友よ、小さき友
フィンは総十郎の手を取り、温もりを確かめるように握りしめた。
上目遣いで見てくる。
「ソーチャンどのも、ぼくのせいで、きっとおんなじつらさを感じていたのだと、気づいたのであります。ぼくだって、自分より小さい子が命を投げ出そうとしてたら、ちょっと待ってよって思っちゃうであります。だから、その、いままでごめんなさいっ!」
「……許しを乞うべきはこちらの方である。小生、君のことをあきらめた。もはや救えぬものと、切り捨ててしまった。絶対にあきらめるべきではなかったというのに、手を離してしまった。顔向けができぬよ。どうか許してほしい……」
万感の思いを微笑に乗せ、少年と握手をした。
顔を上げ、そこにいた少女を見やる。
「そして……シャーリィ殿下。なんと礼を言ったものか。小生、もはやあなたに足を向けて寝られぬよ。ありがとう、本当に、ありがとう……」
シャーリィは輝くような屈託のない笑みを返し、総十郎の胸に飛び込んできた。
「おや。ふゝ。」
しかと抱き留めると、総十郎はフィンの手を引っ張って同じく抱き込んだ。
顔の両側に二人の吐息を感じる。
「あわわっ」
「異邦の地で出会った小さき友らよ、小生は君たちと出会えて幸福である。この縁に感謝を。君たちと巡り合わせてくれた因果のすべてに、尽きせぬ感謝を。」
抱きしめる腕に力を込める。
シャーリィは遠慮仮借なくしがみついてくるのに対し、フィンはおずおずといった様子で総十郎の背に手を回してくる。
その二人の違いが微笑ましく、愛おしかった。
少し離れたところで、リーネが唇に人差し指を当てながらこっちを見ていた。眉尻を下げて、物凄く混ざりたそうな目である。
思わず、苦笑する。
「リーネどの。貴女も。」
手招きすると、盆と正月と誕生日が一度に来た子供のように表情を明るくして駆け寄ってくる。
すこし迷ったのち、フィンのシャーリィの背中から「えいやっ」と抱き着いてきた。
たわわに実った乳房が、二人の後頭部で潰れる。
普段ならば眉をひそめる光景であったが、今はもはやそれ込みでこの女性を受け入れることができていた。
――良い。それもひっくるめてリーネどのである。
良き縁に恵まれた。心の底からそう思う。
「もごもご、ぷはっ!」
フィンが胸乳をかきわけて、顔を出した。
「リーネどの、ソーチャンどの、ぼくはあなたたちが大好きでありますっ」
あ、いかん、ここでその台詞は。
「ごふっ!」
リーネが眉間に銃弾を喰らったかのように仰け反った。
二、三回痙攣したのち、ゆっくりと姿勢が戻る。
「ふ、ふふふ……ご心配には及びませんよソーチャンどの。こんなこともあろうかと薬師に頼んで鼻血を押さえる薬丸を処方してもらっているのですっ!」
「う、うむ。賢明な判断である。」
「そしてぇ――」
いったん身を離し、リーネは少年の小さな体を後ろから抱きすくめた。
「もうっ! そんな可愛いことを言ってわたしを失血死させるつもりですかフィンどのは~もぉ~」
物凄い勢いで頬ずりを始める。
「はわわわわ」
歯車のように連動してフィンの顔も左右に動く。
そこにシャーリィもリーネに頬を寄せてきて、三人で顔をふるふるさせはじめた。
笑いがさざめいて、フィンとシャーリィとリーネは一緒に肩を震わせる。
――仲良きことは美しき哉。
しみじみと、その思いを噛みしめた。
「そこぉォォォぉォォォぉォォォッ!!!! 和むなやァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!」
ほのぼのとした情景の外で超速戦闘を繰り広げていた烈火が、堪忍袋の緒が切れたらしく、そう叫んだ。
見ると、防御を固めながら黒影の放つ斬撃に耐え続ける烈火の姿が見て取れた。
「あ、ぼく、レッカどのも大好きでありますよーッ!!」
「キモッ!!!! 純粋にキモッ!!!! やべぇ鳥肌立った!!!!」
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