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#143_【ヘリラボ】城好きと軍跡マニアから考える「イノベーター理論」

先日藤沢から清水山城と金田城をご案内したお客様の記事を書きながら、せっかく金田城まできたのに清水山城に寄らずに帰る人が多い、という記事を書きました。

お客様をターゲティングすることがなぜ必要なのかを考える上でもヒントになる内容かと思いますので、書き綴っていきたいと思います。


知らないのはなぜ?

なぜ城好きの人でも清水山城を見落として帰るのでしょうか?

このような問いかけをしますと、たいがい「情報発信不足」という答えが返ってくるのが目に浮かびます。
地方創生のパネルディスカッションの場では、バカのひとつ覚えのように言われますが、逆にゴリゴリ情報を送りつけてくる人って、鬱陶しく感じないのでしょうか疑問です。しかも、生成AIが普及しだした日には、手軽に発信を増殖できそうですから、なおさら頭が痛くなりそうな…。

そもそも、対馬観光物産協会のホームページやブログを見る限り、情報発信をしていないことはないと感じます。

私が思うに、情報発信が足りていないのではなく、欲しそうな人のところに届いていない、ということではないでしょうか。
言葉遊びのように感じるかもしれませんが、ここは言葉の定義をおろそかにしてはいけないところだと思います。

話を戻して、清水山城が知られていないのはなんでかなと、かれこれ1年以上考えているもののなかなか答えが出ずにいたある時、J-heritageの前畑洋平さんに対馬の軍事史跡を観光コンテンツにするにはどうしたら良いかと相談したところ、このような指摘をされました。

「佐藤さんは軍事史跡のガイドツアーをしたいと言いますけど、彼らはガイドなんかいなくても、自力で調べて行きますよ!」

この一言で、初歩的な見落としがあることに気付きました。
世の中には様々な分野のマニアが存在しますが、おおむね市場規模と表に出ている情報には正比例の関係があるという点です。

その関係を、「イノベーター理論」を借りながら考えてみたいと思います。

イノベーター理論とは?

まず説明から入りましょう。
「イノベーター理論」とは、新たな製品(商品・サービス)などの市場における普及率を示すマーケティング理論を指します。
新たな製品の普及の過程を、これらを採用するタイミングが早い消費者から順番に以下の5つのタイプに分類されます。

イノベーター(革新者)
アーリーアダプター(初期採用者)
アーリーマジョリティ(前期追随者)
レイトマジョリティ(後期追随者)
ラガード(遅滞者)

「東大IPC」ライブラリー コラムより

2024年5月23日閲覧

これにもとづきマーケティング戦略や市場のライフサイクルなどに関する検討を行うことが望ましいと考えられています。

カギを握るアーリーアダプター

新しい市場を確立するとき、あるいは新商品を流行らせたいときには「アーリーアダプター」を獲得せよ、という話、聞いたことありませんか?

いきなり聞き慣れない言葉が出てきて面食らったかもしれませんが、ひとまず冷静になっていただいて、

直訳しますと「早く適応する人」ということです。

みなさんの身の回りにもいらっしゃいませんか?
他人よりいち早く、流行りのお店や商品をチェックしておかないと気が済まない人。大雑把に言いますと、そういう人を指しているとお考えください。

では、「アーリーアダプター」の前にいる「イノベーター」ではダメなのか?という疑問も浮かびそうですが、
この両者における大きな違いは、「他人が興味を持ちそうであるか」ということに、興味を持つか否か、があります。ちょっと哲学っぽいですね。

分かりやすくするため、あえてざっくり言い切りますが、前者は「自分が見つけて広まることに満足を覚える」のに対し、後者はあまり流行っていなくても飛びつく人たちなので「他人は好むかどうかは、前者ほど関心がない」という違いがあります。
実際、「アーリーアダプター」はクチコミなどで拡散する人が多く、市場を広げる上で影響が大きいといわれています。

逆に、流行を通り越して定着しますと、アーリーアダプターは次の行動に出るように感じます。

  • 珍しくなくなったので、見捨てる

「オレが見出してやったのになぁ」とか、「むかしは良かったんだけどねぇ」といった感じに、マウンティックな発言をしながら離れていきます。
面白いと思ったから伝えたいと思ったのに、「そんなん知ってるよ」と返され冷めてしまう、そんな心境でしょうか。

  • まだ他人が注目していない要素に着目する

対象としているテーマの範囲を絞り、そこでまた流行になしそうな要素を見出します。離れない場合に取りそうな行動ですね。
例えば、鉄道マニアを例に考えてみましょう。
私が小学生の頃からすでに裾野は広かったですが、現在では、親から子へ受け継がれ、ますます規模の大きい市場になっています。
とはいうものの、40年も前から「乗り鉄」「撮り鉄」「音鉄」「収集鉄」などのジャンルは確立されていなかったと思います。
もちろん、複数にまたがる方もいらっしゃるでしょうが、みんながみんな、きっかけや趣味趣向が同じではありませんから、「アーリーアダプター」が市場を細分化し、新規で沼にはめられる人が出てきて、全体を見渡すとますます市場が増殖している、という構図になっているのであろうと思います。

城好きと軍事史跡マニアを当てはめると…

前置きが長くなりました。
ここからやっと、回収です。

城好きは?

