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A piece of rum raisin、Side Story1

外伝第1話 第三ユニバース:Side Story、小平
2011年1月11日(火)

 ボケーッとYoutubeを見る。そうすると、アイデアが浮かぶ。ああ、これは2011年に53才の小平一平博士(独身)の一人飲みにちょうどいい場所ではないか?と思う。外伝扱い。本筋とからまないので本編には挿入しにくいが、背景描写としてメモしておこう。

 時間軸はどうしよう?第三ユニバースの時間軸で、2010年12月に既に7名の記憶転移は終了。湯澤はジャーナリストの岬麗子の説得をしている最中。記憶転移は終了しているのだから、第一ユニバースの類似体は追加の転移が行われることは知らない。そういう人間がいるだろうということは明彦と小平、湯澤は知っている。そういう設定はどうか?

 この7名のグループではいびつだ。素粒子物理学者/天体物理学者ばかりで、暴力装置がいない。相手が相手なので、謀略担当をメンバーに入れないと相手の謀略に対抗できない。自衛隊員か内閣情報調査室(内調)のスタッフがいいだろう。

 さて、小平先生、それほどこの居酒屋の常連じゃないので、奥の方のテーブル席で一人飲んでいるとする。おお、孤独だね。いいね。カウンターの常連さんが飲んでいる『諏訪泉』、小平先生もいただきたいと思う。

カウンターの上におかれているブリカマとか、ついでにおでんも欲しいね。おずおずと、小平も頼む。「す、すみません、今お話されていた諏訪泉、私もいただけないかな?それとおでんとブリカマも」と頼む。女将の妹が「ハイ、諏訪泉、おかんでいいですか?」と小平に訊く。「ええ、おかんにしてください。ありがとう」と小平は答えた。

★南禅公美子

 私の小説の常連の登場人物のひとり、南禅公美子を出してみようと思う。彼女は、防衛省防衛装備庁航空装備研究所の装備官。航空自衛隊自衛官の2等空佐(中佐)。第三ユニバースでは、2008年で42才。独身である。自衛官の立場でマサチューセッツ工科大学の博士課程終了にしようか?第一に転移すると何才がちょうどいいのだろうか?1981年時点で26才くらい?体術の達人という設定にしよう。古武術と合気道ならどうかな?

 その彼女が、小平の後ろのテーブル席で、同じく同僚の羽生健太と飲んでいる設定。南禅と羽生が話している。

羽生「そういえば、南禅、この前、研究所にいた時、落雷があっただろう?」
南禅「あの大きな雷が何度も落ちたときね」
羽生「そうそう、それがよぉ、その後、熱が出て偏頭痛がしやがってさ、2日ぐらい具合が悪かったわけさ。それで、熱も下がったし、頭痛も収まったんだけど、おかしなことに、俺が1981年で26才でな、自衛官だった、なんて覚えが頭にでてきたわけよ。お前もその時自衛隊の同期でさ、信じられっかよ?」
南禅「・・・健太、あたしも同じ夢?覚えがあった。熱も偏頭痛も同じよ。おかしいよね?」

 後ろのテーブルでなんとなしにこの会話を聞いていた小平は、まさか、記憶転移か?と思うのだった。彼は、わざと飲んでいた諏訪泉の徳利をひっくり返し、床にぶちまけた。「おお、すまん、すまん、酔っ払ったかな。お姉さん、申し訳ない。後ろの人、飛沫がかからなかったかな?」と後ろのテーブルの南禅と羽生に言った。

南禅・羽生「大丈夫ですよ。ご心配なく」
小平「いやいや、すまんね。お姉さん、おかわりの諏訪泉をくれんかな。そうそう、このお二人にも差し上げてください」
南禅・羽生「いやいや、おきづかいなく」
小平「もう、年取ったかな。困ったものだ。独り身はいやだよ。まあ、じじいから一献受けてくれないか?」

 小平は強引に二人に割り込んだ。自衛官だということが二人の会話でわかったので、小平は名刺を出して、東京大学宇宙線研究所の教授だということを二人に見せた。同じ国家公務員だということを明かせば、二人もガードが下がると思ったのだ。

 小平がどんどん酒、ツマミを頼む。南禅・羽生にもどんどん飲ませた。小平がアメリカのジェット推進研究所にもいたのだよ、という話をすると、南禅が「あら、小平先生、私もMIT(マサチューセッツ工科大学)在学当時、ジェット推進研究所に打ち合わせにいきましたのよ」などと話した。

