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夜天を引き裂く

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ツァラトゥストラの咆哮は、闇の底に反響し、ヘプドマスへ至る道を啓く。
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夜天を引き裂く 目次

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 作:バール 絵:脳痛男

 ツァラトゥストラの咆哮は、闇の底に反響し、やがてヘプドマスへ至る道を啓く。

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 あとがき 前 後

夜天を引き裂く #11

夜天を引き裂く #11

 前 目次

『ひっどぉ~い! ひどいひどいひどい!』
《いいと思うよ》
 手駒を介した遠視が途切れ、界斑璃杏は自らの肉体に戻ってきていた。
 蟻走感にもにた苛立ちを振り払うべく、半透明の腕を薙ぎ払った。校舎の壁が粉砕され、盛大に粉塵を撒き散らす。
 その姿は、浮遊する巨大なクリオネと言うべきものだった。
 光を透過するゼラチン質の巨体。
 房錘形の胴体から、ぱたぱたと動く二つのヒレが生え、その上

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夜天を引き裂く #16

夜天を引き裂く #16

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「秋城さま、こちらでございます」
 花の潤みを含んだ声で導かれながら、秋城風太はちょっとどぎまぎしていた。
 艶やかなロングヘアーが、目の前を揺れながら先行している。女性としては長身で、風太よりわずかに高いくらいなのだが、左右にある肩幅はちょこんと小さく、そんなあたりに「女の子」を感じて余計にどぎまぎした。
 華道部部長、詩崎鏡香である。なぜか片耳イヤホン型のヘッドセットを着けていて

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夜天を引き裂く #9

夜天を引き裂く #9

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「わかるか、橘」
「さっぱりわからん。要点を言え」
「僕のこの卓越した万能性は、生まれながらに父から受け継いだものなんかじゃなかったということだ」
 拳を、握り締める。やりきれないものを感じる。
「それを知ったときの、僕の気持ちを、どう言い表せばいいだろう」
「……」
「まず最初に、誇らしい気持ちになった。僕が同級生の蒙昧どもより十倍も優れているのは、要するに十倍努力したからだったの

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夜天を引き裂く #6

夜天を引き裂く #6

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 ――それにしても、自己認識、か。
 人間と、ごく一部の高等生物しか持っていない、特殊な意識のありようである。
 自己認識を持つ生物は、鏡に映った像を自分だと判断できる。「自分がここに存在している」ということを理解しているのだ。しかし、自己認識を持たない大多数の生物は、鏡に映った像を他者だと思い込んで、警戒したり威嚇したりする。彼らの意識には「自分」がなく、「状況」だけがその思考を占

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夜天を引き裂く #5

夜天を引き裂く #5

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 彼女はいそいそとノートに書き込み始める。
『おつちいてください』
「落ち着いています」
『きゅうにこまります』
「あなたを困らせるつもりは一切ありません。これは僕の勝手な決意表明です。あなたは何の義務も負っていません。ご不要なようでしたら、僕はいないものとして扱ってください」
『そんなことしません』
「素晴らしい。お仕えし甲斐があるというものです」
 絶無は口の端を吊り上げ、ふたた

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夜天を引き裂く #3

夜天を引き裂く #3

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 あの空気弾とでもいうべき能力は確かに強力だが、ひとつ腑に落ちない点がある。
 ――なぜ最初から使わなかったのか?
 絶無の存在に気付いた時点で不意打ちのように使っていれば、造作もなく射殺できたはずだ。
 敵の戦力を推察する。
 ――恐らく、撃つたびに何がしかのリソースを激しく消耗するのだ。
 一発撃つのにすら本能的に躊躇いを覚え、なるべく自らの肉体で獲物を殺傷しようと考えるほどの、

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