見出し画像

おっぱいこわい

  目次

「そう!!!! 一方通行、ダメ、絶対!!!! 恩を受けたら返さないとお母さん泣いちゃうわよ!!!! ガキィ、そのへんわかってるだろうなァ、オイ?」
「あ、レッカどの、お帰りなさいであります」
「うげ、戻ってきた……」
「戻ってきてやったぞパイオツにロリコンてめーらコラ毎度毎度人様の顔面吹っ飛ばしてくれやがってもっと俺を敬えてめーらコラァ!!!! ていうかガキィ!!!! てめー座ってる場所が羨ましいんだよこの野郎俺と替われやコラァ!!!! 借金帳消しにしてもいいから替わりやがれ下さいお願います!!!!」
「え……そんなんでいいでありますか?」
「あいや待たれよ。借金とな? フィンくん、どういうことか?」
「えっと、えっと……」

 フィンは焦った。烈火から負った借金の話をすると、必然的にリーネの怪我を治すためにフィンが被った代償の話になってしまう。
 そんなことを知れば、実直で真っ直ぐな女騎士がどれほど責任を感じ、落ち込んでしまうかわからない。
 是が非でも事実をぼかして答えなければならなかった。都合の悪い情報を抜いた文言を必死に考える。
 そして。

「……レッカどのにみぞおちのあたりを殴られて、お金を要求されたでありますっ!」
「黒神、そこへ直れ。」
「ちょっとおおおおおおおおおおおお!!!! フィンくーん!? それちがーう!! いや違わないけどなんかちがーう!!」
「あ……えっと……」
「粗暴な男だとは思っていたが、見損なったぞレッカ……」
「手討ちにいたす。跪いて首を垂れるが良い。」
「待てウェ~イト、違うのよォ~? いや、あの、総十郎パイセン? なんか目がマジで怖いんスけど……あの、ちょ、ちょ、ちょっと待っていただけますかねえ!!!!」

 結局、シャーリィが耳打ちをして、どうにか不自然にならずに総十郎だけ泰斗養命牙点穴のことを伝えることに成功したのであった。

「……事情はわかったが、いやそれにしても金銭を要求するなどと……恥を知れ恥を。」
「ええー、いーいじゃーん? 俺それだけのことはしたと思いませーん? マジ三十年スよ三十年!!」
「三十年? どういうことです?」
「わああっ! あの、小官はちゃんと払うでありますよっ! 心配ご無用でありますっ!」

 疑問を呈するリーネを遮って、フィンは慌てて言った。
 なぜ自分が慌てているのか。フィンは半分しか理解していなかった。
 リーネに寿命のことがバレそうになったためだと自分では考えていた。
 もうひとつ理由があることを、フィンは自覚していなかった。
 していない、ふりをした。

 ●

事案5縮小版

 ――お、重い……

 リーネとともに騎乗してから、数時間が経った。
 後頭部にのしかかる重みは間断なくフィンの首を責め苛みつづけている。
 しかし、今は急ぎの旅である。休憩を入れるにはまだ早い。
 シャーリィ殿下はいつもこんな苦行に堪えているのだろうか――と思いかけて、ふと思い出す。シャーリィ殿下はフィンに比べれば背が高い。だからちょうどうなじのあたりにおっぱいが来るため、ふかふかの枕のような加減になり、大変に具合が良いのだろう。
 こんなときまで、子供であるということが枷になるなんて思わなかった。
 とはいえ、フィンは不満ひとつこぼす気はなかった。
 なにより「あんたのおっぱいがでかすぎて今首がめっちゃ痛いです」とは言えなかった。
 とてもとても言えなかったのだ。

 ――うぅ、でも、首痛い……おっぱいこわい……

 目の下に縦線が現れる。
 その時。

「リーネどの、小生、いさゝか疲れ申した。ちょうど小川も見えてきたことであるし、このあたりで少し休憩でも摂ろうではないか。」
「えっ? そんなご様子には見えませんが……」
「いやなに、小生、生粋のシテヰボオイなれば、常に森と共に生きるエルフのお歴々とは比較にならんほど虚弱なのである。それに、フィンくんの予測どおりならば、それほど急ぐ必要はないはずである。どうか、なにとぞ。」
「そ、そういうことであれば、もちろん構いませんが……フィンどの、よろしいですか?」
「しょ、小官も構わないでありますっ!!」

 やや釈然としない様子のリーネであったが、樹精鹿を止めた。
 地面に降り立った時、フィンは首がガチガチに固まっていることに気づき、ゆっくりと伸びをした。

「ん~っ」

 体が軋みを上げ、解放に歓喜した。
 あぁ、自由って素晴らしい。

「ラズリどの、ありがとうでありますっ!」

 樹精鹿の滑らかで硬い頬に手を触れると、顔を傾けて押し付けてきた。

「おいガキ! ガキ! ちょっとちょっと!」

 烈火がぐいと肩を引いてくる。

「どうされたでありますか?」

【続く】

こちらもオススメ!

私設賞開催中!


小説が面白ければフォロー頂けるとウレシイです。