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詰みだよ、黒神さん

  目次

「……つーわけでよー、テメーの言うように情報引き出そうとしたけど結局無理男くんだったでよー」

 砂塵舞う荒野に叩き落とされた烈火は、ポケットから式神を取り出してスマホよろしく耳に当てていた。共感呪術の応用である。

『話を整理するぞ。黒神、おぬしが咄嗟にその世紀末空間とやらを展開して王城を世界から隔離し、剣呑なる赤黒い領域の拡大を防いだのだな。』
「おーよ!!! この超天才の超天才的ファインプレーを讃えろコラ!!!! 万雷の拍手で!!!! 万雷の拍手で!!!!」
『こちらの森の生物らも、一旦は凶悪に異形化したものの、おぬしのおかげですぐに元通りとなった。実際見事な機転である。』
『わー』

 パチパチパチパチと拍手が聞こえる。エルフたちもそばにいるのだろう。

『それで、その世紀末空間はいつまで保つ?』
「わかんね。んな何時間もぶっ続けで展開したことなんかねーし。今んとこ特に消耗とか感じねえから、しばらく大丈夫じゃね?」
『わかった。その対策はこちらで行うので、おぬしは極力逃げ回れ。』
「はぁ~~~~~~~? 何をおっしゃりやがりますかねこのロリコンは!!!! アイアム最強さいつよ!!!! ブッ飛ばしてきてやんよ!!!!」
『待て馬鹿者。おぬしの力を見損なってゐるわけではない。〈道化師〉くんの持つ白い短剣は危険だと言ってゐるのだ。』
「刃物ごときでこの超天才を殺せるわけねーだろ!!!!」
『――小生は負けたぞ・・・・・・・。』
「は……!?」
『あれの持つ力が具体的に何なのか、計り知れないものがある。だがとにかく極め付きに危険な代物だ。どのような油断もするな。小生らが対策を立てるまで逃げ回れ。』
「マジかよ……マジで言ってんのかよ……」

逃がさないけどね・・・・・・・・

「ぐぇっ!!!!」
『黒神!? もしや捕まったか!?』
「やあやあソーチャンどの。さっきぶりだねえ。生きていたんだ。フィンくんはそこにいるかい? あなたのことだから抜け目なく助けていると思うけど」
『黒神! その拘束術式は神経系の電位差に干渉して脳の命令を体に届かなくさせるものだ。何とかならんか!?』
「あーはいはいそういうことね。完全に理解したわ」
「してないみたいだよこの人」

 〈道化師〉は地上に降り立った。同時に幻影の草花が足元で同心円状に咲いて散る。
 骨色の短剣を取り出すと、素早く投げ打った。烈火の周囲を囲むように突き刺さる。

歪律領域ヌミノース――架空浸蝕」

 その瞬間、ふっと烈火の全身から、何かが消えて失せた。
 あ、これアカン奴や。
 すぐにそう直感した。
 闘気を全開放射。爆裂する地面。煙幕のように烈火と〈道化師〉を隔てた。
 それから闘気の方向を絞り、推進力にする。肉体は微動だにしないまま、ガスバーナーのごとく世紀末エネルギーを噴射し、カッ飛んで行った。
 とにかくあのー、あれだろ? 短剣で囲まれた中から出ればいんだろ? よゆーよゆー。

「〈黒き宿命の吟じ手カースシンガー〉――静かに啼け」

 剣光一閃。背後に出現したギデオンが、迎え撃つように刃を叩きつけてきた。
 背中に灼熱が走り、直後に激痛となる。

「ゲゲェーッ!?」

 静止状態で喰らったならばミミズ腫れができる程度で済む剣撃だが、超スピードで飛んでいるところをクロスカウンターで叩き斬られては出血ぐらいする。
 さらに、斬られた瞬間、不自然な減速があった。
 刀身に触れた物体の運動量を吸収し、任意のタイミングで解き放つ神統器レガリアの、精妙な出力調整だ。スイッチのオンオフのように「吸収する/しない」の二択しかないわけではなく、何割のエネルギーを吸収し、何割をそのまま残すか、細かな調整が効くようだ。
 ……などと理屈を理解していたわけではないが、生来の戦闘者としての嗅覚が、本能的にそれを察した。
 その場に倒れる烈火。相変わらず微動だに出来ない。

「拘束術式をかけてから、協力者に殺させる……というコンボを、なんで僕は今までやらなかったと思う?」

 砂塵の向こうから、〈道化師〉が悠々と姿を現した。少年を中心に球状に土煙が穴を開けている。
 戦意の滲む、猛々しい笑みを頬に刻んでいた。
 あれ、なんからしくねーな――と思う。こいつこんなキャラだっけ?

「あなたたちに宿る補正が過剰な防衛反応を起こし、どんな不条理が襲い掛かるかわからなかったからさ。影響度Sならばそれは確定で起こる。わざわざ藪蛇をつつく趣味はないんでね。だけど今は違う。架空浸蝕の中に居る限り、補正はもはやあなたたちを守らない」

 やべー何言ってんのか全然わかんねえ。

「さあ、殺してくれ、ギデオン。嫌なことはちゃっちゃと終わらせてしまおう」

 背中に足が乗せられるのを感じた。

「そういうことだ。お別れだな」

 殺気が尖る。今しがた吸収した激突衝撃を切っ先の一点から解き放つことで、心臓を穿つつもりだろう。
 あれ? おやおや? おかしいぞ? おかしいですぞよ? これ詰んでね? いやいやいやはっはっは、んなわけねーだろおめー馬鹿おめーこの超天才がおめーこんなクソしょぼな死に方するわけねーだろ馬鹿おめー常識で考えろ! ……え? ん? あの、あれ? なんか体全然動かない状況で? え? 刺されたら? いやいやいやねーからマジで、え、ないよね? だってお前、俺様主人公ですよ? 死ぬわけないじゃん常識で考えろや!!!!
 瞬間、

「おおおおおおおおおおッ!!」

 凛々しく澄んだ戦咆が荒野に轟き渡った。

【続く】

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