年賀状とアンソニー・ホロヴィッツ

ありがたいことに、昨日、今日と目が覚めている時間を味わえているのは、少し季節が巻き戻ったかのように暖かい所為かもしれない。いつから僕は、自分が恒温動物であることを忘れてしまったのだろう。

師走も半ばを過ぎた。本来ならば、いつまで続くか分からないこの時期を年賀状の作成に充てなければならないのだが、なかなか手につかない。正直なところ子供の頃から一貫して、明けおめ、ことよろ、としか書かないこの慣習に意味は感じられず、発病を機に相当な数の差出先を整理したのだが、微妙な距離感の親族など、病気のことを知られる訳にはいかない相手などに、仕方なく30枚ほど書き続けている。

今は試験前の学生のように、アンソニー・ホロヴィッツ 著、山田 蘭 訳の『その裁きは死』(創元推理文庫)を読んでいる。同著、同訳のシリーズ前作『メインテーマは殺人』と、シリーズは異なるが『カササギ殺人事件』(全て創元推理文庫)が評判通りとても面白かったからである。アンソニー・ホロヴィッツの作品自体の良さもあるけれど、それに加えて山田 蘭の訳者としての実力が遺憾なく発揮されている。どれも犯人当てミステリーなので自然と登場人物が増えてこんがらってしまいそうなものだが、カクカクしていない自然な日本語表現でキャラが描き分けられているので、名前を覚える必要性をあまり感じさせない点が素晴らしい。これまで翻訳物は登場人物の名前を覚えるのが苦手でちょっと、と敬遠していた方にも、ぜひお勧めしたい。

いや、年賀状やらねば。


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