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カイゴはツライ?第25話~海鳥さんの死で仕事への自信をなくしてしまう

ユリのユニットには、海鳥さんという98歳のおばあさんがいた。認知症で会話はほとんど成り立たないが、足腰がしっかりしていて、杖をついて歩き回っている利用者さんだった。食事もトイレも自立していて、介護職員の手をわずらわせることはほとんどなかった。時々トイレの場所を間違えてしまい、廊下やリビングの隅で用を足してしまうことがあったが、それでも下着を汚すことなく上手に始末をしていた。
ユリにとって海鳥さんは手のかからないおとなしい子どものような存在だった。穏やかな表情や時々発する上品な言葉に心が和むような気がしていた。そこにいるのが当たり前の存在だった。
そんな海鳥さんが、骨折をきっかけに入院し、肺炎を患って亡くなってしまった。
骨折したのがユリの夜勤当番のときだっただけに、ユリは自責の念にとらわれ、仕事への自信をなくしてしまった。海鳥さんは夜間の徘徊が多く、一度ベッドから立ち上がる際に転倒する事故が起きていたため、ベッドから畳敷きの布団に変更になっていた。布団から立ち上がることは難しく、四つ這いで動いていたのだが、畳の不衛生さを指摘され、ベッドに戻したところだった。久しぶりのベッドからの起き上がりで転倒してしまい、「いたーーーい、助けて~」の声にユリがかけつけると、ベッドわきに倒れて顔をしかめていたのである。
葬儀に参列したユニットリーダーの松岡さんの「家族だけのさびしい葬儀だった」という言葉でユリの中のなにかが一気に崩れ落ちた。
自分のせい、自分のせいでこんなことに…。
ベッドに戻さなければよかった…
畳をもっときちんと清潔にしておけばよかった…
いつまでもぐるぐると同じことばかり考えてしまい、先に進むことができなかった。


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