 お銚子が何本も空き、ツマミもなくなった。「おお、今晩はよく飲んだ。女将さん、お勘定を」と言って、小平は南禅・羽生の分も払ってしまった。「小平先生、ここは割り勘で」と羽生が言うも「なに、独身のじじいじのワガママも聞いてください」と言った。

 勘定も終わり、三人は店を出た。南禅と羽生が「じゃあ」と小平と別れようとすると、小平が「ところで、私の研究で記憶転移というのがあってね。お二人さん、『1981年で26才』なんて話をしていただろう?その話、聞かせてくれまいか。お二人が自衛官というのは耳にはさんだ。私は怪しいものではない。この近くに、私のマンションが有る。そこで、酒を呑みながら『1981年で26才』の話を少々聞かせてくれないか?」と二人に尋ねた。

 南禅と羽生は顔を見合わせて、どう断ろうかと考えている風だ。しかし、南禅が好奇心に負けたのか、小平に言った。「小平先生、自衛隊の機密に関わるわけではありませんし、『1981年で26才』の話と先生の記憶転移の話、興味があります。先生のマンションにまいりましょう」と言った。「おおそうか、南禅さん、羽生さん、うまいバーボンも有る。おかしな話ではない。時間はとらせないよ」

 こう言って、気の乗らない羽生と三人で小平のマンションに向かうのだった。

★小平のマンション

 マンションで小平は二人をリビングに案内した。二人にワイルドターキーのロックを作って渡しながら言った。「私もお二人さんと同じ国家公務員だ。決して怪しい人物じゃない。実は、お二人さんの言われた『1981年で26才』の世界を知っている人間はまだいるんだ。私を含めて8名。ただし、それが同じ世界とは限らないがね。それはテストしなければわからないが、多分、同じ世界のことを言っていると思う」

 南禅が「小平先生、これは私と羽生の間の冗談みたいな話なんですよ。それほど真剣に捉えられるような話とは思えませんが・・・」と言った。

「まあまあ。お二人さんにちょっとクイズを出してみよう。これが証拠だなんて言わんよ。しかし、多分、なんらかの結果が出るはずだ。今ここの世界を『この世界』と呼ぼう。お二人さんの『1981年で26才』の世界を『あっちの世界』と呼ぼう。そこで、三人の人物がどうなったか、われわれ三人で答え合わせをしてみようじゃないか」こういって小平はリビングのPCで白紙の表を作って二人に渡した。


「さあ、この三人に何が起こったか、お二人さん、答えを書いてみてくれ。書いたら裏返しにしてテーブルに乗せて」と言って、南禅と羽生にマーカーを渡した。

 南禅が「これに何の意味が・・・え?記憶がおかしいわね。違う・・・」と言って答えを書き込んだ。羽生も南禅と小平に見せないようにマーカーで答えを書いた。「たしかに、起こったことが・・・」三人は答えを書いた紙をテーブルに裏返して置いた。
「じゃあ、答えを見てみようか」




「南禅さん、羽生さん、どうだね?面白い結果だろう?ここの世界では、みんな知っていることだ。ロバート・ケネディはジョン・ケネディが暗殺された後、大統領選に勝利して、次期大統領に就任した。ジョン・レノンはついこの前も新曲を出したね?ロナルド・レーガンは暗殺されて、副大統領のジョージ・ブッシュが暫定大統領になって、その後の選挙にも勝利して大統領に就任した。みんな知っている。ところが『あっちの世界』なんてあるはずもないにも関わらず、『1981年で26才』の世界を知っているお二人さんも私も答えは一緒だ。ロバート・ケネディとジョン・レノンは『あっちの世界』では暗殺されたんだ。レーガンは暗殺未遂で生き残り、大統領職をまっとうした。南禅さん、『あっちの世界』の記憶ってなんだ?なぜ『この世界』の事実と違う?なぜ三人とも『あっちの世界』の事実は『こっちの世界』と異なっていて、しかも三人とも答えが一致するのだね?」

 南禅も羽生も怪訝な顔をして考え込んでいた。二人は居酒屋で『1981年で26才』の世界の話をしたが、ロバート・ケネディやレノンやレーガンのことなど話していない。アメリカの有名な人物三人である。南禅と羽生の答えが一致するのは不可解だ。さらに、小平の答えまで一致している。

「解説をしよう」と小平が言った。「まず、私は東京大学宇宙線研究所勤務だが、何をしているかと言うと、スーパーカミオカンデを使ったニュートリノの研究をしている。素粒子物理学分野だ。それと、極超新星爆発でのニュートリノの発生とガンマ線バーストの研究をしている。天文物理学分野だ」
「私を含む物理学者とジャーナリスト8名がスイスとフランスに有るCERN(セルン)に集まったことが有る。2008年9月のことだ。セルンを知っているかね?」

