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すごい本に出会った「君の顔では泣けない」

感想を書かずにいられない作品にたまに出会う。この「君の顔では泣けない」も、まさしくそんな小説だ。

まさに一気読み。お風呂で読んで没頭し過ぎてお湯が冷めたり、寝る前にベッドで読みながら『まだ寝たくない!まだ読みたい!…zzz』と睡魔と激闘したり。そんなこんなであっという間に読み終わった。

一切ネタバレしない状態で読んだ方が圧倒的に面白いので、細心の注意を払ってこの感想を書く。

これから読むという人は、公式のあらすじや本の紹介コメントも何も見ずに、本当に何の前情報も無しに騙されたと思って読んでほしい。そしたら、本書の最初の章をより一層楽しめるはずだ。そこでは主人公が抱える秘密が明らかになるのだけど、その書き方がもう圧巻。一気に引き込まれる。私はあらすじを見てから読んだので、その楽しさを味わうことができなかった。記憶を消して読み直したいと本気で思う。

この本はカテゴライズがとても難しい。ジェンダー論に真剣に(そして斬新に)向き合っているし、BLぽいと言われればそうだし、成長物語や青春群像的な要素もあるように思う。自分であること、自分って何者?と問い続ける、そんな物語でもある。つまり、すごく新しいということ。今まで読んだことのないストーリーだ。だから満足度も高い。

新しいからといって荒唐無稽というわけでは決してない。緻密に計算し尽くされた文章の繋がりは、非常にロジカル。すごい。

ネタバレしない前提で、描かれているジェンダー論にだけは、どうしても感想を書きたい。もう斬新なアプローチすぎて。

時代が変わり平等が叫ばれて、男性であることと女性であることの差は、さまざまに変化してきている。法律で定められる範囲では、それは平等になったのかもしれない。でもどうしても変わらないものもある。例えば、肉体的なこと。

男女の肉体の構造の違いは、何を法律で定めたって基本的には変わらない。違うことは悪いことじゃない。でも、違うということを、もっと理解し合えていたら。変わることもあったのかもしれない。そしてそれは肉体に限らない。そんなことを思った。

先に書いた通り、この小説は自分という存在に向き合い続ける物語でもある。今の私にとって、自分であることと、女性であることは切っても切り離せない。自分の中に女性が内包されている。でも、もしその二つが切り離せたとしたら、私はどう生きるのだろう?「自分」を残して「男性」として生きたりするのだろうか?あるいは「自分」を捨てて全然違う「男性」になるだろうか?自分ってなんだ?と、答えのない問いに向き合い続ける。

核心的な内容に触れずに書いたので、ヘンテコな感想になったけど、本を読んだ人にはなんとなく分かってもらえるんじゃないかなぁ。

作者の2作目に多いに期待して。

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