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【BranCo!の漕ぎ方 #1 INPUT編】文化人類学的リサーチの極意

はじめに

こんにちは。昨年度のBranCo!で優勝させていただいた、内山と申します。直接会ったことはなくても、僕の顔に見覚えのある人は多いかもしれません。今年は学生スタッフとして、Twitterの中の人など雑用をやっています。

今回の連載企画「BranCo!の漕ぎ方」は、昨年度優勝者×審査員の連載企画。昨年度優勝者である僕が、審査員に審査の際にみているポイントBranCo!で勝てる秘訣を訊き、ついでに一緒に本気でアイデアを考えてみよう、というものです。(厳密には審査員経験のある社員で、今年の審査員を担当するかは未定です)

今回は第1回ということで、INPUT編。お伺いする審査員の方はこちら。
津田啓仁さん。

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BranCo!を運営している、博報堂ブランド・イノベーションデザインでイノベーションプラナーをされている2年目の社員さんです。
東京大学・大学院で文化人類学を学び、そこで培ったリサーチ経験を未来洞察やアートシンキングに生かし、商品・サービス開発支援を行っていらっしゃいます。INPUT編にピッタリの経歴ですね。

今回は教えてもらったリサーチ手法を実践するために、代々木公園でインタビューを行いました。ランニングしている人やカップル、幼稚園児。様々な人が混じりあう代々木公園を通して、人々の「普通」について考えていきます。


ズバリ、どうすれば勝てる!?

内山:
津田さん、よろしくお願いいたします。

津田:
こちらこそよろしく~!

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内山:
早速なんですけど、BranCo!で勝てるINPUTのリサーチ方法を教えてください。

津田:
まずは審査員としての立場から言うと、BranCo!のINPUTで重要なのは、
①独自でユニークな調査の方法を考えたかどうか
②そこから新しい気づきや仮説を見つけることができたか
だと思います。去年で記憶が残っているのは、「壺を家の前に置いて観察してみた」っていう調査かな。

内山:
あ、そのチームは二次予選のブロック一緒でした。数点差で僕たちがギリギリ勝って決勝に進めたんですよね。あれはとても良いアイデアでした。

津田:
あれ面白かったよね!自分の頭の外に出ようとしてる感じがあった。INPUTってデスクリサーチだけで済むものではないから、いったん頭の外に出る行為を挟んでいるかどうかは重要。そういう意味で、生活者発想≒文化人類学と言えるはずで。

内山:
もう少し詳しく教えてください!

津田:
文化人類学は、一言で言えば、異なる文化に生きる人の生活に参加して、言葉を学んで、それについて書く、という学問。もともと1920年くらいにマリノフスキーっていう人が西太平洋のトロブリアンド諸島という島に行って、二年間現地の人との生活を書き記したのが、現代的な文化人類学の始まりなんです。これって、「生活者を内側から理解する」ことでインサイトを発見する生活者発想と似ていると思っていて。

このとき重要なのは、自分の頭の枠の外に出るということ。それは調査をしながら自分がもともと持っていた認識の枠組みが変化しながら何かに気付いていくというプロセス。なのでこれは、すでに持っている仮説や課題を確かめる検証型のリサーチ手法ではなく、新しい問いを見つける発見型のリサーチ手法なんだね。

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内山:
今年度のBranCo!でいうと、「普通」に関して何が課題となっているのか、どこに事業機会があるのかを探るためのリサーチということですね。

津田:
そうそう。仮説を発見したらもう半分完成したことになる。逆にINPUTで驚くような発見・仮説がなければ、いくらoutputの完成度が高くてもあまり評価できない、と僕は思っています。

内山:
文化人類学的リサーチの具体的事例はありますか?

津田:
僕の修士論文について話すと、もともと研究テーマが「ゲームやバーチャル空間での体験がなぜ発達障害を持つ人々を引きつけるか」で。でも観察調査を行っていく中で、問題意識がスライドしていって。バーチャル空間における体験と、身体や数字との関わり、みたいな問いについて調べるようになっていった。こういう視点の切り替わりや深化がエスノグラフィーの醍醐味だと思う。


「全部書く」で新しい発見を!

津田:
じゃあこれをどういう風に行っていくかというと、人類学者はエスノグラフィーというものを書きます。「エスノ」と「グラフィー」で、「民族の記述」という意味。このエスノグラフィーで重要なのが、「全部書く」ということ。事実だけじゃなくて、何を感じたか、何を連想したか、思い出したかもすべて書く。そうやって書くという行為によって、自分が考えていたこと以外のことに自然に目が向くようになる。なぜそう感じたかには理由があるから、そこを見逃さず丁寧に追ってけば、面白い仮説や発見が隠れていることがきっとある。

また、全部書くことのもう一つの利点は、書いたことの中に必ず何か発見があるはずだ、と思って、集中できることにあると思っていて。「書いたこと以外の情報は参照しなくていいんだ」という限界を一旦決められること。そうすると、地味な情報も徐々に繋がって、重要な仮説が見つかることがある。

漕ぎ方あああ

例えば、仮に『新しい公園をデザインする』みたいなテーマで、子供を持つ父親にインタビューするとする。聞いたこと・見たこと・感じたことを全部書き起こして言葉を眺めてみると、「あれ?公園や遊びの話を聞いていたのに、『この街で暮らす』みたいな発言が多いぞ」とか「『自分の生活リズムを守りたい』気持ちが強い人なんだな」とか見えてくる。そういう視点でインタビューでの体験全体を思い起こすと、例えば、インタビューで訪問した家のマンションから、その街が一望できることに気づいたりするかもしれない。あるいは部屋に時計が妙に多かったな、とか、気づくかもしれない。前者の気づきでいくと、そこから問いが「子供と公園でどう遊ぶか」から、「この街で暮らすということに、公園はどう関わるか」みたいな風に切り替わっていく。これはかなりコンセプトに近いINPUTの気づきになると思う。

内山:
「全部書く」が重要なんですね。そこでの調査対象、何を観察・記述するかってどう決めてますか?

