夜学/Naked Singularities Vol.1 開催レポート その1
2019.11.15 @Misletoe of Tokyo, 池尻大橋
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ϕυ ́σιζ(ピュシス,physis)
変化する現象の根底をなす,世界の根源。自然そのもの。
物理学(フィジックス,physics)の語源。
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学問は机の上だけでするものではありません。もちろん物理学も─。
サイエンス × カフェでもなく、サイエンス × バーでもなく、
今回は物理学 × クラブ!
「夜学」は夜にする学び。物理学を中心とした様々な学問を、クラブ仕立てのスペースで体感するイベントです。東京学芸大学宇宙物理学研究室のメンバーが中心となって、パフォーマンスも行います。
学校でやる昼の学びを既存の枠組みとするなら「夜学」はその枠を外す学びの場です。夜には不思議な高揚感があります。ときには怪しさや妖しさも。
宇宙の始まりや宇宙の果て、ブラックホール、そして時空や次元…。
それらの面白さを体感する、新しい学び方を提案します。
物理学は、世界を丸ごと受けとめるための方法です。
この空間に、"物理を浴び"に来て下さいー。
この「煽り文」だけで,イベントの様子を想像することは難しいだろう。当然である。「夜学/Naked Singularities」は,世界のどこにも存在していないイベントだったからだ。イベントという言葉も「夜学/Naked Singularities」の本質を捉えるには不十分である。もちろん科学講座ではないし,科学「教室」ではあまりにも的外れである。告知では「超実験的サイエンスエンターテイメント」と仮称したが,むしろライブやレイヴと呼ぶ方がふさわしい気がするし,コンテンツも一言では言い表せない。
宇宙論・相対論が主役になっているかというと,必ずしもそうとも言えない。それらは単なる「枕詞」でもあるし,「狂言回し」でもある。事実,物理学の中でも宇宙論・相対論だけでなく,力学・電磁気学・熱力学・統計力学・量子力学はもちろん登場したし,民俗学・宗教学・哲学にアクセスしつつ,テクノロジーや武術にまで遊んだ。
そしてその背後には,「どう見せれば人を惹きつけることができるか」について,これまで実質5万コマほど講義をやってきた僕の経験から得られた教育学的知見があり,加えて外部での一般講座で「自分のトークで商売する」ことから学んだ経済活動に裏打ちされた戦略がある。各コーナーの詳細は追って順に紹介するが,突発的かつ実験的に見せかけて,実は計算づくの仕掛けが盛り込まれているのだ。
極めて一面的に単純化して総括しても,「ノリのいいダンスミュージックが流れるクラブで,ブラックホールや宇宙の話をネタにパフォーマンスがあって,それがアーティストやお笑い芸人のライブ並みに,感動して,笑えて,アガるイベントだった」と言って,どれだけの人が信じてくれるだろう。信じてもらえない分だけ,そしてどんなイベントなのかわけがわからないと思われる分だけ,「夜学/Naked Singularities」は「本物」だと言える。
「夜学/Naked Singularities」は全ての学問を視野に入れている。しかしこの言い方は矛盾している。なぜなら「本来の学問」とは「全てのもの」だからだ。文系と理系という棲み分けや,人文科学・社会科学・自然科学という分類が便宜上のものに過ぎないのは言うに及ばず,日常で感じる感動も興奮も,悲しさも怒りも,どうしようもない生き辛さや言いようのない虚無感も,学問は全てを包括し,それを体現する表現自身でもある。ようは,学ぶことは生きることそのものである。そうでない「学問」があるとして,それを伝えることに何の意味があるのか。
どこにもなかったものが立ち上がった瞬間を目にすること,自分でも気づいていなかった欲求の存在を自覚してしまうこと,自分も動き出さずにはいられなくなる戦慄を味わうこと,それらを体験してしまったからには,もう元の状態には戻れない。何の根拠もない自信と衝動に突き動かされて,ひたすら「あがく」ようになるのだ。自らが学びそのものになるために。
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