごいプレイヤーがいたので、どうしてもテクニカル系では”ない”という評価になりがちですが、実際は彼も相当のテクニックの持ち主です。シンプルなコード進行の曲でも飽きさせないフレーズ構築力は、彼の作曲家としての能力が反映されているように感じます。
プレイスタイルは繰り返しフレーズ、モチーフ展開が巧みで、ある種のロックぽさが彼の魅力になっているのかもしれませんね。





Takin'g Off / Herbie Hancock

ハービー・ハンコック(P)はジャズというジャンルにおいて最も大きな功績を残したピアニストだと思います。キャリアも長く、フリージャズ以外のほぼすべてのサブジャンルの作品を残しているのです。
そんな中でどの1枚をオススメするかは迷うのですが、”Takin' Off”が一番普通で聴きやすいので、初めてハービー・ハンコックに触れるにはこのあたりが妥当だと考えました。
プレイスタイルは古典的なビバップに加え、モードとコードを交錯させるコーダル・モーダルであったり、メロディックマイナーを基調とした難解なフレーズだったり、かと思えばストレートなブルースだったりと多彩です。フュージョン時代の彼のソロは特に難解に聴こえるかもしれませんが、要するに1発モノの上で色々なコード進行を自作しているようなシステムだと考えると理解しやすいかもしれません。
いずれにせよ、アルバムごとにスタイルもサウンドも変わるので、できれば全部を聴いて好きなものを見つけるのが正解なんだと思います。





Standards, Vol.1 / Keith Jarrett

キース・ジャレット(P)はハービー・ハンコックとは対照的に、あくまでジャズらしいジャズを進化させたプレイヤーだと思います。ビバップ以降のコードトーン中心のソロではあるのですが、スタンダード曲のコード進行を自在に変形しながら複雑なハーモニーを展開していくスタイルと言えるでしょう。例えばII-Vを追加挿入したり、♭IIのリディアンを挿入したりするイメージです。
彼を象徴する1枚として”Kern Concert”を挙げる方もいますが、あれはどちらかというとインプロビゼーションでクラシック音楽を作ってやろうという意欲作であり、ジャズの文脈から少し外れているので、まずはキースらしいスタンダードトリオを推挙したいと思います。
唸り声や体を激しく揺さぶる姿が目を引きますが、演奏自体はとてもストレートにジャズをしている、正統進化系ジャズピアニストといえるでしょう。






Thelonious Himself / Thelonious Monk

セロニアス・モンク(P)はジャズピアオにおける不協和音の地平を切り開いたパイオニアです。叩きつけるような奏法で半音全音がぶつかるサウンドは、それまでクラシック出身の丹精なジャズのイメージを覆しました。リズム感も独特で、揺れているのか合っているのか判然としない、だけどかっこいいという、言語化できない良さに溢れているのです。
モンクについて”下手ウマ”という批評があったりしますが、少なくともメロディやソロに関してはジャズシステムを踏襲しているし、決して下手ではないです。タイム感とハーモニーの感覚が独特なので、それがミスに聴こえてしまうのは仕方ないのですが、思うに彼は狙って変な音を出しているのでミスではないわけです。そこのところを勘違いして「下手でもジャズできる」と向上心を無くすような議論には耳を貸さないようにしましょう。






Light As a Feather / Chick Corea

チック・コリア(P)も多彩なピアニストですが、1枚選ぶとするなら”Spain"が入っているReturn to Forever名義のLight As a Featherでしょうか。ピアノじゃなくてすみません、エレクトリックピアノなので許してください。
彼はハービー・ハンコックと並べて紹介されることが多いプレイヤーです。スタイルも似ていますが、狙っているサウンドはチック・コリアの方が明るいのでポップな印象になります。
彼の特徴はクラシックの作曲技法をジャズに反映させたプレイスタイルにあると思います。ストラヴィンスキーやシェーンベルグの技法を即興演奏の中に取り入れている、それ自体はジョン・コルトレーンらもやっているのですが、ピアノプレイヤーで先駆的にそういったアイデアを提案して成功した一人です。
ピアノのアルバムだと、アコースティックトリオが素敵です。




The Real Mccoy / McCoy Tyner

マッコイ・ターナー(P)はモードジャズに流星のように現れた奇才。ジョー・ヘンダーソンとのタッグでモード音楽をより過激に進化させました。
彼の得意とするアウトサイドフレーズは実はそんなに難しいことをしていなくて、ペンタトニックを色々なインターバルで弾いているだけです。いや、本当はもっとちゃんと解説できるんですが、結論かさ先に言えばそういうことになります。ジャズの伝統的なモチーフ展開を”進化”させるとこうなった、というのが実のところではないでしょうか。
昔、実家にあった英語教材のテープに彼のインタビューがあって、「あなたはどうやって新しいアイデアを考案したんですか?」という質問に「そんなに新しいアイデアじゃないんだよ」と。曰く「伝統的なジャズを次のステージに進めるには、伝統を重んじることが重要なんだ」という言葉が印象的です。
筆者のジャズ即興スタイルもマッコイ・ターナーのそれに近いかもしれません。





Beyond Standerd / 上原ひろみ

最後に上原ひろみ(P)を紹介しておきます。彼女の功績はテクニカルハードジャズを世間に知らしめた点にあると思います。それまでアングラでマニアックなサブジャンルだったものを、洗練されたテクニックと楽曲で一気にメジャーなものとしたのです。
基本的にテクニカルな音楽は聴きにくいものですが、彼女の場合は比較的シンプルなモチーフとハーモニーで展開していくので、ロックやプログレを聴いていた層にはよく届いたのだと思います。
これは余談ですが、僕がバークリー音楽院に行った理由はこのアルバムでのギタリストであるデヴィッド・フュージンスキーに師事したかったからでした。それで2学期目にやっとクラスに入ることができたのですが、「上原ひろみのジャパンツアーで1ヶ月間、日本に行くんだ」といって補習になっちゃった。そのツアー前に「彼女の曲は難しいけど、こうやって覚えるんだよ・・・・」と楽曲を覚える技術を教えてくれたのは今でもとても役に立っています。




あとがき

本当は大好きなブラッド・メルドーや、ピアノ弾きではないジミー・スミスやジョー・ザビヌルも紹介したかったのですが、それはまた別の機会にしましょう。
最近はプレイリストでジャズを聴く方も少なくないでしょう。ですが、アルバム1枚で一人のプレイヤーの別々の曲のアプローチを聴き比べることが、音楽の学習として非常に有効です。プレイヤーの癖やインタープレイの様式、タイム感を”プレイヤー”に結びつけた方が理解が早いと思うのです。
エッセンシャルリストは色々なプレイヤーを知るには便利ですが、自分が演奏したり作曲したいする立場になりたいなら、誰か1人の好きなプレイヤーを見つけて『全部聴く』をやった方がいいです。すごくいい勉強になります。
僕自身はギタリストですが、ギターよりもピアノのジャズから影響を受けています。楽器によらず、ジャズを勉強するならジャズピアノが適任なんじゃないでしょうか。オススメです。




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