見出し画像

色気より食い気

  目次

 烈火はフィンの前であぐらをかき、口の端に逆チョップを当てながら抑えた声で言った。

「おめー、どうだったよ?」
「どう、って?」
「とぼけんなよおめー、パイオツのパイオツに頭埋めやがって羨ましいんだよこん畜生! 感想を述べなさいッ!!!! 詳細な描写を交えて感想を述べなさいッ!!!!」
「あぁ……ええと……」
「なんかあんだろうがよー、あのー、モチみてえだとか、プリンみてえだとか!!」

 フィンは目を輝かせた。

「プリン大好きであります!」
「いやおめーの食い物の好みはどうでもいいんだよ!! で? どうなんだ!? 弾力とかどうなんだ!?」
「弾力は、うーん、けっこうしっかりと押し返してくる感じであります」
「ほうほう」
「質感はしっとりとしてて、でも指で押すともちもちとした感触もあるであります」
「おおおー」
「でもすっごくやわらかくて、スプーンがスッと入っていくであります」
「てめーさっきから何の話をしてんだァーッ!!」
「プリンの話であります!!」
「ファックオフ!!!!」

 そこへ、シャーリィ殿下がぽてぽてと歩み寄ってきて、腕を引いてくる。

「は、はい、なんでありますか?」

 耳元で囁かれるかと思って身構えたフィンであったが、彼女はすんすんと小鼻を動かした。
 じとーっ、とこちらを見つめながら、ちいさなにぎりこぶしを自分の顎に当てて、何やら難しい顔をしている。
 やがてパッと笑顔を輝かせ、フィンの不意を突くタイミングで耳元に口を寄せてきた。

 ――フィンくん、水浴び、しよ?

「ひゃいっ!」

 思わず返事をしてしまったが、いま彼女はなんと言った?

「水浴び、でありますか」

 そういえば、最後にシャワーを浴びたのはいつだったろうか。
 異世界に召喚されると言うインパクトのあり過ぎる珍事のせいですっかり忘れていたが、行軍のために二日ほどご無沙汰だった気がする。

「あゝ、それが良いだろう。清潔に気を使うのも紳士の嗜みであるぞフィンくん。」
「そ、そうでありますね。ではソーチャンどのも一緒にどうでありますか?」
「ぶぐっ!」

 なぜかリーネが呻いてうずくまった。

「だ、だだだだダメですよフィンどのっ! そ、そのようなっ! ソーチャンどのを裸にするなどと……ぶぐぐっ!」
「リーネどの、大丈夫でありますか? 急に顔を押さえて……」
「おい鼻血噴いてんじゃねーよ乳ゴリラ。おめーも大概むっつりだなオイ」
「な……ッ!! ちちち違うわッ!!!!」
「ま、そういうことであるので、二人で浴びてくると良い。」
「よくわかんないけど、了解でありますっ!」

 そういうことになった。
 シャーリィ殿下は、烈火が背負ってきた荷物を漁っている。頭が左右にふりふり動いて、鼻歌でも歌いだしそうな様子だった。
 何かの果実を乾燥させたスポンジ状のものと、革袋を取り出している。

「あゝ、フィンくん、いちおうこれを使いたまえ。」

 振り向くと、またソーチャンどのがどこからか綺麗に畳まれた衣服を取り出していた。
 広げてみると、灰色のトランクスであった。

「小生のお古で済まぬが、紐を締めればサヰズはどうにかなるであろう。」
「ありがとうございますっ! 洗って返すでありますっ!」
「あぁ、構わぬよ。札に戻せば元通りであるからな。」
「ふだ??」

 ソーチャンどのの力は相変わらず計り知れない。

「あ、あの、殿下、肌着は必要かと……」

 リーネはリーネで、やや慌てて白絹のワンピース状の服を差し出していた。
 小首を傾げる姫君に、

「殿下ももうそろそろ立派な淑女なのですから、そのような気軽に殿方の前で、は、裸になどなってはいけません」

 ぷくー、と頬を膨らませるが、しぶしぶ肌着を受け取るシャーリィ殿下。
 再びぽてぽてとフィンのところにやってきて、手を取る。
 そのとき見せてくれた笑顔は、フィンの胸をじんわりと明るくさせた。

【続く】

こちらもオススメ!

私設賞開催中!


小説が面白ければフォロー頂けるとウレシイです。