津田:
ある枠を設定して、「その枠の中は全部調べつくしました」って言えることが、面白い発見を得るためにも重要だと思う。「絞りつつそこを全部見る」みたいな。電車を一両目から最後尾の車両まで歩いてみるとか。公園も境界がはっきりしてるからオススメだし、例えば散歩が趣味の人がいたらその人に歩いてもらって、その散歩に最初から最後まで同行する、とかでもいいと思う。

内山:
だから今日公園に来たんですね!「普通」というテーマで、津田さんだったらまずはどんな調査をしますか?

津田:
まず「普通」って難しすぎるよね。(笑) 歴代BranCo!で一番難しいと思う。
そうだなあ・・・。普通=日常ってことで、登録者数何十万人以上のYouTuberのモーニングルーティン動画を全部観る、みたいな。(笑)

内山:
なるほど。それと関連して、INPUTでの方向性の選び方についてお聞きしたいです。多分BranCo!に参加している人の多くが悩むポイントが、「どの方向性を選ぶか」だと思います。僕も去年かなり迷いました。

津田:
答えになってないんだけど、これは経験だと思う。ここに着地しそうだな、こういうのは形になりそうないい気づきだな、みたいな感覚。それはなんどもこういう課題に取り組んで初めてわかってくるものだと思うし、それを自分なりに掴むことができたら最高だと思う。
あとはとりあえず一つの方向性に仮決めして、一旦議論してみて、また戻ってを繰り返してみることかな。

内山:
なるほど。一回決めて進んで、でも戻って。ブランコを漕いでるみたいですね。

津田:
うまいこというね・・・。


優勝者と審査員で実際にやってみる。

津田:
じゃあ実際にやってみようか!めちゃくちゃむずいけど。(笑)
とりあえず見つけたことをどんどん喋っていこう。本当は全部書いたものを1週間くらいかけてじっくり発見していくほうがいいんだけどね。


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・・・

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あ、人目も憚らないで抱き合ってるカップルがいる。

内山:
そうですね。(笑)人前で抱き合うのって公園以外の場所だとあまりないですよね。でもなんで公園だと抱き合うんだろう。もしかしたら「人前で抱き合ってもよいか」という「普通」規範の基準が、公園だと緩くなっているのでしょうか。

津田:
たしかに。なんで公園だとその基準が緩くなるんだろう。人との距離感なのかな。
・・・一回、「抱き合う」から離れて公園で感じることを全部言ってみようか。

内山:
時計があります。木があります。いろんな音が聞こえます。

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津田:
っていうのは一つの重要な要素なのかも。よく聞いてみると、人の話してる声は聞こえるけど、何て言っているかは聞き取れない。この絶妙な声の認識バランスが、人の「普通」の基準を緩めてる、みたいな仮説が立てられるかも?
他、歩いていて気付くことはある?

内山:
向かいから走ってくる人と歩いてる人がいます。歩きスマホしている人もいる。
あ!公園の道の中央に線なんて引かれてないのに、みんな左側を歩いている

津田:
ほんとだ! 無自覚に「左側を歩く」という「普通」に従っていた

内山:
もしかしたら、「普通」には「自覚している普通」と「自覚していない普通」の二種類があるのかも。前者に従わない人は「非常識だ」って糾弾される。でも後者に従わなくてもそれは認識されない。

津田:
とても面白い発見だと思う。そこから良いコンセプト・アウトプットに繋がりそう。

内山:
「自覚していない普通」を可視化して自覚させたほうがいいのか、あるいは「自覚される普通」をぼんやりとさせて自覚させなくするほうがいいのか、論点が見えてきますね。


編集後記

リサーチのポイントは、全部書くこと。「普通」という課題ありきで観察すると、どうしてもすでに問題意識として持っている部分に目がいってしまいがちだったり、思考が固まってしまう感覚がありました。しかし全部書く(見る)という行為は、それらの自覚的な問題意識を放り投げて、新しい発見へと導いてくれました。この発見はかなりオリジナルなもので、BranCo!でもおそらく評価してもらえると思います。
ぜひ皆さんも、「全部書く」ことで自分の問題意識の外側にある、まだ見つかっていない課題を発見してみてください。

CONCEPT編に続く!

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津田啓仁
博報堂ブランド・イノベーションデザイン イノベーションプラナー
東京大学教養学部(文化人類学)卒/同大学院総合文化研究科(文化人類学)卒。北極圏グリーンランドや南米チリでの滞在・留学など、文化人類学で培ったリサーチ経験や執筆の手つきを活かしながら、博報堂ブランド・イノベーションデザインにて、リサーチ活動、ブランドビジョン策定や新規商品・サービス開発支援などに従事。現在は、アルスエレクトロニカと協業する博報堂アートシンキング・プロジェクトメンバー、博報堂 若者研究所 研究員、東京大学生産技術研究所 DLXデザインラボとの共同開発プロジェクト等担当。
内山
BranCo!2020優勝。卒論からの現実逃避でBranCo!学生スタッフに勤しむ。

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