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丹麦語独習覚書 ⑦ 再帰所有代名詞

 前回の記事では、語学アプリ Duolingo でのデンマーク語学習が、連続100日で撃沈したことをご報告しましたが、同記事で予告したとおり、さっそく、学んだ文法等々を応用してみたいと思います。

 

・◇・◇・◇・

 

 デンマーク語はゲルマン系の言葉なので、文法も、同じゲルマン系の英語とドイツ語をまぜくったような感じです。だから、新たに学ぶ、というよりは、英語とドイツ語の文法の知識を土台に、変形させる、というイメージで頭に入れていっています。

 

 たとえば……ヨーロッパの言語を語るうえで欠かせない、名詞の性別。ドイツ語と英語はそれぞれ、

 ドイツ語……男性・女性・中性、の3つの区別
 英語  ……性別の区別が無い

 となってます。
 では、デンマーク語はというと、

 デンマーク語……共性中性

 という2つにわかれています。
 はじめのころは、「共性ってなにとなにが共通!?中性となにが違うん!?」って、ナゾでナゾでしかたなかった(しかも、ナゾが気になりすぎて、知識がすんなりと入らなくなってしまうタイプ……(_ _;))。
 だけど、これ、つまり、

 むかしはあった男性と女性の区別が無くなったから、
 男女共通ってことで、共性

 ということなのだそうです。
 なるほど。デンマークでは、文法がひと足お先にジェンダーフリーになってたわけなんですね。

 

 それと、動詞の現在形の語尾変化

 ドイツ語……主語が一人称、二人称、三人称、単数、複数、
      それぞれの場合で違う語尾を用いる

 英語  ……主語が三人称単数のときのみ、
       語尾に -s
を付ける

 と、とにかくドイツ語は七面倒くさい。
 英語はドイツ語と比べたらはるかに楽だ、というのはいまならわかりますが、この「三単現のs」、中学生の時は、全く理解不能の謎ルールでした。

 だけど、デンマーク語はちがいます。

 デンマーク語……全部、語尾に -er を付ける

 だから、ちょーらくちん♪
 しかも、英語の is にあたる単語も、主語にかかわらず全部「er」なので、ピシリ、と一本筋が通ってます。

 

 英語とドイツ語がまざって、面倒くささがいい感じにまろやかになっている、それが、デンマーク語の文法のイメージです。

 

・◇・◇・◇・

 

 では、本題にはいって。
 デンマーク語には、なんともいえない繊細さを感じる文法があります。
 それが、今回の記事のタイトルにかかげた、

 再帰所有代名詞

 です。

 これは、主語が三人称単数のときは、

 sin

  (くっつく名詞が、中性のときは sit、複数のときは sine)

 というすこし特殊な所有代名詞を用いる、というルールです。
 「再帰」とついていることからわかるように、「ほかならぬ主語自身の所有物である」ということを表しています。
 そして、主語に応じて、「彼の」「彼女の」「それの」と訳し分けます。

 

 実際にどんな感じなのか、この歌の歌詞でみてみますね。

Nu springer våren fra sin seng,
slår ud sit gyldne solskinshår,
 
   fra = 〜から  ud = 外へ  gyldne……金色の
   solskinshår = sol + skin + s +  hår → sunshine's hair
 さっそく気がついたひともいるとおもいますが……
 springer は、語尾が -er なので、意味はわからなくても動詞の現在形、と推測できます(slår は不規則に変化する動詞です)。
  
 それと、nu (いま)が先頭にきているので、主語の våren (春)が動詞の後ろにさがっています(動詞は、必ず2番目)。

 なんとなく選んだ歌でしたが、よくみたら、sinsit と両方がつかわれていました。

 seng (ベッド)……共性名詞 → sin seng
 hår (髪)   ……中性名詞 → sit hår

 というふうに使い分けられています。

 そして、「ベッド(seng)」も「金色の太陽の光の髪(gyldne solskinshår)」も、「春(våren)」自身が所有するもの、ということになります。

ちなみに、複数形の場合はこうなります。
  citron (レモン、共性)、æble (リンゴ、中性)だと……
   ・共性 (単数) sin citron → (複数) sine citroner
   ・中性 (単数) sit æble   → (複数) sine æbler

 

 とりあえず、「春」を、ボッチチェリの絵画のように「女性」であると仮定して歌詞を訳してみたいと思います。

Nu springer våren fra sin seng,
   はいま、彼女の寝床から飛び出す、

slår ud sit gyldne solskinshår,
   彼女の金色の陽光の髪を打ちなびかせながら
  
 ※slå ud hår は、髪をゆるめる、というような意味(↓の辞書の6番目の意味)……自分のイメージでは、「春」が起き抜けのすこし、もしゃっ、とした髪を、ばさっ、とせてる感じ……なんだけど、カッコよく「打ちなびかせる」と訳してみました。

 もし、「春」男性である、と仮定したら、それぞれ訳は「彼の寝床」「彼の金色の陽光の髪」となることはいうまでもありません。

 

・◇・◇・◇・

 

 さて。
 sin (sit) の特徴をよりわかりやすくするために、所有代名詞を入れ替えてあそんでみたいと思います。

 

① Nu springer våren fra min seng.

 これだと、「はいま、私の寝床から飛び起きる」。

 

② Nu springer våren fra din seng.

