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「民主主義的な一国家」という突破口

「パレスチナ問題 」に対する解決策として、ヨルダン川から地中海までの歴史的パレスチナにひとつの国家を建設しよう、そしてユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラーム教徒みんなで共存しよう、という考え方は以前からありました。昔は夢物語だと思われていましたが、最近、パレスチナ/イスラエルをひとつの国にし、国民全員が平等な権利を持つ真に民主主義の国を作ろう、という具体的な動きが再び注目を集めています。

オスロ合意の失敗が、「一国家」案を活性化させた

元々欠陥だらけだったオスロ合意の「二国家解決法」は、米国に支援された圧倒的な武力と資金を背景に、したい放題のイスラエルによって事実上無効化されてきました。イスラエルはオスロ合意を守る気がさらさらないばかりでなく、そこから更にパレスチナの土地を奪って入植地を建設し続け、国際法を破り続け、パレスチナ人に対する人権侵害を今でも毎日続けています。

従って、一国家解決法が再び注目され出したのは、事実上オスロ合意の二国家解決法を潰したイスラエルが、自らもたらした結果と言えるでしょう。あるいは「平等」、「人権」、「民主主義」といった観点から見れば、時代の流れでもあるのかもしれません。

既に、パレスチナ人主導で、ユダヤ系イスラエル人やディアスポラのパレスチナ人も含めた、One Democratic State Campaign (ODSC/民主主義的一国家キャンペーン: https://onestatecampaign.org/en) という動きが数年前から始まっています。

下記は、ODSCのコーディネーターであるパレスチナ人活動家・政治家のAwad Abdelfattahと、ODSCの設立メンバーでもある米国人/イスラエル人の人類学者、Jeff Halperが共同で出した記事です。

ここには、「パレスチナ問題」はパレスチナとイスラエルの交渉では解決できない、と書かれています。なぜなら、これはそもそも紛争でもなければ、パレスチナはイスラエルと平等に交渉できる立場にもないからです。現状は、シオニズムという人種差別的なイデオロギーに基づいた、植民地主義のイスラエルによるパレスチナの軍事占領だからです。

人種差別的なシステムを、生まれ変わらせることができるか

ナチスドイツ下で強制収容所に入れられていたユダヤ人が、ナチス政権と交渉して自由や人権を手に入れられたでしょうか。彼らが人間らしく生活するためには、「ナチスドイツ」という政治思想・システムを解体し、国民全員の人権や自由が法の下に平等に守られる、今のドイツというシステムに生まれ変わる必要がありました。

ODSCが呼びかけている「民主主義的な一国家」の大枠は、至ってシンプルです。宗教や人種、言語や性別などに関係なく、全員が同じ権利を持ち、同じ一票を持ち、同じ憲法で守られているひとつの国を作る、ということです。それは多くの国で実行されていることであり、当然パレスチナ/イスラエルにおいても可能なはずです。また、ODSCは、パレスチナ難民の帰還なしに真に公平な社会は作れないとして、これを支持しています。

「民主主義的一国家」案を広めることの大切さと利点

しかし、この考え方は今のところ、多くの場合、学者や研究者、せいぜい一部の活動家の間で話し合われる域から出ておらず、まだ大衆に浸透しているとは言えません。また、中には、人権や平等という基本が守られていれば、一国家でも二国家でも、三国家でも構わないので、別に「一国家解決法」にこだわる必要はないだろう、という人もいます。もちろん理論上はそうですが、これは理論に重きを置き過ぎているように思います。実際に政策を推し進め、人々を動かすには、明確で具体的なプランやキャンペーン内容を示す必要があるでしょう。それには、みんなのための「一国家」というプランは有効だと思います。

そして歴史的パレスチナの現状は、イスラエルの占領下で、国境、インフラ、貨幣などを含め、既にアパルトヘイト政策を取る「一国家」状態です。これを「ユダヤ人のためだけ」ではない、真に民主主義的で平等な一国家に生まれ変わらせれば、この土地に住むすべての人のために機能するシステムとなり得ます。

加えて、民主主義の「一国家」を作る利点は他にもあるでしょう。仮に二国家で「アラブ人」と「ユダヤ人」の国が隣同士で存在できたとしても、真に自由な民主主義の国が実現するとは限りません。そもそも地図に線を引いて「ユダヤ人」と「アラブ人」という二国家で割り切れるほど、この土地の人口分布は単純ではありません。お互いの国で、アラブ人もユダヤ人も、マイノリティーは二級市民扱いになってしまう可能性も十分あります。

現パレスチナ自治政府や、民主主義的に選出されてガザを実行支配しているハマースを見ても分かるように、彼らは今のところ、決して人々の自由や人権を一番に尊重するような政治勢力ではありません。でも一国家であれば、ここにユダヤ人が含まれることによってバランスや多様性が生まれ、半ば強制的かもしれませんが、お互いの存在があることで、中東初の真に民主主義的な国になれるかもしれません。

また、ODSCのJeff Halperが口を酸っぱくして言うのは、BDSのようなキャンペーンで圧力をかけ、イスラエルの人権侵害や軍事占領を止めさせようとするのと同時に、その先にある解決策を示さなければならない、ということです。つまり、BDS運動が成功し、イスラエルの人権侵害や占領がストップした時、パレスチナ/イスラエルはどのような状態で存在するのかというプランが必要です。もちろんその時どうあるべきかは、パレスチナ人とイスラエル人が決めるべきことですが、ODSCが提示しているプランは、これからもっと多くの人に真剣に話し合われるべきでしょう。そして、国際社会もこれを応援して欲しい、というのがODSCの呼びかけです。

この解決法が、行き詰った「パレスチナ問題」の突破口になるか、パレスチナ人に残された選択肢は多くありませんが、イスラエル人と一緒に民主主義的な一国家を目指すのは、ひとつの有効なプランと言えそうです。

(Simsim)

*本稿は、note運営メンバーの一人による個人的な意見であり、BDS Japan Bulletinを代表するものではありません。

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