城ブームもかなり息が長いと感じますが、最近の城好きの方は、何かお目当てにしているものがある方が一定数いると感じます。地形の生かし方とか、城下の町割りとか、天守からの景色とか。

対馬ですと、金田城が目的地であることがほとんどですから、圧倒的に注目されるものは「石垣」です。それも、単に連なっている石垣だけではなく、「城戸」(きど:城の入口)の石垣も含めてという場合がほとんどです。
古代山城の城跡自体が、全国的にそれほどありませんから、当時の石垣が見られるだけでも十分レア度が高いですが、石垣を見ることにより、当時の技術水準が分かったり、逆に時代を判別する手がかりになったりもして、城好きでなかった私からしても、面白いと感じる要素となるわけです(ガイドをしながら、まんまとハメられましたf^_^;))。
おそらく「石垣好き」に絞っても、下手にニッチな市場よりも規模が大きいと推定されます。

【城山の山中に連なる金田城の石塁です。】
【金田城の一ノ城戸です。上下で石の形が違うのは幕末に積み増しされた跡です。】

そして、裾野が広ければ、当然そこにメディアも乗っかってきます。メディアで紹介されることによって市場が開拓される事例があることを否定はしませんが、基本的にはパイが大きい、すなわちお金になるのが見込めるから参入するものです。それ以前の段階から発行されているものは、専門書(誌)とか研究論文とかの類いになるでしょうか。

という感じに、城界隈の情報は、割と手近なところでも入手できるものが多い、という話です。ですから、見つけられなければ「情報発信が足りてない」と言われてしまうのかもしれません。

軍事史跡マニアは?

たまたまですが、数日前にX(twitter)のスペースで知り合った軍事史跡マニア方が、対馬にやってきました。
話を聞くと「豆酘崎から見えるコンクリートの柱は水尺(潮の干満を測るためのもの)ではなく、規正標柱(観測所に置く測遠機の中心位置を正しくとるためのもの)である」とか「琴埼には海軍の防備衛所がある」とか、どこから調べてくるんだろうかと思う話が、次々と。
単純に「好きなものだから知的好奇心が湧いてくるんだね~」という次元ではありません。

【豆酘崎にある規正標柱です。】
【対馬某所にある水尺です。】

軍事史跡の場合、資料があると都合が悪いので処分されたとか、戦争を連想するのでタブー視されたとか、もろもろの事情で表に出ているものが少なく、アマゾンで見つかったかと思いきや目ん玉が飛び出るような値段の古書であったりというのもザラです。
そもそも資料がどこにあるのかすら分からないこともよくある話で、巷で簡単に情報が手に入らない前提ですから、情報発信が足りないとか言い出す人は見かけませんし、国会図書館やアジア歴史資料センター(アジ歴)のデジタルアーカイブとお友達になる方をよくお見受けします。

今後もこのようなお客さんが来ることを考えますと、レファレンスのノウハウくらいは身につけねば、という焦りを感じますf^_^;)。

まとめ

まず大前提として、ここでは、どちらが良いとか共感できるとか論じるつもりはありません。

「アーリーアダプター」の段階から知っていると、なんとなくかっこよさそうに思えますが、現実はそんなに甘くありません。

「アーリーアダプター」の段階では、市場規模に対し投下しなければならないリソースの量が大きいですが、もたもたしていると、次の「アーリーマジョリティ」の段階に移った時に乗り遅れたり、興味を示す人が増えず市場が消滅したり、ということも起こりえます。

また、「マジョリティ」の段階に移ると野暮ったく感じると思われる向きがあるかもしれませんが、情報が情報を呼んでくる出来事や、いままで立ち入ることのできなかった世界に足を踏み入れる巡り合わせは、裾野が広がるほど起こりやすくなります。まさに集合知をはじめとする群衆(クラウド)の力ですね。
特に、行政をはじめとした公的機関や大企業が絡む場合、数の力は絶対です!

【廃墟の認知度が上がり注目されるようになった旧摩耶観光ホテル。2021年登録有形文化財になりました。】

詰まるところ、情報発信をする上では、市場がどのような状況であるのかを見定めそれに合った手段を選ぶ、そして市場が変化したら対応を変える、ということが求められるのでしょう。

まさに、「最も変化に敏感なものが生き残る」ということです。


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