 これだと、「はいま、あなたの寝床から飛び起きる」。

 まるで、若木の芽吹きやつぼみのほころびを見つけた瞬間に、「ほら、春はいま、あなたの心のなかで目覚めたのですよ」とささやかれているように感じます。

 

③-1  Nu springer våren fra hans seng.
      ※hans……han (彼は) + s

 これだと、「はいま、彼の寝床から飛び起きる」。
 だけどこの場合、「春」とは別人の、だれか男の人のベッド、になります。

 もしかして「彼氏のところで眠っていた」?……なんて解釈も、可能になります。

 

③-2  Nu springer våren fra hendes seng.
      ※hendes……hende (彼女を) + s

 これだと、「はいま、彼女の寝床から飛び起きる」。
 この場合も、「春」とは別人の、だれか女の人のベッド、になります。

 「春」の女友達、といえば、やっぱり「秋」?……の家で眠っていたのでしょうか。想像がふくらみます。

 

・◇・◇・◇・

 

 このように、デンマーク語では、hans (彼の)、hendes (彼女の)という単語は、なんと、三人称単数の主語とは別のひとの所有物を指す言葉になるんです!

 主語が一人称、ニ人称のときにでてくる「彼の」「彼女の」は、hanshendes を用いてもまったく不都合ありません。ていうか、sin (sit) を用いる余地はありません。
 だけど、主語が三人称のときの「彼の」もしくは「彼女の」は、たいていの場合、なにか前置きがないかぎり主語自身のことなので、わすれずに sin (sit) を用いないと、なんだかトンチンカンなことになってしまうのです。

 

 だから、デンマーク語なら、こんな文章をつくることも可能のはず(ホントにアリなのかどうかはわからないけど)……

 Hun drikker sin te og hendes mælk,
 og han spiser sit brød og hans kage. 
    彼女は、彼女の紅茶と、彼女のミルクを飲み、
    そして、は、彼のパンと、彼のケーキを食べている。

 たとえば、4人連れで喫茶店にきて、

 Aさん……紅茶(te)   Bさん……ミルク(mælk)
 Cさん……パン(brød)  Dさん……ケーキ(kage)

 を、それぞれが注文してたのかもしれません。

 だけど、Aさん(hun)は、
 自分の(sin)紅茶はもとより、Bさんの(hendes)ミルクも飲んでしまった。

 それだけでなく、Cさん(han)は、
 自分の(sit)パンと、Dさんの(hans)ケーキも食べてしまったようです。

 ……このように、一見、彼と彼女が錯綜して見えますが……他のひとの注文分まで食べちゃうなんて、食欲がヤバい、もしくは、天真爛漫すぎ、みたいな状況をあらわす文章になっちゃうんですね。

 

 今回は説明をはぶきましたが……
 
 主語が「それは (共 den、中 det)」の場合。
 やはり、dens (dets) (それの)と sin (sit) をつかいわけないといけないのは、いうまでもありません。

 

・◇・◇・◇・

 

 ところで、「再帰〜」といえば、英語なら、再帰動詞の目的語に「〜self」という語尾の単語がくるパターンが思い浮かびます。
 デンマーク語にも、 l enjoy myself. のような表現がありますが、主語が三人称の場合は、再帰代名詞 sig を用います(再帰所有代名詞とちがい、複数の場合も sig を用います)。

 kede (動詞)という単語がそれにあたるので、例として。

 Jeg keder mig.  私は、たいくつしている。
            (私をたいくつさせる)
 Du keder dig.   あなたは、たいくつしている。
            (あなたをたいくつさせる)
 Han keder sig.  彼は、たいくつしている。
            (彼自身をたいくつさせる)
 Hun keder sig.  彼女はたいくつしている。
            (彼女自身をたいくつさせる)

 だけど、sig でなく、ham (彼を)、hendes (彼女を) を用いると……

 Han keder ham.   彼は、彼をたいくつさせる。
 Hun keder hende.  彼女は、彼女をたいくつさせる。

 となりますが、これだと、主語自身とはちがう誰かをたいくつさせるていることになります。

 どうせなら、この sig と、ham・hende の使い分けを頭に入れていたほうが、再帰代名詞の使い分け方がさらに理解しやすくなると思います。

 主語が de (彼らは)のときは、こうなります。
   De keder sig. 
      彼らはたいくつしている。
   De keder dem.   
      彼らは、(主語とは別の)彼らをたいくつさせる。

 

・◇・◇・◇・

 

 さいごに。
 せっかくなので、歌詞の1番を全部訳しておわりにしたいと思います。

Nu springer våren fra sin seng,
   いま、春は寝床から飛び出す。

slår ud sit gyldne solskinshår,
   金色の太陽の光のような髪をふりみだして。

nu drømmer jorden morgendrøm,
   いま、大地(jorden)は朝の夢(morgendrøm)をみている。

som klokker de små kilder går!
   まるで鐘のように(som klokker)、ちいさな泉(små kilder)が流れている。

 どうも「春」は、時を告げる鐘の音のような、泉の水音で目覚めたようです。きっと、氷がとけて、ふたたび水が流れはじめたのでしょう。
 しかも、大地はまだ「朝の夢をみている」ので、他の生き物たちにさきがけて目覚めたみたいです。

 びっくりして目覚めたばかりで、身繕いもいまだである様子をあらわしたくて、「髪をふりみだして」としてみましたが……もっとしっくりくる表現がほしいし、slår ud の意味とちゃんとあっているかはよくわかりません。

 また、最後の行は、

 De små kilder (主語)  går (動詞)  som klokker.

 という語順かな、と推測して訳してみましたが、いまひとつ自信はありません。
 som (〜のような)という単語はよく見るのですが、文法的なことについては、まだ学習してないので……こればっかりは、場数をふんでいくしかないのでしょうね。

 

 

 

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いま、病気で家にいるので、長い記事がかけてます。 だけど、収入がありません。お金をもらえると、すこし元気になります。 健康になって仕事を始めたら、収入には困りませんが、ものを書く余裕がなくなるかと思うと、ふくざつな心境です。