「欧州原子核研究機構のことですね。世界最大の陽子―陽子円形衝突型加速器、LHCがある研究所」

「そう。よくご存知だ。2008年9月にLHCの試運転があった。5兆電子ボルト出力の実験だ。事件は失敗、超電導を保つヘリウムの流出事故があって、一時制御不能になった。その時、多量の放射線が流出した。ガンマ線も多量に。陽電子もかなり出ただろう。陽電子というのは面白い素粒子でね、時間を遡るんだ。その時、お祝いでどんちゃんやっていたわれわれ8人もガンマ線と陽電子の影響が出た。お二人さんの『1981年で26才』の記憶がどこからか転送されたのだ」

「さて、自然現象の落雷。これもガンマ線が放出され、陽電子が発生するのがわかっている。セルンのヘリウムの流出事故程じゃあないが、発生するガンマ線、陽電子の影響で記憶がどこからか転送されることは可能だ。お二人さんは強い落雷が発生したすぐそばにいたんだね?」

「われわれがいろいろと調べる内に、どこからこの記憶がやってきたのかがわかってきた。この宇宙は一つではない。多次元並行宇宙、マルチバースと言って、複数の宇宙が同時並行的に存在している。その宇宙がどうやって生まれたかはわからない。分岐したのかもしれない。そのマルチバースの中で、非常に似通った宇宙が複数存在している。ただし、多少違うのだ。ここのようにレノンが生きている宇宙もあれば、レノンが暗殺された宇宙も有る。レノンはどちらにも誕生しているがね。それで、われわれは、ここ、レノンが生きている宇宙を第三ユニバース、レノンが暗殺された宇宙を第一ユニバースと呼ぶことにした。第二もある。レノンが同時並行的に存在するなら、われわれ8人も同時並行的にこちらとあちらに存在している。われわれはそれを確認した」

「つまり、南禅さん、羽生さん、あなたがた二人の『1981年で26才』の記憶もわれわれと同様に第一ユニバースのあなた方、これを類似体とわれわれは呼んでいるが、南禅さんのあちらの世界の類似体、羽生さんのあちらの世界の類似体から転送された可能性が高いのだ。なぜ、お二人さんにそれが起こったのか、それはわからない」

「それだけだったら、単におかしな記憶が紛れ込んだ、ということで実害は少ないだろう。事実、こういう現象は同じ宇宙の過去未来、異なる宇宙の過去未来で時々起こっている現象らしい。類似体でなく同じ人間に起これば、既視感を感じたりする。違う人間の間に起これば、生れ変りとか輪廻転生とか呼ばれる現象になる。自然に起こってしまうのだから仕方がないのだ」
「ところが、私の専門のニュートリノ観測で、異常な事態をキャッチした。地球から150光年ほどの恒星でニュートリノの異常な増加が起こった。その恒星は、極超新星爆発の可能性があるのだ。そして、非常に大きな確率で、ガンマ線バーストという現象が起こる。それも地球を標的として。過去、地球にガンマ線バーストが飛来したことがあった。古生代だが、その時に起こったことは、地球の生物種の90%以上が絶滅したことだ。私の理論によると、極超新星爆発は2021年から2025年の間に95%以上の確率で起こる。この研究はまだ公にしていない。しかし、あと数年後に起こるこの現象を防止することは、現代の科学力では不可能だろう」

「そこで、われわれが考えたのは、自然現象でもなく、事故でもなく、人為的にガンマ線を発生させ、ガンマ線、陽電子のエネルギーで『1981年で26才』の記憶の世界にわれわれの記憶を転移させることだ。1981年頃なら、極超新星爆発が起こるまでに四十年以上有る。それだけ時間が稼げれば、むこうの世界、第一ユニバースでわれわれの類似体がガンマ線バーストの防止策を発見し、逆に、こちら、第一ユニバースに防止策を教えることができるのではないか?という可能性に気づいた」
「そして、私を含む7名に対しては、転移をすでに実施した。残り1名にも説明中だ」

「さてさて、そこで、偶然なのか、神か悪魔のはからいなのか、私の後ろで似たような境遇のお二人がいて、それも一般人ならまだしも、自衛隊員だということだ」

 驚きすぎて言葉をはさめなかった南禅と羽生がそこで反応した。「つまり、小平先生は・・・・私たちもそのむこうの世界、第一ユニバースに記憶を転移させたい、ということをおっしゃられているんですか?」

「そうだ。何か問題があるのかね?」

・・・と、これで登場人物が二人増えた。めでたい。
なんて、こんな感じで適当に物語を書いているのですよ。すみません。



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